団地型マンションを管理していると、ある日突然「棟総会って何ですか?」「誰が招集するんですか?」という疑問が理事会に持ち込まれることがあります。
団地総会とは別に存在する「棟総会」。この制度を正しく理解している管理組合は、実は多くありません。知らないまま運営を続けることで、いざという場面での意思決定が決議の有効性について争われる(問われる)リスクがあります。
本コラムでは、マンション標準管理規約(団地型)第68条「棟総会」を条文・国交省コメントの両面から丁寧に読み解き、管理組合が今すぐ取るべき実務対応を整理します。
団地型標準管理規約第68条(棟総会)の基本構造
団地型標準管理規約第68条は、「棟総会」という独自の意思決定機関を定めた条文です。団地総会との関係を正しく理解しないまま条文を読むと、棟総会を単なる下位組織のように誤解してしまうおそれがあります。
しかし本条は、区分所有法の構造を前提に、各棟に当然に存在する管理主体の意思決定手続を規約上明文化したものです。
まずは、第68条第1項がどのような法的位置づけを与えているのかを確認します。
(棟総会)
第68条 棟総会は、区分所有法第3条の集会とし、○○団地内の棟ごとに、その棟の区分所有者全員で組織する。
2 棟総会は、その棟の区分所有者が当該棟の区分所有者総数の5分の1以上及び第71条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる区分所有者の同意を得て、招集する。
〔※管理組合における電磁的方法の利用状況に応じて、次のように規定〕
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
3 棟総会の議長は、棟総会に出席した区分所有者(書面又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、当該棟の区分所有者の中から選任する。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合
3 棟総会の議長は、棟総会に出席した区分所有者(書面、電磁的方法又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、当該棟の区分所有者の中から選任する。
棟総会の法的根拠――区分所有法第3条との関係
第68条第1項は次のとおり定めています。
棟総会は、区分所有法第3条の集会とし、○○団地内の棟ごとに、その棟の区分所有者全員で組織する。
区分所有法第3条は、区分所有者が全員で建物・敷地・附属施設の管理を行うための団体を構成すると定めた規定です。棟総会は、各棟における「3条団体の集会」として法的に位置づけられます。
ここで押さえておくべきは、団地型マンションには法的な団体が二層で存在するという構造です。
ひとつは、各棟の区分所有者で構成される3条団体(棟単位)。もうひとつは、区分所有法第65条に基づき団地全体の区分所有者で組織される団地管理組合(団地単位)です。
この二層構造が、団地型マンション特有の意思決定の複雑さを生んでいます。棟総会は団地総会とは別の意思決定機関であり、各棟に固有の事項(棟の共用部分の重大変更・建替え決議・棟固有の規約変更等)は、団地総会ではなく棟総会での意思決定を要する場面があります(ただし、管理区分・規約による)。
この切り分けを誤ると、決議の法的効力に疑義が生じます。「団地総会で一括して決めてしまった」という実務上の誤りは、団地型マンションで散見される典型的なミスのひとつです。
招集要件――「頭数」と「議決権」の双方で5分の1
第68条第2項は招集要件を次のように定めています。
棟総会は、その棟の区分所有者が当該棟の区分所有者総数の5分の1以上及び第71条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる区分所有者の同意を得て、招集する。
この規定の根拠は区分所有法第34条第5項です。同項は、管理者が存在しない場合において区分所有者の一定割合以上の同意を得て集会を招集できることを定めており、棟総会の招集手続きはこれを根拠としています。
実務上の重要ポイントは、「5分の1」という数字が頭数と議決権の双方について要求される点です。たとえば50戸の棟であれば10人以上の区分所有者の同意が必要であり、かつその議決権合計が総議決権の5分の1以上でなければなりません。
議決権は専有部分の床面積等に応じて定まる(第71条参照)ため、頭数では足りても議決権で足りないケース、その逆のケースも起こり得ます。招集を検討する際は、必ず両方の数字を確認することが実務の鉄則です。
また、通常の団地総会では理事長が招集権者となりますが、棟総会については各棟に管理者が設置されないため(後述)、区分所有者が自ら招集手続きを主導しなければなりません。「誰が動くのか」が不明確なまま放置されているケースが非常に多く、ここに制度的な落とし穴があります。
議長の選任――「その棟の区分所有者」でなければならない
第68条第3項では、議長の選任について2パターンが用意されています。
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
棟総会の議長は、棟総会に出席した区分所有者(書面又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、当該棟の区分所有者の中から選任する。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合
棟総会の議長は、棟総会に出席した区分所有者(書面、電磁的方法又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、当該棟の区分所有者の中から選任する。
どちらのパターンも、議長は「その棟の区分所有者」でなければなりません。他の棟の区分所有者や外部専門家が議長を務めることは認められません。棟固有の問題を当該棟の当事者が主体的に審議するという制度趣旨の表れです。
(ア)と(イ)の選択は管理組合の規約で定める事項です。現時点で規約が(ア)のままであれば、オンライン投票等の電磁的方法は棟総会では使用できません。この選択と規約変更手続きの関係については、後述の注意事項で詳しく整理します。
▼電磁的方法に関する詳しい解説記事はこちら
国交省の補足コメント解説
条文の趣旨をより正確に理解するためには、国土交通省が示している公式コメントにも必ず目を通しておく必要があります。
※以下は国交省コメントの原文です。読み飛ばしても理解できるよう、この直後に「運用の要点」を整理します(必要な方は原文で確認してください)。
第68条関係
① この団地型標準管理規約では、区分所有法で各棟ごとに適用されることとなっている事項についても、一覧性を確保する観点から、各棟固有の事項について意思決定を行うことが必要になった場合の棟総会について、本条から第75条において規定したものである。
なお、第69条及び第74条については、団地総会に関する第45条関係及び第51条関係のコメントを参考にする。
② 棟総会に関する管理規約の変更は、棟総会のみで議決できる。各棟によって棟総会に関する管理規約に差異が生じた場合は、第8章を団地管理規約から分離し、各棟の規約を別に定めることが望ましい。
③ 各棟においては、日常的な管理は行わず、管理者は選任しないことから、棟総会は、区分所有法第34条第5項の規定に基づき、招集することとしている。
④ 事前に棟総会を招集する場合の世話人的な役割の人を決めておくことが望ましい。世話人は、当該棟より選任された団地管理組合の役員が兼ねることも考えられるし、理事とは別の区分所有者に定めることも考えられる。
補足①――「一覧性の確保」という制度設計の本質
国交省コメントは、まず次のように説明しています。
この団地型標準管理規約では、区分所有法で各棟ごとに適用されることとなっている事項についても、一覧性を確保する観点から…本条から第75条において規定したものである。
「一覧性の確保」という表現に、制度設計の本質が表れています。
本来、各棟の固有事項は棟ごとの規約に規定するべきものです。しかし棟の数だけ規約が存在すると管理が煩雑になります。そこで団地型標準管理規約では、棟総会に関するルールも一冊の規約(標準管理規約の第8章)にまとめて収録しています。
この設計は利便性が高い反面、「団地全体のルール(第1章〜第7章)」と「各棟固有のルール(第8章)」が一体化しているため、どちらの機関で何を決めるかが曖昧になりやすい構造でもあります。
管理組合は平時から、団地総会と棟総会の決議権限の区分を整理した一覧を作成し、役員・管理会社担当者が共有しておくことを強くお勧めします。
補足②――棟総会だけで変更できる規約の範囲
棟総会に関する管理規約の変更は、棟総会のみで議決できる。各棟によって棟総会に関する管理規約に差異が生じた場合は、第8章を団地管理規約から分離し、各棟の規約を別に定めることが望ましい。
具体的には、第68条から第75条に規定される棟総会関連の手続き(招集方法・議決権・議長選任・議事録等)の変更は、団地総会の承認を経ずに棟総会の議決のみで行うことができます。
重要なのは後半の指摘です。棟ごとに規約内容に差異が生じた場合(たとえばA棟が電磁的方法を採用し、B棟は書面方式のまま、など)、一つの規約に異なるルールを混在させることは混乱の元となるため、第8章を切り離して各棟の規約を別に定める対応が必要となります。
「差異が生じたら分離する」は選択肢ではなく、コメントが示す推奨対応です。この手順を踏まずに運用だけ変えると、後日の法的リスクにつながります。
補足③――管理者不在構造と招集手続きの根拠
各棟においては、日常的な管理は行わず、管理者は選任しないことから、棟総会は、区分所有法第34条第5項の規定に基づき、招集することとしている。
団地型では、各棟の日常管理は、実務上は団地管理組合の体制のもとで一体的に処理されるのが通常です。そのため棟ごとに区分所有法第25条に基づく「管理者」を別途設置する実務的必要性が乏しく、標準管理規約もこの前提で設計されています。
管理者がいないということは、集会を招集する権限者が制度上存在しないということでもあります。この空白を埋めるのが区分所有法第34条第5項であり、区分所有者自身が招集手続きを担う構造となっています。
この点を理解していないと、「棟総会を開きたいが誰が招集するのかわからない」という現場の混乱が生じます。招集手続きの主体とその法的根拠を、管理組合として認識・周知しておくことが不可欠です。
補足④――世話人という「制度の知恵」
事前に棟総会を招集する場合の世話人的な役割の人を決めておくことが望ましい。世話人は、当該棟より選任された団地管理組合の役員が兼ねることも考えられるし、理事とは別の区分所有者に定めることも考えられる。
「世話人」は法律上の役職ではありません。しかしこのアドバイスは、制度的空白を埋めるための実践的な知恵として非常に重要です。
棟総会が必要となる局面(建替え・大規模変更・規約変更等)は、往々にして緊急性・重要性が高い場面です。そのような状況で「では誰が招集をかけるか」という議論から始まると、意思決定が大幅に遅れます。
「当該棟より選任された団地管理組合の役員が兼ねる」か「理事とは別の区分所有者に定める」か、どちらが望ましいかは団地の規模・住民構成・役員体制によります。ただし共通して言えるのは、「誰に声をかければ棟総会の手続きが動き出すか」を平時から明確にしておくことが、有事の対応力を大きく左右するという点です。
管理組合における注意事項と対応事項
棟総会は制度として存在しているだけでは機能しません。団地総会との権限区分、招集手続き、世話人の位置づけ、議事録保管などを、管理組合として事前に整理しておくことが不可欠です。
まずは、「何をどの決議機関で決めるのか」という基本的な整理から着手する必要があります。
「団地総会で決めること」と「棟総会で決めること」を整理する
管理組合が最初に取り組むべきは、決議権限の区分の明確化です。
棟総会でなければ決議できない主な事項は以下のとおりです。
区分所有法第17条に基づく各棟の共用部分の重大変更(廊下・外壁・バルコニー等の大規模改修で「形状または効用の著しい変更を伴うもの」)は、棟の区分所有者・議決権の各4分の3以上の多数決が必要であり、棟総会で決議します。
区分所有法第62条以下の建替え決議は、棟の区分所有者・議決権の各5分の4以上(改正法の動向により今後要件が変わる可能性があるため注視が必要)の賛成が必要であり、これも棟総会の決議事項です。第68条〜第75条に関する規約変更も、棟総会のみで行うことができます。
これらを「団地総会で一括処理」してしまうと、決議の効力に疑義が生じるリスクがあります。権限区分の一覧表を作成し、役員・管理会社と共有しておくことが現場での誤りを防ぐ最善策です。
区分所有者名簿の最新化と棟ごとの連絡体制を整える
棟総会の招集要件(5分の1以上の同意)を満たすには、各区分所有者への連絡手段が確立されていることが前提となります。
しかし実際には、不在オーナー(非居住の区分所有者)の連絡先が更新されていないケースや、相続による所有者変更が把握されていないケースが少なくありません。特に築年数が進んだ団地型マンションでは、こうした情報の空白が意思決定の障害となる事例が目立ちます。
実務対応として、各棟の区分所有者名簿を少なくとも年1回更新し、棟ごとの緊急連絡体制を整備しておくことが基本です。この名簿整備は棟総会の招集だけでなく、災害時の安否確認・漏水・火災対応など、あらゆる緊急局面で機能します。
▼今回の法改正でもクローズアップされた名簿の更新に関する記事はこちら
世話人を選定し、役割を明文化する
世話人については、管理組合の細則(棟総会運営細則等)に選任方法・任期・役割を明文化しておくことが最善です。規約本文への明記が難しければ、理事会議事録で確認しておくだけでも実務的な効果があります。
世話人の具体的な役割としては、棟総会が必要な事態の一次窓口、招集同意書の収集取りまとめ、開催場所・日時の調整、議事録作成の補助などが挙げられます。
団地管理組合の役員(特に当該棟居住の役員)が兼任する場合、役割が曖昧になりがちです。「誰が何をするか」の事前文書化が、組織的運営の基盤となります。
電磁的方法の採用可否を棟ごとに確認・整理する
現時点で規約が(ア)のままであれば、オンライン投票等の電磁的方法は棟総会では使用できません。(イ)を採用したい場合は規約変更が必要であり、その変更は棟総会の議決で行うことができます。
棟ごとに(ア)と(イ)を使い分ける場合は、前述のとおり第8章の規約を分離して各棟の規約を別に定める対応が必要です。この手順を経ずに「うちの棟だけオンライン投票を使う」という運用を行うと、規約との不整合が生じます。
「やりたいこと」と「規約が許容していること」の乖離を常に確認する――これが実務の鉄則です。デジタル化への対応は管理の合理化につながりますが、規約整備を伴わない運用変更は後日のリスクを生みます。
▼電磁的方法の詳しい説明はこちらから
議事録の作成・保管体制を今のうちに整える
棟総会が開催された場合、議事録の作成は区分所有法第42条の定めによる義務です。団地総会の議事録は団地管理組合が保管しますが、棟総会の議事録については保管主体が曖昧になりがちです。
実務的には、棟総会の議事録も団地管理組合の管理者のもとで一括保管することが合理的です。保管場所の周知と閲覧手続きのルール化も併せて行ってください。
棟総会の議事録は、将来の建替え決議・大規模修繕・権利関係の紛争において重要な証拠となりうる書類です。廃棄せずに長期保存する方針を組織として確立しておくことが、将来のリスク管理につながります。
▼議事録の作成や保管に関するルールの記事はこちらから
改正法の動向を踏まえた「先手の制度整備」を
近年の区分所有法・マンション管理適正化法の改正動向は、団地型マンションの棟単位の意思決定にも直接影響します。建替えに関する要件や集会のIT化に関する制度整備は、棟総会の実効性に関わる変化です。確定した改正内容については、随時規約・細則への反映を検討することが必要です。
特に横浜・神奈川エリアでは、高度経済成長期に建設された大規模団地型マンションが築50年前後を迎えつつある物件が比較的多く、建替えや棟単位での大規模改修の意思決定が現実的な課題として浮上する可能性が高まっています。
世話人の選定・名簿整備・規約の棟別化・議事録保管体制、これらは「使う場面が来てから」ではなく「来る前に整えておく」という発想で取り組むことが、将来の合意形成を円滑にする上で極めて重要です。
第68条が機能するか否かが、団地型マンションの将来を左右する
マンション標準管理規約(団地型)第68条が定める棟総会は、日常の管理業務で接する機会はほとんどありません。しかし建替えや共用部分の重大変更など、マンションの将来を左右する局面でこの制度が機能しなければならない場面は、必ず訪れます。
棟総会の構造を整理すると、区分所有法第3条の各棟における団体の集会として法的根拠を持ち、管理者不在の状態のもとで区分所有者が5分の1以上の同意を集めて招集する仕組みです。招集から開催まで区分所有者が主体的に動かさなければならないこの制度は、事前準備なしに機能させることが現実的に難しい設計になっています。
国交省コメントが強調する「世話人の事前選定」は、この制度的空白を埋めるための実務的知恵です。名簿の最新化・規約の電磁的方法対応の確認・議事録保管体制の整備・改正法動向の注視、これらを一体的に進めることが、団地型マンションとしての有事対応力を高めます。
「使わなくて済んでいるうちに整えておく」――これが棟総会制度との正しい向き合い方であり、マンション管理士として声を大にしてお伝えしたいメッセージです。
第68条の正しい理解と地道な制度整備の積み重ねが、長期にわたる団地型マンションの資産価値と住環境の維持につながります。




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