2025年10月、国土交通省がマンション標準管理規約を改正しました。昨年(令和6年6月)の改定から、わずか1年あまり。DX(電子会議・議事録電子化)は前回で導入済です。
では、今回は何が変わったのか。答えは明快です。「決められない総会を動かす」「不在者・旧所有者・再生で詰まる実務を回す」ための改定です。
ここでは、前回から“本当に新しくなった6つのポイント”を、管理組合・理事会がすぐ動ける形で横浜マンション管理FP研究室のマンション管理士監修のもと、整理します。


出典:国土交通省「マンション標準管理規約を改正します ~皆様のマンションの管理規約も見直しが必要です~」(令和7年10月17日)
※本画像は政府標準利用規約(第1.0版)に基づき引用しています。
※条項は単棟型(分譲マンションが1棟であり、テナントや事務所がないタイプ)で紹介します。
※現在当コラムで紹介している標準管理規約は更新前のものですので、タイミングを見て順次更新します。
特別決議=「出席者の多数決」で可。定足数もシンプルに
従来、特別決議は“総数の4分の3”など全員分を母数にしていましたが、今回は「出席者の多数決」で可決できる形に見直し(第47条関係)。あわせて定足数も明確化され、特別決議を扱う総会は区分所有者数・議決権数の各過半数で開会可能になります。
さらに第43条では議案の「要領」を通知する義務が追加され、要件緩和の議題はその旨の明記が必要に。総会後の齟齬を予防し、総会を将来決まるか分からないという先延ばしにせず、“決められる会議”にシフトします。
所在不明者の“除外ルート”を法定化(第67条の3)
理事長(管理者)が裁判所に申し立て、所在等不明区分所有者を総数から除外できる制度が新設。除外確定後は、その所有者の議決権・敷地利用権持分が総数から外れ、通知義務の免除や申立費用の求償ルールも整備されました。
“議決権が宙に浮く”詰まりを抜き、会議を動かす実務導線が確保されます。
理事長の「保存行為」まで認める応急対応(第23条)
第23条では、理事長が災害・事故等の緊急時に専有部分や専用使用部分へ立ち入るだけでなく、保存行為(応急小修繕・点検)を実施できることが明文化されました。そして、委任での実施や原状回復・報告まで筋を通しました。
例:上階の漏水時、所有者不在でも“止水+応急補修”まで可能に。二次被害の拡大を防げる現場型の実務条の制定です。
保険金・賠償金は「理事長が一括請求・受領」(第24条の2)
新設の第24条の2により、共用部分に関する保険金・損害賠償金の請求・受領を理事長が一元化。旧区分所有者分の代理請求も可能とされました。受領金は共用部分の修繕等に充当し、必要に応じて管理費・修繕積立金への組入・償還も可。
バラバラ請求による遅延や取りこぼしを防ぎ、迅速な修繕・復旧へとつなげます。
建替え・更新など再生準備に「積立金」が使える(第28条)
第28条で、修繕積立金の使途を拡張。建替え・更新・敷地売却・除却といった“マンション再生等”の各決議後から、組合設立・認可までの準備費用に積立金を充当可能に。加えて、性能向上を伴う改良工事や管理・運用費への充当など、必要な使い道を整理・明文化。
調査・設計・合意形成の“谷間”の資金ショートを防ぎ、プロジェクトを進めやすくします。
国内管理人・名簿の電子運用を明文化(第31条の2・第31条の3)
海外在住オーナーや転勤者への対応として、国内管理人の届出(電磁的方法可)を制度化(第31条の3)。コメントには国内管理人選任を義務化する規定例も紹介。
あわせて第31条の2で組合員・居住者名簿の電子作成・電子閲覧を可能にし、年1回の内容確認を義務付け。
通知漏れや書類紛失を防ぎ、情報連絡の継続性を高めます。
前回(令和6年)との関係:DXの“配線”は完了、今回は“実務の通路”が増えた
コロナ禍を受けてオンライン総会・電子議事録・電磁的通知といったDXの土台は前回で完成しました。今回はその上に、会議・人・お金・連絡の詰まり”を抜く仕組みを載せた改定です。
- 会議が止まる → 出席者多数決で動く
- 人がいない → 所在不明の総数除外で前進
- 災害で混乱 → 保存行為で初動を止めない
- 保険金が遅い → 理事長一元化で迅速化
- 再生が進まない → 積立金の準備費充当で推進
- 連絡が途絶える → 国内管理人・電子名簿で補完
理事会が今すぐやるべき6つのこと(チェックリスト)
以下、規約改正においてさしあたり理事会・管理組合として検討しておきたいリストを紹介します。
総会招集書式を更新
- 議案の要領と、要件緩和の明記を必ず。
- 出席・委任・書面・電磁のカウント方法を1枚シート化。
所在不明者の申立フローを整備
- 理事会決議→裁判所申立→確定→総数除外の手順書。
- 申立費用の予算科目や求償手続も文書化。
保存行為の細則を作る
- 費用限度額/立入り記録様式/原状回復手順/合鍵管理。
- 記録(写真・動画)の保存期間・権限も明記。
保険金・賠償金の会計フローを固定
- 受領→承認→充当→残余処理の決裁ルート。
- 仕訳・科目・証憑の定型化。
再生シナリオ別チェックリスト
- 使える費目/使えない費目、取崩しの決裁テンプレ。
- 合意形成〜認可前の時系列マップ。
国内管理人・名簿の電子運用ルール
- 名簿の収集項目・閲覧範囲・マスキングの運用。
- 国内管理人の委任範囲(通知受領、保存行為同意 等)を明確化。
おわりに:理事会が“止まらない組合”をつくる時代へ
2025年改定は、「決め切る総会」「止まらない初動」「お金と連絡の通路」を整える実務改定です。
DXの次は、“詰まり”を抜くフェーズへ。理事長・理事会が自信を持って動ける環境を、細則・様式・フローで早急に形にしましょう。
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