マンション管理を行う上で、管理費や修繕積立金の「余剰」や「不足」は避けて通れない問題です。管理費が余った場合はどうするのか?逆に不足した場合はどう対応するのか?
マンション標準管理規約第61条では、これらの対応方法が定められています。本記事では、マンション管理士であり財務の専門家でもある筆者の視点から、この条文の内容を分かりやすく解説し、管理組合が注意すべきポイントを具体的に紹介します。
管理組合の財務運営に関わる重要な内容なので、ぜひ最後までお読みください。
【規約解説】マンション標準管理規約第61条の解説|管理費等の過不足の対応と注意点
今回のコラムで紹介する内容は、以下の通りです。
✅マンション標準管理規約第61条の解説:管理費等の過不足
✅管理費等の過不足に関する注意点は?
まず、最初の章では標準管理規約第61条の条文から「管理費等の過不足」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、第61条「管理費等の過不足」の条文や解説を踏まえて、管理組合や区分所有者が注意すべき点を、マンション管理士であり財務の専門家でもある筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第61条の解説:管理費等の余剰・不足時の対応
マンション管理組合が毎年の決算を行った結果、管理費が余ったり不足したりすることがあります。本条文では、その場合の対応方法について定められています。
(管理費等の過不足)
第61条 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。
2 管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。
さらに、以下の各項目を具体的に説明します。
余剰金の取り扱い(第1項)
管理費を1年間運用した結果、予定よりも支出が少なく、余剰が発生した場合、そのお金は翌年度の管理費に繰り越されるというルールです。つまり、余ったお金を各組合員に返金するのではなく、次年度の管理費として活用します。
🔹 なぜ返金しないのか?
管理費は毎年の管理運営に必要な費用であり、突発的な支出や翌年度の支払い負担を軽減するため、繰り越しが原則となっています。また、今後のマンションの管理に関する費用として継続的に使用されることから、組合員への返金は行われません。
不足金の対応(第2項)
反対に、管理費等(管理費と修繕積立金)が不足した場合には、管理組合は各組合員に対して、不足分を負担するよう求めることができます。この負担額の計算方法は、第25条第2項に基づき、各戸の共用部分の持分割合(一般的には専有部分の床面積割合)に応じて決定されます。
🔹 不足金が発生するケース
- 管理費の予算が甘く、予想以上の支出が発生した
- 想定外の修繕や緊急対応が必要になった
- 物価や人件費の高騰により、修繕費用も高騰した
🔹 不足金徴収のリスク
不足金が発生すると、組合員に追加の負担が発生し、不満やトラブルの原因となることがあります。そのため、管理費の適正な予算策定や、修繕積立金とのバランスを取ることが重要です。
第25条については、以下のコラム
で紹介していますので、合わせてご確認ください。
管理費の過不足に関する注意点と対策
第61条「管理費等の過不足」の条文や、補足事項を踏まえながら、管理組合として注意すべき事項を紹介します。
余剰金は修繕積立金への振り替えも可能?
第61条の条文によると、管理費会計における余剰金は管理費会計に残しておくこととなっています。
対して、第57条のコラム
でも紹介しましたが、修繕積立金会計への振り替えも可能となっています。
これについては、第27条に管理費の経費の内容と密接に関係します。
その中で、
十一 その他第32条に定める業務に要する費用(次条に規定する経費を除く。)
という内容が含まれており、次条である第28条「修繕積立金」の用途以外の、第32条に定める管理組合の業務に活用できることとなります。
その中には、
十 修繕積立金の運用
という内容があり、管理費は修繕積立金の運用のために使用することができると解釈することもできます。
修繕積立金を運用することは、まずは管理費を修繕積立金に充当しなければならないため、振り替えができるということも可能になると解釈できます。


修繕積立金の余剰はどう扱う?第61条では規定なし
この第61条では、修繕積立金の余剰については触れられていません。
条文を良く見ると、
✅管理費に余剰を生じた場合
✅管理費等(管理費+修繕積立金)に不足を生じた場合
とあるためです。
修繕積立金に余剰が生じたとしても、当然に修繕積立金のまま残す必要があります。
管理費と修繕積立金の不足は分けて徴収する
管理費等として、管理費または修繕積立金が不足した場合は、都度必要額を徴収できるとあります。
ここで重要なのは、
✅管理費会計に充当するために管理費として徴収する
✅修繕積立金会計に充当するために修繕積立金として徴収する
という点で、それぞれ目的別に区分して徴収することが求められます。
絶対に管理費と修繕積立金の区分なくまとめて徴収することが無いようにする必要があります。
一時徴収よりも積立方式の見直しを優先すべき理由
大規模修繕工事等に工事代金が足らずに、第2項のように組合員から負担を求めるとなると、修繕積立金が計画的に徴収されていないとも捉えられます。
将来的に必要となる時を考えて、修繕積立金の積立方式を早い段階から考えていくことが非常に重要です。
また、段階的に修繕積立金額を増額する「段階増額方式」よりも、均等に組合員から徴収する「均等積立方式」の方が望ましいとの国土交通省の見解もあります。
そのためにも、長期的に大規模修繕工事の時期なども計画しながら、修繕積立金を徴収していくことが強く求められます。
管理費の余剰・不足時の対応を理解して適切な運営を
マンションの管理費は、余剰が出た場合は翌年度に繰り越し、不足が出た場合は組合員に追加徴収する仕組みです。しかし、管理組合としては、過不足が生じないように適切な予算策定を行うことが重要です。
✅ 管理費が余った場合 → 翌年度の管理費に充当(修繕積立金への振り替えも可能)
✅ 管理費が不足した場合 → 組合員の負担割合に応じて追加徴収
✅ 修繕積立金が不足した場合 → 追加徴収が必要だが、計画的な積立方式の見直しが望ましい
特に、一時的な追加徴収は組合員の負担感が大きいため、長期的な資金計画を立て、段階的な積立方式を採用することが推奨されます。管理組合として、財務の安定性を確保するための対策を講じましょう。
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