マンションの管理組合には、単に住民同士のルールを決めるだけでなく、市や近隣住民と結んだ「協定」を守る責任もあります。例えば、ゴミ出しのルールや駐車場の利用、景観の保全など、マンションの運営は地域社会と密接に関わっています。
そこで重要なのが、マンション標準管理規約第69条です。この条文では、「管理組合が市や近隣住民と締結した協定を誠実に遵守すること」が義務付けられています。
✅「誠実に遵守する」とはどういうことなのか?
✅協定を破ると何が起こるのか?
✅管理組合はどのように対応すればよいのか?
本記事では、マンション標準管理規約第69条の内容と、管理組合や区分所有者が気を付けるべきポイントを分かりやすく解説します。
【規約解説】マンション標準管理規約第69条とは?市や近隣住民との協定を守るポイントを解説
今回紹介する内容は以下の通りです。
✅ マンション標準管理規約第69条とは?
✅国土交通省の補足解説
✅管理組合や区分所有者が注意すべきポイント
まず、最初の章では標準管理規約第69条の条文から「市及び近隣住民との協定の遵守」について紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
さらに、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第69条「市及び近隣住民との協定の遵守」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第69条とは?
以下、条文となります。
(市及び近隣住民との協定の遵守)
第69条 区分所有者は、管理組合が○○市又は近隣住民と締結した協定について、これを誠実に遵守しなければならない。
マンション標準管理規約第69条は、マンションの区分所有者が「市や近隣住民との約束(協定)」を守る義務について定めています。
なぜ市や近隣住民との協定が必要なのか?
マンションは、住民だけでなく、周囲の地域社会とも関わりながら運営されます。例えば、以下のようなケースで市や近隣住民との協定が結ばれることがあります。
- ゴミ出しルール(近隣とゴミ集積所を共有している場合)
- 騒音対策(近隣との間で静かに過ごす時間帯を決める)
- 景観の保全(マンションの外観や植栽の管理について自治体と取り決める)
- 駐車場の利用(近隣との境界問題や、路上駐車対策)
こうした協定を守らないと、マンション居住者と周囲の住民とのトラブルに発展し、最悪の場合、訴訟や行政指導を受ける可能性があります。
「誠実に遵守しなければならない」とは?
条文には「誠実に遵守」とありますが、これは「協定の内容をしっかり理解し、ルールを守ること」が求められるという意味です。
つまり、マンションの区分所有者だけでなく居住者も、「そんな協定があるなんて知らなかった…」では済まされません。
居住者にとって重要なのは、「管理組合がどんな協定を結んでいるのか?」を把握することです。
協定を守らないとどうなる?違反のリスクと影響
管理組合の理事会や総会で、以下のような情報を定期的に確認するとよいでしょう。
✅ 管理組合が結んでいる協定の一覧を知る
✅ 新しい協定が結ばれた場合、周知してもらう(掲示板・回覧板・メールなど)
✅ ルールを守らない居住者がいたら、まずは管理組合で対応する
特に、新しく引っ越してきた住民は、協定の存在を知らないケースが多いので、入居時の案内に盛り込む必要があります。
協定違反で起こるトラブルとは?行政指導や住民トラブルの可能性
協定の内容にもよりますが、一般的には次のようなリスクがあります。
🚨 近隣住民とのトラブル → クレームや苦情、関係悪化
🚨 市からの指導・行政措置 → 違反を指摘されることも
🚨 マンションの評判が下がる → 居住者にとっての住みやすさ・資産価値への影響
こうした問題を防ぐためにも、第69条のルールを意識し、マンション全体で協定を守る体制を作ることが重要です。
国土交通省の補足解説
次に、第69条については、国土交通省が以下のような補足をしています。
第69条関係
① 分譲会社が締結した協定は、管理組合が再協定するか、附則で承認する旨規定するか、いずれかとする。
② 協定書は規約に添付することとする。
③ ここでいう協定としては、公園、通路、目隠し、共同アンテナ、電気室等の使用等を想定している。
具体的にどのような点に注意すべきなのか、解説します。
分譲会社が結んだ協定は管理組合で「再協定」または「承認」する必要がある(補足①)
マンションが完成する前や販売中に、分譲会社(デベロッパー)が市や近隣住民と協定を結んでいることが一般的です。例えば、
- 隣接する公園の管理についての協定
- マンションの前の通路の使用ルール
などです。
しかし、マンションの住民(=管理組合)が正式に運営を始めると、これらの協定をそのまま継続するか、内容を見直すかを決める必要があります。
方法は次の2つです。
✅ 管理組合が改めて市や近隣と再協定を結ぶ(必要に応じて内容変更)
✅ 協定をそのまま承認する(規約の附則に明記する)
ポイント:管理組合が発足したら、分譲会社が結んだ協定を確認し、対応を決めることが大切!
分譲会社が区分所有者が入居後の生活を想定して、地域や関連業者との協定を結んでいることが一般的ですが、実際に生活をした段階で、新たに取り決めるべき決まりごとが出てくるかもしれません。
そのため、再協定か承認かを考えていく必要があります。
協定書は管理規約に添付して保管する(補足②)
管理組合の役員が交代すると、過去にどんな協定を結んでいるのか分からなくなるリスクがあります。
そこで、協定書をマンションの管理規約に添付し、組合員の誰もが確認できるようにすることが推奨されています。
📌 具体的な対応策
✅ 管理規約の最後に協定書を添付(紙または電磁的方法が可能な場合はデータ)
✅ 管理組合の掲示板やホームページで協定の存在を共有
✅ 新しい役員に引き継ぐ際、協定書の内容を説明
ポイント:協定は長期間有効なので、役員交代時に情報が途切れないようにすることが重要!
第69条で対象となる協定の種類(補足③)
国土交通省によると、第69条で想定されている協定には、以下のようなものがあります。
🏞 公園 → マンション敷地内や隣接する公園の利用・管理ルール
🚶♂️ 通路 → 近隣と共有する通路の通行ルール
🪟 目隠し → プライバシー対策のためのマンション周辺の植栽やフェンスの設置ルール
📡 共同アンテナ → 近隣と共同で使用するアンテナの管理
⚡ 電気室 → マンション共用の電気設備の管理
例えば、マンションと隣接する公園に関する協定がある場合、「夜間の利用は控える」「管理組合が一定の清掃を行う」といったルールが含まれることがあります。
また、電気室の協定がある場合、管理組合と電力会社で「点検の際の立ち入りルール」を決めていることが多いです。
ポイント:どんな協定があるかを知り、マンションの住民全員が守れるようにすることが大切!
管理組合や区分所有者が注意すべきポイント
これまで条文や国土交通省の補足事項について解説しました。
最後に、管理組合や区分所有者が注意すべき事項を紹介します。
住民全員に協定の内容が周知されているか?
📌 問題点
協定の内容が周知されていないと、住民が意図せず違反してしまう可能性があります。特に、新しく入居した区分所有者や賃貸入居者は、協定の存在すら知らないことが多く、知らずにルールを破ってしまうケースもあります。
🔸 例:「マンション敷地内の通路を近隣住民も利用できる」という協定があるが、使えないようになりトラブルになる。
対策
✅入居時に協定の内容を説明し、書類を配布する。
✅ 定期的に掲示板やメールで周知し、忘れられないようにする。
✅ 総会や理事会で協定のポイントを共有し、住民の認識を高める。
近隣住民や市と協定の見直しが必要ではないか?
📌問題点
協定は一度締結すれば永久に有効なわけではなく、時代の変化や技術の進化により、現状と合わなくなることがあります。不要になったルールを放置すると、住民の負担になったり、形骸化するリスクもあります。
🔸 例:「共同アンテナの使用ルール」が協定にあるが、各戸が光回線を導入した結果、使わなくなった。
対策
✅協定の内容を定期的に見直し、現在の状況と適合しているか確認する。
✅近隣住民や市と協議し、必要に応じて内容を改定する。
✅改定内容を総会で承認し、全住民に周知する。
協定違反のペナルティは?
📌 問題点
協定に違反した場合、近隣住民とのトラブルや行政指導につながる可能性があります。しかし、多くの協定には具体的な罰則が明記されていないため、対応が曖昧になりがちです。
🔸 例:「敷地内の緑地を一定の面積維持する」協定があるにもかかわらず、管理組合が駐輪場を増設し、近隣住民から苦情が出る。
対策
✅違反が発生した際の対応ルールを明確にする(警告→話し合い→改善期限設定など)。
✅近隣住民や自治体と相談できる管理組合担当者や窓口を設ける。
✅過去の違反事例を記録し、再発防止策を検討する。
協定の法的拘束力とは?違反時の影響も解説
📌 問題点
協定には法的拘束力を持つものと、あくまで努力義務にとどまるものがあります。管理組合がその違いを正しく把握していないと、適切な対応ができず、不要なトラブルや誤った運用につながる可能性があります。
🔸 例
✔️ 市との協定に「条例や法令に基づく義務」が含まれている場合 → 法的拘束力があるため、管理組合は必ず守る必要がある。
✔️ 近隣住民との協定が「紳士協定(努力義務)」の場合 → 状況に応じて再交渉できる余地がある。
対策
✅協定の種類と法的拘束力を整理し、優先度を明確にする。
✅管理規約と照らし合わせて、必要に応じて改訂する。
✅曖昧な点があれば、弁護士や管理会社など専門家に相談し、適切な対応方針を決める。
法的拘束力がある協定の具体例
一例として、横浜の山手地区の例を挙げます。
ここは景観計画・都市景観協議地区として定められており、対象区域内で所定の行為を行う場合、事前に景観法に基づく「景観計画の届出」及び景観条例に基づく「都市景観協議」が必要と定められています。
対象区域内で新たにアンテナ等を屋上に設置する際には、高さ制限に注意する必要があります。
努力義務とは?具体例を紹介
また、努力義務として鎌倉市の例ですが、住民協定の例を紹介します。
自治会、町内会や一定の居住区域単位で、自主的に取り決めを定めたものです。
協定区域内で開発・建築等を行う際には、協定内容を十分尊重するとともに、自治会等の連絡先を通して協議を行う必要があります。
協定と管理規約に矛盾がないかをチェック
📌問題点
管理規約と協定の内容が食い違っていると、どちらを優先すべきか判断がつかず、管理組合の運営に混乱を招く原因になります。規約と協定が一致していないと、住民からの問い合わせやクレームが増えることも考えられます。
🔸 例
🚧 協定:「敷地内の一部を近隣住民も利用可」
📜 規約:「敷地は専有者以外立入禁止」 → 矛盾!
🏢 協定:「敷地内の一部を防災拠点として近隣住民にも開放」
📜 規約:「共用施設の使用はマンション住民限定」 → 矛盾!
対策
✅管理規約と協定の整合性を定期的にチェックし、矛盾がないか確認する。
✅矛盾が見つかった場合は、管理組合内で方針を整理し、規約を修正するか、協定の見直しを検討する。
✅新しいルールを追加する際は、既存の協定との整合性を必ず確認する。
管理組合として協定を守るためにできること
マンションの管理組合が円滑に運営されるためには、住民同士のルールだけでなく、市や近隣住民との協定を適切に管理し、遵守することが重要です。
協定の基本ルールを理解する
✅市や近隣とどんな協定を結んでいるかを確認する
✅管理組合が再協定するか承認するかを決める
住民全員に協定の内容を周知する
✅入居時に協定の説明を行う
✅掲示板・回覧板・メールで定期的に通知する
定期的に協定を見直す
✅近隣住民や市と協議し、時代に合った内容にする
✅管理組合の総会で協定の改定を検討する
協定を守ることは、マンションの資産価値を維持し、トラブルを未然に防ぐことにもつながります。管理組合の役員や区分所有者は、第69条の趣旨を理解し、適切な管理を行うことが求められます。
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