【団地規約解説】第74条(棟総会議事録)|棟の記録は、なぜ団地全体の問題になるのか【令和8年4月区分所有法改正】 

管理規約解説

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議事録は、単なる会議の記録ではありません。それは、棟総会という集合的な意思決定が「いつ、どのような手続きで、どのような結論に至ったのか」を後に確認・証明するための重要な管理文書です。

団地型マンションにおける棟総会の議事録、すなわち第74条に基づく文書は、棟内の区分所有者の権利義務に直接関わるだけでなく、団地全体の管理構造とも密接につながっています。管理組合が日常的に議事録の作成・保管を「慣習的な作業」として軽視したとき、その油断は後に深刻な法的リスクへと転化します。

本コラムでは、第74条の条文構造を第51条との比較のなかで精緻に読み解きながら、実務で絶対に見落としてはならない注意点を具体的に解説します。

第74条条文解説 棟総会議事録の構造

まず初めに、第74条棟総会における「議事録の作成、保管等」について、条文を紹介します。

第74条は、電磁的方法が利用可能ではない場合と利用可能な場合に条文が分かれます。

赤字は令和8年4月1日施行の区分所有法改正に伴う標準管理規約の改正箇所です

(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
(議事録の作成、保管等)
第74条 棟総会の議事については、議長は、議事録を作成しなければならな い。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の棟総会に出席した区分所有者がこれに署名しなければなら ない。
3 議長は、前項の手続きをした後遅滞なく、議事録を理事長に引き渡さなければならない。
4 理事長は、議事録を保管し、その棟の区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録の閲覧をさせなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
5 理事長は、所定の掲示場所に、議事録の保管場所を掲示しなければならない。

(イ)電磁的方法が利用可能な場合
(議事録の作成、保管等)
第74条 棟総会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。
3 前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、議長及び議長の指名する2名の棟総会に出席した区分所有者がこれに署名しなければならない。
4 第2項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び議長の指名する2名の棟総会に出席した区分所有者が電子署名をしなければならない。
5 議長は、第3項又は前項の手続きをした後遅滞なく、議事録を理事長に引き渡さなければならない。
6 理事長は、議事録を保管し、その棟の区分所有者又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、議事録の閲覧(第51条第5項の閲覧及び提供をいう。)をさせなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
7 理事長は、所定の掲示場所に、議事録の保管場所を掲示しなければならない。

棟総会議事録の本質 証拠としての管理文書性

棟総会において何らかの決議がなされたとき、その事実を後に確認・立証するうえで、中核となる証拠が議事録です。

第74条第1項(電磁的方法が利用可能でない場合。以下「紙方式」という)は「議長は、議事録を作成しなければならない」と定め、電磁的方法が利用可能な場合(以下「電子方式」という)においても同様に、「書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない」と規定しています。ここでの「しなければならない」という文言は、義務であることを明確に示しています。

議事録が持つ本質的な意味は「証拠性」にあります。たとえば、大規模修繕の実施を棟総会で決議したにもかかわらず、議事録が存在しなければ、その決議があったという事実そのものが証明できません。区分所有者からの異議申し立て、工事業者との契約交渉、さらには将来の紛争解決の局面において、適正に作成・保管された議事録は、管理組合にとって最も重要な「証拠書類」として機能します。

議長作成・理事長保管という役割分担の意味

議事録の作成義務は「議長」に課されており、保管義務は「理事長」が負います。この役割分担には明確な合理性があります。議長は実際に棟総会を主宰し、議論の経過と決議内容を最も正確に把握している立場にあります。したがって、議事の経過の要領とその結果を記載する責任者として議長が位置づけられているのは、記録の正確性を担保するためです。

一方、保管を理事長が担うのは、議事録が棟の共有財産としての管理文書であり、棟だけでなく団地全体の管理組合が一元的に管理することが情報の一覧性を保つうえで合理的だからです。棟総会が閉会し、議長が署名等の手続きを終えた後、「遅滞なく」理事長に引き渡すことが義務とされているのは(紙方式第3項、電子方式第5項)、保管の空白期間が生じることを防ぐための規定です。

棟総会は日常的に開催される会議ではなく、各棟に管理者を置くことも想定されていません。そのため実務では、招集通知の取りまとめ、議長候補の整理、出席確認、署名者候補の段取りなどを担う「世話人的役割」を事前に決めておかないと、第74条に基づく議事録作成まで含めて円滑に運営できなくなるおそれがあります。

電磁的方法が利用できない場合の議事録の流れ

紙方式(電磁的方法が利用可能でない場合)のプロセスは比較的シンプルです。議長が書面で議事録を作成し(第1項)、議事の経過の要領とその結果を記載したうえで(第2項)、議長および議長の指名する2名の出席区分所有者が署名します(第2項後段)。署名が完了した後、遅滞なく理事長へ引き渡し(第3項)、理事長が保管します(第4項)。

ここで注意すべきは、署名者の要件です。「議長の指名する2名の棟総会に出席した区分所有者」とされており、出席した区分所有者でなければなりません。もっとも、第74条の文言上、署名者は「棟総会に出席した区分所有者」とされているため、実出席者を署名者とする運用を基本に考えるべきであり、書面行使者や代理人による議決権行使者を署名者に含めてよいかは慎重に扱う必要があります。

また、「2名」という数は最低限の要件ではなく、定められた必要数ですので、出席者がいたにも関わらず1名しか署名しない議事録は規約要件を充たしません。

しかし、実務上は常に「議長+出席区分所有者2名」を確保できるとは限りません。出席者が少数で、議長と他の出席者が1名のみである場合や、議長以外がすべて書面議決権行使や委任状である場合など、署名要件を形式的に満たすことが困難なケースも想定されます。

このような場合、条文上は「出席した区分所有者2名」の署名が求められるものの、実際には「議長のみ」または「議長+他の出席者1名」による署名とならざるを得ない場面も生じ得ます。この点は団地型に限らず、単棟型や全体総会でも同様です。

そのため、可能な限り署名者を確保することが原則ですが、それが難しい場合には、出席状況や署名者不足の経緯を議事録上に明確に記録し、後日の説明可能性を確保しておくことが重要です。

電磁的方法が利用可能な場合の違い 電子署名の導入

電子方式では、書面または電磁的記録という二択が認められます(第1項)。議事録を電磁的記録で作成した場合には、署名に代えて「電子署名」が必要になります(第4項)。電子署名は、本人性(その人が確かに署名した)と非改変性(署名後にデータが書き換えられていない)を技術的に担保するものです。

電磁的記録とは、電子ファイル(PDFやクラウド保存等を含む)を指しますが、単に電子ファイルとして保存するだけでは不十分です。電子署名によって作成者性・非改変性が確保されていない場合、標準管理規約第74条が想定する電磁的記録方式の要件を満たしていないおそれがあります。

さらに実務上は、電子署名を付さずにドラフト版のPDFとして議事録を保管しているケースも見られます。しかし、標準管理規約第74条は、電磁的記録で議事録を作成する場合には電子署名を求めており、このような運用は同条が想定する電磁的記録方式の要件と整合していない可能性があります。

また、閲覧請求への対応においても電子方式では違いがあります。紙方式では「書面による請求」のみが対象ですが(第4項)、電子方式では「書面又は電磁的方法による請求」に応じる必要があり(第6項)、閲覧の方法もデジタル対応を含む形で定められています。これは区分所有者の利便性を高めるとともに、電子化した議事録の活用を促進する趣旨です。

第51条との構造的整合 最重要

第68条関係コメントは、第74条の解釈にあたって「第51条関係コメントを参考にする」と明示しています。第51条は団地総会の議事録に関する規定であり、第74条は棟総会の議事録に関する規定です。両者は条文の構造・文言がほぼ対応しており、これは意図的な設計によるものです。

なぜこの対応関係が重要なのかというと、棟総会の議事録も、団地総会の議事録と同じ法的位置づけで管理されるべき文書だということを示しているからです。つまり、棟固有の事項であっても、その意思決定の記録は団地全体の管理文書体系の一部として統合的に扱われなければなりません。

実務的にいえば、団地全体の管理組合(団地管理組合)の理事長が棟総会の議事録も保管するという仕組みは、団地全体の情報一元化の観点から合理的です。棟の問題は他の棟や団地共用部分の管理と連動する場合があり、情報が分散して保管されていると全体最適な意思決定の妨げになりかねないからです。

▼第68条「棟総会」に関する解説は以下をご参照ください。ただし、第51条は今回コラムを準備していませんが、今後必要に応じて検討いたします。

棟総会に関する他条項との関連性について

団地型標準管理規約における棟総会は、第68条以下に規定されています。その第68条関係コメントでは、「この団地型標準管理規約では、区分所有法で各棟ごとに適用されることとなっている事項についても、一覧性を確保する観点から、各棟固有の事項について意思決定を行うことが必要になった場合の棟総会について、本条から第75条において規定したものである」と説明されています。

つまり、棟総会は区分所有法上の要請に応えつつ、団地規約の体系の中に位置づけられた制度なのです。

第74条に際して管理組合が注意すべき実務ポイント

棟総会の議事録は、条文どおりに作成すれば足りるものではありません。署名者の確保、団地総会との整合、閲覧請求への対応など、運用面での判断が求められます。第74条は記録に関する規定ですが、その扱いは後日の説明責任や紛争対応に直結します。

ここでは、実務上の注意点を整理します。

議事録不備による決議無効リスク

議事録の作成・署名・保管のいずれかに不備があった場合、その決議は事後的に有効性を争われるリスクがあります。例えば、棟総会終了後に議事録の作成が遅れる、あるいは適切に作成されないまま放置されるといった事態も想定されます。議長が慣例的に選任された区分所有者であり、文書作成に不慣れである場合には、このようなリスクが現実のものとなり得ます。

また、署名者の確認不足も問題となり得ます。棟総会に出席していない区分所有者が後から署名する、あるいは委任状提出者が出席者として扱われて署名してしまうといった運用は、議事録の信用性を損なう要因となります。このような場合、紛争時には議事録の証明力が争われる可能性があります。

管理組合としては、議事録テンプレートの整備や署名者資格の確認手続を明確にしておくことが重要です。

議長・署名者の選定ミスに伴うリスク

議長は棟総会を主宰する者であり、議事録の作成主体でもあります。実務上は、理事や棟の関係者が議長を務めることが多いものの、規約上は出席区分所有者の議決権の過半数により選任されるため、その選任手続きが適切に行われていない場合には、議事録の作成主体そのものが問題視される可能性があります。

署名者については、「議長の指名する2名」という要件が定められていますが、重要なのは単に人数を満たすことではなく、実際に棟総会に出席した区分所有者であることです。したがって、指名された者が出席者であるかどうかの確認は不可欠であり、出席簿との照合を行う手続きを設けておくことが望まれます。

さらに、指名された署名者が議事録の内容に異議を持ちながら署名を拒否した場合の対応方針も、事前に規約細則や運用規程で定めておくことで、現場でのトラブルを防ぐことができます。

棟総会と団地総会の整合性問題

棟固有の事項を棟総会で決議し、その結果が団地全体の管理に影響する場面は十分に想定されます。たとえば、特定棟のエレベーター更新工事を棟総会で決議した場合であっても、それが団地共用部分に隣接する場合には、団地全体の意思決定との関係を整理する必要が生じます。

このような場合、棟総会議事録と団地総会議事録の双方が存在することになりますが、記載内容に不整合があったり、決議の時系列が整理されていなかったりすると、後にどの意思決定を前提とすべきかについて問題となるおそれがあります。棟総会議事録は、団地全体の管理体系の中で補完的な意思決定の記録として位置付けられるものであり、団地総会議事録との整合性を意識して作成・管理することが重要です。

この観点からも、理事長が両方の議事録を一元的に保管する仕組みは重要な意味を持ちます。

閲覧請求への対応 利害関係人と個人情報の問題

第74条第4項(紙方式)・第6項(電子方式)は、「その棟の区分所有者又は利害関係人」からの請求があった場合に閲覧させなければならないと定めています。ここで問題になるのは「利害関係人」の範囲です。コメント(第51条関係)では、「利害関係人」は法律上の利害関係を有する者に限定されるとされており、第74条についても同コメントを参考に解釈する必要があります。

実務上難しいのは、「法律上の利害関係」の判断です。利害関係人は、単なる関心者ではなく、法律上の利害関係を有する者に限って考える必要があります。したがって、誰でも自由に閲覧できるわけではなく、請求者の立場を確認したうえで判断する運用が必要です。

また、議事録には個々の区分所有者の発言内容が記録されており、個人情報の取り扱いにも慎重さが求められます。特定の個人が識別可能な形で記録された発言を、第三者に閲覧させることが個人情報保護の観点から問題ないかどうかを、あらかじめ整理しておくべきです。

▼単棟型第49条「議事録の作成、保管等」に「利害関係人」の解説を詳しくしておりますので、合わせてご確認ください。

電子化の落とし穴 電子署名と真正性の確保

近年、DX推進の流れのなかで管理組合においても電子化が進んでいます。しかし「PDFで保存すれば電磁的記録」と安易に考えている管理組合は、第74条の要件を満たしていない可能性があります。電磁的記録で議事録を作成する場合、電子署名が必要であり、その電子署名は作成者性(誰が署名したか)と非改変性(署名後に内容が改ざんされていないか)を技術的に担保するものでなければなりません。

前章でも触れましたが、議事録のドラフトや単なるスキャンデータ、Wordファイルをそのまま保存したものは、電子署名がない限り、第74条が想定する電磁的記録方式の議事録要件を満たしていないおそれがあります。電子署名の導入に当たっては、法令や規約上の要件を満たす方式かどうかを事前に確認することが不可欠です。

また、電子化によりクラウド上に保管した場合は、サービス停止や事業者倒産リスクに備えたバックアップ体制も整えておくべきです。

第74条の2・第75条・第66条との一体管理の必要性

議事録は単体で完結する文書ではありません。第74条の2(棟総会の議事録以外の書類・資料の保管)が存在することで、棟総会に提出された資料や関係書類も理事長が保管する義務を負います。議事録だけが残っていても、決議の前提となった修繕計画書や見積書、設計図等の添付資料がなければ、議事録の記載内容を適切に解釈・証明することが難しくなります。

議事録と関係資料は一体として管理されるべきであり、ファイリング体系においても対応関係が明確になるよう整備することが重要です。

また、第75条は、棟総会で決議すべき事項について、区分所有者全員の承諾・合意がある場合に書面又は電磁的方法による決議を可能とし、その記録について第74条を準用する条文です。したがって、会議を開かない場合であっても、決議記録の作成・保管が問題になります。

さらに、第66条は帳票類等の作成・保管・閲覧に関する規定であり、第74条・第74条の2に基づいて閲覧対象となる情報について、書面交付や電磁的方法による提供の根拠にもなっています。理事長が交代する際には、議事録や関連資料の引継ぎが適切に行われているかを確認することが、前任・後任双方にとって重要な実務的課題です。

棟総会の議事録は「棟の問題」で終わらない

第74条が定める棟総会議事録は、単に各棟の意思決定を記録するものではなく、その内容を団地全体の管理体系に接続する役割を持ちます。棟固有の事項であっても、その記録が適切に管理されなければ、後の確認や説明の場面で不整合が生じるおそれがあります。

また、議事録は将来の管理組合に引き継がれる記録でもあります。過去の意思決定の経緯を正確に残すことは、管理の継続性を支える基盤となります。

棟総会議事録は、団地全体の管理とつながる重要な管理文書であり、その適切な作成・保管が求められます。

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