高騰する首都圏マンション市場と独身者の都心志向:投資と実需の狭間で

マンショントピックス

※当コラムでは商品・サービスのリンク先にプロモーションを含むことがあります。ご了承ください。

首都圏では新築マンション価格が高騰し、特に東京都23区では平均価格が1億円を超える状況が続いています。(不動産経済研究所調べ。)

このような中、ファミリー層が都心物件を諦める一方で、独身世帯、特に独身男性の都心志向が強まっているという興味深い動きが見られます。(リクルート調べ。)

本稿では、高騰するマンション市場において、なぜ独身者が都心にこだわるのか、その背景にある投資と実需の思惑、そして潜むリスクについて掘り下げていきます。

首都圏マンション価格の高騰と独身者の都心志向

近年、首都圏の新築マンション価格は高騰しており、特に東京都23区においては2023年、2024年と2年連続で平均価格が1億円を突破しました。このような状況下、高すぎる都心物件を諦めるファミリー層が目立つ一方で、独身世帯は積極的に購入に動いており、特に独身男性の3割以上が23区を選択するという興味深い傾向が見られます。

リクルートの調査によると、2024年に首都圏で新築マンションを購入した独身男性の36%が東京都23区を選んでおり、これはファミリー層を含む全体の23区選択率(28%)を大きく上回る数字です。

首都圏では独身女性の23区選択率は全体と同率ですが、関西圏ではさらに都心志向が強く、大阪市内を選ぶ割合は独身男性が46%、独身女性も30%と全体(27%)よりも高くなっています。不動産経済研究所の調査では、2024年の新築マンション価格は23区が1億1181万円と高額である一方、大阪市も6000万円台ながら前年比で45.7%もの上昇を見せています。

共働き世帯が増加する中で、必ずしも世帯収入で有利とは言えない独身男女が、なぜこれほどまでに高騰する都心の新築物件にこだわり、実際に購入に至るのでしょうか。

独身者の都心志向の背景:投資と実需

リクルートSUUMO編集長の池本洋一氏は、その理由の一つとして「マンションを資産として考えるシングル層が増えたこと」を指摘しています。同社の調査(複数回答)では独身男性が「資産として有利」という答えが首都圏で53%、関西圏は49%と非常に高い割合を示しており、独身女性も独身男性より低いものの高い回答率となっています。これは、将来の売却を視野に入れた動きと言えるでしょう。

さらに池本氏は「シングル女性は資産性に加え、住まいとしての実需志向も強いと考えられる」とも話しています。実際、同社の購入理由の調査でも独身女性は「老後の安心」が首都圏39%、関西圏49%と突出して高くなっているようです。

大別すると同じ独身でも男性は投資的需要が強く、女性の方は投資志向が若⼲弱まり、実需も併せ持つという構図です。男女の違いについて、コンドミニアム・アセットマネジメントの渕ノ上弘和代表は「収入差が影響している」とみています。

若い女性の正規雇用率は上がり、男女収入差は縮みつつあります。ただ、厚生労働省の2024年の賃金構造基本統計調査で、残業代や賞与なども含めて比べると、女性の年収は男性より3割近く低い状況が続いています。

渕ノ上氏は、「収入が低いと相対的に高い投資リスクは負いにくく、都心の住まい所有による安心へ目が向くのかもしれない」と推測しています。老後も視野に買い物や医療利用などが便利な都心を選ぶとの見立てです。

価格高騰が男女の需要に及ぼす影響

男女の需要の中身の差は、価格高騰下で明確に表れます。実は2023年まで首都圏では独身女性の方が独身男性より23区選択率は高かったのですが、平均1億円が定着した2024年に逆転しました。値上がりでも都心志向が衰えない独身男性に対し、独身女性は首都圏は神奈川へ購入エリアを移した。関西圏も似た傾向です。

不動産市場では「通常、実需よりも投資的な目線で買う人の方が値上がりについて行ける」(東京都の不動産仲介会社)とされています。価格高騰は実需を減退させるが、投資需要なら購入負担は重く感じても売却時はさらに値上がりすると期待も抱かせるからです。

値上がり実現への不透明要素とリスク

ただ、値上がりの実現には不透明な要素があります。例えば、購入している新築マンションの面積です。首都圏では独身の男性で59.4%、女性で69%、関西圏も独身の男性38.6%、女性44.5%が専有面積60平方メートル未満です。23区や大阪市といった都心立地は魅力でも、相対的に小さい面積のマンションが常に高評価され続けるかはわかりません。池本氏も「将来は面積の狭さがネックとなる可能性もある。大きな値下がりまではなくても、既に購入価格もかなり高いので売却益は、ほとんどないということもあり得る」と警鐘を鳴らしています。

さらに池本氏は「万一、都心が地震など大きな災害に見舞われると現在の都心志向の住宅需要が一気に転換するリスクもある」と話します。人口過密エリアでの被災は混雑によって思うような避難ができなかったり、復興物資が行き渡るまでに長時間を要したりといった事態が予想されます。

「そうした状況を目当たりにし、都心を避けて分散居住する動きが一気に強まることも考えられる」(池本氏)とのこと。その場合、都心マンションは資産価値の下落に加え、人気低下が商店や医療施設などの撤退を招き、居住利便性まで損なわれるリスクを抱えます。

都心に住む魅力

都心、特に東京都23区は、単に「職住近接」という利点だけでなく、充実した交通網によるアクセス性の高さが魅力です。複数の鉄道路線が乗り入れ、都内各所や近郊への移動が容易であり、ビジネスパーソンにとっては大きなメリットとなります。

また、商業施設が集積しており、百貨店、ファッションビル、家電量販店など、あらゆるニーズに対応できる環境が整っています。近年では、駅直結型の商業施設も増え、日々の買い物や外食にも便利です。

さらに、文化・芸術施設も豊富です。美術館、博物館、劇場などが点在し、都心にいながらにして豊かな文化に触れる機会が多くあります。また、緑豊かな公園や庭園も整備されており、都心の喧騒を離れてリフレッシュできる空間も提供されています。医療機関に関しても、総合病院から専門クリニックまで、充実した医療体制が整っていることは、特に単身者にとっては安心材料となるでしょう。

近年、都心部では再開発も活発に進められており、新しい商業施設やオフィスビル、高層マンションなどが次々と誕生しています。これにより、街の景観が新しくなり、利便性も向上しています。一方で、テレワークの普及により、必ずしも都心に居住する必要性が薄れたという考え方もありますが、依然として都心ならではの利便性や魅力を求める層は根強く存在すると言えるでしょう。

まとめ:リスクを考慮した賢い住まい選びを

様々なリスクを考えれば、安易な値上がり期待などにとらわれるのは避けたいところです。池本氏は「マンションの表面的な特徴だけでなく、周辺の街を自分は本当に好きなのかを考えたい」と締めくくっています。資産価値や利便性が落ちても住み続けたいと思える住まいを厳選することが最終的に購入の満足度を高めることになるということです。

高騰する首都圏マンション市場において、独身者の都心志向は、単なるトレンドではなく、それぞれのライフプランや価値観に基づいた戦略的な選択であると言えます。男性の投資目線、女性の実需志向、そして潜在的なリスクを理解した上で、自身にとって最適な住まい選びを行うことが重要となるでしょう。

都心という魅力的な選択肢を検討する際には、物件そのものの価値だけでなく、周辺環境や将来的なリスクも十分に考慮する必要があると言えるでしょう。

【記事執筆・監修】
マンション管理士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古市 守
yokohama-mankan

マンション管理全般に精通し、管理規約変更、管理会社変更、管理計画認定制度の事前審査、修繕積立金の見直し、マンション関連コラムの執筆など、管理組合のアドバイザーとして幅広く活動。
また、企業経営、とりわけ財務・経理分野にも精通し、上場企業やベンチャー企業でCFOや財務経理部長を歴任。経営・財務視点を活かし、マンション管理の実践的なサポートを提供している。

yokohama-mankanをフォローする
マンショントピックス
シェアする
yokohama-mankanをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました