ニッセイ基礎研究所のレポートでは、不動産経済研究所のデータによれば、2024年の東京23区における新築分譲マンションの平均価格は1億1,181万円となり、2年連続で1億円を超え、マンション価格への関⼼が⾼い状況が続いているとのことです。このような背景を踏まえ、レポートでは品質調整を⾏った「新築マンション価格指数」を作成し、東京23区の新築マンション市場の動向を分析しています。
その内容を確認するとともに、筆者の視点から将来の可能性を考えてみましたので紹介します。
東京23区「新築マンション価格指数」の動向
2024年の「新築マンション価格指数」(2005年=100)は237.4となり、前年⽐+13%と過去最⾼を更新しました。これは、不動産経済研究所が公表する平均価格(前年⽐▲3%)や㎡単価(同▲1%)とは対照的です。2023年には高額物件「三田ガーデンヒルズ」の影響で平均価格が⼤幅に上昇しましたが、品質調整済みの価格指数を見ると、2024年も価格上昇の勢いが継続していることがわかります。
価格指数の推移は、リーマンショック前までの上昇フェーズⅠ(2005年~2008年)、リーマンショック後の下落フェーズⅡ(2009年~2012年)、そしてアベノミクス以降の上昇フェーズⅢ(2013年~)の3つに分類できます。現在は上昇フェーズⅢが継続中です。
半期ごとの価格指数を見ると、2024年下期は243.4(2005年上期=100)と過去最⾼を更新しましたが、前期⽐の変動率は上期が+9%だったのに対し、下期は+1%に鈍化しており、価格上昇のスピードは緩やかになっています。
新築マンション市場を取り巻く需給環境
東京23区の新築分譲マンションの新規供給戸数は、2013年をピークに減少傾向が続いており、2024年は8,275戸(前年⽐▲31%)と、31年ぶりに1万戸を下回る⽔準となりました。これは、構造的な⼈⼿不⾜や資材価格の上昇による建築コストの増加、およびマンション開発に適した⼟地の不⾜(ホテル開発用地としての取得増加を含む)を背景に、デベロッパーが慎重な供給姿勢を維持しているためと考えられます。
⼀⽅、需要⾯では、東京23区への転⼊超過数は+4.8万⼈(前年⽐+14.2%)と回復傾向にあり、良好な需給環境が価格を⽀えています。
エリア別価格指数の動向
エリア別の価格指数(2005年=100)を見ると、2024年は都⼼が310.8(前年⽐+29%)と最も⾼い上昇率を記録し、次いで東部221.4(同+15%)、南⻄部218.6(同+11%)、北部208.8(同+9%)となっています。都⼼では、資産を重視する購⼊傾向の強まりや、海外富裕層からの購⼊意欲の⾼さが価格を押し上げています。
半期ごとの上昇率を見ると、都⼼は下期にかけて上昇率が拡⼤(上期13%/下期16%)しましたが、南⻄部(上期8%/下期3%)、北部(上期5%/下期▲1%)、東部(上期11%/下期▲1%)は下期に上昇率が鈍化または下落に転じています。これは、マンション価格の⾼騰により、実需層が購⼊をためらう、あるいは諦めるほどになっていることが要因として考えられます。特に、投資⽬的の購⼊が多い都⼼を除き、周辺エリアでは価格上昇が頭打ちになっている可能性があります。
タワーマンション価格指数の動向
タワーマンションの価格指数(2005年=100)は、2024年に312.4(前年⽐+25%)と⼤幅に上昇し、東京23区全体の価格上昇率を上回りました。タワーマンションの完成予定⼾数は減少傾向にあるものの、資産性への注⽬や海外富裕層の購⼊などにより、購⼊意欲は依然として強いと⾒られます。
半期ごとの上昇率を見ると、2024年上期は+19%と⾼い伸びを示しましたが、下期は+4%に鈍化しています。これは、タワーマンションにおいても急激な価格上昇に購⼊者が追いつかず、販売価格と購⼊希望⾦額とのギャップが拡⼤している可能性を示唆しています。また、タワーマンションでは修繕積⽴⾦や管理費の上昇、区分所有者間の意⾒の相違なども課題として指摘されています。
今後の市場⾒通し
東京23区の新築マンション市場は、低⽔準の新規供給と堅調な需要により、価格上昇基調を維持していますが、その勢いは鈍化の兆しも⾒られます।住宅ローン⾦利の上昇や、30代・40代の夫婦世帯の減少予測、海外経済の動向などは、今後の市場に影響を与える可能性があります。2025年には⼤規模タワーマンションの販売計画も複数あり、新規供給⼾数は増加する⾒込みですが、経済・⾦融市場や世帯数の動向次第では、需給環境が悪化する可能性も考えられます。
レポート確認して筆者の見解
さらなる二極化の進展
本稿の分析を踏まえると、東京23区の新築マンション市場は、二極化がさらに進む可能性が高いと考えられます。
- 都心エリアおよびタワーマンションの動向: 依然として強い資産性と海外からの需要を背景に、価格の高止まり、あるいは緩やかな上昇を続けると予測されます。特に、円安が継続する場合、海外投資家にとって東京の不動産は相対的に割安感が維持され、ハイエンド物件への投資意欲は衰えにくいでしょう。
- 周辺エリアおよびファミリー層向けマンションの動向: 価格の高騰が実需層の購買力を大きく制約し、価格上昇の鈍化、あるいは一部エリアでの価格調整が起こり得ると考えられます。国土交通省の調査やスタイルアクトの意識調査が示すように、購入希望者の多くが現在の価格水準を「高い」と感じており、金利上昇の懸念も手伝って、無理な価格での購入を避ける動きが強まる可能性があります。
タワーマンション特有の課題と将来性
タワーマンションにおいては、価格だけでなく、維持費(修繕積立金、管理費)の上昇や、所有者間の管理に対する意識の違いが顕在化しており、これらの点が将来的な資産価値に影響を与える可能性も考慮すべきでしょう。神戸市で検討されている空室課税の動きは、投資目的でのタワーマンション保有に対する新たなリスク要因となるかもしれません。
2025年に予定されている大規模タワーマンションの供給増は、一時的に供給過多を引き起こし、価格競争を招く可能性も考えられます。しかし、立地やブランド力のある物件は依然として高い人気を維持し、そうでない物件との間で明確な選別が進むでしょう。
社会構造の変化と今後の市場への影響
将来的には、リモートワークの普及や地方移住のニーズの高まりなど、社会構造の変化が東京23区のマンション市場にどのような影響を与えるのか、注視していく必要があります。都心回帰の流れがどこまで続くのか、あるいは周辺エリアや郊外への分散が進むのかによって、今後の価格動向は大きく左右される可能性があります。本稿の分析が示すエリアごとの価格動向の差異は、まさにその兆候を示していると言えるでしょう。
今後の東京23区マンション市場の行方:価格二極化と注視すべき要因
2024年の東京23区新築マンション市場は、ニッセイ基礎研究所が、不動産経済研究所のデータに基づき品質調整を行った「新築マンション価格指数」で分析されました。その結果、価格指数は前年比+13%と過去最高を更新し、平均価格の下落とは対照的に価格上昇の勢いが強まったことが示されました。エリア別に見ると、資産性を重視する買いが強い「都心」が+29%と大幅に上昇し、「タワーマンション」も+25%の高い伸びを示しました。
一方で、下期に入ると「南西部」「北部」「東部」では価格上昇が鈍化または下落に転じるなど、エリア間で差が見られました。背景には、建築コストの上昇や用地取得難による供給減、堅調な人口流入があるものの、価格高騰に対する購入者の慎重な姿勢も影響していると考えられます。
今後は、住宅ローン金利の動向や世帯数の変化、2025年の大規模タワーマンション供給増などが市場に影響を与える可能性があり、引き続き注視が必要です。
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