管理会社との間で必ず締結しなければならないのが管理委託契約書です。
理事会や理事の中には、以下のような疑問や悩みもあるでしょう。
・管理委託契約書の見方が良く分からないが大丈夫か?
・管理委託契約書をの内容を十分理解したうえで、総会で決議したい
記事を通じてこのような管理組合の悩みを少しでも解消できればと思います。
管理会社と契約する内容の妥当性等をこれまでチェックしてきた、マンション管理士でもある筆者が具体的に解説します。
※契約に関することであるため、個別具体的ではなく一般的な内容です
管理会社と締結するマンション管理委託契約書の確認ポイント
今回のテーマは次の項目を中心に紹介します。
・管理委託契約書のチェックが重要な理由
・管理委託契約を締結する際に注意すべき点3つ
管理会社からの重要事項説明が行われた後、管理組合総会において管理会社との管理委託契約の議案が議論されます。
・前期と同一の内容であれば説明会が省略される場合
双方あります。また、
・重要事項説明書は契約内容を分かりやすく箇条書きや図表等で記載
と違いがあります。
実質は、重要事項説明書の内容を確認して、契約を締結するか否かを区分所有者全員が総会に出席して判断することとなります。
そのため、重要事項説明書の内容をしっかりと確認することが重要です。
契約自体に記名、押印するのは、契約時期に就任している理事長になるため、慎重な判断が必要と言えるでしょう。
そのような契約書について、
・管理委託契約を締結する際に注意すべき点を3つ
について紹介します。
管理会社との管理委託契約書の見方をまとめました
管理会社との管理委託契約時に交わす、管理委託契約書の内容を確認します。
要点について、確認しておいた方が良い点を中心に、具体的に解説します。
細かな内容のため、気になる点を中心にご確認頂ければと思います。
管理会社との管理委託契約書とは
管理会社と管理組合の間での管理委託契約に関する定めは、
マンション管理適正化法第73条「契約成立時の書面」
として、明確に定められています。
契約の前に、管理会社が管理組合と管理の委託を受けることを内容とする契約を締結しようとする時に、あらかじめ国土交通省令で定める説明会を開催する必要があります。
この時に区分所有者に配布される書面のことを重要事項説明書といいます。
契約の内容を、理事長や区分所有者が理解しやすいように、まとめられているものと理解すればよいでしょう。
重要事項説明書については、こちら
に詳しく紹介していますので、合わせてご参照ください。
そして、管理委託契約書については、国土交通省により、
「マンション標準管理委託契約書」
として、ひな形が紹介されています。
国土交通省 マンション標準管理委託契約書https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000011.html
マンション標準管理委託契約書
https://www.mlit.go.jp/common/000117888.pdf
内容として、重要事項説明書の内容を契約独特の言い回しにしています。
具体的な文書に落とし込まれているものです。
マンション標準管理委託契約書の中身は?
今回のコラムとあわせて、リンクを貼ったPDFひな形
https://www.mlit.go.jp/common/000117888.pdf
と見比べてみてください。
また、重要事項説明書のひな形(作成例)https://www.kanrikyo.or.jp/format/pdf/jyuuyou/jyuusetsurei_20220603.pdf
とも見比べて頂ければ、重要事項説明書が分かりやすいことが分かります。
契約書の立て付けとしては、
・細かく記載すべき金額等は条項の外の別紙として表で記載している
・別表として、マンション独自の記載がある
(締め日や期間、実施回数等の記載)
という形になっています。
契約の条項
契約の条項に記載されている内容を確認してみます。
重要事項説明書と被る分は、そちらをご参照頂ければより分かりやすいでしょう。
代わりに、記載されていない所を中心に厚めに紹介します。
以下、画像は国土交通省の標準管理委託契約書ひな形からの抜粋となります。
国土交通省のひな形は一般的な記載・取り決めとなります。
マンション個別で管理会社との取り決めを行う場合もあるでしょう。
その際は別個の解釈(ひな形から契約書面の修正等)も考えられます。
管理事務の内容及び実施方法、第三者への再委託、善管注意義務(3~5条)
重要事項説明書の記事でも紹介していますが、「管理事務の内容及び実施方法」については、別紙に逃がす形で詳細が記載されています。
また、「第三者への再委託」は、管理会社のみで完結しない業務は、第三者への委託を実施することで業務を行う取り決めです。
「善管注意義務」とは、
「善良なる管理者の注意義務」という民法上の言い回しです。
業務受託側がその専門的立場から、通常期待される注意義務を払うことです。
管理事務に要する費用の負担及び支払方法(6条)
管理会社に支払う管理費(定額委託業務費)の金額や支払日の取り決めです。
4項に管理事務を行うにあたって、掛かってくる諸費用は管理費負担であるということが記載されています。
管理事務室等の使用(7条)
1項に管理事務を行うために不可欠な備品等は、管理組合が無償で使用させるとあります。
すなわち、これら備品は管理組合側で準備するということです。
2項は、管理事務室で使用する備品について、管理会社または管理組合のどちらが負担するかという点が記載されています。
例えば、コピー代の負担は、
・枚数が多くなる総会用は管理組合が負担
・枚数が少ない場合や軽微な理事会用は管理会社が負担
等、細かな内容を決めることもできるでしょう。
専有部分等への立入り(13条)
管理会社も緊急事態の時には専有部分に立ち入ることができる文言です。
これは、最新版の標準管理規約にも同様の定め(管理会社ではなく、管理組合や理事長として記載)があります。
災害時等の緊急時において、管理組合や理事長が対応できない場合は、管理員をはじめとした管理会社側にでも対応可能にしています。
管理規約の提供等(14条)
区分所有者が住戸の売却時に、外部の宅地建物業者(不動産業者)から要請が有った場合の想定です。
管理会社が代わりに、管理規約や滞納状況、修繕履歴等が出せる定めです。
もちろん、区分所有者より管理会社が対応した方がスムーズな場合もあります。
代わりに不動産業者からの要請に対応できることへの配慮されています。
管理委託契約書別表第1 事務管理業務
続いて、別表についても確認しておきます。
契約の条項には、概要しか記載されていません。
細かなことは別表等に逃がすことにより、詳細が記載されています。
そのため、この別表も見逃すことができない重要な情報が折り込まれています。
別表において確認しておいた方がよい点を、具体的に確認していきます。
と合わせてご確認頂ければと思います。
基幹事務
別表に書かれている内容において、まずは基幹事務から確認します。
管理組合会計の収入及び支出の調定
管理組合会計の収入及び支出の調定に、収支予算案の提出期限の定めがあります。
また、毎月の収支状況の取り決めも明文化され、記載がなされている形です。
出納業務
出納については、
・管理費等の収納のタイミング
・収納・保管口座の口座名
・保証内容等
の記載がなされます。
以下、出納業務について管理組合との契約形態により、重要事項説明書のコラムでも紹介したイ、ロ、ハの方法のそれぞれのケースがひな形には紹介されています。
こちらは「出納(保証契約を締結して甲の収納口座と甲の保管口座を設ける場合)」なので、重要事項説明書の「イの方法」となります。
管理費等滞納者に対する催促
滞納者に対する対策についても定めがあります。
管理会社は管理組合と決めた間は、電話や自宅訪問等で督促を行うものの、支払わない場合は業務を終了することとなります。
すなわちこれ以上は督促対応は行わないとの取り決めです。
管理会社としては、管理組合を支援するために一定の間は督促業務を行います。
一方で、管理会社は管理費等の督促を専門で行う訳ではありません。
従って、その後の対応は管理組合の責任によって行うこととなります。
通帳等の保管等の業務
重要事項説明書の解説時にもイ、ロ、ハの各方法について説明しましたが、「出納」同様に、ここでは収納口座、保管口座のそれぞれの通帳、印鑑の保管者を契約書面で明確化する形です。
マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整
続いて、こちらのマンションの維持修繕に関する取り決めです。
改善のための助言はしてくれるものの、この場合は
長期修繕計画案の作成や劣化状況の調査診断等は別個の契約
であることが定められています。
すなわち、管理委託契約の対象外ということになります。
実施する場合には、別途契約を締結し、業務を依頼しなければなりません。
ただし、管理委託契約の中で既に定める場合もあります。
記載例としては、
など、長期修繕計画を作成や見直しをする旨の記載があれば、契約内に含まれることとなります。
もし、分かりづらい場合は、必ず管理会社に
長期修繕計画案の作成や見直しは管理委託契約に含まれるのか?
を確認するようにしましょう。
さらに、外注により管理会社以外の業者が行う場合もあるでしょう。
発注の補助等を実施して貰える事となりますが、あくまでも間を繋ぐ業務が中心になる点に注意が必要です。
基幹事務以外の事務管理業務
理事会支援と総会支援業務についてです。
理事会支援業務としては、組合員等の名簿整備がまず挙げられています。
自治体が進める管理計画認定制度においては、組合員等の名簿が1年毎に更新されているかというチェック項目があります。
ポイントとしては、「組合員等」という点であり、
この「等」には「区分所有者+賃借人」が含まれる点です。
契約上、この名簿の整備が入っている場合は、管理会社との業務上の確認を行った方がよいでしょう。
また、理事会の開催についてです。
この場合、開催日の調整や議事録案の作成も管理会社が行うこととなります。
そのため、
・2ヶ月に一度等適切に開催されているか
・理事会議案の提示がなされているか
・議事録案が適切に提出されているか
等も確認が必要でしょう。
総会の開催についても同様となります。
各種点検においては、管理組合が直接実施することは煩雑になります。
そのため、管理会社経由で手続きをすることとなるでしょう。
図書の保管等の内容が入っていれば
・管理会社が適切に保管管理しているか
・図書に漏れがないか
の確認も、管理組合や理事会側で定期的に実施することが望まれます。
管理委託契約書別表第2 管理員業務
管理員の勤務形態や、実施する業務の取り決めが記載されます。
こちらのひな形の中で、点検、立会、連絡の各業務について確認します。
・建物の外観目視点検
・照明器具の稼働状況
・ポンプ等諸設備の運転、作動状況
は管理員が実施する場合があります。
また、立会業務として、外注業者やゴミ搬出も挙げられます。
さらに、報告連絡業務として、
・掲示板への文書の掲示や各戸への配布
・点検結果等の報告
も含まれます。
管理委託契約書別表第3 清掃業務
どこまで実施するかは管理会社との取り決めや金額次第となるでしょう。
それぞれの項目について、回数と頻度の記載が行われることとなります。
項目が多いため、一部抜粋して紹介します。
例えばこちらの特別清掃の場合、各対象に対して、床面清掃、機会洗浄、ワックス等、どれぐらいの頻度で実施するかの取り決めとなります。
当然頻度や回数が多いと綺麗になりますが、その分金額も上がるでしょう。
費用対効果と清掃後の質を考えながら、回数、頻度を判断することとなります。
また、業務実施においては、
・清掃は通常要すると認められる範囲と時間で実施
・使用頻度が多くてすぐに汚れる所は通常の作業を実施した段階で作業完了
・実施において使用する光熱費は管理組合負担
が明記されています。
管理委託契約書別表第4 建物・設備管理業務
別表の最後、第4で建物や設備の管理業務の取り決めが細かくされています。
また、今回は点検内容の詳細を細かく紹介しませんが、一部抜粋して紹介します。
こちらは外観目視点検でチェックする例となります。
あくまでも管理員や専門業者による目視点検となるため、劣化状況を細かく知るためには、詳細の調査をする必要が出てくるでしょう。
さらに特殊建築物やエレベータの定期点検の例です。
特殊建築物の定期検査は、自治体により対象になる場合や対象外になる場合も想定されます。
そのため、マンションの状況を確認する必要があるでしょう。
また、エレベータの点検は必ず実施しなければならない法定点検(昇降機定期検査)と、メンテナンス会社と契約で決まったタイミングで実施する定期点検があります。
それぞれの実施頻度について記載されています。
その他、
・消防法に規定する機器点検や総合点検
・機械式駐車場がある場合の点検
等も記載されます。
管理委託契約書のチェックが重要な理由
管理委託契約書の説明においては、契約内容とともに別紙の詳細資料を含めて、重要事項説明書の記事で記載した以外のところを中心に紹介しました。
該当設備がなかったり、管理会社との取り決めがなかったり等で、紹介内容の全てが管理委託契約に折り込まれるかどうかは、マンションによって異なるでしょう。
一方で、自分自身のマンションに関することで分からないことは多いものの、管理委託費は毎月支払う管理費から充当されることとなるため、どのようなことに使用されるかは知っておいてよいかと思います。
その観点から、前項で紹介した全ての内容を把握する必要はないものの、区分所有者としては月額の管理費や、イレギュラーで非定期的に発生してしまう費用、さらには、「点検を実施するとこれぐらいの費用が発生するのか…」などのイメージを掴んでおくことも大切です。
重要事項説明を経て総会に諮られた際には、普通決議により可決される可能性が比較的高い管理委託契約です。
現状と照らし内容が適切で金額的にも妥当なら否決の必要はありませんが、
なぜ可決するのか、改めて管理委託契約内容を確認することで、事前に見解を固めておくことも重要
と言えるでしょう。
管理委託契約書をチェックする際に確認すべき点3つ
管理委託契約書の各項目説明のところで、注意点を含めて触れました。
まとめとして、全体を通じて確認すべき点を3つ挙げます。
ただし、確認においては総会で可決されてしまえば契約締結となるため、総会で議案が諮られる前の段階で確認されることをおすすめします。
現在の契約内容と実施業務の確認
現在の契約内容を確認して、
管理会社が管理組合に対して契約通り適切に業務を実施してくれているか、現状を確認することがまず必要
でしょう。
契約内容の詳細で確認してきたとおり、細かな内容が契約書に記載されているのであれば、それらが現在契約内容に則して回数や頻度等、実施されているかの確認も重要です。
さらには、
・管理員業務が適切に実施されているか
・図書の整理であれば、管理組合の図書が煩雑になっており、どこに何があるか分からないような状態になっていないか
など、理事会や管理組合でチェックできるところも有るかもしれません。
そのような点を確認しておき、定期的に理事会や管理会社と対話する機会があれば現状を報告しつつ、確認したいところです。
実施回数は妥当か
定期的に実施するものにおいては、頻度と回数が妥当かは一つ考えられます。
具体的には、
・定期清掃業務において頻度、回数として多くないか
・または省いても影響がないところはないか
・エレベーターのメンテナンス会社をメーカー系でお願いしているのを独立系で検討してみる
などもあるでしょう。
とくに、法律や自治体の条例で定められている点検回数を変更することはできませんが、
・特に定めがない場合の給排水管清掃
・自動ドアのメンテナンス回数の見直し
等、現在の状況が妥当な実施回数かどうかを検討してみることも一つでしょう。
ほかの管理会社との比較
現在の管理会社と中長期的に上手く付き合っていくことが一番望ましいです。
新たな管理会社を探す場合は、管理組合や理事会はそれなりの負担となるためです。
仕事を持ってる現役の役員なら、負担も相応出てきます。
ただ、コスト面やフロント担当者との関係等、どうしても折り合いがつかない点も考えられます。
その場合は、他の管理会社がどのぐらいの金額で同様の管理業務を受けてくれるのか、いわゆる相見積もりを取得することも考えられます。
ただし、現在の管理会社に分からないように、理事会や管理組合の一部のメンバーで秘密裏に実施する必要があり、相応の難易度は伴います。
もし何らかの形で現在の管理会社に分かってしまった場合には、そのあとの関係もギクシャクしてしまいます。
繰り返しですが、現在の管理会社と折り合いを付けながら管理委託契約を継続するのが望ましいでしょう。
しかしながら、管理会社変更も比較的見られる現状を考えると、現在の管理会社との関係を考えた場合、この問題は少なからず視野に入ってくることかもしれません。
まとめ
今回は標準管理委託契約書の書面を題材とし、
・具体的な見方や注意点
・管理委託契約書の際に確認しておきたい点
について紹介しました。
重要事項説明書と違って、管理委託契約書は別紙を含め細かな点が記載されており、理事会や理事の間でも中々気付かない点も多々あるでしょう。
管理組合としては、余裕を持って現在の契約内容を確認しつつ、その内容に従って管理会社は適切に業務を行っているかを確認しつつ、次の契約に向けて事前交渉しておきたいものです。
重要事項説明会や契約締結を決める総会直前になって慌てないためにも、事前に備えておく必要があると言えるでしょう。
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