マンション管理組合において、規約を守らない区分所有者や居住者がいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
例えば、
・義務違反を繰り返す居住者に対する管理組合の対応
・区分所有者に対する競売請求の可否
このような疑問を持つ管理組合や区分所有者も多いでしょう。
マンション管理規約は、管理組合が適切に運営されるためのルールであり、区分所有者はこれを遵守する義務があります。
本記事では、マンション標準管理規約第66条「義務違反者に対する措置」に基づき、管理組合としての適切な対応について解説します。
さらに、国土交通省による補足がない点について、筆者の視点から注意点や対策を紹介します。
【規約解説】マンション管理規約違反対策とは?標準管理規約第66条を詳しく解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
・「義務違反者に対する措置」に対して管理組合や組合員が気を付けておくべき事項は?
まず、最初の章では標準管理規約第66条の条文から「義務違反者に対する措置」についてそのままの文面を紹介します。
一方で、今回の第66条は補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されていません。
そのため、最後の章では第66条「義務違反者に対する措置」の条文や一般事例を踏まえて、管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第66条「義務違反者に対する措置」とは?管理組合や組合員が知っておくべきこと
マンション標準管理規約第66条は、区分所有者や占有者が管理規約に違反し、共同の利益を害する行為を行った場合、管理組合が必要な措置を取ることができると定めています。
条文は以下の通りです。
第66条 区分所有者又は占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。
詳細について、引き続き解説していきます。
義務違反行為とは
条文には、区分所有者又は占有者とあるので、
・区分所有者から借りている賃借人
・同居している家族や親族、友人など
・法人名義で所有している場合の従業員など
も含まれます。
そして、その方々が
・区分所有者全体に対する不利益となるような行為
・専有部分や共有部分の不適切な使用
を行った場合、または行う可能性がある場合には、対象となります。
とりわけ、後半2つの区分所有者全体に対する不利益となるような行為や不適切な使用は
であると考えられます。
例えば、
・専有部分の使用方法において管理規約や使用細則に従っておらず、改められない
・専用使用部分等の共用部分において規約や細則を遵守しない使い方をしており、改められない
などが想定されます。
上記は一例のため、管理組合の事情によって、そのほか考えられることもあるでしょう。
区分所有法の各条文内容の解説
さらに、条文には
としています。
ちなみに、区分所有法の第57条から第60条は「第七節 義務違反者に対する措置」という内容です。
それぞれ、
第58条:使用禁止の請求
第59条:区分所有権の競売の請求
第60条:占有者に対する引渡し請求
が該当します。
区分所有法における各条文も簡単に解説します。
第57条:共同の利益に反する行為の停止等の請求
まずは、第57条についてです。
管理組合においては、区分所有者において損害が発生する行為は避けなければなりません。
そのため、引き続きこのような行為を行う区分所有者がいた場合には、管理組合として停止を求めることができます。
これは、通常の要請であっても、裁判であっても可能となります。
また、裁判を起こす場合は、総会の決議によって決める必要があります。
第58条:使用禁止の請求
次に、この第58条は、第57条の行為の停止を求めても収拾がつかない場合には、区分所有者に対して、専有部分の使用の停止を求めることができるとしています。
こちらは訴え(訴訟)による必要があるとなっています。
また、この請求については、総会の特別決議(区分所有者数及び議決権の4分の3以上)によって決議する必要があり、使用停止を求められた区分所有者には弁明の機会を提供する必要があります。
本人の持ち物である専有部分を使用してはいけないという、強い強制力が働きます。
対して、弁明の機会を設けることで、他の区分所有者の理解を得やすくなります。
第59条:区分所有権の競売の請求
最終的な手段となりますが、第57条に記載の行為の停止を求めても収まらず、区分所有者に著しい影響を与える場合については、専有部分について競売にかけることができるというものです。
こちらも、使用の禁止と同様に、大将区分所有者に対する弁明の機会とともに、総会の特別決議が必要となります。
また、この条文には、判決確定から6ヶ月以内に競売の申立てをしなければならないという期限を定めています。
加えて、競売に応じる側は、競売を申し立てられた区分所有者やその関連する者が買受出来ないこととなっています。
第60条:占有者に対する引渡し請求
こちらは、賃借人等の占有者が使用している場合に、引き渡しの請求ができるというものです。
区分所有者に対しては競売ですが、占有者に対しては引き渡しとなります。
ちなみに、この引き渡しは
への引き渡しとなります。
その後、管理組合は遅滞なく所有者である区分所有者に引き渡す必要があります。
訴えを起こす管理組合に一旦引き渡すことによって、「占有者から専有部分を取り上げる」という意味合いもあります。
区分所有者が直接占有者から引き渡すことは、利害の関係から困難も想定されるためです。
要は、
・貸している区分所有者は賃借料を得たいから貸し続けたい
という関係も考えられます。
一旦、判決によって管理組合が間に入ることによって、この関係を断ち切ることも可能であることから、このような定めになっていると考えられます。
「義務違反者に対する措置」に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
この章では、マンション標準管理規約第66条の「義務違反者に対する措置」条文に対して、筆者が管理組合や区分所有者において気を付けておくべき事項を紹介します。
ちなみに、ここでは一般的な考え方として紹介するため、個別具体的な訴訟等の話ではない点について補足しておきます。
各管理組合における管理規約や使用細則を確認する
管理規約や細則は、区分所有者が守るべき義務が詳細に記載されています。
また、義務違反で改善されなかった場合は、管理組合と被告側による訴訟となるケースがあります。
前章でも紹介した通り、義務を守るべき対象は、区分所有者だけでなく、区分所有者から物件を賃貸している賃借人や、区分所有者の家族や親族、友人など一緒に住む人も含まれます。
したがって、専有部分に住む人は、すべて管理組合のルールに違反しないように、管理規約や使用細則を遵守することが求められます。
もし、管理組合から管理規約や使用細則に違反しているとして、改善を求められた場合は、速やかに改善することが求められます。
具体的な問題は専門家に必ず相談のうえ、法的根拠を取る
もし、区分所有者や占有者が改善されない場合は、理事会で各役員に共有する必要があります。
その後、どのような対応を取っていくべきなのか、理事会でも方向性を決めることが求められます。
そして、法的手続きを検討する場合は、弁護士等の専門家に速やかに相談する必要があります。
義務違反行為の具体的な事例
イメージしやすいように、義務違反行為に対して、管理組合が起こした訴訟の事例を紹介します。
ペット禁止にも関わらず飼っていた事例(マンション・ペット事件)
マンション管理規約でペットを禁止しているにも関わらず、飼い続けていた例です。
判決としては、マンションでの犬の飼育を禁じる判決が出ています。
細かくはリンク先の判例論説を確認頂ければと思いますが、規約にペット禁止であると定められている場合は、飼うことが難しいことを示しています。
改修工事への協力を拒んだ事例
以下、マンション管理業協会の見出しからです。
マンションの管理組合(原告)が、臨時総会において、各居室の玄関扉の外部部分の改修工事の実施を決議したところ、工事に必要な協力を拒んでいる区分所有者(被告)に対し、当該工事に協力する義務があること等を求めた事案において、区分所有者(被告)は適式に議決された改修決議に従う義務があるとして、原告の請求を認容した事例。
総会で決議されたことには従う必要があるとして、原告である管理組合の主張が認められた事例です。
サンルームの無断設置
こちらも、マンション管理業協会からの見出しからです。
マンションの管理組合である原告が、組合員である被告に対し、正当な権原もなく本件マンションの敷地の一部にサンルームを設置し、敷地の一部を屋外駐車場として専用使用しこれらを不法占有しているとして、各明渡しを求めるとともに、不法行為による損害賠償を請求した事案において、原告の請求を認容した事例。
管理組合の共有所有物でもある敷地内にサンサンルームを設置し、不法占有していたことに対して、明け渡しを求めたものですが、こちらも原告である管理組合の主張が認められています。
専有部分の不適切な改造
同様に、マンション管理業協会の見出しからの紹介です。
マンション管理組合の管理者である原告が、区分所有者である被告に対し、被告が専有部分に多くの間仕切りを設置して多数の者を居住させていることが、管理規約に違反し、また、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、管理規約及び区分所有法57条1項に基づき、上記のような行為の禁止、間仕切りの撤去等を求める事案で、行為の禁止、間仕切りの撤去が認められた事例。
また、専有部分を間仕切りで区分して、その区画を数多くに対してシェアハウスとして賃貸することで、マンション内への区分所有者以外の出入りが多くなります。
当然、住んでいる区分所有者にとっては、不特定多数が出入りすることによって不安も出てくるでしょう。
このように、専有部分の使用方法についても管理組合の共同の利益に反するものであれば、訴訟対象となります。
管理規約や使用細則を遵守していれば義務違反は発生しない
今回は、マンション標準管理規約第66条「義務違反者に対する措置」から、条文とともに、筆者が管理組合や区分所有者に対して気を付ける点や、訴訟となった例を含めて紹介しました。
管理規約や使用細則に違反している場合であって、区分所有者に対する共同の利益が確保されず、改善がなされない場合は、管理組合との訴訟となる可能性があります。
また、管理規約や使用細則に従わずに訴訟となった場合は、判例を見ても改善命令が裁判所より出される可能性もあります。
管理組合における個別具体的な事象は、法律の専門家である弁護士に依頼することが求められるので、合わせて紹介しておきます。
コメント