理事のなり手不足への「切り札」として、外部の第三者が管理者(=理事長)を務める 第三者管理者方式(外部管理者方式) に注目が集まっています。
なかでも、現在の管理会社にそのまま管理者の地位も担ってもらう 管理業者管理者方式 を検討する管理組合が増えつつありますが、
「本当に自分たちの資産を守れるのか」
という不安を抱く管理組合も少なくありません。
こうした中、国土交通省ではマンション管理適正化法・建替え円滑化法の見直しに向け、管理業者管理者方式の位置づけについて議論を進めています。制度設計を誤ると、区分所有者・管理組合にとって大きなリスクとなりかねません。
本コラムでは、以下の2つの論点について、マンション管理士の視点から整理して解説します。
✅国土交通省が検討する「管理業者管理者方式」の最新動向
✅日本マンション管理士会連合会(日管連)が示す「移行安全度チェックリスト」の重要ポイント
管理会社・専門家だけでなく、管理組合役員や区分所有者の皆さまにとって、自分たちの資産を守るために必要な判断材料となる内容です。
第三者管理者方式や管理会社が管理する管理業者管理方式の検討状況は
今回取り上げるテーマは次の2点です。
- 国土交通省が検討する「管理業者管理者方式」の最新動向
- 日本マンション管理士会連合会(日管連)が示す「移行安全度チェックリスト」の要点
国土交通省では、区分所有法改正(2026年4月施行)に合わせ、マンション管理適正化法・建替え円滑化法の見直しに向けた論点整理が続いています(2025年12月時点)。その中で、管理業者管理者方式をどのように制度的に位置づけるかは、今後の検討課題の一つとして挙げられています。本稿では、国交省の議論が示す方向性を整理し、そのポイントを解説します。
あわせて、日本マンション管理士会連合会(日管連)が公開している、外部管理者方式の導入に際して注意すべき点をまとめた 「移行安全度チェックリスト」 についても取り上げます。具体的なチェック項目と、管理組合が確認すべき実務上のポイントをわかりやすく説明します。
今回の内容は、管理組合運営の将来を考えるうえで重要なテーマであり、管理組合役員のみならず、管理会社や専門家にとっても参考となる情報です。
国交省はどう動く?管理業者管理者方式の法的位置づけと利益相反への対応

国土交通省では、区分所有法改正(2026年4月施行)にあわせて、マンション管理適正化法・建替え円滑化法の見直しに向けた論点整理を進めています。その検討項目の一つが、外部者が管理者(理事長)となる 管理業者管理者方式をどのように制度上扱うか という点です。
現在示されている検討テーマは、次のように大きく三つに整理されています。
✅マンション管理適正化を促す仕組みの強化
✅多様化するマンション再生ニーズへの対応(建替え・再生手法の高度化)
✅行政による関与・支援の強化(管理不全対策など)
このうち「管理業者管理者方式」は、1つ目の管理適正化を促す仕組みの中で取り上げられており、制度として明確に位置づけるべきかどうかが今後の重要な論点となります。
本稿では、この方式に関する議論のうち、特に次の2点に焦点を当てて解説します。
- 利益相反取引から区分所有者・管理組合をどう守るか
- 管理業者管理者方式を法制度としてどこまで明確化するか(法制化の可能性)
利益相反のリスク:修繕工事・点検業務が“自社発注”になりやすい構造
管理業者管理者方式では、管理会社が管理者(理事長)として日常業務を主導するため、
「業務発注の決定権」と「業務の受注者」が同一グループ内に存在する という構造的な問題が生じます。
具体的には、
✅大規模修繕工事の発注
✅清掃・設備点検などの日常業務の委託
✅緊急対応時の追加発注
これらが、管理会社自身やその関連会社へ “相見積もりなし” で流れる可能性があります。
これは典型的な 利益相反取引 であり、
✅管理組合側:割高な発注・質の低下という不利を被る
✅管理会社側:受注増という有利を得る
という構図になりかねません。
この問題は、国土交通省でも長年議論されているテーマであり、マンション管理に詳しくない一般の区分所有者をどう守るかは、今後の制度設計の核心の一つです。
管理業者管理者方式の「法制化」はどこまで進む?
国土交通省では、管理業者管理者方式を正式に制度上位置づけるかどうか、
「法制化の範囲」と「義務付けるべきルール」 を中心に検討が進められています。
検討されている方向性としては、次のような内容が想定されています。
- ① 利益相反の抑制に向けたルール整備
例:相見積もりの義務化、関連会社への発注禁止・制限 など - ② 区分所有者が不利益を被らないための透明性確保
例:業務報告書の詳細化、発注プロセスの可視化 - ③ 管理者となった管理業者の責任範囲の明確化
例:業務上の過失に対する賠償義務、説明責任の強化 - ④ 違反時の行政処分や罰則の導入の可能性
例:管理適正化法に基づく指導・処分の対象拡大
法制化のポイントは、管理会社に権限を与える代わりに、「どこまで責任と遵守義務を課すか」 を明確化することにあります。
現時点では細部まで固まっていませんが、管理組合や区分所有者が不利益を受けないためのルール整備が進む方向性で議論されています。
日本マンション管理士会連合会(日管連)が考える外部管理者方式の注意点は?

—「移行安全度チェックリスト」は1つでも欠ければNG —
外部管理者方式を導入する際に、全国組織である 日本マンション管理士会連合会(日管連) が公開しているのが、
です。
日管連はこのリストについて、
「1項目でも満たさなければ安全とは言えない」
と明確に述べており、導入を検討する管理組合に対して強い警鐘を鳴らしています。
つまり、外部管理者方式は「プロに任せるから安心」というものではなく、導入前のチェックが不十分であれば、かえってリスクが高まる方式 だということです。
以下では、そのチェックリストの内容を具体的に見ていきます。
マンション管理士が管理者となる場合のチェックポイント
—「資格者だから安心」は誤解。保険とガバナンス確認が必須 —
外部専門家であるマンション管理士が管理者に就任する場合でも、
“資格がある=安全” とは限りません。
以下のポイントを満たしているかどうかが、安全性を左右します。
必須:賠償責任保険(第三者管理者特約付き)に加入しているか
マンション管理士が管理者として業務を行う以上、
ミスや過失によって管理組合に損害が発生する可能性はゼロではありません。
そのため、次の点を必ず確認する必要があります。
✅賠償責任保険に加入しているか
✅「第三者管理者特約」が付帯しているか(※最重要)
第三者管理者特約は、
“管理者としての判断ミスや業務上の過失”
を補償対象にするための特約で、外部管理者方式では事実上必須です。
印鑑を預ける場合のリスク管理(横領・着服対策)
管理者に組合印を預ける場合は、
横領・着服等の犯罪リスクに備えた補償の有無を必ず確認 してください。
チェック方法は次のとおりです。
✅マンション管理士が加入している保険証券の写しで補償内容を確認
✅必要に応じて、管理組合が直接保険会社へ照会
印鑑管理を軽視すると、管理会社以上にガバナンスが効かなくなるケースもあります。
管理業者が管理者となる場合のチェックポイント
— 固定化・監査不全・資金管理リスクをどう防ぐか —
管理会社が管理者(理事長相当)を兼務する「管理業者管理者方式」は、
利便性が高い反面、ガバナンスが大きく崩れやすい方式 です。
そのため、以下の項目をクリアしているかどうかが「導入可否の分岐点」になります。
規約に特定企業名を入れない(=固定化の禁止)
「管理者は〇〇管理会社の社員が就任する」
などのように、企業名を規約に直接書くことは絶対に避けるべきです。
理由は明確です。
✅その会社を変えたい場合、規約変更という高ハードルが発生
✅実質的に管理会社が固定化され、競争原理が働かなくなる
✅組合側が改善要求をしても動いてくれない“お手盛り運営”の温床になる
管理者方式を採用する場合ほど、企業名の固定化は重大リスクです。
規約で「外部専門家監事」を必須にしているか
管理会社が管理者を兼務すると、
管理者と受注者が同一グループになるため、内部監査が成立しません。
そのため、次の規定が不可欠です。
✅外部専門家(マンション管理士等)を監事として選任可能
✅規約に「外部監事を置く」旨が明記されている
監査機能が死んでしまうと、利益相反のチェックが不可能になります。
外部専門家監事も「賠償責任保険」に加入しているか
監事も重要な責任を負うため、次の要件は必須です。
✅賠償責任保険に加入している
✅補償範囲に「監事としての業務」が含まれている
無保険の監事は、実質的に機能しません。
通帳と印鑑の完全分離(=不正防止の最重要ポイント)
最もトラブルが多いのが資金管理です。推奨される体制は以下のとおりです。
✅通帳:管理会社(管理者)が保管
→ 日常管理に必要
✅印鑑:組合員または外部監事が保管
→ 不正引き出しの抑止
通帳と印鑑が同一者の手に渡れば、預金の不正引出が理論上いつでも可能となるため絶対に避けるべきです。
印鑑を外部監事に預ける場合の「横領補償」の確認
印鑑を外部専門家が持つ場合は、次の点を必ず確認してください。
✅横領・着服等に対応する補償があるか
✅保険内容が「印鑑管理」を明確にカバーしているか
監事といえども人間である以上、リスクゼロではありません。補償の裏付けがあることが、組合資金を守る最低条件です。
外部管理者方式で“必ず”規約に盛り込むべき共通ガバナンス項目
— 管理者(管理会社・マンション管理士)に権限を集中させないための安全装置 —
外部管理者方式では、管理者が一般組合員ではなくなるため、
規約にどこまで「歯止め」を組み込めるかで安全性が決まります。
最低限、以下の項目は必須です。
管理者・監事は必ず「総会で選任」すること
外部管理者方式を導入する際に最も避けるべきは、管理者が自動的に次期管理者を決めてしまう“お手盛り人事” が発生することです。
これを防ぐには、
✅管理者は総会で選任する
✅監事も総会で選任する
という規定が絶対に必要です。
外部者に権限を委任しても、最終決定権は必ず組合側が持つという仕組みを残さなければなりません。
任期は 1〜2年に限定し、長期政権を防ぐ
任期を定めないと、
✅5年、10年と在任し続ける
✅管理者と監事が癒着し、チェックが機能しなくなる
といった「長期政権化リスク」が発生します。
標準管理規約に合わせ、
任期は1〜2年で必ず総会で信任を問う
という形にしておくことが重要です。
欠格条項を明確にする(外部専門家の場合は追加要件も必須)
標準管理規約第36条の2にある欠格条項(破産者、禁錮刑、暴力団関係者など)は必須ですが、外部の専門家を管理者・監事にする場合には、以下の追加条件が必要になります。
✅マンション管理士資格の取消処分を受けた者は不可
✅法人の場合、銀行取引停止処分や管理業者登録取消の法人からの派遣者は不可
「外部だから安心」ではなく、「外部だからこそ厳しい審査が必要」という視点が重要です。
標準管理規約第36条の2に定める欠格条項(令和8年4月改定版)
標準管理規約なら、第36条の2に以下のような定めがあります。
(役員の欠格条項)
第36条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 破産者で復権を得ない者
二 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
外部の専門家からの役員の選任における欠格条項(令和8年4月改定版)
標準管理規約の補足コメントして、外部の専門家の役員就任についても触れています。
ア 個人の専門家の場合
・ マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者から役員を選任しようとする場合にあっては、マンション管理士の登録の取消し又は当該分野に係る資格についてこれと同様の処分を受けた者
イ 法人から専門家の派遣を受ける場合(アに該当する者に加えて)次のいずれかに該当する法人から派遣される役職員は、外部専門家として役員となることができない。
・ 銀行取引停止処分を受けている法人
・ マンション管理業者の登録の取消しを受けた法人
これらと同様の欠格条項の規定が必要であると考えられます。
誠実義務(=組合の利益を最優先に行動する義務)の明文化
標準管理規約第37条と同様に、管理者・監事は組合員の利益のために誠実に職務を果たす義務があることを規約に明示する必要があります。
これがないと、外部管理者が「自社(管理会社)に有利な判断」をしても法的に追及しにくくなります。
ちなみに、標準管理規約第37条は以下の通りです。
(役員の誠実義務等)
第37条 役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
2 役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
監事の「意見陳述義務」を規定し、チェック機能を強化
外部管理者方式では理事会が存在しないケースが多いため、監事が“黙っているだけ”では制度が成立しません。
標準管理規約第41条第4項にある
「必要があると認めるときは意見を述べなければならない」
という義務は、外部管理者方式でもそのまま適用できるようにしておく必要があります。
監事は“単なる書類確認係”ではなく、
管理者にブレーキをかける最後の砦 であるため、明文化が不可欠です。
利益相反防止規定(外部管理者方式では必須度がさらに上がる)
外部管理者方式は、管理者(管理会社)=発注元となることが多いため、利益相反の危険性が最も高い方式です。
標準管理規約第37条の2のように、
✅利益相反取引を行う場合は重要事項の開示
✅総会の承認を必須とする
という厳格なルールの明文化が必要です。
むしろ外部管理者方式では、
「そもそも利益相反取引は避ける」
「総会承認のハードルを高める」
など、より厳しい運用も検討すべきです。
ちなみに、
標準管理規約では、第37条の2に以下のような規定があります。
(利益相反取引の防止)
第37条の2 役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をしようとするとき。
組合員の「総会招集権」を制限しない
外部管理者が権限を持つと、
✅管理者に都合が悪い議案が上がらない
✅総会が開催されない
✅議案説明が遅延する
などの事態が起こりやすくなります。
そのため、標準管理規約第43条のように、
✅招集通知は2週間前ルール
✅目的事項を明確に記載
✅管理者が招集しない場合の“組合員招集権”を制限しない
という原則を規約で守る必要があります。
第43条には、招集手続の規定があり、その第1項(令和8年4月改定版)には、
(招集手続)
第43条 総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的がマンション再生等に係る決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所(WEB会議システム等を用いて会議を開催するときは、その開催方法)、目的及び議案の要領を示して、組合員に通知を発しなければならない。
とあります。
総会の議決事項は標準管理規約と同等以上に確保する
理事会が存在しない外部管理者方式では、総会が唯一の意思決定機関になります。
そのため、
✅標準管理規約第48条にある18項目(令和8年4月改定版)より少なくしない
✅むしろ理事会で扱うべき内容も総会で扱えるように拡大する
という対応が必要です。
総会の審議事項が減る=外部管理者の権限が肥大化し、チェック不能になる
という構造になるため注意が必要です。


まとめ:外部管理者方式は「導入して終わり」ではない
外部管理者方式・管理業者管理者方式は、なり手不足に対応できる一方で、ガバナンスが弱くなるリスクがあります。特に日管連のチェックリストは、導入判断の “最低基準” として必ず確認すべき内容です。
管理組合が押さえるべきポイントは、次の3つです。
✅利益相反を防ぐ仕組みがあるか
✅資金管理が適切に分離されているか
✅監査が独立して機能しているか
外部に権限を委ねる方式だからこそ、“任せっぱなしにしない体制” が不可欠です。
国交省による適正化法・円滑化法の見直しでも、外部管理者方式に関するルール整備が進む可能性があります。最新情報が入り次第、当サイトでも解説していきます。
外部管理者方式を成功させる鍵は、「何を任せ、どこを締めるか」を組合自身が主体的に決めること。その前提となる チェック体制の整備こそ、最大のリスク対策です。











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