東京都のマンションで増える認知症トラブル:現状と管理組合がすべき対応

マンション管理

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高齢化と単身化が進む分譲マンションの多くでは、認知症に起因する騒音・徘徊・ごみ出し・鍵紛失などの生活トラブルが顕在化しています。

管理組合は、規約・細則の整備、居住者名簿と緊急連絡体制、福祉担当理事の設置、地域包括支援センター等との連携、カメラやバリアフリーの計画反映を急ぎ、合意形成と再発防止を仕組み化すべき時です。

今回、日経新聞の記事をベースに、東京のマンションにおける認知症トラブルの現状と、その対応策について紹介します。

高齢化が進むマンションで何が起きているのか

マンション化率と高齢世帯の推移

日本では団地や高層マンションに住む高齢者が急増しており、東京都はその典型例です。東京カンテイの調査によると、マンション戸数を世帯数で割った「マンション化率」は都が28%で全国平均の13%を大きく上回り、都内では65歳以上の世帯のうち一人暮らしの割合が2040年には46%になると推計されています。

特に都内ではマンション住民の高齢化と単身化が進んでおり、近隣住民とのつながりが希薄な中で、認知症によるトラブルが顕在化しています。日経の記事では、築30年のマンションで夜間に上階の住民が床をたたき続ける騒音トラブルが発生し、その住民は後に認知症と診断された実例を紹介しています。

背景には高齢者人口の増加と認知症患者数の増加があり、厚生労働省の推計では2022年時点で65歳以上の人口3603万人のうち認知症は約443万人(12.3%)で、軽度認知障害(MCI)は約559万人(15.5%)とされ、合計すると3人に1人が認知機能にかかわる症状を抱えていることになります。都の推計でも認知症高齢者は2040年に57万人と2022年の49万人から16%増えると予測され、今後もマンション内でのトラブルは増える可能性があります。

マンション化率の高さが生む孤立

東京のマンション化率の高さは、利便性の裏側でコミュニティの弱体化や孤立を生み出しています。住民の高齢化が進むことで、管理組合の理事会に参加できない人や管理費を滞納するケースも増加し、結果としてトラブルの解決が困難になります。

中央区都市整備公社の情報誌でも、65歳以上人口3624万人のうち認知症患者が約640万人(5.6人に1人)と推計され、管理組合や居住者は「自分のこととして捉え、トラブルが起きる前に対応策を用意しておくことが必要」と指摘しています。高齢化と認知症トラブルの増加は全国的な課題であり、マンション管理の現場に大きな影響を与えつつあります。

認知症トラブルの難しさ:管理組合と管理会社の役割

マンションにおける認知症トラブルの現状

認知症によるトラブルは単なる近隣トラブルではないため、管理組合や管理会社が介入しにくいという特有の難しさがあります。

冒頭の日経の記事によれば、多くのマンションでは認知症の住人を想定したマニュアルが整備されておらず、騒音トラブルの被害者から相談を受けても管理人や管理会社が「取り合ってくれなかった」として警察や行政に苦情を申し立てる事例もあるといいます。

東京都マンション管理士会の副理事長は「管理会社は多忙なうえ、管理組合のメンバーは毎年のように代わるところも多く対処法が整理されていない」と指摘し、マンション管理業協会の担当者は「当事者同士のトラブルに管理会社や管理組合が介入することは訴訟リスクになる」と事情を説明しています。

個人情報保護と訴訟リスク

認知症かどうかは医師の診断が必要であり、本人や家族の同意なく管理組合が事情を把握することはプライバシー侵害に当たるおそれがあります。

そのため、住民同士のトラブルが認知症に起因しているかどうかが不明な段階では、管理会社や理事会が対応をためらい、問題が深刻化してから行政や警察が介入するケースも少なくありません。

中央区の冊子では「個人情報の保護には十分な留意が必要」としつつ、認知症対応では管理規約や管理委託契約の改正が必要となる場合があると指摘しています。合意形成が難しい理由として、理事会の役員が短期間で入れ替わる、役員の成り手不足、居住者同士の関係が希薄化していることなども挙げられます。

東京都の専門家派遣事業と国の取り組み

東京都におけるマンション管理士の派遣事業

こうした課題を受け、東京都は2023年度に国家資格を持つ「マンション管理士」を管理組合に派遣し、認知症の住人への対応などを助言する事業を始めました。

派遣時に配布するパンフレットには予防のポイントやチェックリスト、認知症疾患医療センターの一覧が掲載され、プライバシーに配慮した緊急連絡名簿の作成も指南しています。都はこの事業を2025年度に年間200件へ倍増し、管理組合が第三者機関と接点をつくるよう促す方針です。

東京都住宅政策本部の報道資料では、マンション社会的機能向上支援事業(分譲)として、災害時の防災力向上と認知症対応を支援するため、講習を受けたマンション管理士を派遣すると説明しています。

アドバイスの例として、「認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法」「介護や医療等の支援につなげるための地域包括支援センター等との連携」「バリアフリー改修を含めた長期修繕計画の策定」などが挙げられており、派遣は原則1管理組合につきそれぞれ1回(必要に応じて2回)で、利用料は無料とされています。

申込数が防災力向上・認知症対応合わせて200件に達すると受付が締め切られるため、早めの申し込みが求められます。

認知症政策推進計画の「理解の増進」

東京都は2025年度からの認知症施策推進計画で、第1項目に「理解の増進」を掲げています。9月の認知症月間には都内各自治体で共生に向けたセミナーが開催され、民間の見守りサービスや医療機関、福祉施設などとの幅広い連携を促進する方針です。

政府も認知症基本法を施行し、国や自治体、医療・福祉機関が連携して本人の権利を尊重しながら支援する体制の整備を進めています。認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会を目指すためには、マンション管理の現場での取組も欠かせません。

管理組合が取り組むべき具体策

専門家派遣と並行して、各マンションの管理組合が主体的に認知症対策に取り組むことが重要です。中央区都市整備公社の特集記事は、管理組合が実践できる具体的な対応策を示しています。

認知症への理解を深める

まずは認知症そのものへの理解を深めることが大切です。

自治体や各種団体が開催するセミナーへの参加、組合による勉強会の開催、認知症に関するパンフレットの配布などを通じて知識を共有し、偏見や誤解を減らしましょう。認知症はアルツハイマー型が約67%、血管性が約20%など複数の種類があり、症状や進行も人によって異なります。早期発見・早期相談が必要なことも周知しておきたい点です。

居住者名簿の整備と福祉担当理事の設置

災害時の避難や緊急連絡を円滑にするため、認知症の方の情報を共有できる居住者名簿の整備が推奨されています。

家族や親族などの連絡先を前もって把握しておけば、騒音トラブルなどが起きた際にも迅速に連絡できます。また、管理組合に福祉担当理事を配置し、認知症に関する情報収集や関係機関との連携の窓口を担ってもらうと効果的です。

理事会役員の選任方法についても、認知症になった場合に備え、親族や専門家が役員になれる仕組みや補欠役員の選任を検討することが提案されています。

福祉機関との連携と共用部分の改善

管理組合だけでは解決が困難なケースもあるため、地域包括支援センターや社会福祉協議会など福祉関係機関との連携が不可欠です。

中央区では「おとしより相談センター」を介して行政と住民をつなぐ体制が整っており、困ったときにすぐ相談できるよう連絡先や業務内容を把握しておくことを勧めています。共用部分では、介護送迎者のための駐車場運用や防犯カメラの増設などハード面の対策も有効です。

日頃から住民同士が顔を合わせるような防災訓練やイベントを開催し、良好なコミュニティーを築くこともトラブル予防に役立ちます。

法的制度の理解と契約の見直し

認知症になった組合員が総会で議決権を行使できなくなったり管理費を滞納したりする場合に備えて、成年後見制度や民事信託、地域福祉権利擁護事業などの制度を理解しておくことが必要です。

管理委託契約や管理規約にも認知症対応を盛り込み、管理員による見守りなど管理会社の協力が得られる体制を構築することが求められています。個人情報の取り扱いには細心の注意を払いながら、必要に応じて規約を改正し、住民の安心・安全を確保する仕組みを整えましょう。

将来への展望と管理組合へのアドバイス

厚生労働省が2024年に公表した推計によると、65歳以上の認知症の人は2060年に645万人となり、高齢者全体の17.7%に上るとされています。

軽度認知障害を含めると同年には約1300万人になり、高齢者のおよそ3人に1人が認知症かその前段階になる計算です。また、厚労省の研究班による全国調査では2025年時点の認知症高齢者は471万人に達すると予測されており、マンション内の認知症トラブルは今後さらに増えることが予想されます。

こうした中で、識者は「すべてをマニュアルや仕組みで対応するには限界があり、一人ひとりが認知症への許容度を上げることが基本だ」と指摘しています。認知症は誰もがリスクを抱えており、都によると65歳以上の人の16%は何らかの症状があるとされます。

管理組合や住民に求められるのは、認知症を自分自身の問題ととらえ、互いに支え合う地域コミュニティーを育むことです。専門家派遣や制度整備とともに、日常的な声掛けや見守り、相談しやすい雰囲気づくりが重要となります。

マンションは多様な世代が生活を営む「小さな社会」です。高齢化が進む今、認知症への対応は管理組合や管理会社だけでなく、すべての住民が意識すべき課題となっています。早期に対策を講じ、地域の支援機関と連携し、住み慣れた家で安心して暮らし続けられる環境を整えていくことが求められます。

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