管理組合の名簿ってどのように確認すればよいのだろうか…?
また、
名簿の閲覧をしたいと言ってきている方に対してどのように対応すればよいのだろうか…?
さらには、
実際に理事長の私が名簿を管理しなければならないのか…?
など、管理組合の名簿に関する疑問もたくさんあるでしょう。
そして災害時の対応や居住者不在時のマンション内の漏水事故等によって、どこの部屋には誰が住んでいるか、また家族や連絡先などの情報把握のため、名簿の存在が重要になってきています。
そこで今回は、標準管理規約第64条の2「組合員名簿等の作成、保管」をピックアップします。
名簿管理にも詳しい筆者が規約や補足事項をもとに、管理組合や区分所有者が気を付けておきたい点を具体的に紹介します。
【規約解説】管理組合員・居住者名簿の作成と保管方法を詳しく紹介
今回紹介する内容は、以下の通りです。
・第64条の2「組合員名簿等の作成、保管」についての規定に対する補足・注意事項は?
・「組合員名簿等の作成、保管」に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
まず、第64条の2の名簿の作成、保管の内容について紹介します。
組合員名簿及び居住者名簿(以下「組合員名簿等」と記載します)ということで、マンション内に住んでいない組合員も、また組合員でない、組合員の家族や賃貸物件等に住んでいる居住者も含めた名簿に関する内容となります。
また、第64条の2とあるとおり、当該条項は令和6年6月の標準管理規約改正により、新たに登場しました。
それ以前の標準管理規約では、第64条の「帳票類等の作成、保管」のなかに「組合員名簿」が含まれていた形です。
それが第64条の2として「組合員名簿等の作成、保管」として、「組合員名簿」に加えて「居住者名簿」も加えられて条項化されました。
そのような経緯がある第64条の2ですが、国土交通省より補足や注意事項があるので、その点も紹介します。
さらにこの第64条の2について、気を付けておくべき事項について、筆者の業務経験等を通じて具体的に紹介します。
標準管理規約第64条の2「組合員名簿等の作成、保管」の紹介
早速、標準管理規約第64条の2の「組合員名簿等の作成、保管」について、条文を紹介します。
電磁的方法が利用可能ではない場合の条文
まずは、管理組合として電磁的方法が利用可能ではない、紙の書面で扱う場合がどうなっているのか、確認してみましょう。
第64条の2 理事長は、組合員名簿及び居住者名簿(以下「組合員名簿等」という。)を作成して保管し、組合員の相当の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
2 理事長は、前項の規定により閲覧の対象とされる組合員名簿等に関する情報については、組合員の相当の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。
3 理事長は、第19条第3項又は第31条の届出があった場合に、遅滞なく組合員名簿等を更新しなければならない。
4 理事長は、毎年1回以上、組合員名簿等の内容の確認をしなければならない。
電磁的方法が利用可能な場合の条文
続いて、電磁的方法が利用可能な場合を紹介します。
電磁的方法が利用可能でない場合との違いは、太線で記載の所です。
第64条の2 理事長は、組合員名簿及び居住者名簿(以下「組合員名簿等」という。)を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員の相当の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
2 理事長は、前項の規定により閲覧の対象とされる組合員名簿等に関する情報については、組合員の相当の理由を付した書面又は電磁的方法による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。
3 電磁的記録により作成された組合員名簿等の閲覧については、第49条第5項に定める議事録の閲覧及び提供に関する規定を準用する。
4 理事長は、第19条第3項又は第31条の届出があった場合に、遅滞なく組合員名簿等を更新しなければならない。
5 理事長は、毎年1回以上、組合員名簿等の内容の確認をしなければならない。
第64条の2の説明
前述の通り紹介した、第64条の2における各項について、それぞれ具体的に解説します。
第1項 名簿の閲覧
理事長の業務として、組合員名簿等を作成して保管しておく必要があります。
また、組合員からの組合員名簿等の請求があった場合には、閲覧させる必要があるという内容です。
この閲覧のためには、
・閲覧のための日時、場所等を指定できる
として定められています。
第2項 情報の提供と組合員の費用負担
次に、理事長は、前項の閲覧理由の書面に記載されている組合員が求めている情報について、電磁的方法を含めた書面にて交付できるとしています。
名簿は個人情報も含まれることとなりますが、相応の理由がある場合にはこちらも閲覧可能となっています。
ただし、センシティブな情報であることから、必要な箇所だけの情報提供を行うことが望まれます。
さらに、この際にコピー代や郵送代等の費用が掛かる場合は、情報提供を請求した組合員に請求することができるとなっています。
第3項 名簿の更新
さらに、理事長は、
・第31条:組合員になった場合と喪失した場合の届出義務
に該当する届出があった場合には、組合員名簿を更新する必要があるとしています。
これによって、名簿は常に最新の情報としておく必要があります。
第4項 名簿の年1回以上の確認
そして、理事長は毎年1回以上、組合員名簿等の内容を確認する必要があります。
第3項にて、区分所有者の転出入が頻繁にあり都度更新している場合は、自然と名簿の状況を確認していると考えられます。
ただし、小規模マンション等で転出入が少ない場合など、1年に1回以上の自発的な名簿の内容確認が求められます。
第64条の2「組合員名簿等の作成、保管」についての規定に対する補足・注意事項は?
組合員名簿等の作成、保管に関する第64条の2に対して、国土交通省は補足・注意事項を複数挙げています。
この章では、具体的にどのような点に注意する必要があるのか、それぞれ確認していきます。
区分所有者名簿とともに、居住者名簿の作成、保管することの必要性
冒頭で紹介した通り、令和6年6月の標準管理規約改正前は、組合員名簿の作成、保管については記載がありました。
改正において、新たに居住者名簿の作成、保管も指摘されています。
理由しては、
とのことで、賃借人を含めてマンションに居住している方の氏名や連絡先等を記載した居住者名簿を作成、保管することも定めています。
また、居住者名簿の作成に当たって、災害時における避難の支援や安否の確認等の円滑化の観点も考えておく必要があります。
そのため、高齢者、障害者、乳幼児など災害時に自ら避難することが困難な方を事前に把握しておくことが望ましいと指摘しています。
組合員名簿等の閲覧について
名簿の閲覧について、当然ですが組合員等のプライバシーに留意する必要があるとしています。
また、名簿に記載されている内容の中で、閲覧請求理由に対して不要と思われる項目については、開示しないことも可能であると紹介しています。
確かに、名簿というセンシティブな情報であることから、明らかに閲覧請求の理由とは違ったものについては、理事長の判断としてその内容は閲覧させないことも必要でしょう。
名簿閲覧可能な範囲の設定について
この第64条の2では、閲覧請求ができるのは組合員に限定されています。
しかしながら、組合員以外の者から閲覧請求をされることを想定することも可能としています。
具体的には、地域や各マンションの実態に応じて閲覧等を請求できる者の範囲を定めることも可能とのことです。
例えば、地域防災の観点で、管理組合が地域の防災組織に所属している場合もあるでしょう。
その場合、地域で名簿を一体管理していることも考えられ、名簿の提示が必要となることなどが想定されそうです。
個人情報保護法の準拠について
ご承知のとおり、名簿には住所(部屋番号)や名前、年齢、生年月日、家族構成等の個人情報が含まれる可能性があります。
そのため、個人情報を扱う管理組合は個人情報取扱事業者に該当する可能性があります。
その場合は、次のような対応が必要です。
・管理組合が名簿作成にあたり組合員等の個人情報を取り扱うに当たっては、利用目的をできる限り特定しなければならない
・個人情報を取得した場合は、あらかじめ利用目的を公表している場合等を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、又は公表しなければならない
・本人から直接書面により個人情報を取得する場合は、利用目的を明示しなければならない
・したがって、標準管理規約第19条第3項(専有部分の貸与の際の区分所有者の届出)や第31条(組合員になった場合と喪失した場合の届出義務)の届出様式内で利用目的を記載しておく
・災害時に自ら避難することが困難な方の情報は、個人情報保護法における要配慮個人情報に該当する場合がある
・要配慮個人情報を取得する場合は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ることが必要
このほか、個人情報保護法については、「個人情報取扱事業者等に係るガイドライン・Q&A等」(個人情報保護委員会公表)を参照する必要があるとのことです。
年1回以上の組合員名簿等の更新の必要性について
さらに、第4項では、第19条第3項(専有部分の貸与の際の区分所有者の届出)又は第31条(組合員になった場合と喪失した場合の届出義務)の届出に基づいて組合員名簿等の更新を行っていない場合も考えられます。
しかしながら、年に1回以上名簿の内容に変更すべき箇所がないかなどを確認することを定めています。
確認の方法としては、
・名簿記載内容に変更が発生したことを理事長が把握した場合、届出を通じて名簿記載内容が最新の情報となっているかを確認する
などが考えられるとのことです。
「組合員名簿等の作成、保管」に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
これまでに、標準管理規約の条文や、国土交通省が指摘する当該条項において補足、注意すべき点について確認しました。
最後の章では、これらを踏まえて管理組合や区分所有者が気を付けておきたい点について、筆者独自の観点から紹介します。
定期的な名簿の確認タイミングを設ける
第4項に理事長の業務として、年1回以上の組合員名簿等の確認が必要であると記載がありました。
必ず年1回確認しなければならないということは、例えば、
・毎年の決算承認理事会に名簿確認をする
など、定期性を持たせることで、必ず確認するサイクルを作っておくのも一つの考え方です。
その際に、区分所有者や賃借人から届出がされているにも関わらず名簿に反映されていないなど、不足のチェックをするのが良いでしょう。
管理組合も個人情報保護事業者扱いである
前章の国土交通省の説明では、個人情報保護事業者になる可能性があるような記載でした。
実際に名簿を作成することになる管理組合は、個人情報を個人情報を扱うことから、個人情報取扱事業者に該当することとなります。
個人情報とは、
ということで、名前や部屋番号が紐づけば必ず個人が特定できるということになります。
そのため、区分所有者や居住者の届出書類において、個人情報保護法に従って、利用目的を必ず明確に記載しておくことが望まれます。
実際に理事長が名簿を保管する?
管理組合の組合員名簿等は実際に理事長が保管する必要があると規約にはあります。
実際に理事長が自宅で保管するとも捉えられますが、実際は管理会社に委託している場合は、
・管理会社が入退去者情報を更新して電磁的方法で管理している
ということも考えられます。
一方で、自主管理マンションの場合は、理事長が都度入退去者を把握して名簿を更新している、または理事長から業務を委託された他の役員等が更新していることも考えられます。
このようなケースもあることから、実態としては
という管理組合が多いと考えられます。
また、管理員や管理会社に保管されているのであれば、実際の名簿がどこに行ったか分からないことが無いよう、理事長の指示ですぐに取り出せるようにする必要があるでしょう。
新たに引っ越してくる方への届出の義務付け
マンションに新たに引っ越してくる方は、もしかしたら管理組合に区分所有者情報や居住者情報を届け出るということを知らないかもしれません。
また、区分所有者や居住者が管理組合や管理員に引っ越してきたことを伝えない可能性も考えられます。
ただ、引っ越してきた方が知らない場合であっても、新規入居者情報を管理組合がキャッチする必要があります。
具体的には、
・理事長または管理員、または管理会社フロント担当など役割を決めて引っ越し時に声掛けして届出を促す
・名簿チェック時に漏れていたら後追いで届出書に記載して貰う
などによって、届出書を出して貰い、名簿への情報の転記を行う必要があります。
管理計画認定制度では自治体に対して表明保証書が必要になる
自治体が実施しているマンション管理計画認定制度では、管理組合が年1回以上の名簿を更新していることを表明して保証する必要があります。
これは、管理組合が表明保証書という形で、自治体の長である都道府県知事等(自治体によっては区長や市長も含む)宛に提出する必要があります。
例えば、横浜市では以下のような表明保証書を提出する必要があります。
引用:横浜市 管理計画認定制度とは、認定基準、申請方法 より表明保証書のひな形を紹介
管理組合として、名簿の更新が真実かつ正確であることを、自治体の長に表明して、相手方に保証する必要があることから、必ず定期的に名簿をチェックして見直さなければならないこととなります。
組合員名簿等の作成・保管は重要な位置づけにある
今回は、組合員名簿等の作成、保管について、標準管理規約第64条の2をピックアップして紹介しました。
管理組合の名簿の取り扱いだけでも、コラムでもこれだけの分量になるということは、国土交通省としても管理組合における名簿は重要な位置づけで考えていると想定されます。
災害時やマンション内での漏水事故への急な対応等、名簿がなければ柔軟に対応することも不可能です。
そのため、名簿の作成や確認、そして適切な保管が求められていると言えるでしょう。
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