マンション管理組合における大災害への備えや想定事項は?【必読】

マンション管理

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マンション管理組合として、大地震の際にどのように対応すればよいのか?

また、

大災害に備えて管理組合として事前に準備できることはないのか?

このような疑問を持っている管理組合も非常に多いと考えられます。

そして、ご存じの通り、日本は世界有数の地震大国であり、いつ、どのような災害がおきてもおかしくないといわれています。

日本中で南海トラフ地震も懸念される中で、今回はマンション管理組合として災害対策にどのように取り組めばよいのか、詳しく紹介します。

マンション管理組合における大災害への備えや想定事項は?【必読】

今回紹介する内容は次の通りです。

・大災害が起こりうる可能性は?
・JASO(NPO法人耐震総合安全機構)が発表している「復旧計画タイムライン」とは?
・マンション管理組合として予めできることとは?

災害の準備は起きてからでは遅く、事前にマンション管理組合として、どのような準備をしておくかが重要になります。

また、地域の自治体をはじめ、町内会や自治会などと連携して、避難場所の確認や周辺住民とのコミュニケーション、地域における避難訓練は欠かせないでしょう。

さらに、マンション管理組合を見ていても、まだまだ避難訓練や災害マニュアル等充実していない管理組合も多いのが実情です。

災害が起こる前に、事前に準備、確認しておきたいことを今回は具体的に紹介します。

南海トラフ地震が起こりうる可能性は?

起こるか起こらないかは断定はできないものの、比較的予知できるものもあります。

また、急に訪れる台風は中々予測困難なことも多いでしょう。

対して、南海トラフ地震は、高い確度で発生するといわれており、自治体や災害が大きい地域においてはその警戒を高めつつまります。

今回は注目されている南海トラフ地震に絞って、気象庁のホームページから引用しながら、具体的に現状を確認していきます。

南海トラフとは?

まず、そもそも南海トラフとはどのようなものを指すのかを紹介します。

・ 駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾を経て日向灘沖までのフィリピン海プレート及びユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域を「南海トラフ」という
・トラフとは海溝より浅く幅の広い、比較的緩やかな斜面を持つ海底の凹地のこと

また、気象庁によると、日本付近のプレートも模式図は以下のようになっています。

引用:気象庁 日本付近のプレートの模式図より

南海トラフ地震の発生メカニズムは?

上記に示した模式図より、南海トラフ沿いのプレート境界では、

・①海側のプレート(フィリピン海プレート)が陸側のプレート(ユーラシアプレート)の下に1年あたり数cmの速度で沈み込む
・②その際、プレートの境界が強く固着して、陸側のプレートが地下に引きずり込まれ、ひずみが蓄積される
・③陸側のプレートが引きずり込みに耐えられなくなり、限界に達して跳ね上がることで発生する地震が「南海トラフ地震」
①→②→③の状態が繰り返されるため、南海トラフ地震は繰り返し発生する

という現象が発生するとのことです。

具体的に、以下に気象庁の発生メカニズムを紹介します。


引用:気象庁 南海トラフ地震の発生メカニズムの概念図より

南海トラフ地震は100~150年に1度の周期で発生する!

南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖にかけてのプレート境界を震源域として概ね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震です。

前回の南海トラフ地震(昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年))が発生してから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まっているといわれています。

また、南海トラフ地震の過去事例を見てみると、その発生過程に多様性があるようです。

宝永地震(1707年)のように駿河湾から四国沖の広い領域で同時に地震が発生したり、マグニチュード8クラスの大規模地震が隣接する領域で時間差をおいて発生したりしています。

さらに、隣接する領域で地震が続発した事例では、安政東海地震(1854年)の際には、その32時間後に安政南海地震(1854年)が発生し、昭和東南海地震(1944年)の際には、2年後に昭和南海地震(1946年)が発生するなど、その時間差にも幅があることが知られています。


引用:気象庁 過去に発生した南海トラフ地震の震源域の時空間分布より

JASOが発表している「マンション地震災害 復旧計画タイムライン」とは?

次に、JASO(NPO法人耐震総合安全機構)が発表している「マンション地震災害 復旧計画タイムライン」という資料があります。


引用:JASO(NPO法人耐震総合安全機構)「マンション地震災害 復旧計画タイムライン」より

この資料には、地震災害前の平時のときから復旧計画まで、どのような対応が必要になるか、時系列で紹介されています。

・「平時」:被害を想定して備える
・「発生直後」:余震に対する安全性の検討
・「混乱の落ち着いた時期」:被害の拡大を抑制&安全性と機能の回復
・「復旧計画」:速やかな復旧に向けて

マンション管理組合で取れるべき対策について、上記も踏まえながらそれぞれ具体的に紹介します。

「平時」:被害を想定して備える

このタイムラインには、「地震保険の加入」として紹介されています。

被災後の生活を支える、

・管理組合として加入する共用部分の地震保険(玄関ホール、廊下、外壁等)
・個人で加入する専有部分の保険(室内、家財)

があると紹介されています。

2017年1月以降の保険契約より、全損(地震保険金額の支払い100%)、大半損(60%)、小半損(30%)、一部損(5%)の4区分となっています。

また、この平時においては、保険以外でも次章「マンション管理組合として予めできることとは?」で紹介する対応を進めておくことが考えられます。

「発生直後」:余震に対する安全性の検討

まず、以下のような対応が必要となります。

・ライフライン寸断に伴う、住民の安全確認や救助活動
・食料や水の確保
・避難所への避難か在宅避難か
・マンションと避難所間の連絡手段の構築

大地震の場合は、被災直後はライフラインが寸断され、住民の安全確認や救助活動が最優先されます。

また、食料や水の確保はできているのか、マンションに住み続けるのか、それとも避難所へ行くのかの判断も重要になってきます。

管理組合においては、自主的な防災会を中心に、居住者の救助や安否確認を行うとともに、建物の安全性確保を行います。

余震が続く中で、避難所は戸建の方を中心に避難し、すでに満杯状態である可能性もあるでしょう。

そのため、マンションや団地の住民は、避難所への入所を遠慮して欲しいと言われるかもしれません。

もしマンションで生活できるのであれば、在宅避難を選択することとなります。

一方で、避難所は地域の防災拠点であり、行政情報などは避難所に入ることとなります。

マンション住民に対しても情報を伝えるため、避難所とマンションの間で連絡が取れるように、管理組合としても連絡係を決めておくのが良いでしょう。

自治体による応急危険度判定の実施

また、被災後1週間程度経過した段階で、二次災害防止のために、自治体より応急危険度判定が行われます。

管理組合も必要に応じて応急修理を行いますが、総会が開けない場合は理事会決議(標準管理規約54条1項一二/後述)を行い、理事会の開催も難しい場合は、理事長が判断します(同21条6項)。

理事長やほかの役員も対応が難しい場合は、緊急事態であるため、予め定められた方法により、選任された区分所有者等が対応できるように、規約に定めておく必要があります。

「混乱の落ち着いた時期」:被害の拡大を抑制&安全性と機能の回復

この段階では次のような対応が必要です。

・復旧作業の開始
・被災状況や地震保険、罹災証明に関する説明会
・自治体支援制度の把握と住民への説明
・地震保険の判定
・罹災証明書の発行

立ち入り禁止区域など、建物の安全確保を整え、緊急処置から一定の安全の見通しが立った段階で、管理組合としては、復旧のための対策本部を立ち上げ、マンションの復旧に取り掛かることとなります。

また、被災後1か月程度経過し、比較的混乱が落ち着いてきた段階で、居住者に対してマンションの被災状況の説明会を実施します。

この段階で、生活支援や建物の応急修理制度などの各種支援制度を把握し居住者に説明します。

また、建物が大きく損傷している場合には、復旧工事に向けて情報収集を行います。

地震保険に加入している場合は、保険会社に被害状況の判定を求める必要があるでしょう。

判定は、被災者を救済するために、目視による簡易的な判断方法で実施されます。

査定結果に不満がある場合は、再調査を要求できます。

さらに行政に対しては、罹災証明書を申請し、支援制度が受けられるように対応します。

ただ、この罹災証明書は、戸建て住宅を対象とした制度のため、共用部分等マンション特有の復旧には、管理組合の結束力や対応力が重要と言われています。

これらの地震保険や罹災証明書の判定結果については、個々の住民にも影響することから、住民説明会で詳しく説明する必要があるでしょう。

被災度区分判定の必要性

マンションの損傷が激しく、通常の復旧では難しい場合は、壊して敷地売却するのか、建て替えるのかなど、いくつかの選択をしなければなりません。

当然、組合員の判断だけでは的確に実施するのは難しく、建築の専門家による、被災度区分判定が不可欠となります。

また、被災区分としては、「軽微」「小破」「中破」「大破」「倒壊」のそれぞれの区分があり、判定してもらうこととなります。

「復旧計画」:速やかな復旧に向けて

そしてこの段階で、今後マンション管理組合として、どのような復旧を行っていくのか、方針を固めていく必要があります。

住民は生活に不安を抱える中、個別に被害の程度が違うことも想定されます。

また、区分所有者個々の事情が異なり、様々な意見が出てきます。

管理組合として情報を共有し、区分所有者や住民の意見を聞き、不安を取り除きながら合意形成を図っていく必要があるでしょう。

大規模修繕委員会のような「建物復旧委員会」を立ち上げ、住民説明会を開催し、意見を交換したり、個別に相談に対応することも重要です。

もちろん、住宅の応急修理制度などの自治体の助成利用のための調査や検討も重要でしょう。

災害復旧のための総会決議は?

マンション復旧のための見積もりを取得し、資金調達方法を検討することで、復旧のための臨時総会を開催することとなります。

標準管理規約では、

建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧は、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の特別決議で決する

とあります。

2分の1以下の部分が滅失した場合の滅失共用部分の復旧は総会出席者の過半数による普通決議となります。

また、

・建替え決議は、組合員総数の5分の4以上及び議決権総数の5分の4以上で行う
・マンション敷地売却決議は、組合員総数、議決権総数及び敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上で行う

とあり、より合意形成が決議に必要となります。

そのため、避難して遠方にいる区分所有者などの電話番号やメールアドレス等の連絡先の把握も欠かせません。

マンション管理組合として予めできることとは?

大災害に備え、マンション管理組合として予めどのようなことに注意しておかなければならないのでしょうか?

前述した、JASOの「事前復旧計画タイムライン」に紹介されている事項を含めて、紹介します。

・旧耐震基準マンションは耐震診断を行い、必要な場合は耐震補強を
・新耐震基準マンションもピロティーがある場合は耐震診断を行い耐震性を確認
・非構造壁や建築設備の耐震性を確認
・日ごろから相談できる専門家を見つける
・住民間のコミュニティを維持することが復旧へのカギ
・大災害の際にも柔軟に対応できるマンション管理規約の整備
・災害対応マニュアルの充実

※最後の2つはJASOの切り口に加えて筆者が加筆しています

旧耐震基準マンションは耐震診断を行い、必要な場合は耐震補強を

昭和56年(1981年)5月以前に審査を受けて建てられた旧耐震基準のマンションについては、現在の耐震基準と異なった基準で建てられています。

そのため、この年代のマンションは耐震診断を受けていることも多いでしょう。

また、診断結果によっては、耐震補強を施すことも必要となってきます。

新耐震基準マンションもピロティーがある場合は耐震診断を行い耐震性を確認

ピロティーとは、

建築用語であり、2階以上の建物において地上部分が柱(構造体)を残して外部空間とした建築形式、またはその構造体

であり、1Fが柱で構成されている、空間が多い構造となっている建物です。

このような構造はマンションでも見られますが、旧耐震基準マンション同様、耐震診断を行い、耐震性を確認することが望まれます。

また、場合によっては以下のようなピロティ階の補強設計や補強工事が望まれます。

非構造壁や建築設備の耐震性を確認

非構造壁とは、建物において安全性の確保を直接は目的としない壁のことです。

例として、間仕切壁や内壁、天井などが該当します。

また、これらにおける耐震強度についても、予め確認しておくことが求められます。

日ごろから相談できる専門家を見つける

多くのマンション管理組合においては、震災における注意点や行動、さらには建物の耐震に関する知識やノウハウは持ち合わせていないでしょう。

また、これらを持ち合わせることも難しいと考えられるため、日ごろから相談可能な専門家を見つけておき、要所要所で相談することが求められます。

建物の耐震であれば耐震診断を行っていて専門性が高い建築士や、災害においては防災士等災害対策の専門家との連携が望まれます。

住民間のコミュニティを維持することが復旧へのカギ

管理組合内は当然ですが、分科会としての管理組合内での防災のための自治組織や委員会等を組成し、継続的に避難訓練をはじめとした啓もうを実施していくことも重要でしょう。

管理計画認定制度では、自治体独自基準として防災に関する審査項目もある所も存在します。

そして、自治体独自の防災対策認定も存在します。

また、マンション適正評価制度の評価項目には消防訓練の実施状況や防災対策として、災害対策が講じられているかどうかを、8項目の切り口からチェックすることとなっています。

普段からの住民間のコミュニケーションを含め、管理組合における一定の取り組みも重要であると考えられます。

大災害の際にも柔軟に対応できるマンション管理規約の整備

そもそも、管理規約に大災害の際に柔軟に対応できる条項が含まれているかも対策として重要でしょう。

大災害の時は、規約に定まったことをそのまま実施するよりも柔軟な対応が求められます。

「規約に記載がないからできない」ということでは人命にかかわってくることとなるため、迅速な対応も求められるでしょう。

具体的に規約のひな型である標準管理規約の最新版では、以下のような災害対応が示されているので、管理組合内でも検討することも必要です。

・21条6項:理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる
・23条4項:理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に立ち入らないと共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、専有部分又は専用使用部分に自ら立ち入り、又は委任した者に立ち入らせることができる
・54条1項一二:災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等の理事会決議

また、規約変更に伴う総会の決議においては以下の記事も参考になります。

災害対応マニュアルの充実

地震や台風等の水害における、災害対応マニュアルをマンション管理組合として準備の上、住民に共有しておくことが重要です。

また、以下に紹介する通り政府や各自治体で災害マニュアルがありますが、マンション管理組合でも独自の事項があると考えられます。

随時加筆修正等をして最新版にするとともに、定期的に啓もう活動を実施することが求められます。

以下、参考例です。

消防庁の地震防災マニュアル

消防庁 地震防災マニュアル

大阪市の市民防災マニュアル

市民防災マニュアル
市民防災マニュアル 表紙市民防災マニュアルは、各区役所や危機管理室(大阪市役所5階)で配付しています。 デジタルブック版より一括ダウンロード及び印刷が可能です。 市民防災マニュアルダウンロード 巻頭 ダウンロードファイル表紙は..

東京消防庁の地震に対する10の備え

東京消防庁<安心・安全><地震に備えて:地震に対する10の備え>

発生後の現場対応が難しい災害は事前対策が非常に重要

これまでの大震災の例からも、災害が発生した際に、現場対応を強いられることも非常に多くあります。

また、これまで紹介した事項について、マンション管理組合として事前に準備しておくか否かでいざ震災が発生した際にずいぶん対応が変わってくるのも事実です。
災害はいつ訪れるかわからないですが、冒頭で触れたとおり、南海トラフ地震の懸念が高まっています。
そのためにも、早い段階で一度事前対策と、いざ起こった際に想定しておくべきことを考えることも重要でしょう。

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