管理組合の総会で「議決権」という言葉が出てくるとき、多くの方はまず「賛成か反対か、票数の問題だ」と受け取られるのではないでしょうか。しかし、団地型標準管理規約第71条をひとたび丁寧に読み解いてみると、そこには単なる投票ルールをはるかに超えた制度設計の思想が凝縮されていることに気づきます。
誰が票を持ち、どれほどの重みがあり、どのような手段で意思を届け、誰が代わりに行使できるのか。これらの問いに対して第71条は一定の答えを与えながら、同時に管理組合ごとの自治的判断の余地を残しています。
本稿では、第71条を単なる議決権割合の条文としてではなく、「棟自治の制度設計条文」として読み解きます。団地総会との権限分離、少数者保護、代理制度の統制、所有者不明問題への対応という四つの観点から、その実務的意味を整理します。
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規約条文の読み解き|第71条が定める議決権の枠組み
第71条は、①議決権割合の原則(第1項)、②共有住戸の処理(第2・3項)、③任意代理・書面行使(第4~6項)、④所有者不明専有部分管理人(第7項)、⑤電磁的方法の特則(第8~10項)という五層構造で設計されています。本条は単一論点ではなく、「誰が」「どの重みで」「どう行使し」「誰が代行できるか」を分解して規定する条文です。
以下、第71条の条文を紹介します。
※赤字は令和8年4月1日施行の区分所有法改正に伴う標準管理規約の改正箇所です
(議決権)
第71 条 各区分所有者の棟総会における議決権の割合は、別表第5に掲げるとおりとする。
2 住戸1戸が数人の共有に属する場合、その議決権行使については、これらの共有者をあわせて一の区分所有者とみなす。
3 前項により一の区分所有者とみなされる者は、議決権を行使する者1名を選任し、その者の氏名をあらかじめ棟総会開会までに棟総会を招集する者に届け出なければならない。
4 議決権は、書面又は代理人によって行使することができる。
5 区分所有者が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、以下の各号に掲げる者でなければならない。
一 その区分所有者の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族
二 その区分所有者の住戸に同居する親族
三 他の区分所有者
四 国内管理人
6 代理人により議決権を行使しようとする場合において、区分所有者又は代理人は、代理権を証する書面を棟総会を招集する者に提出しなければならない。
7 所有者不明専有部分管理人は、区分所有者に代わって議決権を行使することができる。この場合において、所有者不明専有部分管理人は、その資格を有することを証する書面の写しを棟総会を招集する者に提出しなければならない。
〔※管理組合における電磁的方法の利用状況に応じて、次のように規定〕
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
(規定なし)
(イ)電磁的方法が利用可能な場合
8 議決権の行使は、第4項の書面によるものに代えて、電磁的方法によってすることができる。
9 区分所有者又は代理人は、第6項の書面の提出に代えて、電磁的方法によって提出することができる。
10 所有者不明専有部分管理人は、第7項の書面の提出に代えて、電磁的方法によって提出することができる。
別表第5という制度設計
第71条第1項は棟総会における議決権割合の原則を定め、第2項および第3項は共有住戸の議決権行使方法、第4項から第6項は任意代理・書面行使の方法、第7項は法定管理人による議決権行使、第8項から第10項は電磁的方法の特則という構造になっています。いわば「本体は別表にあり」という立法技術が採用されているわけです。
なぜこのような構成にするのかといえば、議決権の割合が棟の物理的構成、すなわち住戸数や各住戸の専有面積に直接依存するからです。仮に規約本文に数値を書き込んでしまうと、住戸の変更や分割・合併が生じるたびに規約本文の改正手続きが必要になります。別表として切り出すことで、規約本文の改正決議(通常は特別決議)を頻繁に行うことなく、持分割合の技術的修正を管理できる構造になっています。
この点は実務上も重要な意味を持ちます。別表第5の内容と登記簿上の専有面積、さらには固定資産税課税明細書上の床面積との整合性を確認し、差異がある場合には規約上の議決権割合をどう扱うかを理事会で整理しておく必要があります。
もっとも、実務上は別表第5に定めた議決権割合を頻繁に更新することは通常ありません。議決権割合は分譲時に確定した持分構造を基礎としており、住戸の分割や合併がない限り当初割合を維持するのが一般的です。重要なのは都度見直すことではなく、変更が生じた場合に規約改定を要するかを適切に判断できる体制を持つことです。
共有住戸の扱い|「一の区分所有者」とみなす意味
第2項および第3項は、住戸1戸が数人の共有に属する場合の議決権行使方法を定めています。相続や夫婦共有などにより共有となった場合でも、規約上は「一の区分所有者とみなす」とされ、議決権は分割行使できません。共有者間で代表者1名を選任し、棟総会開会前に届け出る必要があります。
これは強い「みなし規定」であり、実体が複数であっても法律効果を一体として扱うものです。団地型では棟単位の意思形成が前提となるため、持分割合に応じた分割行使を認めれば棟自治の単位が崩れてしまいます。1戸1議決権(または面積比例)の原則を維持するための設計であり、相続発生時には代表者選任の届出を促すことが実務上重要となります。
書面・代理・電磁的方法|三層の議決権行使手段
第4項は、議決権を「書面又は代理人によって行使することができる」と定め、出席による直接行使に加え、書面および代理人による行使を認めています。さらに第8項以下は、規約で電磁的方法を採用した場合にのみ適用される選択的規定であり、自動的に導入されるものではありません。
議決権行使は、①出席による直接行使、②書面または電磁的方法による事前行使、③代理人による行使という三層構造で設計されています。これは、出席できない区分所有者の意思を可能な限り反映させるための制度的配慮です。
もっとも、電磁的方法を導入する場合には、規約への明記にとどまらず、本人確認方法やID管理、ログ保存、障害時の代替手段まで整備する必要があります。電子投票に不具合が生じれば決議取消が主張される可能性もあり、利便性と統制の両立が求められます。
代理人資格の限定
第5項は、代理人として認められる者を、配偶者(一親等の親族を含む)、同居親族、他の区分所有者、国内管理人に限定しています。内縁関係の相手方も配偶者に含まれます。
この限定には明確な趣旨があります。代理人を無制限に認めれば、特定の者が多数の委任状を集約し、意思形成を実質的に支配する事態も想定されるためです。第6項は代理権証書の提出を義務づけ、議決権行使の正当性を担保しています。
なお、国交省補足コメントが示すとおり、成年後見人や財産管理人などの法定代理人は、法律上当然に代理行為を行う地位にあるため、第5項の限定とは別に当然に議決権行使が可能と解されます。
所有者不明専有部分管理人の位置づけ
第7項は、所有者不明専有部分管理人が「区分所有者に代わって議決権を行使することができる」と定めています。これは令和7年(2025年)改正区分所有法(令和8年4月1日施行)で整備された所有者不明専有部分管理人制度との接続を前提とする規定です。
所有者不明専有部分管理人は、所有者が不明または不在で管理に支障が生じている専有部分について、裁判所が選任する管理人です。本条により、当該管理人は管理行為にとどまらず、棟総会における議決権行使まで担うことが可能となります。その際には資格を証する書面の写しを提出し、手続的な正当性が確保されます。
重要なのは、この規定が単なる例外ではないという点です。所有者不明住戸が増加すれば、特別決議に必要な頭数要件や議決権要件の充足が困難になり、意思決定そのものが停滞します。本制度は、議決権の空洞化を防ぐための構造的な安全装置として位置づけるべき条文です。
国交省補足コメントの核心|議決権設計の思想
国交省補足コメントは、第71条が前提とする議決権設計の価値判断を明示しており、本条を理解するうえで欠かせない視点を提供しています。
第71条関係
① 棟総会における議決権については、棟の共用部分の共有持分の割合、あるいはそれを基礎としつつ賛否を算定しやすい数字に直した割合によることが適当である。
② 各住戸の面積があまり異ならない場合には、住戸1戸につき各1個の議決権により対応することも可能である。
また、住戸の数を基準とする議決権と専有面積を基準とする議決権を併用することにより対応することも可能である。
③ 特定の者について利害関係が及ぶような事項を決議する場合には、その特定の少数者の意見が反映されるよう留意する。
④ 代理人は、区分所有者の意思が棟総会に適切に反映されるよう、区分所有者の立場から見て利害関係が一致すると考えられる者に限定することが望ましい。第5項は、この観点から、区分所有者が代理人によって議決権を行使する場合の代理人の範囲について規約に定めることとした場合の規定例である。また、棟総会の円滑な運営を図る観点から、代理人の欠格事由として暴力団員等を規約に定めておくことも考えられる。なお、成年後見人、財産管理人等の区分所有者の法定代理人については、法律上本人に代わって行為を行うことが予定されているものであり、当然に議決権の代理行使をする者の範囲に含まれる。
面積比例か戸数比例か
国交省の補足コメント①は、棟総会における議決権について「棟の共用部分の共有持分の割合、あるいはそれを基礎としつつ賛否を算定しやすい数字に直した割合によることが適当である」と述べています。この原則に続いて②では、「各住戸の面積があまり異ならない場合には、住戸1戸につき各1個の議決権により対応することも可能である」としており、実態に応じた柔軟な設計を認めています。
面積比例か戸数比例かという論点は、一見すると技術的な問題に見えますが、実際には権力の分配に直接関わる問題です。大面積住戸の所有者が多くの議決権を持つ面積比例方式は、資産規模に応じた影響力の差を生み出します。一方、戸数比例方式は「一人一票」に近い平等性を実現しますが、資産規模の差を無視するという側面もあります。
さらにコメントが「住戸の数を基準とする議決権と専有面積を基準とする議決権を併用することも可能」と示しているのは、この二つの価値を組み合わせることで、単純な多数決による弊害を和らげる設計も選択肢に入ることを示唆しています。どの方式を採用するかは、それぞれの棟の構成や住戸面積の分布を踏まえた上で、規約制定段階から丁寧に検討すべき事項です。
少数者保護という視点
補足コメント③は、「特定の者について利害関係が及ぶような事項を決議する場合には、その特定の少数者の意見が反映されるよう留意する」と述べています。この一文は、特に団地型では、棟規模の差によって構造的多数派が固定化する場合があります。補足コメント③は、この構造的多数派支配への牽制として読むことができます。
管理組合の意思決定は多数決を基本としていますが、特定の区分所有者にのみ影響が及ぶ事項を全員の多数決で決めてしまうことは、少数者の利益を不当に侵害するリスクをはらんでいます。
たとえば、特定の棟だけに影響する修繕工事の費用負担方法を、団地全体の多数決によって決定するような場面がこれに当たります。このような場合、少数者の意見が実質的に反映される機会を設けることが、管理組合の運営として求められます。
団地型第30条の区分経理は「財布の分離」を制度化する条文ですが、第71条は「票の分配」を制度化する条文です。費用負担の構造と議決権構造は表裏一体であり、両条文はセットで理解する必要があります。
代理制度の統制
補足コメント④は、代理人を「区分所有者の立場から見て利害関係が一致すると考えられる者に限定することが望ましい」と述べています。この記述は、代理制度が本来の目的から逸脱しないようにするための原則を示したものです。
代理制度の最大のリスクは、特定の者が多数の委任状を集めることで、事実上その者が複数の議決権を支配するという状況です。こうした行為は必ずしも法的に違法とはいえませんが、管理組合の民主的な意思形成を歪める可能性があります。補足コメントが「暴力団員等を代理人の欠格事由として規約に定めておくことも考えられる」と付言しているのも、代理制度が組織的に悪用されるリスクへの警戒感の表れといえます。
実務で揉めるポイント|第71条が「団地型民主制の設計条文」である理由
条文や補足コメントの思想を踏まえると、第71条は抽象的な理念規定ではなく、日々の運営の中で具体的に影響を及ぼす実務条文であることが見えてきます。
棟総会と団地総会の権限混同
団地型マンションでは、棟総会と団地総会という二層構造の意思決定機関が存在します。第71条が定める議決権は棟総会における議決権であり、団地総会の議決権とは別に設計されています。しかし、棟総会と団地総会の役割分担が十分に意識されないまま運営されている場合もあり、権限の切り分けが曖昧になることがあります。
棟に固有の問題、たとえば棟の共用廊下の修繕や棟内設備の更新などは棟総会で決議すべき事項ですが、これを団地総会でまとめて決議しようとするケースがあります。逆に、団地全体の共用施設に関わる事項を棟総会で議論してしまうケースもあります。
どちらの総会で決議すべき事項かを明確に区別しないまま手続きを進めると、決議の効力が後から問われるリスクがあります。第71条を正確に理解するためには、団地型管理規約全体の権限配分の構造を把握しておくことが前提となります。
議決権割合と資産価値の関係
議決権割合の設計は、区分所有者の資産価値とも密接に関係しています。特に大規模修繕や建替えといった重要事項の決議では、議決権の多寡が意思決定に直接影響します。面積比例方式を採用する場合、議決権割合が固定化されることで、一定の構成員が継続的に大きな影響力を持つ構造が生まれます。
国土交通省の補足コメントは、共有持分割合を基礎としつつ算定方法の工夫や併用方式の可能性にも言及しており、理論上は議決権設計の見直し余地を示しています。また、別表第5により割合を明示する構造自体も、技術的には変更可能な設計といえます。
もっとも、実務上は議決権割合を安易に変更すべきではありません。分譲時に確定した持分構造は、区分所有者間の公平性と予見可能性の基礎であり、これを頻繁に動かすことは制度的安定性を損なうおそれがあります。
したがって、住戸の分割・合筆など構造的変更が生じた場合を除き、原則として当初割合を維持するという姿勢が実務的には妥当といえるでしょう。
電子化時代の制度設計
電磁的方法による議決権行使の導入は、区分所有者の利便性を高め、総会への参加率向上にも貢献しうる有効な手段です。しかしその一方で、電子化には固有の統制リスクが伴うことも忘れてはなりません。
たとえば、電子的な委任状の提出では、本人による意思確認がより困難になります。紙の委任状であれば直筆署名や印鑑によって本人の意思をある程度確認できますが、電子的な提出では認証の厳密性が運用に依存します。また、電子投票システムに不具合が生じた場合の対処方法や、システムの管理者が誰であるかという問題も生じます。
電磁的方法を導入する際には、規約への明記に加えて、セキュリティポリシーや本人確認の手順、トラブル発生時の対応手順を文書化しておくことが実務上の基本となります。もっとも、電磁的方法は従来の出席や書面行使に取って代わるものではなく、原則として併用を前提とすべき手段と考えるのが妥当です。
特に高齢区分所有者が多い団地型では、電子投票のみを前提とした運用により、かえって意思表明の機会が減少する逆転現象も起こり得ます。利便性向上と参加機会確保を両立させる設計こそが求められます。
所有者不明問題の増加
少子高齢化と人口移動の加速を背景に、団地型マンションにおける所有者不明住戸の増加は今後も続くことが予想されます。相続が発生しても相続人が名義変更を行わなかったり、所有者が死亡後も登記が更新されなかったりするケースが積み重なると、管理組合は議決権を行使できない住戸を多数抱える事態になります。
第7項が定める所有者不明専有部分管理人の制度は、こうした状況への対応策として法的に整備されたものですが、実際に裁判所に対して管理人選任の申立てを行うには一定の手続きと費用が必要です。
管理組合として対応できることには限界があり、早期に専門家や行政機関と連携する体制を整えておくことが現実的な対応といえます。所有者不明問題は、議決権の空白という民主制の機能不全に直結する問題であり、第71条の文脈においても軽視できない論点です。
まとめ|票数の話ではなく、自治の設計である
第71条は、棟総会における議決権の枠組みを定めた条文ですが、その内容を丁寧に読み解くと、票数の配分にとどまらない、自治の仕組みそのものを設計する条文であることがわかります。誰が、どのような重みで、どのような手段で意思を表明できるか。その選択肢をどこまで開き、どこで統制するか。これらの問いへの答えが、第71条の各項に分散して埋め込まれています。
実務担当者にとって重要なのは、この条文を「票数の整理表」としてではなく、「民主的意思決定の設計図」として読む姿勢です。別表第5の管理、共有住戸の届出対応、代理人の確認手続き、電子化への対応、所有者不明住戸への備え。これらのひとつひとつは、第71条が描く民主制の設計を実際に機能させるための実務上の作業です。
規約の条文は、読んで理解するだけでなく、運用の中で生かしていくことで初めてその意味を持ちます。第71条は、棟自治を機能させるための基礎設計条文です。票をどう数えるかではなく、誰の意思をどう守るか。その視点を失わないことが、団地型管理の安定につながります。




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