【記事解説】マンション組合、資産運用に動く 物価上昇で修繕に懸念(日経)

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以前にも、筆者の方で紹介した人気記事

がありましたが、本日日経の記事で以下のような記事(全文表示は有料)

マンション管理組合、資産運用に動く 物価上昇で修繕積立金に懸念 - 日本経済新聞
マンション管理組合が物価上昇を受け、住民から集めた修繕積立金の資産運用に動き出している。住宅金融支援機構が管理組合向けに発行する運用商品「すまい・る債」の2024年度の応募数は前年度比で3割増となった。管理組合向けの運用商品を開発する金融機関も現れ始めている。同債券は政府が全額出資する住宅金融支援機構がマンション管理組...

が出ていたので、筆者なりにまとめてみたいと思います。

日経有料版なので、ネタバレにならないように、かいつまんで紹介します。

マンション管理組合の資産運用が注目される理由とは?

今回の記事を見る限りですが、マンションの管理組合が余剰資金である修繕積立金をなんとかうまく運用したいということを考えていると思われます。

一般的な定期預金に加え、住宅金融支援機構によるすまい・る債はどのマンションでも注目しているところです。

それ以外にも新たな運用手段も出てきているようです。背景とともに確認してみます。

物価上昇と修繕積立金不足の深刻化

近年、建築資材や人件費の高騰により、マンションの修繕積立金が不足するケースが増えています。国土交通省の調査では、管理組合の約4割が「計画通りの積立ができていない」と回答しているようです。物価上昇に伴い、これまでの計画では修繕費用を賄えなくなる可能性が高まっています。

修繕積立金の運用が加速—すまい・る債の人気上昇

こうした状況を受け、管理組合が修繕積立金の資産運用に目を向け始めています。以前から運用している管理組合も多かったですが、特に最近注目されているのが、住宅金融支援機構が発行する「すまい・る債」です。2024年度の応募数は3592組合と、過去2年で約2倍に増加しました。これは、国が発行する比較的安全な運用手段として、管理組合に受け入れられやすいためです。

すまい・る債のおもなメリット・デメリットとしては、

メリット

  • 国が全額出資する機関が発行しており、安全性が高い
  • 通常の銀行預金よりも高い利回り(2024年度:0.5%)
  • 特に管理計画認定制度を取得しているマンションは0.55%の利回り

デメリット

  • 依然として物価上昇率に追いつかない(建築コストの上昇率と比べると利回りは低い)
  • 長期的な視点では資金を増やしにくい

などが考えられそうです。

新たな運用手段—融資型クラウドファンディング(CF)

筆者の冒頭の記事でも紹介していますが、最近では、管理組合向けの新しい運用商品も登場しています。例えば、融資型クラウドファンディング(CF)を手掛ける「Funds」が、管理組合向けの投資商品を開発しました。

特徴

  • 予定利回りは1〜3%と、すまい・る債を上回る
  • 元本割れリスクを抑えるため、信用力の高い上場企業などに融資
  • 満期1〜3年と短期で運用可能

このように、管理組合が選択できる運用手段の幅が広がりつつあります。しかし、融資型CFには一定のリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。

管理組合としては依然として根強い「安全志向」

国交省の調査によると、管理組合の約35%が定期預金で積立金を運用しており、19%がすまい・る債を活用しています。一方で、普通預金に置いたままの組合も少なくありません。

管理組合は、将来的な大規模修繕工事のための修繕積立金を「減らさないこと」を最優先に考えます。そのため、投資信託などリスクのある運用手段には手を出しづらいのが現状です。また、金融に詳しい人が理事にいたとしても、組合全体の合意を得るのは容易ではありません。

今後の展望—管理組合向けの運用支援が重要に

マンション管理組合の修繕積立金は国内で約2兆円規模にのぼるとされています。しかし、多くの資金は依然として低金利の銀行預金に眠ったままです。今後、金融機関による運用サポートや新たな投資商品の開発が進めば、管理組合の資産運用がより活発化する可能性があります。

🔹 記事のポイント

  • 物価上昇の影響で修繕積立金の不足が深刻化
  • すまい・る債の利用が増えているが、利回りは限定的
  • 新たな運用手段として融資型CFが登場
  • 依然として安全志向が強く、リスクのある運用は敬遠されがち
  • 今後は金融機関のサポートが重要なカギに

筆者が考える修繕積立金運用上の懸念は?

この記事を確認して、筆者が考える修繕積立金の運用上の懸念点を確認していきます。

特に、この記事

でも運用上の注意点について、4つの視点で触れています。

✅合意形成
✅リスクとリターン
✅短期では複利効果が限界
✅運用途中で修繕積立金が必要となってしまう可能性

それぞれについては、上記の記事を確認頂くとして、それ以外の観点で深堀含めて考えてみます。

投資・運用という考え方がまだまだ区分所有者の意識として低い可能性

マンションの修繕積立金は、全区分所有者のものでもあり、「修繕積立金の運用」となると金融リテラシーの高い人、低い人双方存在します。

ちなみに、現在資産運用をしているのは、38%とのデータが出ています。
※参考:2024年3月アンケート調査実施 投資信託に関する意識調査2024 野村アセットマネジメント 資産運用研究所

したがって、管理組合内でも同様の比率であるとすれば、全区分所有者のうちの4割弱しか資産運用をしていないとも見ることができます。

そして、管理組合内で資産運用を提案しても、したことが無い人が否定的な意見に回るとすれば、過半数にも満たないという実態もあります。

そのため、合意形成は比較的難しい管理組合も考えられそうです。

思ったほど増えないという事実

上記の筆者の記事でも挙げていますが、仮にすまい・る債の0.5%で10年間複利運用できたとしても、1億円とすると

✅1億円の運用:1億円×(1+0.005)^10年=1億511万4,013円
運用益:511万4,013円 10年間の複利利回り:5.1%
※税引き前で試算
※^10は10年複利計算の算式

となります。

さらに、管理計画認定制度の認定取得マンションであれば、0.55%の利回りであることから、

✅1億円の運用:1億円×(1+0.0055)^10年=1億563万8,140円
運用益:563万8,140円 10年間の複利利回り:5.6%
※税引き前で試算
※^10は10年複利計算の算式

となります。

認定制度取得マンションのメリットは、そうでないマンションに比べて+1,035,528円であり、税引き後であれば約8掛けの80万強といったところでしょうか。

1億円運用しても511万ということで、10年経っても消費税の1割にも満たない額しか運用成果が出ないという見方もできます。

日経記事にもあった、神奈川県の管理組合の声のように「すまい・る債で運用しても資材高騰の足しにもならない」感じかもしれません。

高額な修繕積立金を運用できる管理組合は限られる

修繕積立金が不足しているマンションも多い中で、例でも挙げた余剰金が1億円あるマンションとなると、堅実に修繕積立金を積み上げている大規模マンションやタワーマンションなど、一定数のマンションに限られるかもしれません。

大規模修繕工事の間に工事を行うための修繕積立金も残しておく必要も想定されます。

それを考えると、すまい・る債であっても運用して、そこそこのリターンを生むことができるという管理組合は一定数に限られるかもしれません。

それ以外は少額の運用実績になるか、日経の記事にあったとおり普通預金に残したままということも考えられそうです。

今の日本で修繕積立金を運用して増やすのはリスクと向き合わなければならない

今回は日経の記事を確認して、改めて補足コメントを紹介しました。

現在の管理組合の事情や、金利事情を考えると、日本の金利が上がったとしてもなかなか増やすための運用は難しそうです。

クラファンの運用も個人的には魅力的ですが、区分所有者の合意形成が必要という管理組合という立場を考えると、修繕積立金については、

「減らさず、少し増えればよい」

という所なのでしょうか。

物価高騰を上回る運用益がでるのは、当面難しそうだと感じた記事でした。

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