マンション管理組合の運営には、適切なお金の管理が欠かせません。その基礎となるのが、「管理組合の収入と支出」に関するルールです。
マンション標準管理規約第57条では、管理組合の収入源や支出のルールが明確に定められています。管理費と修繕積立金の違い、使用料の扱い、資金移動の制限など、管理組合の会計に関わる重要なポイントを理解することが大切です。
本記事では、第57条の条文をもとに、管理組合の財務ルールを業務に精通するマンション管理士がわかりやすく解説します。さらに、管理組合運営で注意すべき点についても詳しく紹介します。
【規約解説】マンション管理組合の収入と支出とは?標準管理規約第57条をわかりやすく解説!
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第57条「管理組合の収入及び支出」とは?
✅管理組合の収入と支出で注意すべきポイント
まず、最初の章では標準管理規約第57条の条文から理事会の「管理組合の収入及び支出」についてそのままの文面を紹介します。
第57条の条文には、国土交通省が補足する事項はありません。
そのため、第57条理事会の「管理組合の収入及び支出」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に解説します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第57条「管理組合の収入及び支出」とは?
マンション管理組合を運営するには、お金の管理が欠かせません。では、その「収入」と「支出」はどのように決まっているのでしょうか?
最初に条文から紹介します。
(管理組合の収入及び支出)
第57条 管理組合の会計における収入は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料によるものとし、その支出は第27条から第29条に定めるところにより諸費用に充当する。
条文について、具体的に解説します。
標準管理規約第57条の条文と概要
標準管理規約第57条では、管理組合の「収入」と「支出」のルールが定められています。
条文を簡単に言い換えると、次のようになります。
- 収入(管理組合に入るお金)は、
- 管理費や修繕積立金(第25条で定められている)
- 駐車場代などの使用料(第29条で定められている)
の2つから成り立っています。
- 支出(管理組合が使うお金)は、
- 管理費の使い道(第27条)
- 修繕積立金の使い道(第28条)
- 使用料の使い道(第29条)
に従って支払われます。
つまり、「管理組合に入るお金」と「管理組合が使うお金」の流れを整理したルールが第57条なのです。
管理組合の収入の内訳—管理費等・使用料の違い
管理組合の主な収入は「管理費等」と「使用料」です。
- 管理費等とは?
各住戸の所有者(区分所有者)が毎月支払うお金で、マンションの日常的な維持管理(清掃や設備管理、共用部分の光熱費など)や将来の大規模修繕に使われます。 - 使用料とは?
駐車場や駐輪場、共用施設(ゲストルーム・パーティールーム、集会室など)を利用する人が支払うお金です。
この2つが、管理組合の運営資金になります。
支出のルール—管理費と修繕積立金の使い道とは?
支出には3つのカテゴリがあります。
- 管理費の使い道(第27条)
- 共用部分の電気・水道代
- 清掃や警備などの委託費用
- 事務管理費(管理会社への支払いなど)
- 修繕積立金の使い道(第28条)
- 大規模修繕の工事費用
- 屋上防水や外壁塗装などの長期的な修繕
- 使用料の使い道(第29条)
- 駐車場や駐輪場の維持管理費
- 共用施設の修繕や運営費
管理組合のお金は、このルールに従って適切に使われるべきなのです。



管理組合の収入と支出で注意すべきポイント
ここでは、筆者独自の視点から管理組合や区分所有者にとって注意すべき事項を紹介します。
収入は管理費・修繕積立金・使用料に分類される
第57条では、収入については第25条の管理費等と第29条の使用料によるものとなっていました。
具体的には、
✅管理費等としては管理費または修繕積立金
✅使用料は駐車場使用料や敷地・共用部分内で徴収された使用料
となっています。
管理組合がなんらかの収入を得た場合は、必ずこれらのどれかに計上されることとなります。
支出は適切な会計区分で処理する必要がある
前項の通り、収入が
✅管理費等(管理費または修繕積立金)または使用料
に対して、支出は
✅第27条から第29条に定める諸費用
とあるとおり、管理費、修繕積立金、使用料の各会計に分けて充当(計上)する必要があります。
また、支出は第27条から第29条の条文に照らして、どの費用に該当するかを確認の上、各会計区分で計上する必要があるとしています。
支出がここまで細かく設定され、費用も決められているのは、前提としては
✅短期的なマンションの日々の管理に関する費用は管理費
✅中長期的なマンションの修繕等計画的な支出や想定外の多額の支出は修繕積立金
と取り決めがなされていることもあります。
とくに、将来的に使用しなければならない積立金が、短期の資金に回されないようにすることが管理組合の資金繰りでも非常に重要です。
そのため、具体的な費用の内容まで管理規約では設定されています。
区分経理の重要性—資金の流れを明確にする
特に前述の支出を行う際には、短期的な費用と中長期的に計画的に使用する費用を分けることが不可欠です。
そのため、管理組合の会計上は、おもに管理費、修繕積立金に明確に分けられることとなります。
また、第29条の解説で紹介した通り、使用料として独立した会計(たとえば、駐車場会計など)が用いられることもあります。
その場合であれば、それぞれに該当する収入や支出について、
✅管理費会計
✅修繕積立金会計
✅駐車場会計
と、必ず用途別に区分して経理する必要があります。
区分経理は古いマンションでも当時の管理規約でも設定されていることが多い事から、ほとんどの管理組合では馴染み深く、ごく一般的なこととして扱われているでしょう。
背景としては、上記のような理由があります。
管理費か修繕積立金か?判断に迷うケースと対処法
実務上、管理組合の収支報告書などを確認していると、筆者もこの点には頻繁に遭遇します。
✅果たしてこれは修繕積立金で良いのか?
✅管理費ではなく修繕積立金では?
という論点です。
本来日々の管理のための費用で管理費で支払うべきものを、修繕積立金から支払ってしまった場合、
✅管理費会計で集めた資金ではなく修繕積立金を充当した
として、望ましい事ではありません。
逆に修繕積立金で払うべき費用を管理費で払う場合は、本来用途を見極めて支出する観点から考えると、決して望ましくはないです。
ただ、次のようなこともマンション管理上考えられます。
✅大規模修繕等の計画修繕でやろうと考えているが、日々の管理上の修繕工事で実施する
✅メンテナンスとして大規模修繕でまとめてやることも、日々の管理上実施することも考えられる
という観点です。
例えば、
✅蛍光灯からLEDライトへの交換工事について、大規模修繕工事時に計画的にまとめてやることも、日々の管理の中で順番にフロアごとに実施することも考えられる
✅郵便ポストの変更工事を計画的に考えていたが、劣化が激しいので工事を早めた
ということも考えられ、管理費会計から充当して工事するということも想定されます。
したがって、本来の日々の費用として支出する管理費会計に影響しない場合は、このような工事も考えることができます。
まとめると、
❌ 管理費会計から支払うべきものを修繕積立金会計から支払う
⭕ 修繕積立金会計から支払うべきものを管理費会計から支払う
となります。
管理費から修繕積立金への資金移動は可能だが逆はNG
繰り返しですが、
❌ 管理費会計から支払うべきものを修繕積立金会計から支払う
⭕ 修繕積立金会計から支払うべきものを管理費会計から支払う
ということは、管理費会計に余剰があれば
管理費会計から修繕積立金会計への余剰資金の振り替えも可能
ということになります。
これは、修繕積立金会計から支払うべき費用があれば、管理費会計から余剰資金を修繕積立金会計に回して、その費用の支払いに充てることも可能になるからです。
多くの管理組合でも実施される修繕積立金の充実方法の一つですが、別途第61条「管理費等の過不足」でもその点は紹介します。
逆に、余剰資金の修繕積立金会計から管理費会計への充当は、一時的な立て替えであっても出来ません。
※過去は出来たこともあったようですが、現在のマンション標準管理規約では認めていない
修繕積立金は将来の工事や緊急時に備えておくべき資金であり、余剰があって当然の資金です。
その資金を短期的な支出に使用されるべきではないためです。
現役世代の方が、将来の年金を前借りして現在の生活の足しにするということが出来ない点と似た考え方があります。
管理組合の財務管理はルールを理解することが重要!
マンション標準管理規約第57条では、管理組合の収入と支出のルールが定められています。これを正しく理解し、適切に運用することが管理組合の健全な財務運営につながります。
- 収入は管理費・修繕積立金の「管理費等」と「使用料」に分類され、それぞれ用途が異なる
- 支出は管理費・修繕積立金・使用料の区分に応じて適切に処理する
- 管理費から修繕積立金への資金移動は可能だが、修繕積立金を管理費に充てることはできない
収支のルールを守ることで、管理組合の資金が適切に使われ、マンションの長期的な維持管理が可能になります。理事会や会計担当者は、標準管理規約をしっかりと理解し、正しい財務管理を行いましょう。
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