【YouTube解説】不動産相続とマンション承継 ― 相続税・管理・登記を総合的に考える

マンション管理

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マンションという区分所有建物は、自宅であると同時に共有財産でもあります。そのため、相続が発生した瞬間から権利と義務の両方が相続人に引き継がれます。この記事では、マンションの相続に直面したときに知っておきたい税金・評価のポイント、管理組合との関係、2024年から始まった相続登記義務化の対応、そして空き家問題まで、マンション管理士兼FP1級という専門家の視点から総合的に解説します。

※管理組合や区分所有者個別具体的な内容は、税理士や税務署にお問い合わせください。

今回、短いタイプの動画も作成しました。

相続すると何が引き継がれるのか

マンションの相続では、建物や土地の権利だけでなく、管理費・修繕積立金の支払い義務も引き継がれます。所有者が亡くなり未払いの管理費があった場合、管理組合は相続人に滞納額を全額請求できます。相続人が複数いる場合は、法定相続分に応じて管理費や修繕積立金等の管理組合に対する債務を負担しなければなりません。

例えば管理費の滞納が50万円ある状態で相続人が4人いると、各自の負担額は125,000円になります。

管理費や修繕積立金は居住者の生活を支える基盤です。滞納が長期化すると管理組合の資金繰りに影響が出るため、相続が発生したら管理組合に対して早めに状況を確認しておく必要があります。

マンションの相続税評価と税金

区分所有マンションの評価方法

相続税や贈与税を計算するとき、マンションの価格は 土地と建物の部分ごとに評価 します。国税庁の資料によると、区分所有建物はまず土地の総評価額を出し、持分割合を掛けて土地の価値を求め、これに固定資産税評価額に基づく建物の評価額を加える方式が基本です(国税庁No.4602 土地家屋の評価 <参考>マンションの評価方法より)。

たとえば、敷地全体の路線価に面積を掛けた総額が1億円で、持分割合が1/100であれば土地評価は100万円となります。建物部分は固定資産税評価額が400万円の場合、そのまま400万円が評価額となります(同様に国税庁No.4602より)。

2024年から導入された「区分所有補正率」

2024年以降は中古マンションの過大評価を是正する目的で「区分所有補正率」が導入されました。

建物の築年数や階数、総戸数などから算出する評価補正率を乗じて、土地・建物双方の評価額を調整する仕組みです。国税庁の説明によれば、一定の評価レベルが0.6未満の場合、補正率は評価乖離率に0.6を掛けて求めます(国税庁No.4667 居住用の区分所有財産の評価 区分所有補正率より)。

この制度により、特に築古マンションでは評価が大幅に下がるケースもあり、相続税が軽減されることがあります。

修繕積立金は評価に含まれない

注意したいのは、マンションの将来の修繕のために積み立てられている修繕積立金が相続税評価に含まれない点です。

修繕積立金は、管理組合が将来必要となる共有財産として扱われ、個人の相続財産には加算されません。そのため、実際の市場価格より低い評価額になることが多いものの、修繕積立金の残高が大きい物件は、将来的に修繕積立金の値上げや一時金の徴収等の懸念が少ないともいえます。

したがって、区分所有者(相続した場合は相続人)に対する維持費が抑えられるという観点から、評価されやすい面もあります。

相続登記義務化と期限

マンションを含む不動産の相続については、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。

相続人は、不動産を相続した事実を知ってから3年以内に登記しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(罰金)を課せられる可能性があります(法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A)。また、法務省の同Q&Aによると、2024年4月1日より前に相続した場合でも、2027年3月31日までに登記を済ませる必要があり、期限までに行わないと同様に過料の対象となります。

この義務化は、空き家問題や所有者不明土地の増加を抑止するための制度です。相続人が多数いて共有状態が複雑になりやすいマンションこそ、登記を放置していると後に売却や建て替え時に合意形成が難しくなるので、相続の事実を知ったら早めに対応しましょう。

管理費滞納や相続放棄への対応

管理費滞納は誰が支払うのか

管理費等の支払い義務は相続人が引き継ぎますが、誰がどの割合で負担するかは法定相続分に従うことが原則です。

遺産分割協議で債務の負担割合を別に決めても、第三者(管理組合)には対抗できない点に注意しましょう。相続人が全員に通知せずに代表者のみ請求を続けると、後日他の相続人から「知らなかった」と訴えられる恐れがあります。管理組合としては戸籍等で相続人を確定し、それぞれに請求するのが基本です。

相続放棄と限定承認

相続人の中には、借金や滞納が多い場合に相続放棄を選ぶ人もいます。相続放棄をすると、その人ははじめから相続人ではなかったことになります。

ただし、家庭裁判所での手続きが必要で、単に書面で「相続しません」と約束しても効力はありません。相続放棄をした人には管理費の請求はできませんが、残りの相続人には引き続き請求できます。全員が放棄した場合は、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任され、管理人が資産処分や債務の弁済を行います。

放棄と似た制度に限定承認があります。これは相続した財産の範囲内でのみ債務を弁済することを条件に相続を受ける制度で、多額の負債があるときに検討されます。マンションでは物件を売却すれば負債を返済できるが、相続人が個人の資産からは支払いたくない場合に使われることがあります。

空き家問題と承継後の選択肢

マンションの空き家問題は年々深刻化しています。相続人が住む予定も貸す予定もないまま放置すると、管理費や修繕積立金だけが膨らみます。特に地方や老朽化したマンションでは買い手がつかず、空き家となった部屋の管理が他の区分所有者の負担になるケースも増えています。相続したマンションをどうするかは、以下のような選択肢があります。

  • 自ら居住する: 相続時に住宅ローンがない場合は低コストで住めます。将来の修繕費を見据えて積立金の状況を確認しておきましょう。
  • 賃貸に出す: 都市部や交通アクセスの良い地域なら賃貸需要があります。賃料は管理費や固定資産税を上回るか、修繕積立金の増額に対応できるかを試算することが重要です。
  • 売却する: 古くなるほど資産価値は下がりやすいので、早めの売却も一案です。共有者が複数いる場合は全員の合意が必要となるため、遺産分割協議の段階で方針を決めておきましょう。

相続対策と管理組合へのアドバイス

相続が発生する前から、遺言書や家族信託の活用、修繕積立金の水準確認、将来の建て替え計画の把握などをしておくと、承継後のトラブルを減らせます。

また、管理組合にとっては、所有者の高齢化に備えて登記情報や緊急連絡先を更新し、滞納が生じた際に早期に相続人へ連絡できる体制を整えることが重要です。

マンションは複数の人が共同で所有する複雑な財産です。相続が起きたときに慌てないよう、普段から資産状況や管理状況を家族と共有しておきましょう。

正確な税金の計算や登記・遺産分割の手続きには専門家の助言が不可欠ですので、税理士や司法書士、マンション管理士に相談することをおすすめします。

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