フランス、ドイツ、イタリアのマンション市場と管理制度の比較

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分譲マンション(区分所有マンション)の歴史は、日本よりも欧米の方が古いとされ、特にヨーロッパでは法制度が比較的整っていると言われています。筆者が確認した資料を通じて、フランス、ドイツ、イタリアにおける分譲マンションの市場動向や法整備について、今回は紹介します。とりわけ、フランスについては資料が豊富に確認できたため、少し内容を拡大して紹介します。

フランス

フランスの分譲マンション市場動向

フランス全土では、2012年3月時点で約830万戸の区分所有建物が存在すると推計されています。そのうち、常時居住されているのは約650万戸で、残りはセカンドハウスと考えられています。区分所有建物の大半は小規模な建物で、中心市街地などでは10戸未満のマンションが多く、大規模なマンションは1970年代に建設されたものが多い傾向にあります。1棟あたりの平均住戸数は14戸程度です。

マンション市場における大きな問題の一つとして、1970年代に建設されたマンションの大規模修繕の実施が挙げられています。また、貧しい地区においては、貧困層が多く居住する区分所有建物で問題解決が困難な事例も存在します。貧しい世帯が所有する住戸が増えることで修繕が困難になるという負のスパイラルも深刻な問題となっています。

フランスのマンション管理制度

管理形態

フランスのマンション管理形態は、専有部分を個人が排他的に所有し、共用部分を共有持分に基づいて管理するという点で日本の方式と類似しています。区分所有者からなる総会が最高意思決定機関となり、管理者が総会の決定事項を執行します。理事会は、管理者を支援するとともに、これを監視・監督する機関として位置づけられます。管理組合は法人格を持っており、直接または間接的に管理に責任を負います。

管理者 (Syndic)

管理者は、総会で決定された事項を執行する責任を負う機関であり、任期は3年で契約更新が可能です。管理者は、区分所有者からなる理事会の構成員とは独立の法的主体であり、日本のように管理者=理事長という位置づけにはなっていません。ただし、小規模な物件では区分所有者が管理者になることもあります。

管理者のうち、約8割が外部の専門家であり、約2割が区分所有者のボランティアにより業務を行っています。近年は、多様な専門家を抱える大きな会社に所属する管理者が増える傾向にあります。専門家である管理者は不動産業を規律している通称オゲ法(Loi Hoguet)によって規制されており、財政上の保証能力が要求され、県知事発行の10年更新の職業証がないと営業できません。また、管理者の業務態度に不満があれば最大3年で契約解除ができ、業務の不備には法的に責任を追求される可能性もあります。管理費の運用に関しては分別管理等の規定があります。

管理者は、関連会社とは切り離された存在であるべきであり、安易に関連企業に工事を発注するなどの利益相反行為があれば、区分所有者から公正さを疑われて解約される可能性があります。そのため、多くの管理者は、業者に工事等を発注する際には相見積もりをとるようにしています。管理者による管理費の持ち逃げに備えて、専門家である管理者は個人でも法人でも保険に加入する法的義務があります。

管理者がいない場合は、裁判所によって臨時管理者が任命されます。臨時管理者になるのは、通常業務として会社の破産管財人などをしている専門家が多く、任期は6ヶ月で再任も可能です。

総会 (Assemblée Générale)

総会は管理組合における最高意思決定機関であり、共益費の負担は、面積比だけでなく、施設の利用頻度等を考慮して決定されます。議決権割合は、区分所有建物の価値割合となっており、通常は建築時に評価され、総会の決議があれば法的には修正も可能です。

理事会 (Conseil Syndical)

理事会は、管理者を監督すること、またその支援を行うことを役割としており、管理者と理事会の役割は明確に区別されています。理事会は、管理者からの諮問により、あるいは理事会独自の判断で、管理組合に関するあらゆる問題について意見を述べることができます。

また、職業的管理者の業務を監督するために、予算をとって外部の専門技術者に業務を委託することもできます。管理者がその職責を果たしていないと判断すれば、総会にはかり解任することもできます。理事会の設立は原則必要とされていますが、3分の2以上の多数で議決すれば設立しなくてもよいとされています。

滞納管理費の徴収

管理者が直面する大きな問題の一つに、管理費の滞納問題があります。滞納管理費債権と住宅ローン債権の優先関係については、2年前の滞納金までであれば、管理組合の債権の方が住宅ローンに優先する法改正が行われています。

未納者へは、まずは管理者が取り立てますが、それでも不可能な場合は管理者の責任により裁判所から支払命令を得て、最終的には物件の売却を行うこともあります。フランスの場合、滞納管理費の特定承継はなく、住戸を売却した代金で債務の返済が行われるのが一般的です。

荒廃区分所有建物への行政の介入

フランスでは、「荒廃区分所有建物」と呼ばれる、管理不全や建物の老朽化が著しいマンション群が存在し、社会問題となっています。政府は「荒廃」の兆候として、建物の劣化、管理運営の困難、財務・法律上の困難、占有の貧困化・特殊化、住宅市場における価値の低下などを挙げています。

このような状況に対処するため、行政は様々な介入措置を講じています。市町村の首長は住居改善計画を作成し、県知事は保護プランを作成することができます。保護プランは、団地の組織・管理規則の明確化・簡素化、共用財産・共用設備の規則明確化、建物の保存工事や管理費低減工事の実施、社会的関係回復のための広報・研修、福祉対策の実施などを内容とします。

預金供託金庫(CDC)は、区分所有関係の解消や管理組合の解散に向けて必要な清算や融資を行う役割を担います。裁判所は、管理組合の財務状況や建物の荒廃状況などを確認し、所有者不明と認定された集合住宅を市町村等が収用する手続きも存在します。

2000年代以降、「荒廃区分所有建物」問題への対策は強化されており、全国住宅事業団内に情報・評価・支援の全国拠点が設けられ、地域の状況に応じて監視・予防、正常化、問題解決といった段階的なアプローチが取られています。ブライエ報告書では、荒廃区分所有建物への対策を強化し、地方自治体の住宅政策に組み込むことの重要性が指摘されています。

フランスの住宅税制

フランスの住宅税制は、国税と地方税に分かれます。不動産に関連する国税の直接税としては、所得税における不動産増価税、相続・贈与税、不動産富裕税(IFI:従来の連帯富裕税ISFから転換)などがあります。間接税としては、付加価値税(TVA)が不動産取引や住宅建設に大きな影響を与えます。

保有税としては、既築不動産税(Taxe foncière sur les propriétés bâties)や住居税(Taxe d’habitation)があります。既築不動産税は原則として毎年課税され、税率は地域によって異なりますが、新築や改築、増築の完了から2年間は非課税となります。住居税は、居住者に課税される地方税でしたが、段階的に廃止が進められています。

流通税としては、不動産の譲渡時に課せられる登録税(Droits d’enregistrement)などがあります。新築住宅の売買には原則として付加価値税が課税されますが、既存住宅の売買には登録税が課税されます。

譲渡益に対しては、所得税と社会保障拠出が課税されますが、一定期間以上の長期保有や主たる住宅の譲渡などについては非課税となる場合があります。

住宅取得促進策としては、社会賃貸住宅への税制優遇措置などが存在します。

ドイツ

ドイツの分譲マンション市場動向

ドイツでは住宅価格の上昇が問題となっており、特に都市部で顕著です。一方で、全国ベースの総税収の伸び率はそれほど高くなく、保有税のウエイトも低い傾向にあります。

ドイツのマンション管理制度

ドイツのマンション管理制度においても日本同様に区分所有法が存在し、区分所有者の権利や義務、管理運営に関する規定が定められています。連邦憲法裁判所が不動産税の評価法について、平等の原則に抵触する可能性を指摘しており、評価法の改正が議論されています。

ドイツの住宅税制

ドイツの税制は、連邦政府、州、地方自治体などが課税を行っており、税収はそれぞれの間で配分されています。不動産に関連する税としては、保有税である不動産税(Grundsteuer)、流通税である不動産取得税(Grunderwerbsteuer)、そして譲渡益に対する課税などがあります。

不動産税は、統一価額に基づいて計算されますが、この統一価額が旧連邦州では1964年、新連邦州では1935年に確立されたものであり、社会や都市の変化に伴う土地や建物の価値の変化が反映されていないという課題があります。連邦憲法裁判所の判決を受け、不動産税の評価法の改正が議論されており、地価モデル、費用価値モデル、等価モデルなどの案が検討されています。

不動産取得税は、不動産の取得契約に対して課税され、税率は州によって異なります。相続や贈与による不動産の取得、価格が小額な取引などは課税対象外となります。

個人の資産運用収益は原則として非課税ですが、資本会社の株の売却や、土地・土地に関する権利を取得後10年以内に売却した場合などは課税対象となります。ただし、戸建や共同住宅などの持家については、自己の居住目的であれば10年以内の処分による譲渡益であっても免税措置が受けられます。

住宅取得促進策としては、リースター年金制度を活用した住宅取得支援や、シュトゥットガルト市などの一部自治体における住宅取得給付金制度などがあります。

イタリア

イタリアのマンション管理制度

管理体制

イタリアのマンション管理体制は、管理者 (Amministratore) と総会 (Assemblea) が制度上位置づけられていますが、理事会の規定はありません(1942年の民法典)。執行機関である管理者と、それを監視・監督し、管理組合の意思決定をする総会という体制が基本となっています。

管理者

管理者には国家資格はありませんが、イタリア最大の管理者協会であるANACI等により資格、講習、保険などが用意されています。管理者には個人が就任し業務を実施することが一般的で、フランスよりも統括者(General Manager)としての性格が強く、総会で決定されたことを管理執行するのが管理者の役割です。ANACI加盟の管理者のうち9割が外部の専門家です。

総会

総会は管理組合における意思決定機関であり、総会の議長には、管理者とは別の者が就任します。総会毎に議長と書記が異なることもあります。総会の決議要件としては、過半数、3分の2以上、全員合意の3種類があります。議決権は価値割合(「ミレジミ」)に基づいて定められ、改修等は参加者の過半数以上かつ議決権の過半数の議決が必要です。

土地持分割合は議決権割合に比例します。価値割合の評価・判断・鑑定は建築士が行い、複雑な評価方法となっています。通常は理事会がないため、管理者を監視・監督するのは総会の役割となります。管理者の任期は1年であり、理由なく解雇することも可能です(出席者の過半数かつ議決権の半数以上の議決が必要)。

理事会

理事会に当たるものは民法典等において制度化されていませんが、大規模なマンションでは、マンション内部の規約で理事会を設けることはあり得ます。

滞納管理費の徴収

滞納管理費の回収は、管理者の責任です。通常の民事訴訟だと解決に時間がかかるため、3~4ヶ月で結論が得られる略式命令を得ることが多いです。命令が出ると、10日以内に滞納管理費が支払われない場合は、給与の差し押さえ、住戸の競売ができます。しかし、滞納管理費債権よりも住宅ローン債権の方が優先されるという問題があります。

現在、滞納管理費の管理者による徴収の義務化と、一定期間以上の滞納が続く場合、管理者が徴収を行わないと滞納者との連帯責任となる規定を盛り込む内容の法案が提出中です。

イタリアの住宅税制

イタリアの住宅税制については、他国と同様に保有税、流通税、譲渡益課税などが存在することが示唆されています。保有税については、主たる住宅に対して非課税です。また、事業者が売主となる新築住宅の取引には付加価値税が課税され、軽減税率が適用される場合があること、既存住宅の個人売主からの購入には付加価値税はかからず、定額の流通税のみで済みます。

まとめ

フランスは、分譲マンション市場が成熟しており、管理制度や荒廃マンション対策に関する法整備も進んでいます。管理者の専門性や管理組合の運営、行政の介入など、日本とは異なる特徴が見られます。

ドイツは、住宅価格の上昇が課題となっており、不動産税制の改革が議論されていますが、マンション管理制度に関する情報は限られています。

イタリアは、理事会が制度化されていないなど、フランスやドイツとも異なる独自の管理体制を持っています。住宅税制については、各国で異なる体系や税率が適用されており、住宅市場に影響を与えていると考えられます。

この情報が、日本と欧米の分譲マンションに関する法制度や市場動向の比較にご活用いただければ幸いです。

【記事執筆・監修】
マンション管理士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古市 守
yokohama-mankan

マンション管理全般に精通し、管理規約変更、管理会社変更、管理計画認定制度の審査、修繕積立金の見直し、自治体相談員、コラムの執筆など、管理組合のアドバイザーとして幅広く活動。
また、上場企業やベンチャー企業のCFOや財務経理部長経験から、経営・財務経理分野にも精通。コンサルティング会社経営の傍ら、経営・財務経理視点を活かし、マンション管理の実践的サポートを行う。

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