マンションの管理組合は、基本的にマンションが存続する限り続きます。しかし、建て替えや取り壊しによって「管理組合が消滅する」ことがあります。
このとき問題になるのが、「管理組合が所有していた財産はどうなるのか?」という点です。
マンション標準管理規約第65条では、管理組合が解散した際の財産の清算ルールを定めています。本記事では、第65条のポイントや国土交通省の補足事項、さらに管理組合や区分所有者が事前に注意すべきポイントを、マンション管理士がわかりやすく解説します。
✅ マンション標準管理規約第65条の基本ルール
✅ 国土交通省の補足事項と注意点
✅ 管理組合や区分所有者が準備すべきこと
この機会に、管理組合が消滅した際の財産の行方についてしっかり理解しておきましょう。
【規約解説】マンション管理組合が解散すると財産はどうなる? 標準管理規約第65条を分かりやすく解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第65条とは?財産分配の基本ルールを解説
✅第65条に関する国土交通省の補足事項の解説
✅「消滅時の財産の清算」に関する管理組合・区分所有者の注意点
まず、最初の章では標準管理規約第65条の条文から「消滅時の財産の清算」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、国土交通省が第65条に対する補足事項がありますので、補足事項に対する説明を含めて紹介します。
さらに、条文や国土交通省の補足事項を踏まえて、第65条「消滅時の財産の清算」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第65条とは?財産分配の基本ルールを解説
第65条についての条文とともに、おもなポイントについて紹介します。
(消滅時の財産の清算)
第65条 管理組合が消滅する場合、その残余財産については、第10条に定める各区分所有者の共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属するものとする。
マンションの管理組合は、通常マンションが存在する限り続きます。しかし、建て替えや取り壊しなどで管理組合がなくなる(消滅する)ことがあります。
このとき、「管理組合が持っていたお金や財産(残余財産)をどうするのか?」というルールを定めているのが第65条「消滅時の財産の清算」 です。
管理組合が「消滅」するとはどういうことか?
管理組合はマンションがある限り存在します。でも、こんな場合に解散することがあります。
- マンションが取り壊され住まなくなる:構造上の問題等で組合員がこれ以上住まないと決めて、建物自体がなくなり、敷地も売却する場合(マンション敷地売却決議)
- マンション建替えのため一旦は住まなくなる:これまでの管理組合ではなく建て替えのための組合が新たに発足される(マンション建替え決議)
管理組合が解散する場合はこの場合以外は考えられません。
すなわち、管理組合は、区分所有者が住んでいる限りは無くならないと考えられます。
それは、標準管理規約第6条(管理組合)の第1項に
(管理組合)
第6条 区分所有者は、区分所有法第3条に定める建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体として、第1条に定める目的を達成するため、区分所有者全員をもって○○マンション管理組合(以下「管理組合」という。)を構成する。
とあるからで、マンションに住んでいれば自然発生的に管理組合が出来ることなります。
また管理組合がなくなるとき、貯まっていたお金や資産をどうするか決めないといけません。それをこの第65条がルール化しています。
管理組合が消滅すると財産はどう分配される?
簡単に言うと、管理組合が消滅した際に残った財産は、マンションの各区分所有者に分配されることになります。
ただし、「全員に均等に分ける」のではなく、標準管理規約第10条にしたがって、「共用部分の持分割合」に応じて分配される というルールになっています。
「共用部分の持分割合」とは? 計算方法を解説
マンションの共有部分(エントランス、エレベーター、廊下など)は、すべての区分所有者が一緒に所有しているものですが、誰がどれだけの権利を持っているかという割合が決められています。
この 共有持分割合 は 通常、専有部分(自分の部屋)の広さに比例して決まります。
✅ 広い部屋を持っている人 → 持分が多い(もらえる額が多い)
✅ 狭い部屋を持っている人 → 持分が少ない(もらえる額が少ない)
つまり、「あなたの部屋の広さに応じた割合で財産が分配される」という仕組みです。
実際に分配される財産の例
管理組合の財産として考えられるものには、次のようなものがあります。
- 管理費や修繕積立金の残額
- 共用部分の売却益(マンションを取り壊して敷地を売却した場合)
- 管理組合名義の銀行口座の残高
財産分配の具体的なシミュレーション
たとえば、マンションの解散時に 修繕積立金が1000万円残っていたとします。
- あなたの持分割合が10%の場合 → 100万円が分配される
- 持分割合が5%の場合 → 50万円が分配される
このように、財産は持分割合に応じて公平に分けられる仕組みです。
なぜこのルールが重要なのか?トラブル回避のポイント
管理組合が解散したときに、財産の行き先が決まっていなかったら、「誰がもらうのか?」「不公平にならないか?」といったトラブルの原因になります。
第65条があることで、透明性を保ち、公平な分配を保証することができます。
これは管理組合の運営に安心感を持たせる重要なルールなのです。
第65条に関する国土交通省の補足事項を解説
次に、標準管理規約第65条に対して、国土交通省は以下のような補足事項を紹介しています。
第65条関係
共有持分割合と修繕積立金等の負担割合が大きく異なる場合は負担割合に応じた清算とするなど、マンションの実態に応じて衡平な清算の規定を定めることが望ましい。
標準管理規約第65条では、「共用部分の持分割合」に応じて分けるルールになっていますが、国土交通省は「実態に合わせた公平な清算方法を考えたほうがいい」と補足しています。
具体的な事例も交えて解説します。
第65条の原則:財産は「共有持分割合」に応じて分配
まず、標準管理規約第65条では、マンションの管理組合を解散する際、
- 残っている修繕積立金や管理費は
- 「共用部分の持分割合」に応じて区分所有者(オーナー)に分配する
とされています。
✅ 「共用持分割合」とは?
マンションのエントランスやエレベーターなどの「共用部分」は、すべての区分所有者が共同で所有しています。この「どれくらいの割合で共用部分を所有しているか」を示すのが「共有持分割合」です。
一般的には、専有面積(部屋の広さ)に応じて決まるため、広い部屋のオーナーは持分が多くなります。
✅ では、どんな問題が起こるのか?
「共有持分割合」に応じて分配すると、実際に払った修繕積立金とズレが生じることがある のです。
国土交通省の補足:「負担割合」に応じた清算も検討すべき
国土交通省は、「マンションごとの実態に応じて、負担割合に基づいた清算方法を検討すべき」と指摘しています。
なぜなら…
✅ 実際に修繕積立金を払った額と、もらえる額が一致しないケースがあるから!
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
⚠️ 不公平になりやすいケースとその理由
🏢 組合員がAさんとBさんのみの例
区分所有者 部屋の広さ 共有持分割合 毎月の
修繕積立金修繕積立金の
総支払額
(10年)Aさん
(広い部屋)120㎡ 60% 10,000円 120万円 Bさん
(狭い部屋)80㎡ 40% 10,000円 120万円
- 管理規約では「全員一律10,000円」の修繕積立金を払うルール
- でも、解散時の分配は 「共有持分割合(Aさん60%、Bさん40%)」に基づいて行う
✅ 管理組合の残余財産600万円の場合の結果は…?
- Aさんには 600万円 × 60% = 360万円が戻る
- Bさんには 600万円 × 40% = 240万円が戻る
💡 でも、AさんもBさんも同じ額(120万円)を積み立てていたはず…
👉 Bさんは「私も同じ金額払ったのに、もらえる金額が少ないのはおかしい!」と不満に思うかもしれません。
公平な分配を実現するには? ✅ 公平な清算の方法とは?
こうした不公平を防ぐために、国土交通省は「負担割合(実際に払った金額)に応じて清算する方法も検討すべき」と提案しています。
例えば、次のような方法を取り入れることが考えられます。
✅ 公平な清算の方法
① 修繕積立金の「支払総額」に応じて分配する
→ AさんもBさんも払った額(120万円)に応じて、同じ額を受け取れるようにする。
② 一定期間(例:過去10年)に払った修繕積立金総額を基準にする
→ 「直近10年間でいくら支払ったか」を基準にして清算することで、負担額のズレを調整。
③ あらかじめ管理規約や使用細則で清算ルールを決めておく
→ 事前に「解散時の清算方法」を管理規約に明記し、組合員に周知するとともにトラブルを防ぐ。
「消滅時の財産の清算」に関する管理組合・区分所有者の注意点
ここでは管理組合が消滅する際に、管理組合や区分所有者としてどのようなことに注意しておけばよいのか、紹介します。
ただし、事例も数少ないことから、他の規約条文や一般的に想定される課題等を踏まえて紹介します。
管理組合解散時の清算方法は事前に「総会決議」で確定しておく
条文解説で記載したとおり、管理組合が解散するのは区分所有者がマンションに住まなくなる場合です。すなわち、マンションを壊して敷地を売却するか、建て替えのために新たに建替え組合が発足する場合です。
管理規約に清算ルールを定めていても、実際の解散時に「本当にこのルールでいいのか?」と意見が分かれることがあります。
そのため、解散が現実味を帯びた段階で、組合員全体の合意を得るために総会において、具体的な清算方法を決議しておくことが重要です。
💡 ポイント
- 規約に則った分配ルールを再確認する
- 必要なら、総会で別の清算方法を決議できるようにする
- 解散時の財務状況を組合員全体に共有する
未払い管理費・修繕積立金の清算ルールを事前に明確にする
管理費や修繕積立金を滞納している組合員がいる場合、そのまま解散すると公平な分配が難しくなります。
💡 ポイント
- 未払い額をどう回収するのか(弁護士を通じた請求を行うか、減額を認めるかなど)
- 未払いのまま解散した場合、他の組合員の負担が増えないようにする仕組み(例えば、未払い分は特定の勘定に充てて再分配など)
- 滞納者がいる場合、清算前に債権回収手続きを進める
解散後の管理・手続きを担当する人を誰にするか決めておく
管理組合が解散した後も、清算手続き、財産分配、未払いの回収、税務処理などが発生します。
しかし、解散してしまうと「誰が最後まで手続きを進めるのか」が曖昧になり、トラブルにつながる可能性があります。
💡 ポイント
- 「解散後の手続き担当者(清算人)」を選任する(弁護士、税理士、元理事など)
- 清算にかかる期間や流れを事前に組合員へ周知する
- 解散後の連絡窓口を明確にしておく(例えば、元理事長や管理会社が一定期間対応するなど)
まとめ:管理組合解散時のトラブルを防ぐ!第65条を活かす3つの対策
マンションの管理組合が消滅すると、財産の分配方法についてトラブルが発生することがあります。
特に、「共用部分の持分割合」と「負担割合」の違いによって、不公平感が生じるケースもあるため、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
✅ 総会で事前に清算方法を決め、管理規約に明記する
✅ 未払い管理費や修繕積立金の扱いをルール化する
✅ 解散後の管理や手続きの担当者を明確にしておく
これらの対策を行うことで、管理組合の解散時にスムーズに財産を分配し、トラブルを防ぐことができます。
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