都心部を中心に急速に広がっているカーシェアですが、最近駐車場の空き区画にはどこもこのカーシェアのスペースが占めるようになっています。駐車場のオーナー側としても、いつ埋まるか分からない空き区画を放置するよりも、導入しやすいカーシェアで埋めることによって、収益化を図りたいニーズとマッチしていると考えられます。
今回は、マンションでもカーシェアが検討可能かどうかを検討するためにこのテーマを取り上げてみました。詳しく調べたため、細かな内容になっていますが、カーシェア検討の参考になる内容となっています。
YouTubeで今回のコラムの概要を紹介しています。
背景と課題(都市部マンションにおける駐車場空き問題)
近年、都市部の分譲マンションでは駐車場の空きが増加し、管理組合にとって深刻な課題となっています。かつては「1住戸に1台」のマイカー所有が一般的で駐車場稼働率もほぼ100%でしたが、若者の車離れや高齢ドライバーの免許返納などを背景に、駐車場の空室率が2~3割に達するマンションもあるのが現状です。
例えば100戸・駐車場80台のマンションで10台の空きが出ると、満車時と比べ年間約120万円の収入減となり、1戸あたり年12,000円の負担増と同様の考え方となります。また、多くのマンションでは駐車場使用料収入を管理費や修繕積立金の財源に充てているため、この収入減は管理組合の財政を直撃することとなります。
さらに、都市部のマンションでは駐車場を効率的に確保する観点から、機械式駐車場を採用している例も多く、空き区画があっても機械の維持費や将来的なリニューアル費用は固定的に発生します。空車が増えて収入が減る一方で、機械式駐車場の維持コストが重くのしかかるという二重の負担に陥るケースも少なくありません。このような状況が続けば、物価高なども相まって管理費等の値上げが避けられないマンションも当然出てきています。
こうした背景から、「空き駐車場の有効活用」が管理組合の喫緊の課題となっています。その解決策の一つとして注目されているのがカーシェアリングサービス(カーシェア)の導入です。カーシェア市場は2010年代から急速に拡大し、2020年代に入った現在も会員数・車両数ともに増加傾向にあります。
三菱リサーチ&コンサルティングによる2023年3月の調査によると、国内のカーシェア登録者数は約260万人、共有車両も約5万1000台に達しており、「所有から利用へ」という流れの中で今後も市場拡大が見込まれています。実際、駐車場大手のパーク24(タイムズカーシェア事業)は2024年10月期に過去最高益を更新するなど、カーシェア事業はビジネス面でも成長を続けています。駐車場の一角において日に日にカーシェアステーションが目立ってきているのを見ることができると思います。
しかし、カーシェア導入は一筋縄ではいかない側面もあります。駐車場収入に頼る管理組合にとって、カーシェアは「財政面での敵」とも言われるジレンマが存在します。カーシェア車両を置くために貴重な区画を充てたり、カーシェア利用で自家用車を手放す住民が増えれば、当然のことながら、既存の駐車場契約者の解約が進み管理組合の収入減につながるからです。一方で、車を持たない世帯からは「導入してほしいサービス」の上位に挙がるのもカーシェアの特徴であり、利便性向上と財政悪化リスクの板挟みになるケースも想定されます。
カーシェア導入の仕組みと契約モデル
マンションにカーシェアを導入する際には、大きく「クローズド型」と「オープン型」の2つの契約モデルがあります。
クローズド型とは?
クローズド型とは、そのマンションの居住者専用で利用できるカーシェアを導入する方式です。新築分譲時から設備の一環として導入されるケースが多く、車両もデベロッパー負担で用意されることがあります。この場合、管理組合は契約を引き継ぎますが、契約条件は必ずしも有利ではない傾向があり、契約更新時(例えば導入5年目)には車両入替や維持費を組合が負担する必要が出るなど、頭を悩ませることが多いとも言われています。また、居住者限定のカーシェアはセキュリティ面で安心感がある反面、管理組合側が車両コスト等を一部負担したり、利用者が限られることで稼働率が伸び悩むリスクもあります。
オープン型とは?
一方、オープン型はカーシェア事業者に駐車区画を貸し出し、事業者が提供するカーシェアステーションとして運営してもらう方式です。この場合、そのカーシェア会社の会員であれば基本的に誰でも予約・利用でき、マンション居住者以外の不特定多数も利用対象に含まれます(※三井のカーシェアーズの情報によると、セキュリティエリア内の区画は不可とのこと)。最近は空き駐車場対策としてオープン型カーシェアを採用するマンションも増えており、タイムズカーシェア(パーク24)やカレコ(三井不動産リアルティ)、オリックスカーシェアなど大手各社がマンション向けの提案を行っています。
契約形態と収益モデルの違いは?
クローズド型では、管理組合がサービス提供者(またはデベロッパー)と契約を結び、自前の設備としてカーシェア車両を置く形になります。この場合、導入コスト(車両購入費やシステム導入費)や維持費が発生し、それを賄うために利用料収入を管理組合が得るモデルです。しかし、利用状況次第で収支がマイナスになるリスクもあり、「カーシェア導入・維持にはコストがかかる」という反対理由にもなりがちです。
一方、オープン型では管理組合は駐車スペースを貸すだけで、車両の調達・運営管理はすべて事業者負担となります。事業者との間では駐車場の賃貸借契約を結び、管理組合は毎月固定の賃料収入を得る形が一般的です。タイムズカー(タイムズ24)の場合、「導入費用は全て弊社負担」とうたっており、車両購入から看板設置、運営コストまでオーナー側の費用負担なしで開始できます。さらに月額賃料も周辺の月極相場や稼働見込みを踏まえて提示され、解約時も所定の予告期間をもって通知すれば違約金は不要とされています。
また、三井不動産リアルティのカーシェア(旧カレコ、現「三井のカーシェアーズ」)も同様に「毎月一定の賃料」を支払うと明記しており、マンションオーナー・管理組合にとって初期負担なく安定収益を得られるモデルとなっています。
なお、オープン型の場合はマンションのセキュリティ確保が重要なポイントです。タイムズや三井のカーシェアでは「マンションへの導入はセキュリティエリア外であること」を条件に挙げており、オートロック内の駐車場や機械式駐車場内では基本的に導入できません(※タイムズカーの場合、機械式は要相談)。
そのため、敷地内に外部から直接アクセスできる平面・自走式駐車場があるマンションでないと、オープン型カーシェアの設置は難しいと言えます。実際、東京湾岸エリアなどでは「外部利用が可能な駐車区画が少ないエリアではカーシェア展開が難しい」ことが指摘されており、マンション立地や構造によっては導入可否が制約されます。
参考: 最近では不動産管理会社自らが間に立つ「駐車場サブリース」方式も
例えば大和ライフネクスト社は管理受託マンションの空き駐車場を一括借上げし、そこにカーシェア車両を導入して居住者限定のカーシェアを提供する「ふらっとカーシェア」サービスを開始しました。限られた居住者でシェアする定額制(平日乗り放題・休日月72時間まで)で、居住者の利便性向上と空き駐車場問題の解決を両立する取り組みです。このようにマンション特化型のモデルも出始めていますが、一般的には大手カーシェア事業者によるオープン型が主流と言えるでしょう。
収益性の実態と稼働率の傾向
カーシェア導入による収益を考える際、管理組合側の視点では主に「どれだけ賃料収入を得られるか」と「既存駐車場収入への影響(減少リスク)」のバランスがポイントになります。
賃料収入の可能性
まず賃料収入について、カーシェア事業者から支払われる金額は周辺の月極駐車場相場を基準に決まるのが一般的です。具体的な金額は立地や需要予測によりますが、仮に都心部で月極が1台あたり2~3万円のエリアであれば、その程度の賃料が期待できます。実例として、月額3.5万円の駐車区画を8台分有する駐車場で、1区画をカーシェア車両に転用したケースでは、8台全てが埋まることで1か月あたり28万円の収入が安定的に確保できる計算になります。このように空き区画をカーシェアに充てれば即座に満車稼働となり、収益改善に寄与することは確かです。
既存駐車場の収入減
一方で注意すべきは、カーシェア導入によって既存の駐車場利用者が解約する可能性です。カーシェア車両設置により便利さを知った住民、とりわけ「週末しか乗らないのに高い維持費を払っている」という層がマイカーを手放し、自家用車→カーシェア利用に切り替えるケースが考えられます。その場合、当然のことながら管理組合に入る駐車場使用料(月額数万円)が減り、代わりにカーシェアからの賃料(数万円弱)が入る形となりますが、一般にはカーシェア賃料の方が居住者の駐車場使用料より安いことが多いため、トータルでは収入減少=収支悪化となってしまいます。
例えば月額2万円の契約者がカーシェア導入を機に解約し、カーシェア賃料1.5万円が入ったとしても、5,000円のマイナスです。導入による収益アップ分が、他の解約による減収で相殺されないか慎重なシミュレーションが必要です。
カーシェア導入で駐車場契約者の解約が増える?
ただし、「カーシェア導入で駐車場契約者の解約が増えるか?」については議論の余地があります。近隣に既にカーシェア拠点がある場合、マンション内に有無に関わらずそちらに流れて既存契約は減っていく可能性もありますし、逆に車を所有しない選択をする人が自然増加している環境では(公共交通が便利など)、カーシェアの有無に関係なく契約率は下がるという指摘もあり得ます。
要するに、既存の駐車場稼働低下は構造的なトレンドであり、むしろ空いた区画を活用して収入を得るカーシェアは「減る一方の駐車場収入」に対する一時的な補填策とも位置付けられます。空きテナントをそのまま放置するのではなく、少し安くてもよいので、誰かにテナントに入って貰って空室を回避することによる方がまだマシであるという考え方に似ているかもしれません。
稼働状況によっては増設も撤退も考えられる
カーシェア車両の稼働率について見ると、タイムズなど大手の場合、一般に1台あたり1日数時間程度の利用が平均とされています。稼働率が高すぎると利用者が希望の日時に予約できない問題が出るため、事業者は需要に応じてステーション増設や車両追加を行い供給を調整しています。マンション内に1台のみ設置するケースでは、周辺の需要も取り込むオープン型では想定以上の高頻度で利用されることもあります。その際は事業者と相談し、2台目の導入なども検討できます(実際「空きが増えればステーション台数を増やす(追加で賃料支払い)」と提案する事業者もあるようです)。逆に稼働率が低すぎる場合、事業者側が採算に見合わないと判断して撤退(契約終了)する可能性もありえます。タイムズの場合、違約金なく解約可能なため、利用ニーズが見込めない立地では長続きしないリスクも認識しておきましょう。
総じて、収益性を最大化するポイントは「既に埋まらない空き区画を活用して収入化する」ことであり、既存の駐車場契約者に影響を与えない範囲での導入が理想です。その意味で、駐車場がほぼ満車状態のマンションでの導入は慎重に検討すべきですし、逆に明らかに空きが多いマンションでは導入メリットが大きいと言えるでしょう。管理組合は事前に収支シミュレーションを行い、カーシェア賃料収入 -(導入による解約で失う収入)がプラスとなる見込みかチェックすることが重要です。
住民からの支持・反発の傾向
マンションへのカーシェア導入に対する住民の反応は、その立場や生活スタイルによって大きく分かれます。
非車所有世帯からの支持
まず、車を保有していない住民(非車所有世帯)からの支持は非常に高いです。やや古いですが、2017年にタイムズ24が実施したアンケートによると、カーシェアが設置されていない集合住宅に住む回答者の83%が「自宅マンションへのカーシェア設置を希望」しています(タイムズ24調査)。特に20~30代の若年層ではその傾向が顕著で、9割近くが導入を望む結果となりました。また、既にカーシェアが設置されているマンションの居住者の80%が「物件満足度の向上に影響した」と回答しており、実際にカーシェアを使う使わないに関わらず「選択肢がある」こと自体が居住満足度を高める要因となっています。
さらに、「物件にカーシェアがあると入居の後押しになる」と感じる人も多く、同調査では45%の人が「カーシェア設置が入居決定の後押しになった」と回答しています。単身赴任者に限ればその割合は50%超とさらに高く、車を持たずに転居してくるような層にはカーシェア付き物件が大きな魅力となっていることが分かります。「カーシェアがあるマンション」は若年層や車を持たない層にとって選ばれるマンションになる可能性が高く、賃貸募集や中古売却時の付加価値向上にも寄与するでしょう。
車所有世帯からは慎重・否定的な声も
一方で、車を保有している住民(駐車場契約者)からは慎重・否定的な声が上がる傾向があります。先述のように管理組合の財政悪化を懸念する立場から、「カーシェアは管理組合の敵」と捉える向きもあるようです。特に自家用車の利用頻度が低い人ほどカーシェアに流れて駐車場を解約してしまうのではという不安が強く、現在駐車場を契約している人から見ると「商売敵を自分たちの敷地に入れるようなもの」と感じられる場合もあります。
また、外部の人が敷地内に出入りすることへの抵抗感やセキュリティ不安も根強いです。「見知らぬ人がマンションに入ってくるのは心配」「モラルの低い利用者がゴミを捨てたりしないか」等の声は、実際に駐車場シェアリング実験を行った際にも多数寄せられました。確かに、街中ではありますが、筆者が良く行った取引先近隣の駐車場には、カーシェアを含む駐車場を喫煙所として使っている愛煙者も見られ、その後のポイ捨ても目立っていました。
オープン型カーシェアでは基本的に不特定多数が利用対象になるため、この懸念はもっともです。ただし設置場所を外来者が直接アクセスできる屋外区画に限定したり、防犯カメラの設置などの対策である程度リスクをコントロールすることは可能でしょう。
マンション内の意思統一の難しさも
もう一つ、住民同士の公平性や心理的な抵抗も考慮が必要です。たとえば「自分が契約している隣の区画がカーシェア車両になり、他所の人が頻繁に停めに来る」という状況に嫌悪感を示す声もありえます。そのため、導入前には該当区画周辺の住戸への配慮(説明や意見聴取)も望ましいでしょう。
総じて、カーシェア導入に賛成する層は「自家用車を持たず、カーシェアを利用したい/している」住民であり、反対しがちな層は「自家用車を保有し、現在駐車場を契約している」住民と言えます。管理組合としては、両者の意見を丁寧に拾い上げつつ、導入のメリット・デメリットを客観的データに基づいて示すことが大切です。幸い、近年は行政や専門誌でもマンション駐車場問題とカーシェア活用についての情報提供が増えているため、そうした一次情報や導入事例を共有して住民理解を深める努力が成功へのカギとなるでしょう。
なお、マンションによっては総戸数の4割以上がまだ自家用車を保有しているような場合もあります。そのような環境では特別決議による承認(後述)を得るハードルも高く、慎重な合意形成プロセスが求められます。逆に言えば、住民の過半が車を持たない状況であれば、カーシェア導入への支持も得やすい傾向があります。実際、地方自治体やUR都市機構でも駐車場空き対策としてカーシェア導入を支援する動きがみられ、マンション住民の世代交代や車所有率の低下とともに、今後は賛同を得やすくなる可能性があります。
導入時のプロセスと注意点
マンション管理組合がカーシェア導入を検討する際の一般的なプロセスと留意点を整理します。
事前調査と組合内検討
まず、理事会において現在の駐車場利用状況(契約率や空き台数)、住民の車所有状況を把握します。同時に住民ニーズの把握も重要です。アンケートやヒアリングで「カーシェアがあれば利用したいか」「導入に賛成か反対か」など意見を募りましょう。これにより、おおよその賛同度合いや懸念点が見えてきます。
情報収集と事業者への問い合わせ
タイムズカーシェアや三井のカーシェアーズ、オリックス、自動車メーカー系など複数のカーシェア事業者に資料請求や問い合わせを行います。各社の提案内容(必要条件、賃料水準、サービス概要)を比較検討し、自マンションに適した候補を絞り込みます。例えばタイムズでは導入条件として「平面または自走式」「ステッカー設置許可」「セキュリティ外部の区画」などを挙げていますので、自マンションでクリア可能か確認します。
導入を検討する組合員向け説明会の開催
筆者がこれまで新たな施策を管理組合に導入する場合の対応してきたパターンとしては、組合員向けの説明会を活用した合意形成です。これにより、組合員に対して不安を取り除くとともに必要性を説明していく事も非常に重要です。さらには、導入後のルールや注意点等、予め導入した際に運用する場合に想定される事項も丁寧に説明していくことが求められます。
さらに、このタイミングで出来ることなら、カーシェア業者から直接組合員に説明して貰うことです。無駄のないように説明会内で疑問はクリアできるようにしておくことも非常に重要な論点です。
理事会での協議・方針決定
理事会に専門部署があればそこで検討し、なければ専門委員会や有志のワーキンググループ等で導入方針の素案を作成します。事業者から現地確認やヒアリングの提案があれば受け入れ、駐車スペースや周辺道路状況のチェックをしてもらいます。その結果を踏まえ、事業者側から賃料提案が提示されます。理事会は提案内容と自組合の収支影響、住民アンケート結果等を総合考慮して「導入の是非」「契約条件(どの事業者と、何台設置か)」を決定します。
また、理事会では細かな議論をしきれない点もあることから、専門委員会等は理事会とは別で組織化することが望まれます。専門委員会は、理事会で導入を検討すると決めた時に組成することが望ましいです。
管理規約の確認と変更手続き
最も重要な注意点として、自マンションの管理規約を確認してください。標準管理規約第15条(駐車場の使用)では、駐車場の使用は区分所有者(居住者)に限定されており、カーシェア導入は「第三者に駐車場を使用させる」扱いになります。そのため規約に第三者使用を許可する条項の追加・修正が必要です。
そして、これは規約変更となるため、特別決議事項(総会において議決権及び区分所有者数の4分の3以上の賛成)となります。事前に顧問であるマンション管理士等外部専門家や管理会社とも相談し、適切な決議手続きを踏みましょう。なお、賃貸マンション等オーナー判断で進められる物件と異なり、分譲マンションでは総会決議のハードルが存在する点に留意が必要です。
総会での説明・決議
理事会承認のもと、総会の議案としてカーシェア導入に関する承認と規約変更を上程します。議案書には導入目的・期待効果、契約概要(賃料収入、契約期間、違約金なし等)、事業者の信頼性(例:会員数業界最大のタイムズである旨)や他マンションの事例なども盛り込み、できるだけ具体的なデータと根拠を示して提案します。総会当日は住民の質問に丁寧に回答し、懸念には代替策や対策を示すことが大切です。また、議案による説得力を増すためには、当日カーシェア業者に同席して貰い、具体的にメリットや懸念点等を説明して貰う事も重要です。
とりわけ、セキュリティ不安には「区画は敷地外周部で防犯カメラも検討」「利用者は事業者会員のみで身元確認済み」等、財政不安には「空き対策として賃料収入を得る意義」等を説明します。それでも反対意見が強い場合は無理に採決せず、継続審議としてさらに検討を深める柔軟さも必要でしょう。
契約締結と準備
総会で承認が得られれば、事業者との正式契約に移ります。契約内容を最終確認し(賃料や支払日、解約条件、事業者と組合の責任範囲など)、合意の上で契約書に調印します。契約締結後は事業者側で車両手配やステーション看板設置工事など導入準備が進みます。管理組合側は必要に応じて駐車場区画の整備(番号変更やライン引き直し)を協力したり、居住者への周知を行う必要があるでしょう。事業者によっては住民向け説明会や入会キャンペーンを実施してくれることもあるかもしれません。
サービス開始と運用
準備が整い次第、指定区画に車両が配備されサービス開始となります。開始後は基本的に事業者側で運営管理を行うこととなります。そして、車両の清掃・メンテナンスはスタッフ巡回、故障や事故対応も24時間365日コールセンターが対処する体制が整っています。管理組合が日常的に関与する業務はほぼありませんが、万一駐車場設備の不具合や事故が起きた際には事業者と連携できるよう、管理会社・理事長と事業者担当者の緊急連絡体制は決めておくと安心です。
運用開始後しばらくは、居住者の利用状況や反応をフォローしましょう。必要に応じて事業者に利用レポートを依頼し、例えば想定より利用者が多く予約困難が発生していれば車両増設の相談、逆に利用率が低ければ住民への周知(利用促進)を図るなど、事業者と連携しながら対応も必要となります。
税務面の注意
賃料収入を得る場合、管理組合として雑収入に対する課税関係にも注意してください。一定額以上の収入がある場合は法人税の課税対象となりうるため、管理会社や税理士に相談し適切に処理しましょう。
以上が大まかな導入プロセスですが、マンション毎の状況によって対応は異なります。導入前の綿密な準備と合意形成、導入後のフォローアップまで一連の流れを見据えて計画することが成功の秘訣です。
成功と失敗の分岐点(改善点)
同じカーシェア導入でも、成功するマンションと失敗するマンションがあります。その違いはどこに生じるのでしょうか。いくつかのポイントに分けて解説します。
財務インパクトの予測と対策
成功するケースでは、導入前に駐車場収入への影響を慎重に予測し、必要なら駐車場使用料の値上げ検討など対策を講じています。
一方、失敗例では導入後に予想外の解約が相次ぎ、駐車場収入が激減して組合財政が悪化するといった事態を招いているようです。
改善点として、導入前に複数シナリオで収支試算を行い、最悪の場合でも管理費会計が維持できるか確認すること、必要に応じて段階的な導入(まず1台導入して様子を見る等)も検討すると良いでしょう。
住民合意とコミュニケーション
成功には住民の十分な理解と合意が不可欠です。失敗例では、強引に決議を通した結果不満が残り、運用開始後も反対派住民との軋轢が続くといったケースがあります。特に駐車場利用者と非利用者の間で利害が対立しやすいため、双方の意見を尊重しながら合意形成するプロセスが重要です。
改善点として、前述で説明した通り総会決議前に住民説明会や意見交換会を開き、懸念事項に対する解決策(セキュリティ対策やルール作り)を一緒に考える場を持つと良いでしょう。また、可決後も反対意見が強かった場合はケアを続け、導入後一定期間は理事会で経過報告するなど信頼醸成に努めます。
適切な事業者・サービス内容の選択
マンションの特性に合ったサービス選びも成否を分けます。例えば居住者の利用がメインと見込まれるなら居住者特典(入会金無料や優先予約枠)がある事業者を選ぶ、ファミリー層が多ければミニバン車種をリクエストする、逆に単身者中心ならコンパクトカーで十分など、ニーズに合わせた調整が可能です。
失敗例では事業者任せで細部を詰めず「使い勝手が悪いサービスだった」という不満に繋がるケースもあります。
改善点は、契約前にサービス内容や車種について要望を伝え、可能な範囲で反映してもらうことです。また、万一事業者の対応に不満がある場合に備え、契約期間をあまり長期に縛らない(例えば1年更新や解約自由)こともポイントでしょう。
セキュリティ・マナーへの配慮
成功しているマンションでは、セキュリティ面の不安を取り除く工夫がなされています。例えばカーシェア区画の近くに防犯カメラや明るい照明を設置したり、事業者と協力して利用マナー注意喚起の掲示をするなどです。利用者のマナー違反(ゴミ放置や無断駐車等)があった場合の対応フローも事前に決めておくと安心です。
失敗ケースでは小さなトラブルが放置され、「やっぱり導入するべきではなかった」という声が大きくなる傾向があります。
管理組合としても定期的に状況をモニタリングし、問題発生時は迅速に対処・周知することが求められます。
サービス拡充と柔軟な運用
カーシェア導入をきっかけに、さらに居住者の移動利便性を高める施策へ発展させることも可能です。成功している例では、「カーシェア導入→電動自転車シェアの検討」「来客用レンタカー優待サービス導入」など、モビリティサービスの拡充に繋げているケースもあります。これは居住者満足度向上のみならず、マンションの付加価値向上策としても有効です。
一方で失敗例に多いのは、「導入して終わり」で利用促進策もなく放置し、結局利用低迷で撤退されてしまうケースです。
改善点として、利用状況データを分析し必要ならサービスの追加・変更を柔軟に検討する姿勢が重要です。例えば利用者から「週末に予約が取りづらい」という声があれば台数増を事業者に打診する、逆に平日ガラ空きなら法人利用開放を提案する、といった具合です。
最後に、本質的な視点として押さえておきたいのは、「自家用車を持たない人が増える時代に、マンション駐車場をどう位置付けるか」という点です。MaaS(Mobility as a Service)が発達し移動手段の選択肢が多様化する中、単に競合サービスに駐車場需要を奪われるだけでなく、自ら提供側に回って収益を得る道を選ぶかどうかが問われています。カーシェア導入はその一つの手段であり、成功に導くには管理組合の主体的な戦略と住民の協力が欠かせません。
管理組合として導入を判断する際のチェックリスト
最後に、管理組合がカーシェア導入の是非を検討する際のチェックリストを提示します。以下のポイントを整理することで、導入判断の材料としてください。
駐車場利用状況の把握
現在の駐車場契約数と空き数、その推移を確認。将来的な世帯の車保有率見通し(高齢化や若年層流入による変化)はどうか。
駐車場収入への依存度
駐車場使用料収入が管理組合の収入に占める割合は?仮に収入が減少した場合、管理費や修繕積立金に与える影響は大きいか。
住民のニーズと意向
住民アンケートなどでカーシェア利用希望者の割合や反対意見の内容を把握。特に現契約者の懸念点(例:「自分の区画が減る」「治安が不安」)を洗い出す。
近隣環境・既存サービス
マンション近隣にカーシェアステーションは既にあるか。それによって、導入しなくても住民が外部カーシェアを利用して駐車場契約をやめるリスクは?
設置スペースの条件
空き駐車区画の場所と種類を確認。平面・自走式で外来者が入れる場所か(セキュリティエリア外か)。機械式しか空きがない場合は導入可能性が低く、まずは機械式から平面化する検討が要る。
管理規約の確認
駐車場の利用範囲に関する規約条項を確認。第三者利用を禁じる規定の有無と、必要ならその変更手続き(特別決議の成立要件)をチェック。
候補事業者の比較
タイムズ、カレコ(現・三井のカーシェアーズ)、オリックス等から提案資料を取り寄せ、賃料水準、サービス内容、条件(契約期間や解約条件)を比較。各社の実績(ステーション数や会員数)も参考に信頼性を評価。
契約条件の確認
賃料はいくらか(固定額か歩合か)、支払方法とタイミング、契約期間の長さ、中途解約条件(違約金の有無)、自動更新の有無などを確認。併せて、事業者側の責任範囲(車両の保険加入状況、事故時補償、利用規約遵守の確保策など)もチェック。
収支シミュレーション
提示賃料収入と想定される影響(何人くらい解約する可能性があるか)から、導入後5年程度の収支予測を試算。必要なら管理費値上げリスクも織り込んで判断。事業者から稼働予測や同規模マンションの実績データがもらえれば活用する。
住民合意形成の計画
総会特別決議を通すための賛成確保策を検討。キーパーソンとなる駐車場利用者や高齢世帯への個別説明、反対意見への対策準備。説明会や質疑応答の場を事前に設ける計画も。
運用・管理体制
導入後の運用フローを確認。問合せ窓口は事業者か管理組合か(基本は事業者対応だが、管理員経由での連絡体制整備など)。車両清掃や定期点検の頻度、トラブル時の連絡手順を事前に取り決め。
居住者への周知・利用促進
導入が決まった場合に、どうやって居住者に利用を促すか。入会方法や料金体系の案内を配布する、希望者向け説明会を開催する、導入記念の優待キャンペーンを交渉する等、せっかく導入するなら活用してもらう工夫も検討。
将来展望
将来的に車両台数を増やす可能性や、逆に利用低迷時の撤退条件について合意事項があるか確認。また、EVカーシェアの導入余地(充電設備設置の計画含む)や他のモビリティサービス(電動キックボードシェア等)との連携アイデアも視野に入れ、マンションのモビリティ戦略として位置付けられるか検討。
以上のチェックポイントを踏まえ、自マンションにとってカーシェア導入がプラスになるか慎重に判断してください。カーシェアは時代のニーズを反映したサービスであり、適切に導入すれば空き駐車場問題の解決策になるとともに、居住者の満足度向上やマンション価値アップにも貢献し得ます。管理組合として十分な情報収集と準備を行い、理想的な形でカーシェアを活用していきましょう。
YouTubeで今回のコラムを解説
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概要はまずこちらから確認するのも良いと思います。
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