都心や横浜市内で高額な新築マンションを検討する人に向けて、月々の住宅ローン返済額を抑える新しい選択肢が登場しています。
その一つが、元金の一部を返済最終日まで据え置く「期日一括返済併用型住宅ローン」、いわゆる「2階建てローン」です。
住宅価格が高騰するなか、希望する立地や広さのマンションを購入しようとすれば、借入額が1億円を超えることも珍しくなくなりました。月々の返済額をできるだけ抑え、手元資金を残したいと考える人が増えるのは自然なことです。
特に30代、40代では、結婚、出産、子育て、転職、独立、親の介護など、支出や収入が大きく変わり得る時期が続きます。住宅ローンに家計の余力をすべて使ってしまうより、日々の生活や将来の選択肢を狭めたくない、という考え方には理解できる面があります。
一方で、月々の返済額を抑えられることと、住宅を無理なく買えることは同じではありません。
2階建てローンは、住宅価格そのものを下げる仕組みではなく、返済の重心を将来へ移す仕組みです。しかも、分譲マンションでは住宅ローン以外に、管理費、修繕積立金、固定資産税・都市計画税、保険料などが継続します。
高額マンションを購入する場合は、「今月いくら払えるか」だけでなく、「将来の自分がいくら返せるか」「マンションを維持する費用まで負担できるか」を一緒に考える必要があります。
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2階建てローンは、返済額を減らす商品ではない
2階建てローンは、借入額のうち一部を通常どおり毎月返済し、残りの元金は返済最終日まで据え置く住宅ローンです。
据え置かれた部分は、返済期間中、利息を支払います。しかし元金そのものは減りません。そして返済最終日に、残った元金をまとめて返済する必要があります。
日本経済新聞の報道では、1億円を35年で借り入れる場合、月々の返済額を通常の住宅ローンより約7万3,000円抑えられる一方、借入条件によっては総返済額が約1,940万円増えるとの試算も紹介されています。
月々の返済額だけを見ると、家計に余裕が生まれたように感じるかもしれません。しかし、その余裕は「返済しなくてよくなった」ものではありません。「返済時期を後ろへ動かした」ものです。
また、据え置かれた元金は、最終日に必ず返済しなければなりません。返済期間中に住宅ローン残高がどのように減っていくのかを確認すると、一般的な元利均等返済の住宅ローンとは性格が大きく違うことが分かります。
月々の返済額が低く見える商品ほど、毎月の数字だけで判断しないことが重要です。
高額物件を買える人向けの商品だからこそ、慎重な資金計画が必要
報道によれば、この2階建てローンは、東京23区、横浜市、大阪市などにある1億円以上の高価格帯マンションを主な対象とし、年収1,000万円以上などの利用条件が設けられています。
つまり、住宅取得に苦しむすべての人に向けた一般的なローンというより、高い返済能力を持つ人が、資金配分を調整するための選択肢と考えるべき商品です。
年収が高ければ、どのような返済計画でも安全というわけではありません。
年収は、転職、役職定年、独立、病気、育児、介護などで変化します。ボーナスや株式報酬、事業所得など、毎年同額とは限らない収入もあります。夫婦の収入を前提に高額なマンションを購入する場合には、どちらか一方の収入が減ったときにも維持できるかを考える必要があります。
金融機関の審査に通ることは、返済可能性を一定の基準で確認されたという意味です。しかし、それは「どのような生活の変化が起きても、余裕を持って返済できる」という保証ではありません。
借りられる額と、無理なく返せる額は別です。この点は、借入上限額が広がる時代だからこそ、より重要になっています。フラット35改正で1.2億円まで借りられる時代に|住宅ローン拡大の「光と影」でも、高額借入における返済計画の考え方を解説しています。
40年・50年ローンとは、先送りの意味が違う
月々の返済額を抑える方法として、40年や50年の超長期住宅ローンを選ぶ人も増えています。
超長期ローンは、元金を返済する期間そのものを長くする仕組みです。返済期間が長くなる分、毎月の元金返済額は小さくなりますが、原則として元金は毎月少しずつ減っていきます。
一方、2階建てローンは、元金の一部を最終日まで据え置きます。月々の支払いを抑えられる理由は、返済期間を延ばすことだけではなく、元金返済そのものを最後へ回すためです。
どちらも、毎月の住宅ローン返済額を小さく見せることはできます。しかし、将来に残る負担の形は異なります。
超長期ローンでは、完済年齢が後ろへ延びます。退職後も住宅ローンが残る可能性があります。
2階建てローンでは、退職前後や子どもの教育費がかかる時期に、大きな一括返済が重なる可能性があります。
どちらがよいかは、年齢、収入、保有資産、家族構成、退職後の生活設計、マンションを住み続ける予定か売却する予定かによって変わります。
少なくとも、月々の返済額だけを横並びで比較するのではなく、完済年齢、総返済額、返済最終日の残高まで並べて確認することが必要です。
マンション購入後に続く、四つの資金負担
高額マンションを購入する際には、住宅ローンだけでなく、次の四つの負担をまとめて確認しましょう。
毎月の住宅ローン返済
通常返済部分の元金と利息、据え置き部分の利息を、返済期間中は毎月支払います。
変動金利型を選ぶ場合には、現在の返済額だけでなく、金利が上がった場合でも家計が維持できるかを確認する必要があります。
住宅ローン以外に自動車ローン、教育ローン、カードローンなどがあれば、それらも含めた家計全体で見るべきです。住宅ローンの返済比率だけが低くても、家計に残る余力が小さければ、予想外の支出に対応しにくくなります。
返済最終日に必要となる据置元金
据え置かれた元金は、最終日に自動的に消えるわけではありません。
預貯金で返すのか、退職金を充てるのか、運用資産を取り崩すのか、マンションを売却するのか。購入時点で、どの方法により返済原資を準備するのかを具体的に考えておく必要があります。
例えば、1億円を借り入れ、その半分を据え置く設計であれば、最終日に5,000万円の返済原資が必要になります。
「そのころには収入が増えているはず」「投資で増やせているはず」「物件価格も上がっているはず」といった期待だけでは、返済計画とはいえません。
管理費・修繕積立金などの継続住居費
マンションでは、住宅ローン返済とは別に、管理費、修繕積立金、駐車場使用料、固定資産税・都市計画税、火災保険料・地震保険料などが必要です。
特に管理費と修繕積立金は、マンションに住み続ける限り、原則として支払いが続きます。住宅ローンを完済した後も、これらの費用はゼロになりません。
住宅ローンの返済額が月7万円下がったとしても、数年後に修繕積立金が月2万円上がり、管理費も月1万円上がれば、家計改善の効果は大きく薄れます。
マンションの住居費は、住宅ローン単独ではなく、住み続けるための総コストで考える必要があります。この点は、マンションの住宅ローン借換えは「金利」だけで判断してはいけない|管理費・修繕積立金まで含めた家計防衛でも詳しく整理しています。
将来の修繕積立金の値上げや一時金
新築時の修繕積立金が、将来にわたって同額とは限りません。
長期修繕計画が段階増額方式であれば、購入後に値上げが予定されていることがあります。新築時の月額だけを見るのではなく、5年後、10年後、15年後にいくらとなる計画なのかを確認しましょう。
修繕積立金の水準が不足すれば、管理組合では、値上げ、一時金の徴収、借入れ、工事内容の縮小、工事時期の先送りなどを検討する可能性があります。
首都圏では修繕積立金の上昇も現実のテーマです。購入時には現在の月額だけでなく、将来の改定予定まで確認する必要があります。首都圏マンションの修繕積立金が5.6%上昇|レインズ調査から見えた「静かな値上げ」の現実も参考になります。
「浮いたお金を運用すればよい」だけでは不十分
2階建てローンでは、月々の返済額を抑え、その分を新しい少額投資非課税制度などによる資産形成に回す考え方も想定されています。
毎月の返済を抑え、手元資金を投資に振り向けること自体が誤りというわけではありません。長期・積立・分散の考え方は、資産形成において重要です。
しかし、住宅ローンの最終返済に必要な資金を運用で準備するなら、投資の値動きと返済時期の関係を考えなければなりません。
返済時期が近づいたときに、株式市場や投資信託の基準価額が下落している可能性はあります。必要な時期に十分な金額を取り崩せなければ、資産を安値で売却することになりかねません。
また、運用による利益には税金や手数料、商品ごとのリスクもあります。期待どおりの収益率が実現しない場合もあります。
住宅ローンの元金返済は、期限と金額が決まっています。一方、運用成果は確定していません。
この二つを組み合わせる場合には、「運用がうまくいかなかった場合でも返済できるか」という視点を必ず持つべきです。
「最後は売れば返せる」という前提にも注意が必要
据置元金の返済にマンション売却資金を充てる考え方は、合理的な場合もあります。購入後、家族構成や働き方が変われば、住み替えが必要になることもあるためです。
ただし、その前提が成り立つためには、返済時期に売却できること、売却価格が残債と仲介手数料などの売却費用を上回ること、売却後の住まいを確保できることが必要です。
不動産価格が上がり続けることを前提にはできません。売却時の市況、住宅ローン金利、競合物件の供給、周辺の再開発、建物の管理状態、修繕積立金の水準などによって、売りやすさも価格も変わります。
マンションは、同じ駅からの距離、同じ広さ、同じ築年数であっても、管理状態や修繕計画によって評価が変わります。買主が見るのは室内だけではなく、共用部分の状態、管理組合の財政、修繕積立金、修繕履歴、将来の負担見通しです。
特にタワーマンションは、エレベーター、防災設備、機械式駐車場、給排水設備、共用施設など、維持すべき設備が多くなりやすい住宅です。
購入時の眺望や資産性だけでなく、30年後も維持できる管理体制があるかを見ることが欠かせません。タワマン30年後問題|修繕積立金・管理費はどこまで上がる?全国270棟の供給データから考えるでは、その視点を詳しく解説しています。
購入前に確認したい、管理組合の資料と数字
高額マンションを購入する際には、物件価格、間取り、眺望、駅からの距離だけでなく、管理組合に関する資料も確認しましょう。
新築マンションであれば、販売資料に記載された管理費・修繕積立金の月額だけを見て終わりにしないことが大切です。長期修繕計画において、修繕積立金が将来どのように見直される前提なのかを確認します。
中古マンションであれば、重要事項に係る調査報告書、長期修繕計画、総会議案書、総会議事録などを確認します。
具体的には、次のような点が重要です。
- 修繕積立金の残高は十分か
- 修繕積立金の改定予定はあるか
- 大規模修繕工事をいつ実施し、次回はいつ予定されているか
- 管理組合に借入金はあるか
- 管理費や修繕積立金の滞納は多くないか
- 管理費会計、修繕積立金会計は継続的に赤字となっていないか
- 駐車場収入など、将来減少する可能性のある収入へ過度に依存していないか
- 総会で修繕積立金の値上げ、一時金、借入れが議題となっていないか
住宅ローンは個人の借入れですが、マンションに住み続ける以上、管理組合の財政状態と切り離すことはできません。
個人のローン返済計画と、マンション全体の長期修繕計画。この二つを別々に考えてしまうと、将来の住居費を見誤る可能性があります。
購入前には「月額住居費」で比べる
マンション購入の予算を考えるときは、住宅ローンの返済額だけでなく、次のように月額住居費へ置き換えて比較すると分かりやすくなります。
住宅ローン返済額
+ 据置部分の利息
+ 管理費
+ 修繕積立金
+ 駐車場使用料
+ 固定資産税・都市計画税の月割額
+ 保険料の月割額
+ 将来の修繕積立金値上げに備える余力
+ 据置元金の返済原資として毎月積み立てる額
この合計額を、現在の手取り収入だけでなく、収入が減少した場合の家計でも支払えるかを確認します。
例えば、転職で年収が下がった場合、子どもの進学で教育費が増えた場合、どちらか一方の収入が一時的になくなった場合、住宅ローンの返済とマンションの維持費を続けられるでしょうか。
こうした確認は、住宅購入を諦めるためのものではありません。物件価格、頭金、借入額、返済期間、住むエリア、広さ、購入時期を、自分たちの生活に合った水準へ調整するためのものです。
まとめ|返済を先送りしても、マンションの費用は先送りできない
2階建てローンは、月々の返済負担を抑え、手元資金や家計の自由度を確保しやすくする選択肢です。
一方で、返済最終日に大きな元金返済が残ります。加えて、マンションでは管理費・修繕積立金など、住み続ける限り必要な費用があります。
大切なのは、「月々いくらなら払えるか」だけで決めないことです。
住宅ローン、最終返済原資、管理費、修繕積立金、税金、保険料まで含めて、住み続けても、売却することになっても、無理なく対応できるかを確認する。その視点が、高額マンション購入で後悔しないための第一歩になります。
住宅ローンは、希望するマンションを買うための手段です。しかし、返済計画そのものが生活の自由を奪うものになってしまえば、本末転倒です。
返済を先送りする仕組みを利用するなら、将来の自分へ負担を丸ごと先送りしないこと。購入時の資金計画に、マンションを維持するための長期的な費用まで入れることが、これからの高額マンション購入ではますます重要になります。
※住宅ローンの商品内容、金利、利用条件は変更されることがあります。実際に検討する際は、必ず金融機関の最新の商品概要・契約条件をご確認ください。
【参考記事】
日本経済新聞 2026年9月11日
「若者のタワマン購入、返済先送りローンの誘惑『生活縛られたくない』-YOUTH FINANCE」





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