マンション管理組合においては、資金の入出金が頻繁に行われることから、預金口座の管理が不可欠です。標準管理規約第62条では、管理組合が預金口座を持つことが明文化されていますが、その趣旨や具体的な運用方法について十分に理解しているでしょうか?
本記事では、標準管理規約第62条の概要を解説するとともに、国土交通省の補足解説や管理組合が注意すべきポイントについて、実務に精通しているマンション管理士が詳しく紹介します。
適切な預金口座管理は、管理組合の財務の透明性を確保し、不正リスクを防ぐために非常に重要です。理事や組合員の方々にとって役立つ内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
【規約解説】マンション標準管理規約第62条とは?管理組合の預金口座の開設・管理ルールを解説
今回紹介する内容は以下の通りです。
✅ マンション標準管理規約第62条とは?預金口座の開設ルール
✅国土交通省の補足解説
✅第62条における管理組合や区分所有者に対する注意事項
まず、最初の章では標準管理規約第62条の条文から「預金口座の開設」について紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
さらに、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第62条「預金口座の開設」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第62条とは?預金口座の開設ルール
以下、条文となります。
(預金口座の開設)
第62条 管理組合は、会計業務を遂行するため、管理組合の預金口座を開設するものとする。
一文のみのシンプルな条文ですが、関連する事項も含めて、具体的に掘り下げていきます。
標準管理規約第62条の趣旨
マンション管理組合が財務管理を適切に行うためには、専用の預金口座を開設することが不可欠です。本条文は、管理組合が組合としての会計業務を遂行するために預金口座を持つことを義務付けています。
なぜ預金口座の開設が必要なのか?
管理組合の会計業務では、管理費や修繕積立金の徴収、工事や管理業務の支払いなど、多くの金銭の出入りがあります。組合員個人口座で管理すると、不透明な会計処理や不正のリスクが高まり、適正な財務管理ができません。そのため、管理組合専用の口座を開設することで、資金の透明性と適正な運用を確保することが求められます。
管理組合の預金口座はどのように開設すべきか?
預金口座の開設先は、一般的に都市銀行、地方銀行、信用金庫などの金融機関が考えられます。口座名義は「○○マンション管理組合」など、管理組合の名称が明記されたものとし、理事長などの役員が代表者として口座を開設するのが通常です。
預金口座の適切な管理方法
適正な会計処理のために、以下の点に注意しましょう。
- 通帳と銀行印の別管理:通帳管理は管理会社が実施するものとするが、銀行印は理事長が保管し容易に現金の引き出しや振り込みが出来ないようにする
- 通帳の閲覧:取引履歴を随時確認し、透明性を高める。
- 会計報告の徹底:理事会や総会において定期的に収支報告を行い、組合員が状況を把握できるようにする。
国土交通省の補足解説と重要ポイント
第62条については、国土交通省は以下のような補足をしています。
第62条関係
預金口座に係る印鑑等の保管に当たっては、施錠の可能な場所(金庫等)に保管し、印鑑の保管と鍵の保管を理事長と副理事長に分けるなど、適切な取扱い方法を検討し、その取扱いについて総会の承認を得て細則等に定めておくことが望ましい。
具体的にどのような点に注意が必要なのか、さらに解説をします。
なぜ印鑑や鍵の管理が重要なのか?
管理組合の預金口座は、管理費や修繕積立金といった重要な資金を扱います。不適切な管理をすると、
- 不正な引き出し(理事長や特定の役員による独断の出金)
- 紛失によるトラブル(印鑑や鍵の紛失による口座凍結の可能性)
などのリスクが発生するため、適切な管理が求められます。
印鑑や鍵の適切な保管方法
国土交通省の補足事項では、以下の方法を推奨しています。
- 金庫など施錠できる場所に保管
→ 盗難や紛失を防ぐため、印鑑や通帳は金庫に入れるのが望ましい。 - 印鑑と鍵の保管者を分ける
→ 例えば、理事長が金庫の鍵を管理し、副理事長が印鑑を保管することで、不正利用を防げる。 - 管理方法を細則に定め、総会で承認を得る
→ ルールを明確にし、組合員全員に周知することで透明性を確保する。
管理組合としてもこれらを実践することで、不正を起こせない環境づくりが不可欠です。
また、管理会社に委託している場合がほとんどであることから、連携しながらけん制機能を整えていく必要が重要です。
口座管理に関する総会での承認の重要性
口座の印鑑や鍵の管理は、理事会だけの決定ではなく、総会で承認を得ることが望ましい とされています。これにより、
- 管理方法を全組合員に周知することができる
- 管理方法が不透明になるのを防ぐ
- 新しい役員が就任してもスムーズに引き継ぎができる
といったメリットがあります。
管理組合が注意すべきポイント
ここでは筆者が条文ならびに、国土交通省が補足した内容を踏まえて、管理組合や区分所有者に対して注意しておいた方が良い点を紹介します。
口座の不正利用を防ぐ仕組みとは?
管理会社であれ、管理組合内の区分所有者であれ、必ず単独で引き出しができないようにする仕組みが大前提です。
そのため、
✅印鑑は理事長
✅通帳は管理会社または他の理事
など、引き出しには何らかの同意がいるようなけん制機能は不可欠です。
管理会社に委託している場合は、前章で紹介した重要事項説明書のポイントで、管理組合の財産管理の手法としてイロハの方法が紹介されています。
これはマンション管理適正化法ならびに、法施行規則によって定められた手法のため、必ずこのような手段が取られているか、チェックすることも非常に重要です。
管理組合や区分所有者が無関心であれば、以下
のような事件も発生してしまうこととなります。
アナログ管理のメリットとデメリット
当マンション管理コラムでは、マンションのDX化など管理組合運営を効率化する手法を推奨しています。
そして、管理組合の費用支払いもオンライン化する方が便利です。
しかしながら、アナログにすることによるメリットも考えられます。
具体的には、
✅わざわざ出金や支払いのために捺印をする必要があることから、書類に対する念入りなチェックが入りやすい
✅オンラインバンキングと違いタイムラグがあることから、もし誤った場合でも修正が利く可能性がある
なども考えられます。
管理組合から対外的な支払いにおいては、それほど迅速に支払いが必要なものはないでしょう。
そのため、迅速に支払いが可能なオンラインバンキングでなくても、手間にはなるもののアナログでチェックしながら支払い手続きを行うことも有効な手段と言えるかもしれません。
理事長交代時の口座管理の引き継ぎを確実に行う方法
理事長や会計担当理事が交代した際に、スムーズに口座管理を移行することが重要です。
具体的には、新理事長に口座の管理方法(通帳・管理組合印・銀行印の保管方法など)を適切に引き継ぐことで、新理事長就任後も支払い管理がスムーズになります。
- 役員交代の際は、銀行に届出をして新しい理事長を登録(管理会社が行うことが多い)
- 引き継ぎの証跡(議事録や書類)をしっかり残しておく
こうすることで、旧役員が退任後に不正を行うリスクを防ぎ、新役員がスムーズに業務を開始できます。
標準管理規約第62条のポイントを押さえて、適切な財務管理を
今回テーマとして挙げたマンション標準管理規約第62条では、管理組合が預金口座を開設することが定められています。しかし、単に口座を作るだけでなく、その管理体制をしっかり整えることが重要です。
本記事で解説したように、
✅ 印鑑や通帳の管理方法を適切に決める
✅ 単独での引き出しを防ぐルールを導入する
✅ 理事長交代時の口座管理の引き継ぎを徹底する
などの対策を講じることで、管理組合の財務の透明性を高め、不正リスクを防ぐことができます。
マンション管理組合の財務管理は、組合員全員が関心を持つべき重要な課題です。本記事の内容を参考にしながら、適切な預金口座管理を実践していきましょう。
コメント