かつて「世界の工場」と称され、GDP世界第2位の経済大国にまで急成長した中国。その躍進は、都市化の加速、インフラの整備、そして世界中の企業との貿易関係を深めることで実現されたものでした。しかし今、同国は経済成長の減速、需要の低迷、若年層の失業、不動産不況といった多面的な問題に直面しています。その象徴が、中国各地で急増する“ゴーストタウン”です。
今回は筆者が注目しているYouTuber,Bappa Shotaさんが挙げられた動画「中国で22兆円かけて大失敗した超巨大ゴーストタウンに行ってみた」
が非常に興味深かったので、動画を参照しつつ、本稿では以下のような点に注目して中国経済の現状を読み解きます。具体的には、以下のような視点となります。
- 改革開放と不動産バブルの関係
- ゴーストタウン化の実態とその背景
- 地方財政の仕組みとその歪み
- 中国政府の対策と課題
改革開放と不動産バブルのはじまり
1978年、鄧小平による改革開放政策が導入され、中国では土地使用権の売買が段階的に解禁されることとなりました。これにより、不動産市場が実質的に誕生し、住宅が「住まい」から「資産」としての性質を強めていくこととなっていきます。
1990年代以降にかけて、不動産市場は急拡大し、とくに都市部においては住宅取得が市民の最大の資産形成手段となりました。その結果として、以下のような特異な状況が生まれています。
中国では土地はすべて国有であり、民間の開発業者は政府から「期間付きの土地使用権」を取得する方式を採っています。この制度により、地方政府は次のような財政構造を持つに至っています。
- 土地の売却益が地方財政を支える“土地財政”の確立
- 税収に依存せず、開発ラッシュによって歳入を確保
- 結果として、実需のないエリアにも開発が集中し、供給過剰状態が常態化
さらに近年は以下のような新たな論点も指摘されています。
- 不動産開発の利益が地方幹部や関係企業に集中しやすい構造
- 高齢化により将来的な住宅需要が減退するリスク
- 地方都市と大都市との人口移動による需給ミスマッチ
- 環境負荷の高い開発計画が持続可能性を欠く
このように、改革開放によって生まれた中国の不動産市場は、急成長とともにさまざまな歪みを内包しながら現在に至っています。
中国最大のゴーストタウン──内モンゴル・オルドス
なかでも象徴的な事例として取り上げられるのが、内モンゴル自治区のオルドス市カンバシ(Kangbashi)地区です。この地域は1990年代に石炭資源の発見により経済が急成長し、一時は1人当たりGDPで北京や上海を上回る水準に達しました。
オルドスの都市開発の特徴は以下のとおりです。
- 石炭バブルによる急激な財政拡大
- 政府による未来都市構想の推進
- 巨額のインフラ投資(住宅、公共施設、人工湖など)
- 100万人以上を収容可能とされた住宅群の建設
しかしながら、実際の人口流入は期待された規模に至らず、以下のような要因により経済は急失速することになりました。
- 石炭需要の減少と価格低迷
- 持続可能性を欠いた開発による収益構造の脆弱化
- エネルギー構造の転換による地域産業の空洞化
その結果として、以下のような事態が発生しています。
- 多くの建築プロジェクトが中断
- 空室率が高い深刻なゴーストタウン状態
- 未完成の住宅に住まざるを得ない住民が存在
- 整備予定の駐車場や共用設備が放置されたまま
ゴーストタウンについては、2021年以降状況は大きく変化しているようです。Nikkei Asiaの記事では、カンバシ地区はトップクラスの学校の移転により住宅需要が増加し、以前空いていたアパートメントが売却され、新たな高層ビル建設が進められているという事の様です。2023年末の地方政府統計ではカンバシ新区の人口は約12万6900人と報告されており、当初に比べ居住者が大幅に増加しているようです。
そのため、動画の中では空室率は97%とありましたが、そこまでではないのでは?という情報もありました。(Wikipedia Kangbashi Districtより)
加えて、不動産バブルの崩壊後、資金を回収できずに消えた開発業者の存在や、地元市民による抗議活動も報告されており、オルドスは単なる経済失敗の象徴ではなく、都市政策のあり方そのものに警鐘を鳴らす存在となっています。
経済の停滞と不動産不況の長期化
不動産バブルの崩壊は、いくつかの要因が重なったことで加速しました。その主な要因には、コロナ禍による経済活動の停滞、米中貿易摩擦の長期化、中小企業の倒産増加、そして若年層の失業率上昇といった社会的・経済的なショックが挙げられます。
こうした背景の中で、中国政府は不動産市場の混乱を抑えるべく次のような対応を行いました。
- 新築住宅の値下げを禁止する通達を発出
- ディベロッパーへの資金支援策を講じた
だが、この施策は期待通りに機能せず、むしろ以下のような逆効果をもたらしました。
- 中古住宅の価格競争が加速
- 新築物件の販売が停滞
- 結果として、開発業者の在庫は積み上がり続けている
現在、都市部では全体の約20%が空室という指摘もあり(投資目的で購入され空き家になっている住宅を含めた実質的な空き家率は依然20%前後に及ぶようです。情報)、大手不動産企業の破綻が相次いでいます。これは市場全体の信用不安を招き、消費者の住宅購入マインドをさらに冷え込ませている悪循環となっています。
こうした中、中国政府は約3000億元(約6兆円)の公的資金を投入し、売れ残った住宅の買い取りを進めています(情報)。これらの物件は公共住宅として再活用される計画だが、
- 市場の需給バランスを根本から改善するには至らず
- 信頼回復にもなお時間がかかる見通しである
という状況です。その結果、不動産不況は、単なる業界の停滞にとどまらず、中国経済全体の先行きを左右する深刻なリスクとなりつつあります。
地方政府の“土地依存”と構造的課題
なぜこれほどまでに中国各地でゴーストタウンが生まれたのか。 その背景には、以下のような地方政府の財政構造の歪みが存在しています。
- 地方自治体が土地の売却益(=土地使用権の譲渡収入)に過度に依存
- 税収が不十分なため、開発によって収益を得る「土地財政」が常態化
- 実需の乏しい地域でも大型開発を実施し、結果として空き家が増加
さらに、金融制度や税制の側面でも問題があるようです。
- 株式や外貨など不動産以外の投資に対する規制が厳しい
- 固定資産税がほとんどの地域で導入されていない
このため、不動産が「住むための場所」ではなく、「資産として保持する対象」となる傾向が強くなっています。これも最近日本の都市圏で聞くような話ではないでしょうか。
結果として、次のような現象が各地で広がっています。
- 空き家でも売却や賃貸の意思がないまま保有される
- 居住者不在のままマンションや住宅地が維持される
このように、「土地=財源」という構図が、中国の不動産開発を歪め、ゴーストタウンの温床となっているとのことです。
現地の声と社会の歪み
実際にオルドスを訪れたBappa Shotaさんの映像からは、都市の見た目とは裏腹に、人の気配がほとんど感じられない光景が記録されています。
- 巨大なリゾート施設や住宅街が未完成のまま放置
- 日雇い労働者が簡易な宿泊施設で寝泊まりする生活
一方で、夜間には高層ビルに灯りがともされ、外観は華やかに見えるが、実際には居住者がほとんどいない。これは以下のような現象を反映しています。
- 若者の流出によって高齢者だけが取り残された街
- 住宅は存在していても、活気ある「暮らし」が欠如
なんだか、どこかで聞いたことがあるような風景に思います。カンバシ地区の例は極端ですが、ここまでは廃墟化していないにせよ、同じような傾向は不便な場所にある日本のとある地域にもあるかもしれません。また今後進行していくことも大いに考えられるでしょう。
また、地域住民の証言や観察からは次のような矛盾も明らかとなっています。
- 高品質なインフラや施設が整備されているが、利用者はほとんどいない
- 都市としての形は整っていても、実質的には機能していない
「都市の設備は立派だが、それを利用する人がいない」という現実は、都市政策と実需の乖離を如実に物語っています。これは、過去の成長モデルに依存し続けてきた結果として現れた、構造的な歪みといえるのではないでしょうか。
おもな中国の指標データ
中国における住宅在庫や売上データについて、調査しましたので、紹介します。
指標 | 詳細 | 具体的な数値 | URL |
未完成の事前販売住宅 | Nomuraの2024年末の推定 | 2000万戸 | 情報 |
完成・引き渡し済み住宅 | 2025年のホワイトリストプログラムによる、2024年5月時点 | 400万戸 | 情報 |
予想される財政支出 | Goldman Sachsの追加支出予測 | 8兆元(約1.12兆ドル) | ー |
2024年上位100開発業者の売上減少 | 2024年前9か月、対前年比 | 28.1%減少 | 情報 |
2024年9月の売上減少 | 上位100開発業者、対前年比 | 37.7%減少 | 情報 |
新規建設プロジェクトの減少 | 2023年と2019年ピーク比 | 42%減少 | ー |
新規建設プロジェクトの減少 | 2024年前8か月、対前年比 | 23%減少 | ー |
2024年の不動産売上予測 | S&Pの予測 | 約9兆元以下 | 情報 |
2025年の不動産売上予測 | S&Pの予測、可能性として | 8兆元まで低下 | 情報 |
2021年の不動産売上ピーク | 比較のための参照値 | 18兆元 | 情報 |
再融資施設 | 人民銀行が2024年5月に国有企業向けに誓約 | 3000億元 | 情報 |
未販売在庫の予想残存率 | 分析家の推定、銀行や他が負担するコスト | 約30% | ー |
2024年10月の22主要都市の売上減少 | 対前年比 | 4%減少 | ー |
2024年9月の22主要都市の売上減少 | 比較のための参照値、対前年比 | 25%以上減少 | ー |
※筆者独自調べ
終わりに
中国は今、経済と社会構造の大転換点に立たされています。過剰投資、土地依存、家計資産の不均衡といった構造問題を解消するには、単なる資金投入や短期的な景気刺激策ではなく、制度設計そのものの見直しが不可欠でしょう。
透明性のある政策転換と、現実の需要に即した都市計画、そして地方財政の自立的な再構築が求められています。ゴーストタウンという現象は、その一端に過ぎません。むしろそれは、急成長の裏側に積み重ねられた無理と歪みが表面化したものに他ならないと言えるでしょう。
編集後記: 本コラムでは、ChatGPT(O4)とGrok(3)による二重のAIファクトチェックを実施し、信頼性と透明性を担保しています。
分かりやすい音声で解説
今回も2人のナレーターによる音声で解説しています。
中国不動産市場の現状が分かりやすく紹介されています。
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