近年、日本の住宅市場は大きな転換期を迎えています。これまで「住宅を購入するなら新築」という考え方が根強くありましたが、近年の急激な住宅価格の高騰により、その前提が揺らぎ始めています。新築マンションの価格が一般の会社員世帯にとって手の届きにくい水準まで上昇した結果、選択肢を中古マンションへと広げて検討する人が急速に増えているのです。
こうした価格高騰の影響は、住宅購入者の意識そのものにも変化を与えています。かつてのように「終の棲家(ついのすみか)」として一生住み続けることだけを前提とするのではなく、将来的なライフステージの変化や転勤などを見据え、「将来売却すること」を前提に資産価値を重視して物件を選ぶ人が増加しています。
しかし、中古マンションであればどれでも同じように価値が維持されるわけではありません。これからの「中古マンション時代」において、将来も高く売却できる物件と、買い手がつかずに値下がりしてしまう物件の差はどこにあるのでしょうか。本コラムでは、最新の不動産市況の動向を解説したうえで、これからの時代に最も重要となる「管理状態」や「長期修繕計画」が将来の資産価値に与える影響について、マンション管理士の視点から冷静かつ実務的に解説します。
なお、新築供給の減少と既存マンションの価値の関係については、こちらでも詳しく整理しています。
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新築マンション価格高騰で変わる住宅購入の現実
現在の不動産市場において、新築マンションの価格高騰は目をみはるものがあります。建築資材の価格上昇や人件費の高騰、さらには好立地な用地の不足などが重なり、新築マンションの分譲価格は過去最高水準を更新し続けています。例えば首都圏における新築マンションの平均価格は1戸当たり9000万円を超え、東京23区に至っては1億3000万円を突破するなど、一般的な会社員世帯にとって、現実的な購入が難しい水準になりつつあります。この市況の変化は、これから住宅を購入しようと考えている人々の心理や選択に直接的な影響を与えています。
マンション価格の高騰をPERの視点から確認したい方は、こちらの記事も参考になります。
新築希望割合の低下と中古マンション検討率の上昇
株式会社リクルートの調査研究機関である「SUUMOリサーチセンター」が発表した2025年の「住宅購入・建築検討者調査」によると、住宅購入検討者のうち「新築を希望する人の割合」は63%にまで落ち込み、これは2019年以降で最低の水準となっています。住宅価格の深刻な高騰により、多くの方にとって新築マンションの購入が現実的に難しくなっているという厳しい実態が数字に表れていると言えるでしょう。
その一方で、選択肢を広げて「中古マンションを検討する人の割合」は31%まで上昇しており、19年以降、上昇傾向が続いています。限られた予算の中で希望する立地や広さを確保するため、新築にこだわらず中古マンションを選択肢に入れる人が増えています。
実際に中古マンションを検討する際のチェックポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。
「価格がさらに上がる前に」という焦りと買い手の心理
現在の住宅市場では、「価格がさらに上がる前に買いたい」という心理が強まっています。買い時だと思った理由の調査でも、「これからは、住宅価格が上昇しそう」という回答が50%と最も多くを占めています。価格高騰が続く中でも、「今買わなければさらに高くなるのではないか」という不安感が、特に若い世代の購入判断へ影響しています。
しかし、この焦りには注意が必要です。予算の限界に近い物件を購入するために、夫婦で住宅ローンをそれぞれ借りる「ペアローン」や、最長返済期間が35年を超える40年・50年といった「超長期ローン」を選択するケースが増えています。これらは現在の低金利や価格上昇を前提とした資金計画になりやすく、仮に将来的な金利上昇や収入変動、あるいは相場の下落が発生した際、売却しても住宅ローンを完済できない「オーバーローン」のリスクを大きく拡大させる要因となっています。価格上昇局面だからこそ、将来売却できる物件かどうかを冷静に見極める視点が重要になります。
中古マンション時代に「売れる物件」が重視される理由
現代の住宅購入において、かつてのような「一度買ったら一生住み続ける」という画一的なライフプランは崩れつつあります。転職や転勤、結婚・出産、あるいは親の介護や老後の住み替えなど、人生の途中で住まいを変化させる必要性に迫られることは決して珍しくありません。そのため、住宅を購入する段階から「将来売却すること」を前提として物件を選ぶ人が増えています。
「将来的な売却」を前提とする検討者の急増
同調査によると、検討している物件に「永住する」と答えた割合が42%であるのに対し、「将来的に売却を検討している」と回答した割合は33%に達し、2021年以降で最も高い水準となっています。また、売却や賃貸に出すタイミングとして「土地や不動産の価格が上がったら(32%)」という理由が最も高く挙げられていることからも、現在は、将来的な住み替えや売却も前提に、資産価値を意識しながら住宅購入を検討する人が増えています。
これまでは、マンションの資産価値を左右する最大の要素は「立地」と考えられてきました。利便性の高い場所にある不動産は、需要が途切れにくいためです。
中古市場の買い手が重視するポイントの変化
中古マンションの購入を検討している買い手の目は、年々厳しくなっています。リフォームやリノベーションによって室内の壁紙や設備を新しくすることは、個人の費用でいつでも可能です。しかし、マンションの建物全体のコンクリートの劣化や、エレベーター、給排水管といった共有部分の設備は、専有部のリフォームではどうにもできません。
買い手が中古マンションを内覧する際、専有部分の綺麗さだけでなく、「エントランスやゴミ置き場が綺麗に清掃されているか」「外壁に大きなひび割れが放置されていないか」といった、マンション全体の維持・管理の状態をシビアにチェックするようになっています。現在の中古市場では、「どのように管理されてきたマンションか」が、買い手に選ばれる大きな条件になっています。
将来売却できるマンションを見極める4つの管理ポイント
これからの中古マンション時代において、物件の資産価値を担保するのは「管理状態」にほかなりません。では、具体的にマンションのどのようなポイントを見れば、管理状態の良し悪しを判断できるのでしょうか。物件選びや所有物件の価値確認において、必ずチェックすべき重要な実務的指標は以下の4つです。
長期修繕計画の有効性と定期的な見直し
マンションは年数の経過とともに必ず劣化します。その劣化を未然に防ぎ、建物の寿命を延ばすために不可欠なのが「長期修繕計画」です。これは一般的に30年程度の長期間を見据え、何年目に外壁塗装を行い、何年目に給排水管を更新するかを細かく定めた計画書です。
優れた管理状態のマンションでは、この長期修繕計画が定期的に(概ね5年ごとに)見直され、実際の建物の劣化状況や物価・人件費の変動に合わせて修正されています。もし、購入を検討しているマンションの長期修繕計画が何年も更新されていなかったり、計画自体が形骸化していたりする場合は注意が必要です。適切な時期に適切な修繕が行われず、将来的に建物の老朽化が急激に進むリスクがあり、それはそのまま将来の売却価格の低下に直結します。
長期修繕計画の見方や管理計画認定との関係は、こちらの記事もあわせて確認してください。
修繕積立金の適正水準と残高、財務の健全性
長期修繕計画を進めるためには、当然ながら多額の資金が必要になります。その資金として区分所有者から毎月集めているのが「修繕積立金」です。ここで重要なのは、現在の積立金の残高が十分に確保されているか、そして毎月の積立金額が適正な水準に設定されているかという点です。
よくある失敗例として、購入時の月々の負担を安く見せるために、毎月の修繕積立金を極端に低く設定しているマンションがあります。このような物件では、いざ大規模修繕工事を行う段階になって資金が足りないという事態に陥ります。結果として、工事を断念して建物が荒廃するか、あるいは各住戸に対して数十万〜数百万円の「一時金」が突然請求される、もしくは毎月の積立金が数倍に急値上げされることになります。将来の買い手は、こうした財務リスクや追加負担を非常に嫌がります。必要な工事を賄えるだけの積立金がしっかりと蓄えられているかを確認することは、資産価値を守る最低条件です。
修繕積立金不足を防ぐための考え方は、こちらで実務的に整理しています。
管理組合の運営実態と区分所有者の当事者意識
マンションの管理は、管理会社に毎月お金を払っていればすべて安心というわけではありません。管理の主体は、あくまで区分所有者全員で構成される「管理組合」です。管理組合が正常に機能しているかどうかは、資産価値に大きく影響します。
具体的には、定期総会が毎年開催され、議事録が適切に作成・保管されているか、また理事会が定期的に開かれてマンション内の課題(居住者のマナー問題、違法駐輪、修繕の計画など)に向き合っているかを確認します。住民の関心が低く、管理組合が事実上機能していない「管理不全」に近いマンションでは、トラブルや修繕の遅れが放置され、建物の維持管理も管理会社任せになって費用が高止まりするなど、負のスパイラルに陥りやすくなります。管理組合が主体的に機能しているかどうかは、将来的な資産価値にも大きく影響します。
日常的な管理状態の目視チェック
書類上の計画や財務状態だけでなく、現地に足を運んだ際に確認できる「日常的な管理状態」も極めて重要な指標です。これらは管理組合や管理員の仕事ぶりが最も顕著に表れる部分であり、中古市場で内覧に来た買い手が直感的に物件を評価するポイントでもあります。
- エントランスや通路の清掃状況:共有部分にゴミが落ちておらず、照明が切れたまま放置されていないか。
- ゴミ置き場の整理整頓とマナー:分別ルールが守られ、不法投棄などが放置されずに適切に処理されているか。
- 掲示板の情報鮮度:何ヶ月も前の古い案内が貼られたままになっておらず、最新の通知が分かりやすく掲示されているか。
- 駐輪場や駐車場の利用状況:放置自転車がなく、ルール通りに区画内に収まっているか。
これらが乱れているマンションは、住民のモラルが低下しているか、あるいは管理組合の監督が機能していない証拠です。日常的な清掃や管理状態の積み重ねが、将来の資産価値維持につながります。
中古マンション購入前に確認したい管理資料と認定制度
ここまで解説した通り、中古マンションの資産価値は「管理」によって大きく左右されます。しかし、一般の購入検討者が物件を探す際、どのようにしてこれらの深い情報を手に入れ、判断すればよいのでしょうか。ここでは、中古マンション購入前に確認したい実務ポイントと、近年注目されている管理認定制度について整理します。
「重要事項調査報告書」の開示を求める
中古マンションの売買を検討する際、最も確実かつ客観的なデータを入手する方法が、管理会社が発行する「重要事項調査報告書(またはそれに類する開示資料)」を確認することです。この書類は、不動産仲介会社を通じて、売り手側から取り寄せることができます。
この報告書には、ネットの物件概要には絶対に載っていない以下のような極めて重要な財務・運営情報が記載されています。
- マンション全体の修繕積立金の総額(現在の貯蓄残高)
- 管理費や修繕積立金の「滞納額」の有無とその総額
- 過去の大規模修繕工事の履歴および次回の予定
- ペット飼育の可否や楽器使用など、住みやすさに直結する規約上の制限
例えば、修繕積立金の総額が数千万円あっても、特定の住戸による多額の滞納があれば、実際の運営は火の車である可能性があります。購入前にこれらの数字を精査しておくことで、引き渡し後に「修繕一時金を請求された」「積立金が急値上げされた」という失敗を防ぐことができます。
最新の管理評価・認定制度をチェックする
これからの時代、中古マンションの管理状態を客観的に見極める強力な武器となるのが、国や業界団体がスタートさせた最新の「管理評価制度」です。書類を読み解くのが難しい一般の購入者でも、これらの認定の有無を確認することで、一目で優良な管理物件かどうかを判断できるようになっています。
- マンション管理適正評価制度:一般社団法人マンション管理業協会が運営する制度で、マンションの管理状態や管理組合の運営状態を項目ごとにシビアに評価し、6段階(星の数など)で格付けしてインターネット上で公開する仕組みです。購入検討者は、見える化されたデータを見て安心な物件かどうかを事前に判断できます。
- マンション管理計画認定制度:地方公共団体(自治体)が、国の定める一定の適正化基準を満たしたマンションの管理計画を公式に「認定」する制度です。この認定を取得しているマンションは、自治体や市場から「適切な管理が行われている優良物件」とお墨付きを得ている状態と言えます。
- マンション長寿命化促進税制:上記の管理計画認定を取得したマンションなどが、長寿命化のための適切な大規模修繕工事を行った場合に、区分所有者の固定資産税が一定期間減額される税制優遇措置です。
中古マンションを検討する際は、「管理計画認定」や「管理適正評価制度」の有無を確認することも重要です。
まとめ:これからの時代、マンションは「管理を買う」
日本の不動産市場において、新築マンションへのこだわりが薄れ、中古マンションが有力な選択肢となった現在、住まい選びの本質は大きく変化しています。新築であればどこでもある程度の綺麗さが保証されていた時代とは異なり、中古市場においては、過去から現在に至るまでの「管理の歴史」がそのまま物件の価値として値付けされることになります。
住宅価格が高騰し、将来の予測が立てにくい現代だからこそ、万が一のライフステージの変化の際に「いつでも適正な価格で売却できる(あるいは賃貸に出せる)」という流動性を確保しておくことは、最大の個人防衛策となります。
これからの中古マンション市場では、立地だけでなく、「どのように管理されてきたマンションか」が資産価値を大きく左右する時代になっています。
長期修繕計画、修繕積立金、管理組合運営、日常管理。
こうした“管理状態”そのものが、将来売却できるマンションかどうかを分ける重要な要素になっていくでしょう。目先の価格や室内の新しさ、焦りによる無理な資金計画に惑わされず、建物の財務と持続可能性をしっかりと見極める冷静な視点を持って、大切な資産となる住まいを選んでください。






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