マンション管理について基本的な課題や質問を、質疑形式で回答する形で紹介します。
今回は滞納管理費等の回収や会計上における計上等の対応方法についてです。
※Q&Aについては、筆者が所属する浜管ネット(横浜マンション管理ネットワーク)や、マンション管理センター等の切り口も参考にしながら記載しています。
【管理組合Q&A】滞納管理費への対応方法と効果的な対策を紹介
今回は滞納に関する課題として、以下の様なQ&Aを分かりやすく解説します。
・認知症や死亡した区分所有者の滞納金回収方法
・滞納管理費等の発生を防ぐための有効な取り組み
・滞納管理費等が収入に計上される理由とは?
筆者の感覚では、竣工から時間が経っている、
高経年マンションになると管理費や修繕積立金を滞納する区分所有者が出てくる
傾向にあると見ています。
理由は、
・高経年マンションは高齢住民が増えてきて対応ができなくなってくること
・相続によりそのままになっている
ことが考えられます。
その他、
収入が減った等の生活上の理由によって滞納となっている
こともあるでしょう。
滞納が増えないために、また滞納した区分所有者がいる場合には、どのような対応が必要なのか解説します。
※「管理費等=管理費+修繕積立金+駐車場使用料等その他徴収金」として記載します
滞納管理費等の回収方法とは?具体的な手順と対策
滞納管理費等の回収方法には、次のような流れで進めることが一般的です。
ただし、訴訟になると、
滞納している区分所有者はもちろんですが、理事会や理事長にも負担が及ぶ
こととなるので、慎重に行っていく必要があるといえるでしょう。
滞納が管理組合に与える影響を明確に伝える
理事会において、月次の会計状況のなかで滞納状況が明らかにされることが多いと考えられます。
滞納情報はネガティブな個人情報のため、その住戸等の共有は理事会限り、もしくは会計担当理事等一定の理事や理事長限りになることもあるでしょう。
しかしながら、
滞納は一度始まると毎月雪だるま的に増えていき、返済が難しい状況にも陥る
こともあります。
そうならないためにも、
理事長や会計担当理事は、管理組合共有の財産である管理費等の回収に向けて動く
必要があります。
また、管理組合という性質上、滞納は組合員全員に対する影響にも繋がります。
区分所有者はその点認識していない可能性もあることから、
・払ってもらうように丁寧に継続的に説得する
必要があります。
電話や書面での継続的な督促を行いましょう
国土交通省が定める、管理規約のひな形としての標準管理規約別添3には、
「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」
があり、その解説には以下の通り記載があります。
・1ヶ月目:電話、書面(未納のお知らせ文)による連絡
・2ヶ月目:電話、書面(請求書)による確認
・3ヶ月目:電話、書面(催告書)
(過去の実績によれば、失念していたなど一時的な要因で滞納した者は、3か月以内に滞納を解消する)
(管理費の滞納者のほとんどは、ローン等の支払も滞納していることが多いため、6か月以内に銀行が債権回収のために競売等に動き出すことが多い。)
・4ヶ月目:電話、書面、自宅訪問
・5ヶ月目:電話、書面(内容証明郵便(配達記録付)で督促)
こちらは一般的な例ですが、
滞納管理費等が雪だるま式に増えていく前に、5ヶ月目に行う対応を早期に行う
ことも考えられます。
後述しますが、
滞納管理を適切に行っているマンションは滞納者が少ない
と考えられ、滞納を想定しながら先々の手を打っていくことも有効でしょう。
内容証明郵便で正式に請求を行う
説明しても滞納が解消されない場合は、
内容証明郵便を使って滞納管理費等の請求を行う
こととなります。
内容証明郵便は、理事長名で行うことや代理人弁護士によって行うこともあります。
一方で、代理人弁護士名で行うと訴訟提起の予告にもなり、滞納者にとって一定の支払いの動機となることが期待できます。
反面、管理組合として弁護士費用が発生する点が挙げられます。
支払督促を裁判所に申し立てる
内容証明郵便による請求においても反応がない場合には、支払督促を申し立てます。
滞納者から異議の申し立てがない場合には、判決同様の効力を持ちます。
滞納者の住所が不明の場合には利用ができません。
さらに、異議申し立てがあった場合は訴訟手続きに移行します。
少額訴訟での提訴を検討する
滞納額が60万円以内の場合においては、原則少額訴訟を提起することとなります。
原則1回の審理で即日判決が言い渡されますが、2回、3回と継続する場合もあります。
同一の原告が利用できる回数は、年10回以内と決まりがあります。
通常訴訟による回収手続き
金額に限定されない訴訟であり、裁判所において和解をすることもできます。
滞納者が行方不明の場合でも、公示送達として訴状が届いたとみなし裁判を行います。
裁判所に文書が掲示され、掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載すれば、送達されたとみなされ、裁判が進行します。
強制執行で滞納金を回収する
区分所有法第7条にしたがって、
先取特権に基づいて、強制的に滞納している区分所有者の住戸に対する競売を申し立てることができます。
管理組合の債権を保全するために、
滞納者の区分所有権(物件)や動産を競売にかけることができ、売却代金を回収することで、滞納していた管理費等に充てる
という考え方です。
しかしながら、管理費等を滞納している区分所有者は、
住宅ローンも抱えてることが多く、その場合、物件が金融機関の抵当に入っている
ことがほとんどです。
区分所有法第7条における先取特権は、
金融機関の抵当権に劣後してしまうことから、仮に区分所有法によって競売にかけたとしても回収できない可能性
があります。
また、滞納者における住宅ローンの残高が、物件の価値を上回っている場合は、
そもそも第7条の先取特権による配当収入の見込みがない場合は、競売が取り消される
こととなります(民事執行法第63条2項 剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)。
このような難点もあることから、
強制執行で滞納管理費等を回収できないこともあり、他の手段を考えていく必要があります。
認知症や死亡した区分所有者の滞納金回収方法
区分所有者が認知症になった場合と、死亡した場合のそれぞれについて、確認していきます。
認知症の場合の対応策
認知症になったことによって、管理費等の支払い能力やそもそもの支払い手続きを怠ってしまい、滞納となる可能性も考えられます。
この場合は、親族に連絡を取って対応を依頼する必要があります。
しかしながら、中には、親族とのかかわりが薄い方もいるでしょう。
訴訟能力のない、認知症の区分所有者であっても、
管理組合は裁判所に対して特別代理人の申し立てを行い、訴訟提起が可能です。
とりわけ、認知症で症状が重い方は、
親族等が成年後見人の選任を裁判所に申し出たうえで、成年後見人が財産管理を行う
ことが望まれます。
死亡した場合の回収手順
一人暮らしの区分所有者が亡くなってしまい、管理費等が滞納しているケースが考えられます。
この場合、管理組合においては、相続人に滞納管理費を請求することとなります。
また、相続人の調査は戸籍を確認して行うこととなりますが、確認等の調査は弁護士等に依頼する必要があります。
相続人がいると判明した場合は、相続人に対して滞納管理費等を請求することとなります。
一方で、相続人がいない場合、
管理組合は家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を申し立てる
ことができます。
選任された場合、管理組合は相続財産管理人に選任することとなります。
一方で、選任については管理組合として予納金や弁護士費用も掛かってきます。
また申し立てにおいては、専有部分の登記を確認し、売却によって余剰金が見込めるかなどの検討も必要になるでしょう。
滞納管理費等の発生を防ぐための有効な取り組み
これまで見てきたとおり、管理費等の滞納が発生して法的手段を講じたとしても、回収できない可能性も十分にあります。
法的手段にいかない、事前の対応を行うことで、管理費等の滞納も回避することが可能です。
具体的にはどのような取り組みを行えば回避できるのか、筆者が見てきた事例も踏まえて解説します。
滞納額が少ない段階で早期回収を目指す
滞納額が雪だるま式に膨れ上がると、滞納者としても回収が難しくなってきます。
難しくなると法的な手段を取らざるをえないこととなり、
回収についても時間が掛かることや、先述のとおり回収が難しい可能性
があります。
滞納額が膨れ上がる前に、
1か月でも滞納があった場合には強制的に回収する等、管理会社と協力しながら対応していく
ことが望まれます。
具体的には、
・現金での取り立てができないか
なども考えていく必要があります。
滞納を許容しない管理組合の取り組み強化
これまで見てきた通り、
管理費等の滞納は本来区分所有者が守るべき管理規約違反である
ことを前提として、管理組合に迷惑がかかるだけではなく、あとあとの自分自身への影響も大きくなります。
理事会や総会等での滞納状況の共有はもちろんのこと、それぞれの議案で対策案を常に講じている、すなわち、
管理組合として滞納は違反という認識を強く持っていく
ことが重要です。
滞納がない管理組合は、管理会社任せにせずに理事会や理事が主体的に動いていることが多いと思われます。
管理組合にとって管理費等の滞納は良くない点を全員が意識しながら、対応していくことが望まれます。
滞納が続く場合のリスクを明確に説明する
滞納している方の中には、もしかしたら滞納することによる影響そのものを知らない方もいるかもしれません。
しかしながら、滞納が継続した場合は、これまで説明したとおり
法的手段に出ざるを得なくなります。
管理費等の滞納は、滞納者にとっては避けることができない債務であり、どのような形であっても必ず払うこととなります。
滞納者だけの免除はもちろんありません。
結果的に、滞納によって管理組合に影響を与えると、今のまま住むことが出来なくなる可能性があることも、可能であれば説明しつつ、生活費を調整してでも払ってもらうことを行ってもらう必要があります。
滞納管理費等が収入に計上される理由とは?
少し突っ込んだ経理上の話になりますが、経理処理にはお金の出入りがあったその時に計上する「現金主義」と、請求する権利や支払い義務が発生したときに計上する「発生主義」があります。
現金主義は、現金が入った時に計上することとなることから、滞納管理費があった場合には管理組合口座にお金が入ってこないことから、収入を計上しないこととなります。
しかしながら、発生主義を採用している場合は、支払い義務が発生した際に計上することとなるため、管理組合員にとって毎月支払する必要がある管理費等の支払期日に収益が発生することとなります。
この場合は、ある組合員が滞納して管理組合口座にお金が入らないこととなっても、その組合員にとっては管理費等を支払う義務が到来していることから、管理組合としては収益として認識しなければなりません。
この場合
発生主義=収入を未収入金として計上する
こととなり、発生主義においては、ある時点で入金がなくても収入として計上します。
ただ、管理組合には、現金主義か発生主義かの義務はありません。
管理会社に外部委託している管理組合は、発生主義を採用しています。
そのため、表題のとおり「滞納管理費を収入に計上する」ということが発生します。
管理組合として滞納管理費等は確実に回収する取り組みを
繰り返しになりますが、
管理費等は、管理組合の大切な財産であり、滞納があればマンションの区分所有者全員に影響が及びます。
そのため、滞納者にその影響を説明しつつ、管理組合としてはしっかりと回収していくフローを構築することが望まれます。
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