今度、管理組合の理事長になるのだけれど、どのような役割を果たさなければならないのだろうか…?
また、
マンションに住んでいるけど、管理組合の理事長って立場の人はどのような役割を果たしているのだろうか…?
さらには、
管理組合の理事長をやって欲しいって言われたけど、責任が重大だな…
などなど、マンション管理組合の理事長には、どのような役割があるのか、疑問を持っている方も非常に多いと思います。
今回は、管理組合の理事長について書かれている、標準管理規約第38条の紹介となります。
そして、このような管理組合や区分所有者の疑問に応えるべく、マンション管理士の筆者がここだけで紹介する独自の視点も含めて細かく解説します。
【規約解説】絶対知りたいマンション管理組合理事長の役割とは?
今回紹介する内容は以下の通りです。
・第38条 マンション管理組合「理事長」の規定に対する補足・注意事項は?
・マンション管理組合「理事長」の業務に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
まず、最初の章では標準管理規約第38条の条文から「利益相反取引の防止」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
今回は、国土交通省が示している文面を、筆者が意訳せずにまずはそのまま紹介します。
その後、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第38条「理事長」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者が気を付けておいた方が良い点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
早速、次章より当該条文について紹介します。
標準管理規約第38条 マンション管理組合の「理事長」とは?
ここでは、標準管理規約第38条「理事長」の条文を紹介します。
各項細かく定めらているため、項目に分けて紹介します。
標準管理規約第38条「理事長」条文
第38条の条文は以下の通りです。
第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
一 規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
二 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4 理事長は、○か月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。
5 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。
6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。
以下、各6項目について紹介します。
第1項 理事長の業務
まず、第1項では「理事長は管理組合を代表する」とされています。
会社における社長のような位置づけとも言えるでしょう。
また、理事長の業務について定義されています。
具体的には、
・理事会の決議を通じて、職員の採用や解雇
とあります。
職務についてはイメージ付く所ですが、職員の採用や解雇についてはなかなかイメージが付かないでしょう。
具体的には、大規模なマンションや団地、または管理組合が法人化された管理組合法人など、理事長だけでは対応できないほどの職務がある場合は、一人では手掛けられないかもしれません。
そのために、このような内容が追加されています。
もっとも、大半の管理組合では、他の理事や区分所有者が手分けして対応したり、管理会社に業務を委託することによってサポートして貰うことが多いのではないでしょうか?
第2項 理事長の管理者としての位置づけ
第2項には、
とあります。
区分所有法上の管理者とは、
という位置づけで、区分所有法的にはこの言い方となっています。
そして、この38条2項で「管理者=理事長」として改めて定義しています。
法律用語としての「管理者」は、管理組合としてほとんど使用されないと考えられます。
第3項 理事長の通常総会での報告義務
管理組合の通常総会において、理事長は年間の総括をする必要があります。
総会の決議の前に、理事長から前年度の事業報告が実施されるのはそのためです。
また、会社においても年間の報告を株主にする必要があります。
従って、
と同様の位置づけになると考えられます。
第4項 理事長の理事会での報告義務
総会だけでなく、各理事が参加する理事会においても、業務の報告をする必要があります。
管理組合によりますが、「○か月に1回以上」とあり、定期的に理事会を開催して報告をしなければなりません。
こちらも、
と同様の位置づけになると考えられます。
第5項 他の理事への権限移譲
こちらは、おもに第1項に理事長の業務として位置づけられているものを、他の理事への権限移譲ができるというものです。
理事長の対応は多岐に渡り、またほかに仕事を抱えている現役であれば、理事会対応に注力するわけにはいかないこともあります。
また、どうしてもすぐには対応できない事項等も発生するかもしれません。
そのため、このような権限移譲が定められています。
こちらも、会社組織等においても同様の定めがあるでしょう。
本来は社長が対応すべき業務や意思決定すべきものであるものの、権限委譲して他の取締役や部長の権限で業務対応や意思決定ができるなどと同様の位置づけと考えられます。
第6項 理事長の利益相反事項への対応
第1項にあったとおり、理事長は管理組合の代表という位置づけです。
そのため、利益相反事項として、
管理組合にとってマイナスであり、理事長個人にとってプラスとなる事項
が考えられます。
そのような状態であっても、代表権をもつ理事長がリーダーシップで決定するとなると、管理組合としても望ましいことではありません。
そのため、このような事項が発生する場合は、理事長はこの件に限っては代表権は持たない、すなわち、理事長の立場ではいられないということになります。
したがって、
と定めてあり、理事長以外の監事や他の理事が、その案件については理事長の代わりとして代表となるということとなります。
「理事長以外の理事又は監事」
となっておらず、
「監事又は理事長以外の理事」
と監事が先に書かれているので、理事長の利益相反事項については、理事会メンバーではない、客観的な判断ができる監事が代表となるのがより望ましいのではと考えられます。
第38条 マンション管理組合「理事長」の規定に対する補足・注意事項は?
次に、他の条文と同様に第38条も国土交通省が補足や注意事項を記載しています。
具体的にどのようなことを記載しているのか、各項目について確認していきます。
今回は、国土交通省が記載している内容をそのまま紹介したうえで、筆者の補足を加える形で説明します。
理事長や理事会で決めるよりも総会に委ねるべき内容
日照障害を例に出していますが、「重要な問題に関しては総会の決議により決定」とあります。
これは、標準管理規約第48条「議決事項」の第十七号に、
十七 その他管理組合の業務に関する重要事項
とあります。
すなわち、管理組合にとっての重要と考えられる事項は、理事長や理事会ではなく、総会で決議すべきであると考えられます。
WEB会議システムを用いて開催する通常総会時の注意点
また、WEB会議システムを用いて通常総会を実施する場合の注意点も紹介されています。
理事長からの年間の報告においては、WEB会議システムを用いて実施することでも問題ないとしています。
一方で、リアルな会場開催と同様に、各組合員からの質疑応答に適切に対応することが求められます。
会社の取締役会等の会議でもよくありますが、議長である理事長が
のような状態であることが前提となるでしょう。
画面の向こう側にいる区分所有者からの質疑において、漏れないように適切に対応することが求められると言えます。
理事会の開催とWEB会議システムを用いて開催する時の注意点
まず、理事会を定期的に開催して、理事長はその場で職務執行報告することが求められています。
そして、WEB会議システムを用いる場合は、総会同様に、理事会でも注意点が指摘されています。
定期的として、例えば3か月に1回以上など、年間4回は理事会で職務執行報告をすることが求められます。
これは各管理組合で定める事項であることから、回数は任意に決めるものと考えられています。
理事長が利益相反に当たる場合の補足事項
最後に挙げているのが、理事長の利益相反行為についてです。
こちらは、第37条の2「利益相反取引の防止」
について詳細を記載していますので、合わせてご参照ください。
次章では、これまでの内容を踏まえて、筆者独自の視点から管理組合や区分所有者、とりわけ理事長の方に対して気を付けておくべき事項を紹介します。
マンション管理組合「理事長」の業務に対して管理組合や区分所有者が気を付けておくべき事項は?
最後の章では、これまでの規約の条文や国土交通省が補足・注意すべき内容を踏まえ、筆者が独自の視点で気を付けておいた方が良い点を、さらに補足という形で紹介します。
理事長の責任や負担が大きいので他の理事で分担する
これまで紹介した中で既にお分かりかと思いますが、理事長の職務はここまでしなければならないのかと感じている方も非常に多いと思います。
実際には、理事長にはリーダーシップが必要で、加えて現役で働いている方も多いのが実情です。
マンションの建築年度と住民構成が比例することを考えると、特に建ってから時間が経っていないマンションは現役世代が大半となるでしょう。
そのため、理事長以外の他の理事と分担しながら、管理組合業務を進めていくことが求められます。
加えて、理事長に業務が集中すると、押印事項をはじめとする管理組合内の業務も滞る可能性も考えられます。
管理組合として、第5項にも定められているとおり、他の理事に権限委譲していくことも一つの考え方です。
他の理事は理事長の負担を配慮して必ず協力する
前項のように、理事長には責任と負担が集中することとなります。
対して、副理事長や会計理事以外の、役職がない平理事においては理事会に出席することが中心となります。
したがって、業務負担が軽い理事については、理事会や総会の事前準備に関与するなど、理事長をサポートする意味でも配慮して協力することが求められます。
理事長への権限が集中しないように配慮する
上記のように、理事長業務が各理事に分担されているならある程度は緩和されることが想定できますが、業務や責任が理事長に集中すると、権限も集中することとなります。
組織論の原則として、
という理論があるためです。
詳しい理論はここでは解説しませんが、
・一方の権限だけが大きいと理事長職権の乱用リスクがある
ことから、バランスが必要であるということになります。
とりわけ、権限が集中するかどうかについては、理事会等で他の理事や監事がチェックすることも重要であると言えます。
WEB会議システムやその他電磁的方法を有効活用する
そして、理事長の業務効率化においては、WEB会議システムやメールやチャットツールをはじめとした電磁的方法が欠かせません。
理事会や総会においては、わざわざ会場手配も不要になりますし、ツールを使えば紙による資料配布も削減できます。
一方で、他の理事や出席する監事、総会においては区分所有者に配慮する必要もあります。
そのため、会議参加者のITリテラシーにも配慮しつつ開催することも求められるでしょう。
特に長年住んでいる区分所有者は一度理事長をやった方が良い
最後に、筆者から一つの提案です。
20~30年以上同じマンションに住んでいる区分所有者は、良くも悪くもマンションの内情を良く分かるようになっているでしょう。
必ず役員の経験はあるかと思いますが、もし一度も理事長経験がない方であれば、輪番制、立候補制問わず、可能なら一度理事長をやるべきと思います。
これまでの他の理事長の苦労も分かるうえ、マンションの全てのことを把握する良い機会と言えます。
前述の通り、負担が掛かるため、他の理事とともに業務を分担しながら進めていくことが求められます。
理事長の負担は役員や区分所有者が配慮することも考えられる
今回は標準管理規約第38条の「理事長」について紹介しました。
また、繰り返しにはなりますが、理事長には一定の権限があるものの、責任も重くのしかかる役職です。
そのため、管理組合内においては役員もそうですが、理事長のなり手も中々いないのが現状です。
一方で、一定の方が理事長に就任し続けることによる、固定化することによる功罪も考えらえます。
したがって、多くの方が理事長を経験することによって、管理組合における問題をより多くの区分所有者で意識していくことも重要であると考えられます。
コメント