今回、週刊ダイヤモンドの記事で非常に興味深い記事がありました。見出し的に興味関心を抱くものともいえます。
この2万円という額が果たして管理組合として一定の基準値になるのか、マンション管理士兼FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)である筆者独自の視点から考えていきます。
管理組合の今後の修繕積立金の参考になればと考えています。
この記事を書く前提
この記事を具体的に書こうと考えたのは、Xで簡単な修繕積立金の適正額分析をしたことから始まります。
そして、この記事のコメントとして、以下を挙げました。
コメントについての説明をさらに掘り下げて考えてみたいと思います。
国土交通省が掲げる「修繕積立金の平均額の目安」とは
国土交通省は、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月 令和6年6月改定)の7ページ(PDF8枚目)において、以下のような図表を出しています。

引用:国土交通省 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月 令和6年6月改定) 7ページ目より抜粋
この表は、修繕積立金を考えるうえで、一定の基準となります。国が提示しているガイドラインなので、当然脚色等はありません。また、大規模修繕工事代金を賄う修繕積立金の確保額として設定されているため、逆に言えば、
この基準値を満たす場合は、ある程度の大規模修繕工事代金は賄える
という考え方も出来るかもしれません。
図表の見方は?
オレンジのグラフとその上の表は、同じものを示していますが、オレンジのグラフがある方が分かりやすいので、解説します。
✅横軸:マンション全体の建築延床面積
管理規約や管理会社との管理委託契約などに記載されていることが一般的です。
✅縦軸:月間の専有床面積あたりの単価
算式はマンション全体の修繕積立金額÷マンション全体の専有床面積で求められ、マンション全体の専有床面積も管理規約や管理会社との管理委託契約などに記載されています。
で確認することができます。
ただし、オレンジ色の左側のグラフが、20階建て未満のマンション、右側が20階建て以上のマンションです。20階建て以上のマンションは、高層マンションでいわゆるタワーマンションが該当します。
図表より、国が考える修繕積立金の概算値を割り出してみる
次に、それぞれ記載がある数値の見方について細かく紹介します。
オレンジの幅は、国土交通省が「マンションの事例の3分の2が包含される幅」として、多くの分譲マンションの3分の2がこの範囲内に収まっていると考えています。そして、このオレンジの幅の中にマンション管理組合の修繕積立金が当てはまれば良いという考え方を示しています。
ここでは、具体的にマンションの戸数・規模を想定して修繕積立金の額を割り出してみます。
割り出しにおいては、マンション全戸の平均専有床面積は70㎡の、一般的な分譲マンションを想定してみます。
また、この計算は機械式駐車場を想定しない、大規模修繕工事で行う壁や床の補修や塗装、建具の交換などに必要な金額を割り出すこととします。
一例として、50戸のマンションを考えてみる
まず、50戸の小規模マンションを考えてみます。
✅マンション全体の専有床面積は50戸×70㎡=3,500㎡
✅共用部分を含めた建築延床面積はおおむね専有床面積の1.1~1.2倍程度(筆者独自調べ。ただしタワーマンション等当てはまらない場合もあり)
✅計算上の概算の建築床面積=3,500㎡×1.2=4,200㎡
※本来建築床面積は管理規約等に正確な値が記載されていますが、修繕積立金の仮説額を考えるに当たって概算値を割り出しています。
この条件に当てはめると、オレンジのグラフから、
✅月間の専有床面積あたりの単価:下限235円~上限430円/㎡・月
✅70㎡の分譲マンションの部屋の修繕積立金:235円×70㎡~430円×70㎡
→16,450円~30,100円
が国土交通省の提示している額にあてはまります。
次に、100戸のマンションは?
同様の計算方法で、100戸のマンションを考えてみます。
✅マンション全体の専有床面積:100戸×70=7,000㎡
✅概算の建築床面積:7,000㎡×1.2=8,400㎡
✅月間の専有床面積あたりの単価:下限170円~上限320円/㎡・月
✅70㎡の分譲マンションの部屋の修繕積立金:170円×70㎡~320円×70㎡
→11,900円~22,400円
さらに、150戸のマンションは?
また、150戸のマンションを計算すると、
✅マンション全体の専有床面積:150戸×70㎡=10,500㎡
✅概算の建築床面積:10,500㎡×1.2=12,600㎡
✅月間の専有床面積あたりの単価:下限200円~上限330円/㎡・月
✅70㎡の分譲マンションの部屋の修繕積立金:200円×70㎡~330円×70㎡
→14,000円~23,100円
250戸のマンションは?
そして、250戸のマンションの場合は、
✅マンション全体の専有床面積:250戸×70㎡=17,500㎡
✅概算の建築床面積:17,500㎡×1.2=21,000㎡
✅月間の専有床面積あたりの単価:下限190円~上限325円/㎡・月
✅70㎡の分譲マンションの部屋の修繕積立金:190円×70㎡~325円×70㎡
→13,300円~22,750円
タワーマンションは?
最後に、タワーマンションも見てみます。タワーマンションは建築延床面積の概念がないため、シンプルに考えることができます。
✅月間の専有床面積あたりの単価:下限240円~上限410円/㎡・月
✅70㎡の分譲マンションの部屋の修繕積立金:240円×70㎡~410円×70㎡
→16,800円~28,700円
参考:神奈川県内の修繕積立金の傾向は?
2025年4月に更新した【YouTube解説】神奈川県のマンション管理費と修繕積立金の設定ガイド:管理組合向け参考データで、神奈川県内の修繕積立金の平均値を紹介しています。
こちらのデータによると、
✅横浜市:14,605円(平均専有床面積68.85㎡)
✅川崎市:15,261円(67.97㎡)
✅相模原市:13,671円(65.92㎡)
✅市外:14,668円(71.99㎡)
✅神奈川県平均:14,684円(69.28㎡)
となっています。戸数にもよりますが、おおむね上記で紹介したレンジ(太い赤字)に当てはまっている、または近い値であると考えられます。
結論:分譲マンションの修繕積立金は2万円以内でも可能
国が掲げる修繕積立金ガイドラインから、果たして分譲マンションにおける修繕積立金は2万円で可能なのか検証してみました。
まとめると、70㎡の住戸における修繕積立金の概算値は以下のようになります。
✅50戸のマンション:16,450円~30,100円
✅100戸のマンション:11,900円~22,400円
✅150戸のマンション:14,000円~23,100円
✅250戸のマンション:13,300円~22,750円
✅タワーマンション:16,800円~28,700円
検証結果としては、
✅タワーマンションを含めた全タイプのマンションで、国土交通省が提示する事例の下限値は2万円以下
であることが分かりました。ただし、以下の点には注意が必要です。
✅マンションの特殊事情(借入の実施、劣化の進行、大規模修繕工事の工事間隔、塩害や風害対策が必要な立地等)を考えると、2万円を超える可能性も考えられる
✅現時点での国土交通省が掲げるガイドラインであるため、物価上昇の影響等、5年程度毎の長期修繕計画の見直しとともに、修繕積立金計画も見直す必要性がある
✅仮説(マンションの平均専有床面積70㎡、タワーマンション以外の建築延べ床面積は専有部分の1.2倍)に基づく検証である
今回の検証結果を、管理組合ならびに分譲マンションにお住いの方が支払っている修繕積立金とも照らしながら、参考にして頂ければ幸いです。
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