マンション管理費高騰の背景と対策 – 人件費・資材費の上昇にどう対応する?【管理組合必見】

マンション管理

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マンションの管理費が年々高騰しているというニュースを耳にしたことはありませんか?最近の調査では、東京23区の中古マンション(築10年、70㎡換算)における管理費と修繕積立金の合計が、この10年で約3割も上昇したと報じられています。なぜこれほどまでに管理費が上がっているのか、その背景には人件費資材費の高騰など、避けて通れない理由があります。

本記事では、管理費高騰の主な原因と、管理組合として取るべき具体的な対策について、マンション管理士である筆者が親しみやすく分かりやすく解説します。理事長や役員の方々はもちろん、すべてのマンション居住者にも関係する内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

管理費高騰の背景:人件費と資材費の上昇

まず、管理費が高騰している主な背景として、人件費の高騰建築資材費の上昇が挙げられます。これらはマンションの維持管理コストに直結する重要な要因です。

人材不足による人件費高騰

マンションの管理費の多くは、管理会社への委託費用として支払われています。先の日経の記事によると、この管理委託費の中でも約3~5割が管理員やフロント担当者などの人件費に充てられていると言われており、管理員の給与や関連人件費は管理費全体に大きな影響を与えます。

近年、マンション管理業界では管理員のなり手不足が深刻です。管理員や管理会社のフロントスタッフの採用が難しくなり、人材を確保するために給与水準を上げざるを得ない状況になっています。その結果、管理会社が人件費を引き上げ、それが管理組合に対する管理費に波及しているのです。

実際、「管理会社から管理委託費の値上げを要請された」というケースが各地で増えています。背景には、前述の人材不足による管理員の人件費上昇や、管理会社自体の人手不足があります。

管理員を確保できない管理会社では、以前に比べて人材減の影響から、管理員が複数のマンションを掛け持ちしたり、長時間労働ができなくなったりしており(働き方改革の影響もあります)、サービス維持のためのコストが上がっている状況です。

10年ほど前までは、筆者が知るマンションでも管理員が住み込みで対応するマンションも見られましたが、現在では多くのマンションで通勤による対応が一般的になっています。

資材費・物価の上昇によるコスト増

もう一つの大きな要因が建築資材費の高騰です。世界的なインフレや需給バランスの変化により、マンションの修繕工事で必要となる資材価格が年々上がっています。通常の管理における修繕は管理費から支出することが一般的ですが、大規模修繕工事では修繕積立金からの支出となります。そして、大規模修繕工事に使う塗料や防水材、配管部品などの価格上昇は、そのまま修繕積立金の不足に繋がります。

実際に近年では、「建築資材や人件費の高騰により、従来の積立計画では修繕費用を賄えないケースが増えている」とも報告されています。資材高による工事費アップが修繕積立金を押し上げ、将来の大規模修繕に備えるため管理費や積立金の値上げが避けられないマンションも少なくありません。

さらに電気代や保険料など、マンション運営に関わるその他のコストも上昇傾向にあります。電力料金の値上がりや火災保険料の高騰も、管理費会計を圧迫する要因です。

このように人件費と物価(資材費)両面の上昇が重なり、管理費だけでなく、将来的な工事で必要となる修繕積立金も年々膨らむ傾向にあるのです。

管理費高騰に対する管理組合の具体策

コスト上昇の背景が分かったところで、管理組合としては「ではどう対策すればいいのか」が気になるところでしょう。人件費や資材費そのものを大きく下げることは難しいですが、工夫次第で管理費の負担増を抑えたり、コスト上昇に耐えうる運営体制を整えたりすることは可能です。ここでは、管理組合が検討すべき具体的な対策をいくつか紹介します。

管理業務の省人化・IT活用による効率化

深刻化する人手不足に対応するため、まず検討したいのが管理業務の省人化ITの活用です。技術を上手に導入することで、少ない人員でもこれまでと同等のサービスを提供できれば、人件費の高騰による影響を緩和できます。

例えば、近年では遠隔管理システムの導入が注目されています。これは管理員が常駐せずとも、オンラインで別の場所からマンション対応を行える仕組みです。小規模マンションでは既に複数棟を巡回管理する形が一般的ですが、中規模以上のマンションでも将来的に遠隔対応を取り入れる動きが出てきています。システムを使った無人受付やAIチャットボットによる問い合わせ対応など、ITを駆使して管理員不足を補うサービスも登場しています。

また、清掃業務の自動化も省人化の有力な手段です。清掃ロボットの導入はまだ一部で実験的な段階ですが、大手管理会社の大和ライフネクストでは既にロボットによる清掃を試行しているところもあります。今後、技術の進歩によって清掃や設備点検の一部が自動化されれば、人手不足解消とコスト削減につながるでしょう。

その他にも、マンション管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることで効率化を図ることができます。具体例としては、理事会や総会をオンライン会議(Web会議)で開催したり、紙の文書を電子化して郵送費を削減したり、電子投票で総会の議決権行使を簡略化したりする取り組みがあります。

これらは直接の人件費削減策ではないものの、業務負担の軽減や利便性向上によって管理組合の運営効率を高め、長期的にはコスト削減と人材不足リスクの軽減に寄与します。

管理内容・委託契約の見直し

次に、現在の管理内容や契約を見直すことでコスト削減を図る方法です。管理費の大部分を占める管理会社への委託費用を適正化できれば、値上げ要請への対応策となります。

管理業務の仕様(サービス水準)の見直しは効果的な手段の一つです。具体的には、管理員の勤務日数や時間帯、清掃の頻度などを再検討します。例えば、「管理員さんには週5日常駐してもらっていたけれど、週3日に減らす」「清掃も毎日から2日に一度に減らす」といった調整です。

管理員不在の日が増えるといったデメリットはあるものの、「多少サービス頻度が下がっても管理費の急騰を抑えたい」と住民が考えるのであれば、有力な選択肢になります。法令で義務付けられたエレベーターや消防設備等の設備点検の頻度は下げられませんが、それに該当しない自動ドアの点検回数を減らすなど、支障の少ない範囲で作業頻度を調整することも検討に値するでしょう。

委託先の見直しや発注方法の変更も有効です。多くの管理会社は、実際の清掃や設備点検を下請けの専門業者に再委託しています。この場合、管理会社と専門業者それぞれに利益が上乗せされ、「二重のマージン」が発生していることになります。

そこで、管理組合が直接専門業者と契約すれば、中間マージン分のコストを削減できる可能性があります。たとえば清掃会社や設備点検会社と直接契約し直すことで、トータルの支出が抑えられるケースもあります。また、既に直接発注している場合でも、業者の変更や相見積もりによって費用が下がる場合があるため、定期的に契約内容を見直すことがおすすめです。

そして、管理会社自体の変更(リプレイス)も選択肢の一つです。管理会社によって管理委託費の設定や利益率は異なるため、他社に切り替えることで管理費が大幅に安くなることもあります。実際、「管理会社を変えるなんて大事では?」と不安に思う方もいますが、管理会社変更は珍しいことではなく、多くのマンションで実施されています。

その際には複数社から提案を受けて比較検討することで、サービス内容とコストのバランスがより良い管理会社を選ぶことが可能です。ただし、価格だけで飛びつくのではなく、サービス品質や実績も考慮することが大切です。

その他のコスト削減策や工夫

上記以外にも、管理組合が取り組めるコスト削減策収入確保の工夫はいくつかあります。

エネルギーコストの見直し

電力の全面自由化により、マンション全体の電気契約を見直すことでコストダウンが図れる場合があります。近年は電気代そのものが高騰傾向にあり劇的な削減は難しいものの、一度も契約を見直していない場合は新プランへの切替えで多少なりとも節約できる可能性があります。共用部のLED照明化や節電対策も長期的には効いてきます。

収入アップの施策

コスト削減とは発想が違いますが、管理費会計を助けるためにマンション資産を活用して収入を増やす工夫もあります。例えば、空き駐車場を外部に貸し出すのは代表的な方法です。近隣に駐車ニーズがあれば、外部者に月極貸しすることで収入を得られます(※その際、収益事業として課税対象になる点や、防犯面の配慮が必要です)。他にも、マンションの屋上やスペースに携帯電話の基地局や自動販売機を設置して賃料収入を得る、といった方法も検討できます。

長期修繕計画の見直し

修繕積立金の計画と管理費は表裏一体です。資材費高騰で将来の修繕費不足が懸念されるなら、長期修繕計画を最新の価格動向に合わせて見直すことも必要でしょう。計画を見直す中で、どの時期にどのくらいの費用が必要かを再試算し、必要に応じて管理費・積立金の配分を調整します。場合によっては大規模修繕の実施タイミングを延ばし、資金準備期間を延長する検討もあり得ます(ただし建物の劣化状況との兼ね合いがあるので慎重な判断が必要です)。

住民の理解と合意形成も忘れずに

最後に、管理費の値上げやサービス見直しを行う際には、住民への丁寧な説明と合意形成が欠かせません。管理費の高騰は誰にとっても歓迎できる話ではありませんが、必要性を正しく伝えなければ住民の反発を招く恐れがあります。

例えば「人件費や物価がこれだけ上がっており、今のままでは将来の修繕が賄えない」という根拠データや具体例を示すことが重要です。値上げやコスト削減策について議論する場合は、できるだけ早めに理事会内で検討を始め、総会の場ではいきなり提案を出すのではなく事前に予告や周知、さらには説明会を開催するなど、段階的に進める工夫が求められます。

住民からすれば、「サービス低下は困るが管理費が上がるのも困る」というジレンマがあります。管理組合の役員としては、様々な意見を汲み取りつつベストな落とし所を探す姿勢が大切です。その上で、「なぜ今この対策が必要なのか」「将来のマンションのためにどうしても避けられない費用なのか」を分かりやすく説明し、マンション全体で問題意識を共有することが、円満な合意形成への第一歩となるでしょう。

まとめ

マンションの管理費高騰は、人件費や資材費の上昇といった外的要因によって避け難く進行しています。しかし、管理組合の取り組み次第で、その影響を和らげたり必要以上の負担増を防いだりすることは可能です。省人化やIT活用による効率化、管理内容や契約の見直しによるコスト削減、さらに住民への丁寧な説明と協力によって、マンションの質を維持しながら健全な会計を保つ道が開けます。

管理組合の理事長・役員の方々にとって、管理費の問題は頭の痛いテーマかもしれません。しかし、今できる手立てを講じておけば、将来「資金が足りない」「サービスが維持できない」と慌てるリスクを減らせます。ぜひ本記事で紹介したポイントを参考に、自分たちのマンションに合った最適な対策を検討してみてください。管理組合として検討、着手は出来るだけ早い方が、将来への不安も軽減できます。

マンションにお住まいの全ての方々が安心して暮らし続けられるように、管理組合一丸となって知恵を出し合っていきましょう。対応策を実践しつつ、必要に応じて専門家(マンション管理士など)に相談することも検討し、健全で持続可能なマンション運営を目指しましょう。

【参考資料】 本記事は日経新聞の報道や国土交通省の調査結果、ならびに当研究室の解説記事等をもとに執筆しました。管理費や修繕積立金の値上げに関する詳細な解説については、以下の関連記事もぜひご参照ください。

  • 管理費・修繕積立金の値上げ前に確認すべき重要ポイント」 – 値上げの背景や住民合意形成のポイントをマンション管理士が解説
  • 管理費はここに使われる!国土交通省の見解も踏まえ紹介」 – 管理費の具体的な使途と注意点を標準管理規約に沿って解説

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