マンションの役員不足への対応として、管理会社が管理組合の管理者を務める「管理業者管理者方式」が検討されています。理事会を置かない形にすれば、理事会への出席や議案の準備など、区分所有者の負担を軽減できます。
しかし、理事会をなくすことは、会議を一つ減らすだけの変更ではありません。これまで理事会で検討・判断してきた事項を誰が担うのか、管理会社の業務を誰が確認するのか、問題が起きたときに誰が管理者を交代させるのかまで、運営の仕組みを組み直す必要があります。
その仕組みを定めるのが管理規約です。本記事では、一般的な理事会方式と、理事会を置かない管理業者管理者方式を比較し、導入時に提示される規約変更案の確認ポイントを解説します。
▼今回のコラムの全体像です(画像クリックで拡大します)

比較するのは「理事会方式」と「理事会のない管理業者管理者方式」
管理会社への業務委託と、管理者への就任は異なります
一般的な理事会方式では、区分所有者から選任された理事で理事会を構成し、理事長が管理組合を代表します。マンション標準管理規約では、理事長を区分所有法上の管理者とする構成です。管理会社は、管理組合との管理委託契約に基づき、会計、出納、建物・設備の管理などを受託します。
一方、本記事で扱う管理業者管理者方式では、管理会社が日常の管理事務を受託する立場に加え、管理組合の管理者として業務を執行する立場も担います。理事会を置かないため、管理者の権限、総会の役割、監事の業務を規約で明確にすることが重要になります。
ただし、外部の者が管理者になる方式には、理事会を残して監督するものもあります。また、マンション管理士などが管理者になる場合もあります。本記事は、それらを一括して説明するものではなく、「管理会社が管理者となり、理事会を置かない場合」に対象を絞っています。
方式全体の違いは、外部管理者方式の全貌と課題も併せてご参照ください。
理事長を管理者に置き換えるだけでは不十分です
国土交通省は、2025年12月に「マンション標準管理規約(単棟型)管理業者管理者方式を採用する場合の書き換え表」を公表しています。2026年4月改訂の外部管理者方式等に関するガイドラインでも、規約を整備する際の留意事項が整理されています。
書き換え表には、名称の変更だけでなく、管理者の任期・利益相反、監事の構成と職務、情報公開、印鑑等の保管などの規定例が示されています。理事会の条文を削除し、「理事長」を「管理者」に一括置換するだけでは、必要な機能が抜け落ちるおそれがあります。
なお、書き換え表は各マンションの規約を検討するための規定例です。掲載された内容のすべてが、そのまま法令上の義務になるわけではありません。法令上必要な手続と、規約で採用するルール、運営上望ましい対応を区別して確認しましょう。
理事会がなくなると、意思決定と監督の分担が変わります
まず、二つの方式の違いを大きく整理すると、次のようになります。
| 比較する点 | 一般的な理事会方式 | 理事会のない管理業者管理者方式 |
|---|---|---|
| 管理者 | 理事長が務める構成 | 管理会社が務める |
| 日常の検討・判断 | 理事会が規約に基づき審議・決議 | 管理者の権限と総会の議決事項に分配 |
| 予算案・総会議案 | 理事会で審議して提出 | 管理者が準備し、監事等が確認する仕組みを整備 |
| 業務の監督 | 他の理事による確認と監事の監査 | 監事と総会の役割が特に重要 |
| 住民の意思反映 | 理事会・総会等を通じて行う | 総会に加え、評議会・投票制度等を検討 |
| 運営担当者の交代 | 役員の改選・引継ぎ | 管理者の選任・解任と契約終了・引継ぎを確認 |
重要なのは、管理組合がなくなるわけではないという点です。区分所有者で構成される管理組合は引き続き存在し、総会で意思決定を行います。業務の担当者が変わっても、自分たちの財産をどう管理するかという問題は残ります。
理事会の権限は、すべて管理者に移してよいのでしょうか
総会で決める事項と、管理者が執行する事項を分けます
理事会方式では、総会の議決事項と理事会の議決事項が分けて規定されています。理事会をなくす場合は、従来の理事会の議決事項を、管理者の権限とするのか、総会に諮るのかなど、項目ごとに整理する必要があります。
たとえば、収支予算・事業計画、長期修繕計画、管理費等の額、修繕積立金の取崩しなどは、組合員の負担や建物の維持に関わります。理事会をなくすことを理由に、こうした重要事項まで管理者が自由に決められる規約へ変更していないかを確認しましょう。
書き換え表では、第48条の総会の議決事項に、管理者・監事の選任や解任、管理者委託契約・監事業務委託契約・管理委託契約の締結などを位置付けています。誰に、何を、いくらで任せるかを管理組合が判断する仕組みです。
一方、細かな判断まで毎回総会を開く設計では、運営が滞ります。管理者に委ねる範囲は必要ですが、「その他必要な事項をすべて管理者が決める」といった広い権限だけで済ませず、対象、金額、予算との関係、報告方法を具体的に検討することをお勧めします。
管理組合の業務に、担当者不在のものを残さないこと
従来、役員が担っていた仕事が、管理者の契約では対象外になっている場合にも注意が必要です。自治体・町内会との連絡、防災活動、住民間の調整などについて、管理者が担わないのであれば、誰が担当するのかを決めなければなりません。
管理会社が「この業務は受けません」と説明していても、管理組合として必要な仕事が消えるわけではありません。規約に書かれた管理組合の業務と、管理者が受託する業務を突き合わせ、空白を残さないことが重要です。
監事の役割は、決算書の確認だけではありません
外部専門家と区分所有者の双方を想定しています
理事会のない方式では、管理者の業務を日常的に確認する理事がいません。そのため、監事の監査と総会への報告が、運営を支える重要な機能になります。
書き換え表では、監事を置き、総会で選任・解任する構成です。第40条では、区分所有者と、区分所有者以外で高度な専門的知識を有する者から、それぞれ監事を選任する規定例を示しています。
区分所有者は建物や生活上の事情を把握し、外部専門家は規約、会計、契約などを確認するという役割分担が期待できます。ただし、「専門家だから独立している」とは限りません。管理者となる会社との取引関係なども確認し、必要な意見を述べられる立場かを見極める必要があります。
これは国交省の規定例に基づく体制であり、あらゆる管理組合に一律の人数・資格要件が法律で課されるという説明とは区別すべきです。
総会に出す前の議案を確認する仕組みがあります
書き換え表の第41条では、業務執行と財産状況の監査に加え、管理者が総会に提出しようとする予算案、決算案、議案等を監事が事前に調査する規定例が示されています。法令・規約・総会決議との整合性や、必要な情報開示が行われているかを確認する仕組みです。
監事の意見を踏まえた議案に違反や著しく不当な事項がある場合には、その旨を総会に報告する構成もあります。理事会での議案審議がなくなる分、提出前の確認が重要になります。
したがって、監事を選ぶだけでなく、総会の何日前までに資料を渡すか、契約書や見積書も確認できるか、指摘への回答をどう残すかまで、運用を整える必要があります。総会直前に大量の資料を渡されても、十分な確認はできません。
ただし、監事が理事会の代わりにすべての業務を決めるわけではありません。執行する管理者、監査する監事、意思決定する総会の役割を混同しないことも大切です。
管理会社自身への発注と、情報公開のルールを確認します
発注する側と受注する側が同じになる問題
管理会社が管理者を兼ねる場合、自社に工事を発注したり、関係会社を取引先として選んだりすると、管理組合の利益と会社側の利益が相反するおそれがあります。工事費が高いか安いかだけでなく、誰が条件を決め、なぜその会社を選んだかが問題になります。
書き換え表の第37条の2では、管理者による自己取引や利益相反取引について、重要な事実を総会で開示し、承認を受ける規定例を示しています。また、管理組合と管理者が合意した一定の範囲の取引を対象に含める構成です。
2026年4月施行の改正マンション管理適正化法にも、利益相反のおそれがある取引についての事前説明等のルールがあります。法令上の対象取引・手続と、規約で定める承認手続は、別々に確認する必要があります。
規約案では、利益相反に当たる取引の範囲、開示内容、承認の時期、緊急時の扱いを確認しましょう。「予算に入っているので説明も承認も不要」と、当然に扱えるものではありません。
議案と決算の双方で、契約内容を確認します
情報公開も、理事会がなくなる際の重要な変更点です。書き換え表の第58条では、組合員の負担が発生する契約行為等の承認を求める際に、契約内容、組合の負担額、相手方、選任理由などを事前開示する規定例が示されています。第59条では、決算案における開示も規定されています。
組合員が確認したいのは、「今年の修繕費は合計いくらだったか」だけではありません。どの会社に何を頼み、当初の説明と実際の支出に違いがないかまで確認できて、初めて判断材料になります。
承認時に未確定の事項があるなら、その理由や、後からどのように報告するかも確認しましょう。理事会がなくなるほど、総会前後の情報の出し方が重要になります。
総会以外で、区分所有者の意思を反映する方法を考えます
管理評議会や投票制度という選択肢
理事会方式では、役員が継続して管理上の課題を検討できます。理事会をなくすと、所有者が運営に関与する機会が、年1回の通常総会だけになる可能性があります。議案が完成してから賛否を問われるだけでは、議案を作る段階の意見が反映されにくくなります。
書き換え表では、第55条の2以降に、総会以外で意思を反映するための規定例が示されています。管理評議会を設け、予算案などについて管理者に意見を述べる方法や、総会以外の投票制度を設ける方法です。
これらは、各マンションが採用する方法に応じて検討する規定例です。評議会の設置が一律に義務付けられるわけではなく、設置する場合には構成員、選任方法、意見の扱いなども決める必要があります。
また、投票制度を設けても、法令や規約で必要な総会決議を自由に省略できるわけではありません。意見を集める仕組みと、正式に意思決定する手続を分けて理解しましょう。
問題が起きたときに、組合員から総会を求められるか
管理者に不満や疑問があっても、管理者自身が議案を作る総会を待つだけでは、改善が進まないことがあります。組合員による総会招集の請求と、管理者が対応しない場合の招集手続も確認が必要です。
書き換え表の第44条は、組合員の総会招集権について規定しています。規約案を確認する際は、本人確認等を理由とする過重な手続によって、権利の行使が事実上難しくなっていないかも見ておきましょう。
連絡先を含む名簿等についても、必要な手続を行うための閲覧・利用のルールを確認することが実務上重要です。個人情報を適切に扱いながら、組合員が必要な行動を取れる体制を考えます。
印鑑等の保管と、支払いの確認は分けて考えます
書き換え表の第62条の2では、管理組合の保管口座や収納・保管口座に係る印鑑、預貯金の払出し用カード等を、監事または総会で選任された者が保管する規定例を設けています。管理者を兼ねる管理会社に、払出しの手段まで集中させないための仕組みです。
ただし、印鑑を別の人が持つだけで、適切な支払いが保証されるわけではありません。保管者が内容を確認せず、求められるままに押印する運用では、十分なチェックになりません。
筆者としては、少なくとも「支出の判断」「請求内容の確認」「払出しの実行」「支払い後の監査」を整理し、誰が何を確認したかを記録することをお勧めします。契約書、請求書、承認の根拠、振込先など、確認に必要な資料も決めておくべきです。
インターネットバンキングを利用する場合には、印鑑の保管だけでなく、認証手段や振込承認の権限も整理します。規約の文言と実際の銀行手続が合っているかを確認しましょう。
緊急時の権限は必要ですが、通常の工事とは区別します
漏水や災害などで、総会の開催を待てない場合があります。書き換え表では、災害等の緊急時に管理者が必要な保存行為を行うことや、やむを得ない場合の利益相反取引の扱いについて規定例を示しています。
迅速な対応のための権限は必要です。しかし、「緊急対応」という名称で、通常の修繕や高額な工事まで広く管理者に任せる設計には注意が必要です。緊急時に何ができるかと、通常時に何を承認するかを分けて確認します。
実務上は、実施内容、発注先、支出額、緊急と判断した理由を、監事や組合員に報告する方法も整えておくとよいでしょう。法令上の例外に当たるかと、規約上認められる行為かは、それぞれ確認する必要があります。
管理者の交代と、理事会方式に戻る場合を想定します
管理者の社名を規約に固定しないこと
書き換え表の第35条では、管理者を総会決議で選任・解任する構成です。国交省は、管理者の社名等を規約に直接記載すると、変更のために規約変更の特別決議が必要となり、交代のハードルが高くなるおそれを指摘しています。
「管理者を置き、総会で選任する」という組織のルールと、「今回どの会社を選ぶか」という選任の判断は分けることが重要です。
第36条の規定例では、任期、後任が選任されない場合、辞任、解任、引継ぎも扱っています。特に、任期満了や辞任による退任と、解任を同じ扱いにしていない点にも注意しましょう。会社が辞めたい場合と、組合が交代させたい場合では事情が異なります。
管理者の解任と、二つの契約の終了を確認します
管理業者管理者方式では、管理者としての事務と、日常の管理事務を区別して契約内容を確認します。通常の管理委託契約に加え、管理者事務委託契約の内容、期間、報酬、終了条件が問題になります。
同じ会社が両方を受託していても、管理者を解任する決議だけで、すべての契約が当然に終了するとは限りません。解任・辞任・任期満了と、各契約の解除・更新・引継ぎがどう連動するかを確認する必要があります。
契約書の確認方法は、管理委託契約書・別表の確認ポイントもご参照ください。
規約に復帰手続があっても、簡単に戻れるとは限りません
理事会方式への復帰を想定した規約整備は必要ですが、手続を書いておけば容易に戻れるわけではありません。役員を引き受ける人の確保、会計・契約・修繕履歴の把握、運営経験の引継ぎも必要です。
理事会のない状態が続き、管理組合内に経験者や資料が残らなければ、復帰の負担は大きくなります。導入時には、規約変更の手続だけでなく、資料を管理組合側に残す方法や、住民が継続して関わる機会も検討しておくべきです。
筆者は、理事会方式を維持できる余地があるなら、業務の整理、外部専門家の支援、役員負担の軽減などを先に検討することをお勧めします。導入を選ぶ場合も、管理者の交代や別方式への移行まで考えて判断することが重要です。
規約変更案を確認するための一覧表
最後に、細かな変更点を含めた確認事項を整理します。条文番号は国交省の単棟型の書き換え表を基準とするため、各マンションの規約では番号が異なる場合があります。すべての変更条文を網羅した新旧対照表ではなく、導入前に確認する論点の一覧です。
| 項目 | 主な関係条項・確認資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 名称・定義 | 第2条ほか | 管理者の意味、理事長・理事会の記載、参照条文に矛盾がないか |
| 組合の業務 | 第32条・第38条、各契約 | 渉外・防災等を含め、担当者不在の業務がないか |
| 選任・解任 | 第35条 | 総会で選任・解任できるか、社名が規約に固定されていないか |
| 任期・退任 | 第36条 | 再任審査、辞任通知、後任不在、解任時、引継ぎの扱い |
| 誠実義務・欠格 | 第37条・第36条の2 | 組合のための職務遂行と、不適切な管理者を排除する条件 |
| 管理者の利益相反 | 第37条の2 | 対象取引、開示、総会承認、法令上の手続との整合性 |
| 管理者の職務 | 第38条 | 従来の理事会権限の移し先、総会に諮る範囲 |
| 監事の構成・任期 | 第39条・第40条 | 区分所有者と外部専門家の配置、選任・解任・後任の扱い |
| 監事の適格性 | 第40条の2~第40条の4 | 欠格、誠実義務、監事自身の利益相反をどう扱うか |
| 監事の業務 | 第41条 | 調査・報告・総会招集、議案の事前確認、資料提供の運用 |
| 総会運営 | 第42条・第44条ほか | 議長、組合員からの招集、管理者が応じない場合の手続 |
| 総会の議決事項 | 第48条 | 重要事項、管理者・監事・管理会社との契約を誰が決めるか |
| 理事会関係条項 | 第51条~第54条ほか | 削除する条項に対応する機能と、他条項の参照関係 |
| 専門委員会 | 第55条 | 修繕等を検討する体制、設置方法、管理者との役割分担 |
| 総会以外の意思反映 | 第55条の2以降の規定例 | 評議会・投票等を採用するか、意見をどう扱うか |
| 予算・契約情報 | 第58条 | 事前開示、予算成立前の支出、緊急支出の範囲 |
| 決算・会計報告 | 第59条 | 監事監査と、実際の契約・支出内容の開示 |
| 印鑑等の保管 | 第62条の2、銀行手続 | 保管者、払出し手段、認証・承認権限、支払確認 |
| 緊急対応 | 第21条ほか | 保存行為、やむを得ない取引、支出、報告の方法 |
| 契約終了・引継ぎ | 第36条・各契約 | 解任と契約解除の関係、資料・資金の引継ぎ、移行期間 |
管理規約は、管理者に任せる範囲と組合の関与を定めるものです
管理業者管理者方式では、区分所有者の負担が軽くなる一方で、理事会が担っていた検討・判断・確認の機能を、別の仕組みで確保する必要があります。管理者の権限を増やす変更だけでなく、監事、総会、情報公開、資金管理、住民の意思反映を併せて整備することが重要です。
提示された規約案が国交省の書き換え表を参考にしていても、それだけで十分とは限りません。自分たちのマンションで、誰が決め、誰が確認し、問題が起きたときに誰が動けるのかを、契約と実際の運用まで含めて確認しましょう。
導入判断そのものについては、第三者管理者方式のメリットとリスク、国交省の最新動向と日管連チェックリストも併せてご参照ください。





コメント