最近、マンション管理の現場で 「2026年の法改正に向けて、管理規約を見直さないといけない」 という話を耳にする機会が増えてきました。
確かに、今回の区分所有法改正や標準管理規約の見直しは、 管理不全を防ぎ、合意形成を円滑にするという意味で重要な改正です。
ただし―― マンション管理士として、そしてFP(ファイナンシャル・プランナー)として現場を見ていると、 一つだけ、見落とされがちな視点があると感じています。
それは、 「制度が変わった結果、区分所有者の“財布”に何が起きるのか」 という視点です。
今回は、法律論や手続き論ではなく、 生活と家計に直結する話として、法改正を整理してみたいと思います。
「決めやすくなる」制度がもたらすもの
今回の法改正・規約改正の大きな特徴は、 一言で言えば 「意思決定が進みやすくなる」 ことです。
具体的には、
- 所在不明区分所有者の扱い(決議母数からの除外)
- 出席者ベースでの決議範囲の拡大
- 一定条件下での合意形成の円滑化
など、 これまで「決めたくても決められなかった」事項が、 前に進みやすくなる制度設計になっています。
これは、管理不全マンションを防ぐという意味では 間違いなくプラスです。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。
決めやすくなる、ということは 「毎月の支出や将来負担を伴う決定」も 通りやすくなるということでもあります。
管理組合で「本当に重い決定」とは何か
管理組合の議案にはさまざまなものがありますが、 区分所有者にとって本当に重い決定は、突き詰めると次の2つです。
- 修繕積立金の大幅な値上げ
- 借入れ(ローン)を伴う大規模修繕や設備更新
これらは、 「建物を維持するためには必要」と理解されつつも、 家計への影響が大きいため、これまでは合意形成に時間がかかってきました。
ところが、制度が変わることで、
- 出席率が低い総会でも
- 以前より少ない反対数で
- スピーディーに
こうした決定がなされる可能性が高まります。 これは良い・悪いの問題ではなく、構造の変化です。
「無関心」がリスクになる時代へ
これまで、 「忙しいから委任状で」 「理事会に任せておけば大丈夫」 「何かあれば後で考えよう」
こうしたスタンスでも、大きな問題が表面化しにくい時代がありました。 しかし、制度が変わると話は別です。
「参加しない=影響を受けない」 のではなく、 「参加しない=決定を受け入れる」 という構図が、より明確になります。
気づいたときには、
- 管理費・修繕積立金が上がっていた
- 借入れが決まっていた
- 将来の支払額が想定以上になっていた
ということが、合法的に・正規の手続きを経て起こり得るのです。
法改正は「管理組合」を守るが、「家計」は守らない
ここで誤解してほしくないのは、 法改正や規約改正そのものを否定しているわけではありません。 管理組合という「組織」を維持するためには、 一定の決断が必要な場面は必ずあります。
ただし、 「法律が変わったから安心」 「規約を変えたから大丈夫」 という話にはなりません。
法改正は、個人の家計まで守ってくれるわけではない という点は、はっきり認識しておく必要があります。
これから必要なのは「手続き」より「数字」
これからの時代に本当に必要なのは、 「規約がどう変わるか」「手続きがどう簡素化されるか」 以上に、
「その決定で、自分の支出はいくら増えるのか」 「老後の家計にどんな影響が出るのか」
を、数字で把握することです。
この視点を持たずに 「制度対応」だけを進めてしまうと、 あとから取り返しのつかない負担になるケースも少なくありません。
次回予告:数字で見る「老後とマンション維持費」
次回(1月1日公開予定)の記事では、 FPの視点から、
- 修繕積立金は将来いくらまで上がり得るのか
- 管理費・積立金が老後家計に占める割合
- 年金収入とマンション維持費の現実的な関係
を、年金・家計モデルを前提に、具体的な数字と公的データを使ってシミュレーションします。 「法律が変わる」という抽象論ではなく、 あなたの家計に何が起きるのかを、正面からお見せします。
おわりに
マンション管理は、 法律や制度の話であると同時に、 暮らしとお金の話です。
制度が変わる今だからこそ、 「決まった後に考える」のではなく、 「決まる前に数字を見る」。
その視点が、 これからのマンション生活と老後を守る鍵になります。
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