ポストに届いた一通の封筒。中を開けて、ため息をついたことはありませんか。 そこには「管理委託費の値上げのお願い」という、丁寧ながらも断りづらい文言が並んでいます。
「また値上げか……」 「断ったら、管理会社が引き上げてしまうかもしれない」 「でも、自分たちで全部やる(自主管理)なんて、絶対に無理だ」
いま、全国のマンションで、こうした「行き止まりの悩み」を抱える理事さん、区分所有者さんが急増しています。今日は、難しい言葉はできるだけ使わずにお話しします。
「管理会社に任せ続けるのは不安。でも自主管理はもっと怖い」——そんな板挟みから抜け出すための「新しい出口」を、分かりやすく整理します。
なぜ、あなたの悩みは「自然」なのか
まず最初にお伝えしたいのは、あなたが今感じている「どちらを選んでも苦しい」という感覚は、非常に自然だということです。
もちろん、世の中には素晴らしいパートナーとなってくれる管理会社もたくさんありますし、住民同士の絆でうまく回っている自主管理マンションも存在します。しかし、今の多くのマンションが直面しているのは、そうした理想だけでは解決できない過酷な現実です。
これまで、日本のマンション管理には大きく分けて2つの道しかありませんでした。
- 道A:管理会社に「全部お任せ」する たしかに楽です。しかし、近年は人件費や物価の高騰で、委託費は上がる一方。おまけに、利益の出にくいマンションは管理会社から契約終了を突きつけられるケースも珍しくなくなりました。
- 道B:自分たちで「自主管理」する 管理会社を入れず、住民の手で回す。お金は浮きますが、その代償は「役員の負担」です。現役世代は忙しく、高齢世代は足腰が不安。そんな中で「誰が清掃員の手配をし、誰が未収金を催促するのか?」という問題にぶつかります。結局、一部の「詳しい人」に負担が集中し、その人がいなくなった瞬間に管理が止まってしまう。そんな未来が見えているから、誰も自主管理には踏み切れません。
この、あまりにも極端な二択を迫られていること自体が、今のマンション管理の大きな課題なのです。
マンション管理を「4つ」に分けて考える
ここで少し、視点を変えてみましょう。「マンション管理」という言葉を、一つの大きな塊(かたまり)として捉えるのをやめてみます。
管理の中身を細かく分解してみると、実は次の「4つの仕事」が集まってできていることが分かります。
- 「お金」の管理(家計簿・通帳の管理)
- 「ルール」の管理(理事会や総会の段取り、法的判断)
- 「建物」の管理(清掃や点検、修理の手配)
- 「現場」の対応(騒音や水漏れ、居住者間の相談)
こうして分けてみると、「これ、全部同じ人がやる必要はないのでは?」ということに気づきます。
「全部」を誰かに背負わせようとするから、管理会社は多額のマージンを乗せざるを得ず、自主管理は役員の負担で潰れてしまうのです。
ここまでで、「全部を任せる」か「全部を自分たちでやる」か、その二択がなぜ苦しくなりやすいのかを整理してきました。
では、実際に3つの管理形態を並べてみると、それぞれにどのような違いがあるのでしょうか。
まずは、一般的な傾向を整理した比較表で全体像を確認してみましょう。

※筆者作成
この表を見ると分かる通り、どれか一つが絶対に正解というわけではありません。
ただ、
- 管理会社にすべて任せ続けることへの不安
- 自主管理に踏み切ることへの現実的な限界
この両方を感じているマンションにとって、「第三の管理」は、極端に振り切らないための現実的な選択肢になり得ます。
誰かが全部を背負わない「第三の管理」
最近、少しずつですが、賢いマンションで検討され始めているのが、管理会社でもない、完全な自主管理でもない、「役割を適切に分担する形」です。
言い方はいろいろありますが、ここでは便宜上、これを「第三の管理」と呼びます。大切なのは、「大事なところだけプロの仕組みを使い、現場作業はバラバラに外注する」という考え方です。
- お金の管理は、「専門の仕組み」に任せる 通帳を預けっぱなしにするのではなく、透明性の高い「会計専門」のサービスやシステムを使います。これだけで、事務負担を大幅に削りつつ、不正のリスクも防げます。
- 判断に迷ったら、「伴走してくれるプロ」を味方につける 理事会に継続的に関わり、客観的なデータに基づき「これは今やるべき」「これは後回しでOK」と交通整理をしてくれる専門家を雇います。
- 実務は、「専門業者」と直接契約する 清掃や点検などを、管理会社を通さず直接専門業者と契約します。これで管理の中身が「見える化」されます。
この形にすると、何が変わるのか?
「そんなバラバラに契約したら、逆に面倒くさいのでは?」と思われるかもしれません。たしかに、最初は少しの準備が必要です。
しかし、一度この形に整えてしまうと、理事が「責任」の重圧から解放されます。お金の計算や業者選びの不安が、プロの仕組みと助言によって解消されるからです。
そして何より、マンションが「自律」します。 たとえ管理会社から契約終了を打診されても、自分たちに「会計の仕組み」と「相談できるプロ」がいれば、パニックになることはありません。
「自立した管理」があれば、マンションが放置されて困りごとが増え、価値も下がっていく——そうした「管理が回らなくなる状態(スラム化)」から、しっかりと距離を取ることができるのです。
管理体制チェックリスト ― 今のマンションの「現在地」を確認してみましょう ―
ここで一度、立ち止まって今の管理体制を整理してみましょう。以下の「4つの視点」で、ご自身のマンションの現状をチェックしてみてください。
① お金の管理(会計・資金)
- [ ] 管理費・修繕積立金の残高を、すぐに説明できる
- [ ] 通帳や支出の流れを、複数人で確認できる仕組みがある
- [ ] 会計処理を、特定の一人に依存していない
② ルール・判断の管理(理事会・総会)
- [ ] 理事会で「今やること/後でいいこと」の優先順位が整理されている
- [ ] 規約や法律について、いつでも客観的に相談できる相手がいる
- [ ] 判断の理由を、納得感を持って住民に説明できる状態になっている
③ 建物・実務の管理(清掃・点検など)
- [ ] 清掃や点検の内容・頻度を、理事会が主体的に把握している
- [ ] 業者選定が「昔からの付き合い」によるブラックボックスになっていない
- [ ] 設備の不具合が起きた際の連絡・対応ルートが明確である
④ 現場対応・属人化リスク
最後は、日常のトラブル対応や「人」に関わる部分です。この分野は表に見えにくい一方で、実はマンション管理が、ある日突然うまく回らなくなる引き金になりやすい領域です。
- [ ] 特定の役員がいなくなっても、次期役員で管理が回る仕組みがある
- [ ] 住民トラブル(騒音・マナー等)への対応方針が、理事会内で共有されている
- [ ] 住民からの苦情や相談の“窓口(連絡先)”が明確になっている
- [ ] 「あの人がいないと困る(代わりがいない)」という状態ではない
【チェック結果の目安】
- 0〜4個: 特定の人や慣習に負担が過度に集中しており、今の体制をそのまま続けることが難しくなる可能性があります。
- 5〜9個: できている部分と不安な部分が混在しています。一部の業務を見直すだけで、今の負担を大幅に軽くできる余地があります。
- 10〜13個: 比較的整理されていますが、今後「無理なく、持続させるための仕組み化」が次の鍵になります。
もしチェックの中で、「全部を任せるのは不安だが、自主管理も現実的ではない」と感じる項目があったなら、それは、今の管理体制を一度立ち止まって見直すべきサインかもしれません。
これからは、管理の仕事を「人」に紐付けるのではなく、“役割”で分けて考える「第三の管理」という視点が、現状を整理する大きなヒントになるはずです。
まとめ:もう、極端な二択で悩まなくていい
管理会社か、自主管理か。その二者択一で悩み続ける必要は、もうありません。
完璧を目指さなくていいのです。立派な理事会でなくてもいい。 ただ、「壊さないための工夫」を始めるだけ。
それは、あなたと、あなたのマンションを守るための、最も現実的な選択肢になり得ます。 まずは「管理の仕事を4つに分ける」ところから、理事会で話してみてください。


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