マンションの住民同士のトラブルやルール違反が発生した場合、理事長にはどのような対応が求められるのでしょうか?
マンション標準管理規約第67条では、理事長が理事会の決議を経て「勧告・指示・警告」を行い、場合によっては法的措置を取ることができると定められています。
本記事では、第67条の条文を詳しく解説するとともに、実際にどのようなケースで適用されるのか、理事長や区分所有者が注意すべきポイントについて、実務に精通しているマンション管理士が分かりやすく解説します。
【規約解説】マンション標準管理規約第67条とは?理事長の勧告・指示・法的措置を解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第67条とは?理事長の勧告及び指示等を解説
✅理事長の勧告及び指示等のポイントとは?マンション管理士の視点で徹底解説
まず、最初の章では標準管理規約第67条の条文から「理事長の勧告及び指示等」についてそのままの文面を紹介します。
また、今回の第67条は、国土交通省からの補足はありません。
そのため、第67条「理事長の勧告及び指示等」の条文や説明を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第67条とは?理事長の勧告及び指示等を解説
まず初めに、理事長の勧告及び指示等の条文を紹介します。
(理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。
マンションの共同生活を円滑にするためには、各住民がルールを守ることが大切です。
条文は細かく分かれていますが、以下、よりシンプルに、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説します。
理事長の勧告・指示とは?どんなケースで適用される?
マンション内で次のような問題が発生した場合、理事長は理事会の決議を経て、違反した居住者に対して勧告・指示・警告を行うことができます。
条文では区分所有者とその同居人、賃借人とその同居人として区分所有者等とありますが、要はマンションの居住者全員が対象です。
- 規約や使用細則に違反する行為
- 例:ベランダでの喫煙禁止ルールを破る、ペット飼育禁止のマンションで無断で飼育する
- 共同生活の秩序を乱す行為
- 例:深夜に大音量で音楽を流す、ゴミの分別ルールを守らない、共用廊下にベビーカーや自転車を放置する
理事長は「問題行動を是正するよう促す権限」を持っていますが、勝手に行動するのではなく理事会の承認が必要です。
区分所有者の責任とは?賃貸オーナーも注意が必要
マンションの住民が問題行動を起こした場合、その住民本人だけでなく区分所有者(部屋の所有者)も責任を負います。
例えば、賃貸に出している部屋の入居者が規約違反をした場合、オーナー(区分所有者)は是正のために必要な措置をとる義務があります。
- 入居者にルールを守るよう指導する
- それでも改善しない場合は、契約の見直しを検討する
こうした対応を怠ると、区分所有者自身が責任を問われる可能性があるため、賃貸オーナーも管理規約の内容を把握しておくことが重要です。
理事長が取れる法的措置とは?具体的な対応を解説
ルール違反が続き、改善が見られない場合、理事長は理事会の決議を経て法的措置を取ることができます。
理事長が行使できる主な法的措置
- 違反行為の差し止めや原状回復の請求
- 例:共用部分である廊下に放置された私物の撤去を求める
- 損害賠償請求や不当利得返還請求
- 例:共用部分の施設を故意に損壊した場合、その修理費用を請求する
- 管理組合を代表して訴訟を起こす
- 例:悪質なルール違反が続く場合、裁判を通じて対処する
訴訟にかかる費用は誰が負担?弁護士費用の請求について
もし訴訟を提起する場合、理事長は相手方(違反者)に対し、違約金としての次の費用を請求できます。
- 弁護士費用
- 差止め請求などにかかった諸費用
これにより、管理組合が過度な負担を負わないようになっています。なお、回収した費用は管理費などに充当できます。
訴訟を起こした場合の管理組合の通知義務とは?
理事長が管理組合を代表して訴訟を起こした場合、その事実を速やかに区分所有者に通知する義務があります。
この通知を怠ると、組合内での不信感を招く原因になるため、透明性を確保することが重要です。
理事長の勧告・指示・法的措置のポイントとは?マンション管理士が解説
第67条の条文や解説でも見てきた通り、マンション管理において、理事長には住民の秩序を守るための重要な権限と責任があります。
管理規約違反やトラブルが発生した際、理事長がどのような対応を取れるのかを正しく理解することが、管理組合の適切な運営につながります。
以下、マンション標準管理規約第67条に基づき、理事長が持つ権限や管理組合の対応策について詳しく解説します。
理事長の権限は大きいが慎重な対応が求められる
理事長は、管理組合の代表者として、管理規約や使用細則の遵守を徹底させる役割を担っています。特に、住民がルールを守らない場合、理事会の承認を得た上で、以下のような措置を取ることができます。
- 勧告:違反住民に対し、ルールを守るよう促す
- 指示:違反行為の改善を求める具体的な行動を指示する
- 警告:改善が見られない場合、厳重注意を行う
繰り返しになりますが、例えば、以下のような事例が発生した際に、理事長の権限が求められます。
✔ 共用部分のルール違反(例:廊下に私物を放置する)
✔ 生活マナーの違反(例:深夜の騒音トラブル)
✔ 使用細則の違反(例:ペット禁止にもかかわらず飼育する)
こうした事例に対して、理事長が迅速かつ適切に対応することで、マンション内の秩序が保たれます。ただし、理事長は独断で勧告や指示を出すことはできず、必ず理事会の承認を得る必要があります。
区分所有者としての責務とは?入居者トラブル対応の重要性
マンションにおいては、住民だけでなく、区分所有者(部屋のオーナー)にも責任があります。特に、オーナーが部屋を賃貸に出している場合、入居者がルールを守らないと、オーナー自身も責任を問われることになります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
✔ 入居者がゴミ出しルールを守らない
✔ ベランダで喫煙し、近隣住民から苦情が来る
✔ 駐輪場を無断で占有する
このような場合、区分所有者には以下のような義務が生じます。
✅ 入居者にルールを守るよう指導する
✅ 改善が見られない場合、契約の見直しを検討する
もし、賃借人のルール違反に対して区分所有者が対応を怠ると、管理組合から直接指導を受ける可能性もあります。区分所有者は、「住民が起こしたトラブル=自分の責任でもある」という意識を持つことが重要です。
管理規約や使用細則を遵守し、円滑なマンション運営を目指す
マンションの円滑な運営には、管理規約や使用細則を区分所有者だけでなく居住者全員が遵守することが大前提です。これらのルールは、住民同士が快適に暮らすために制定されているため、違反した場合には、理事長からの指導や警告を受けることになります。
特に、以下のようなルール違反が問題になりやすいです。
✔ ペット禁止なのに無断で飼育
✔ 駐車場の契約区画以外を勝手に使用
✔ 共用部分での私物放置や改変(植木や物置など)
違反を放置すると、他の住民にも迷惑がかかり、マンション全体の資産価値が低下するリスクもあります。規約を守ることは、個人の問題ではなく、マンション全体の利益にもつながるのです。
管理組合は弁護士費用や損害賠償請求が可能
規約違反が悪質で、理事長の勧告や指示でも改善されない場合、管理組合は法的措置を取ることができます。
主な法的手段には以下のものがあります。
✔違反行為の差し止め請求(例:共用部分に不適切な掲示物を貼る行為)
✔損害賠償請求(例:共有設備を故意に破損した場合の修理費負担)
✔裁判を通じた強制的な対処(例:騒音トラブルの常習犯に対する対応)
また、管理組合が訴訟を起こす場合、その弁護士費用や裁判費用を違反者に請求することも可能です。これにより、管理組合が法的措置を取る際の金銭的負担を軽減できます。
さらに、回収した費用は管理組合の運営費として充当できるため、他の住民に影響が及ぶリスクを抑えることができます。本来、弁護士費用は原告側であっても被告側に請求できないことが一般的です。
とりわけ、この条文でポイントとなるのが、
違約金としての弁護士費用
となっている点です。
この文言が管理規約に入っていると、弁護士費用が掛かったとしても、被告側に請求できることとなります。
第60条の規約解説で「違約金としての弁護士費用等並びに督促及び徴収の諸費用の取り扱い」として、説明をしていますので、合わせてご参照ください。
まとめ|理事長は適切な対応でマンションの秩序を守る
マンション標準管理規約第67条では、ルール違反やトラブルが発生した場合に、理事長が「勧告・指示・警告」などを行う権限を持つことが明確に示されています。特に、悪質なケースでは理事会の承認を経て、訴訟を含む法的措置を取ることも可能です。
しかし、理事長の対応が一方的にならないよう、慎重な判断が求められます。また、区分所有者(特に賃貸オーナー)も「入居者のトラブル対応は自分の責任である」という意識を持ち、適切に対処することが重要です。
管理規約や使用細則を理解し、円滑なマンション運営を行うことが、住民全体の安心・安全につながります。理事長や管理組合の皆さんは、ルールを適切に運用し、トラブルを未然に防ぐ工夫をしていきましょう。
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