近年、世界的に不動産価格の高騰が問題視される中、香港はその最たる例として注目を集めています。単なる経済的な側面だけでなく、社会構造や人々の生活に深く影響を与える香港の不動産市場の現状を概説します。
また、今回は筆者が非常に注目している、国際ジャーナリスト系YouTuber,Bappa Shota氏の動画
を参考に、具体的に解説したいと思います。
YouTube動画からの情報:香港不動産の実態
金融都市の裏側:広がる貧富の差
香港はロンドン、ニューヨークと並ぶ世界的な金融都市であり、繁華街は多くの観光客で賑わいますが、その裏側には深刻な貧富の差が広がっています。上位10%の富裕層と下位貧困層の所得格差は約80倍という超格差社会であり、貧困層の割合は年々増大しています。2023年のコロナ禍中には貧困率が23.6%に達し、特に若者の貧困率が高いことが指摘されています。
世界一高い家賃と劣悪な住環境
高騰し続ける不動産価格により、香港は世界で最も家賃が高い都市の一つとなり、多くの人々が「鳥小屋のような人が住むにはふさわしくない劣悪な環境」で生活せざるを得ない状況に置かれています。人口の44%、約330万人がケージハウス(檻の家)と呼ばれる極めて狭い民営団地に住んでおり、一人当たりの面積は寝返りも打てないほど狭いのが現状です。
富裕層と貧困層の分断
香港は富や所得によって分断された都市であり、中西区、湾仔区などのエリアには高層ビルや高級住宅街が広がります。富裕層エリアではクロワッサン1個が貧困エリアの10倍以上の価格で販売されるなど、生活コストにも大きな差が見られます。一方、観塘区や深水埗区などは低所得者が多く住む地域であり、ストリートマーケットや安価な店、集合住宅などが立ち並びます。
住宅価格高騰の歴史的背景
香港の住宅価格高騰には、歴史的な背景が深く関わっています。イギリスの植民地時代から発展を遂げ、第二次世界大戦後には中国からの移民も増加しました。イギリス総督府は公営住宅を供給しましたが、後に持ち家政策へと転換。外国企業への低税率による誘致策や、政府による土地の貸し出し制度、中国からの移民と投資資金の流入などが、不動産価格の高騰を加速させました。
非人道的な住居形態:「ケージハウス」と「コフィンハウス」
劣悪な住環境の代表例として、ケージハウス(檻の家)や、さらに狭いコフィンハウス(棺桶の家)が存在します。
ケージハウスでは、狭いスペースに複数人が生活し、プライバシーの欠如や劣悪な衛生環境が問題視されています。コフィンハウスはさらに狭く、両腕を広げられないほどの空間に多くの人が密集して暮らしており、プライバシーはほとんどありません。
高家賃と生活への影響
高騰する家賃は、香港の人々の生活に大きな負担を与えています。平均月収は比較的高いものの、格差が大きいため半数近くの人が平均よりも低い収入で生活しており、給与の半分以上が家賃に消える人も少なくありません。劣悪な住環境は健康被害や火災のリスクを高めることも指摘されています。
公営住宅制度と厳しい現状
政府は低所得者向けに公営住宅を提供していますが、その数は需要に対して不足しており、入居待ち期間は非常に長くなっています。一般申請者で平均5.5年、高齢者でも3.5年とされていますが、実際にはさらに長い期間待つ必要があると言われています。
また、公営住宅への入居に関し、香港居住者と中国からの移民の間で扱いに差があるという声も聞かれます。
人材流出と中国化の影響
近年、香港では若者を中心に海外へ移住する人が増加しており、頭脳流出が深刻化しています。背景には、不動産価格の高騰、不平等な社会、そして政治状況の変化などがあるとされています。外国企業の撤退と中国企業の進出、教育の中国化なども進行しており、香港社会に大きな変化が起きています。
独自の見解と考察
以下は、筆者が独自に調べた、香港経済や不動産市場の傾向について、紹介します。
香港不動産市場の持続可能性
香港の不動産市場の持続可能性に対する懸念は、単なる価格高騰にとどまりません。また、前述の「ケージハウス」や「ナノフラット」と呼ばれる極小住宅(10~20平方メートル)が依然として存在し、低所得層の生活環境は劣悪です。2019年のデータでは、約22万人がこうした劣悪な住環境で生活していると報告されています(出典: Society for Community Organization)。この状況は社会的不満を増幅させ、若者の香港への帰属意識を低下させています。
また、香港の金融都市としての地位は、不動産コストの高さが企業活動にも影響を与える点で脅かされています。例えば、シンガポールやドバイなど他の金融ハブでは、オフィス賃料や生活費が香港よりも低く、企業誘致において競争力が高まっています。
香港政府は「北部都会区」開発計画を進め、住宅供給を増やす方針を掲げていますが、土地開発の遅延や政治的対立により、目に見える成果はまだ限定的です。
政府の対策と限界
香港政府は近年、土地供給拡大を目指す複数の施策を打ち出しています。例えば、「ランタオ・トゥモロー・ビジョン」では、人工島の建設を通じて住宅供給を増やす計画がありますが、推定コストは6000億香港ドル(約10兆円)以上で、完成まで20年以上かかると見られています。この計画は、財政負担や環境への影響を理由に市民の反発を招いており、実現性が疑問視されています。
また、香港政府は過去に住宅価格抑制策として、特別印紙税(追加印紙税、買主印紙税、新住宅印紙税)などの需要抑制策を導入していました。しかし、2024年2月28日以降、これらの需要抑制策(空室税や海外投資家向けの追加課税を含む)は全て廃止されました。
これらの施策が導入されていた時期もありましたが、不動産価格の根本的な下落や需給バランスの大幅な改善にはつながらなかったと評価されています。
さらに、香港の土地供給問題の背景には、土地の大部分を少数の不動産デベロッパーが寡占している構造があります。2024年時点で、香港の不動産市場は、サンフンカイ・プロパティーズやCKアセットなど数社が支配しており、彼らの利益追求が価格高騰を助長しているとの批判が根強いです。
グローバルな視点との比較
香港の不動産問題を他の都市と比較すると、シンガポールの事例が参考になります。シンガポールは、HDB(住宅開発庁)による公営住宅供給を徹底し、国民の80%以上が公営住宅に居住しています。このモデルは、香港の公営住宅制度の強化や、民間市場への依存低減にヒントを与える可能性があります。
ただし、シンガポールの土地は国有化が進んでいるのに対し、香港では私有地が多く、土地の再分配が難しい点が異なります。
一方、ロンドンやサンフランシスコのような都市では、空室税や賃料規制、外国人投資の制限など、香港と似た施策が試みられていますが、効果は限定的です。これらの都市では、住宅供給の増加(特に郊外開発や高層住宅の建設)が価格安定に寄与している点で、香港の土地開発の遅れが際立ちます。
東京の場合、都市計画の柔軟性(例: 用途地域の緩和)や、郊外への交通網整備が住宅供給を支えています。香港は地理的制約(山岳地帯や海に囲まれている)により、こうしたアプローチが難しいですが、例えば、ブラウンフィールド(未活用の工業用地)の再開発や、グリーンベルトの一部開放が検討されるべきです。
未来への展望
香港の未来は、不動産問題だけでなく、経済の多様化や社会の包摂性にかかっています。現在の香港経済は、金融・不動産・貿易に大きく依存しており、ハイテクやクリエイティブ産業の育成が遅れています。例えば、深圳やシンガポールはAIやバイオテクノロジー分野で急速に成長しているのに対し、香港のイノベーション投資はGDP比で1.5%程度と低い水準です(出典: UNESCO)。
また、若者の流出を防ぐには、教育や雇用の機会拡大が不可欠です。香港政府は「グレーターベイエリア(粤港澳大湾区)」構想を推進し、広州や深圳との経済統合を進めていますが、香港の若者の多くは「中国本土での生活」に抵抗感を持ち、効果は限定的です。
さらに、気候変動も香港の未来に影響を与えます。海抜の低い香港は、海面上昇や台風のリスクに直面しており、住宅開発やインフラ整備において、持続可能性がますます重要になります。
結論:変わりゆく香港の未来
香港の未来は、不動産問題を解決するだけでなく、社会の分断を癒し、若者に希望を与えるビジョンにかかっています。かつての輝きを取り戻すには、大胆な改革と国際社会との連携が不可欠です。
香港が「アジアのニューヨーク」から「アジアの未来都市」へと進化できるかどうかは、今後5~10年の政策次第でしょう。
コメント