マンション防災訓練100%は実現できるのか|首都直下地震と管理組合の課題

マンション管理

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内閣府は、首都直下地震への備えを強化するため、首都直下地震対策の基本計画を約10年ぶりに改定しました。(内閣府防災情報 首都直下地震緊急対策推進基本計画

今回の改定では、想定される被害を少しでも減らすため、対策項目が大幅に増やされました。その中で、マンション管理組合にとっても見過ごせない目標が示されています。

それが、防災訓練を年1回以上実施するマンションの割合を、2023年度の51%から2033年度までに100%へ引き上げるという目標です。

これだけを見ると、「防災訓練を毎年実施すればよい」という話に見えるかもしれません。しかし、管理組合の現場では、そう単純ではありません。

防災訓練を実施しても参加者が集まらない。感震ブレーカーや家具固定、備蓄、簡易トイレといった専有部の備えには踏み込みにくい。防災対応が管理会社任せになり、理事会の年間運営に組み込まれていない。

こうした課題を抱えるマンションは少なくないはずです。

今回の記事では、国によって首都直下地震対策で示された「マンション防災訓練100%」という目標を、管理組合の現場ではどのように受け止めるべきかを考えます。

防災訓練は、単なる年中行事ではありません。これからは、在宅避難体制を確認する「点検日」として、管理組合の年間運営に組み込む視点が重要になります。

首都直下地震で管理組合に何が問われるのかについて、動画でも解説しています。記事とあわせてご覧いただくと、今回の論点がより具体的に分かります。

  1. 首都直下地震対策で示された「マンション防災訓練100%」という目標
    1. 被害想定の大きさが、対策強化の背景にある
    2. 防災訓練実施率を51%から100%へ
    3. 重要なのは、数字を達成することだけではない
  2. なぜ防災訓練100%は簡単ではないのか
    1. 参加者が集まらないという現実
    2. 「訓練をやります」だけでは住民は動きにくい
    3. 参加促進策は別記事で深掘りする
  3. 防災訓練は「避難する練習」だけではない
    1. マンションでは在宅避難が現実的な選択になる
    2. 在宅避難には生活継続の課題がある
    3. 訓練で確認すべき内容も変わる
  4. 専有部の備えは重要だが、管理組合が強制することは難しい
    1. 感震ブレーカーや家具固定にも高い目標がある
    2. しかし、多くは専有部の備えである
    3. 管理組合は強制ではなく、継続的な周知を担う
  5. 共用部と専有部を分けて、防災を設計する
    1. 共用部は管理組合が主体的に確認できる
    2. 専有部は各家庭の判断に委ねられる
    3. 防災倉庫や備蓄スペースも検討課題になる
  6. 管理会社任せではなく、年間運営に組み込む
    1. 管理会社の役割は重要だが、主体は管理組合である
    2. 年間スケジュールに入れることで継続しやすくなる
    3. 国の目標を、自分たちの運営を見直す機会にする
  7. 防災訓練100%時代に、管理組合が確認すべきこと
    1. 防災訓練を形式で終わらせない
    2. 防災は一部の人だけが担うものではない
    3. 次回の理事会で確認したい視点
  8. FAQ
    1. Q. マンションの防災訓練は、年1回実施すれば十分ですか?
    2. Q. 防災訓練に参加者が集まらない場合、どう考えればよいですか?
    3. Q. 管理組合は、感震ブレーカーや家具固定を各家庭に義務づけられますか?
    4. Q. 防災倉庫や備蓄スペースは、管理組合で検討すべきですか?
    5. Q. タワーマンションでは、特に何を確認すべきですか?

首都直下地震対策で示された「マンション防災訓練100%」という目標

今回の基本計画改定では、首都直下地震への備えとして、従来の対策項目が大きく見直されました。

被害想定の大きさが、対策強化の背景にある

想定される被害は非常に大きく、死者は最大1.8万人、建物の全壊・焼失は最大40万棟とされています。

その被害を減らすため、対策項目は従来の47項目から189項目へと増えました。

これは、首都直下地震への備えを一部の専門家や行政だけの課題としてではなく、住宅、地域、家庭、そしてマンション管理の現場まで含めて考える必要があることを示しています。

防災訓練実施率を51%から100%へ

その中で、マンション管理組合に直接関係するものの一つが、防災訓練の実施率です。

防災訓練を年1回以上実施するマンションの割合は、2023年度時点で51%とされています。これを2033年度までに100%へ引き上げるという目標が示されました。

つまり、今後は「防災訓練を実施しているマンション」と「実施していないマンション」の差が、これまで以上に意識される可能性があります。

重要なのは、数字を達成することだけではない

もっとも、重要なのは数字だけではありません。

防災訓練100%という目標は、単に訓練の実施回数を増やすという意味ではなく、マンションで暮らす人たちが、災害時にどのように生活を継続するのかを確認する機会を持つ、という意味で受け止めるべきです。

形式的に年1回の訓練を実施しても、その内容が住民の生活継続に結びついていなければ、十分とはいえません。

なぜ防災訓練100%は簡単ではないのか

国が高い目標を掲げても、現場の管理組合ではすぐに実現できるとは限りません。

参加者が集まらないという現実

多くの管理組合で課題になるのは、参加者が集まらないことです。

休日の朝に防災訓練を設定しても、住民の関心が高まらず、参加者が限られてしまう。理事や一部の関心の高い住民だけが参加し、毎年同じような訓練で終わってしまう。このような悩みは、管理組合の実務では珍しくありません。

防災訓練は、本来であれば住民全体で共有すべき機会です。

しかし、日常生活の中では、防災はどうしても後回しになりがちです。大きな災害が起きた直後は関心が高まっても、時間が経つと参加意識は薄れていきます。

「訓練をやります」だけでは住民は動きにくい

ここに、防災訓練100%目標の難しさがあります。

単に「訓練をやります」と掲示するだけでは、住民は動きません。管理組合として、なぜ訓練が必要なのか、訓練で何を確認するのか、参加することで自分の生活にどう関係するのかを、分かりやすく伝える必要があります。

防災訓練を管理会社や一部の理事だけで進めてしまうと、住民にとっては「自分とは関係の薄い行事」に見えてしまいます。

参加促進策は別記事で深掘りする

防災訓練の参加者を増やすには、案内方法や開催時間、訓練内容の見せ方にも工夫が必要です。

ただし、今回の記事の主眼は、参加者を増やすテクニックそのものではありません。国が掲げた100%目標を、管理組合の運営にどう落とし込むかです。

防災訓練の参加者を増やす具体的な工夫については、以下の記事で詳しく解説しています。

防災訓練は「避難する練習」だけではない

マンションの防災訓練というと、消火器の使い方、避難経路の確認、避難場所への移動などを思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん、それらも重要です。

しかし、マンションの場合、防災訓練を「避難する練習」だけで考えると、実態に合わなくなる可能性があります。

マンションでは在宅避難が現実的な選択になる

大地震が起きたとき、マンション住民の多くは、すぐに避難所へ行くのではなく、自宅で生活を続ける在宅避難を選ぶことになります。

特に建物自体に大きな被害がない場合、避難所へ行くよりも、自宅で生活を継続する方が現実的な場合もあります。

そのため、防災訓練も「どこへ逃げるか」だけでなく、「マンション内でどう生活を維持するか」を確認する内容に変えていく必要があります。

在宅避難には生活継続の課題がある

在宅避難には多くの課題があります。

エレベーターが停止すれば、高層階の住民は移動が困難になります。断水や停電が発生すれば、トイレや排水の使い方も問題になります。共用部分や防災倉庫に備蓄品があっても、どこに何があるのか、誰がどのように使うのかを知らなければ、いざという時に活用できません。

そのため、防災訓練は、単なる避難イベントではなく、在宅避難体制を確認する点検日として位置づける必要があります。

訓練で確認すべき内容も変わる

年に1回、防災訓練を実施するのであれば、その場で確認すべきなのは「避難できるか」だけではありません。

安否確認はどうするのか。停電時にエレベーターが止まった場合、どのような対応を想定するのか。断水時や排水制限時に、トイレをどう扱うのか。防災倉庫や備蓄品の場所を住民が把握しているのか。

こうした点を確認することで、防災訓練は初めて、マンションで生活を継続するための実務的な場になります。

タワーマンションの在宅避難や孤立リスクについては、以下の記事で詳しく解説しています。

専有部の備えは重要だが、管理組合が強制することは難しい

今回の基本計画では、マンション防災訓練だけでなく、各家庭での備えにも高い目標が示されています。

感震ブレーカーや家具固定にも高い目標がある

感震ブレーカーは、2024年度時点の設置率20%から、2035年度におおむね設置へ引き上げる目標です。

家具の固定率は、2025年度38%から2035年度100%へ。食料品の備蓄割合も、2025年度60%から2035年度100%へ。簡易トイレや携帯トイレの備蓄割合も、2025年度27%から2035年度100%へとされています。

いずれも、災害時の被害を減らすうえで重要な備えです。

しかし、多くは専有部の備えである

ここで管理組合として難しい問題があります。

これらの多くは、各家庭、つまり専有部の備えに関わるものです。

管理組合が、各住戸に対して「必ず感震ブレーカーを設置してください」「家具を固定してください」「備蓄品を購入してください」と直接強制することは、現実的には難しいでしょう。

もちろん、必要性を伝えることはできます。防災訓練や掲示物、広報紙、総会資料、理事会資料などを通じて、住民に周知することはできます。

しかし、最終的に専有部内で何を備えるかは、各区分所有者や居住者の判断に委ねられる部分が大きいのです。

管理組合は強制ではなく、継続的な周知を担う

だからこそ、管理組合は、共用部の備えと専有部の備えを分けて考える必要があります。

専有部に踏み込みすぎるのではなく、管理組合としてできることを整理し、住民が自分ごととして備えを進められるよう、継続的に情報提供していくことが現実的な対応になります。

ここで重要なのは、「専有部だから管理組合は関係ない」と切り離さないことです。

強制はできなくても、周知はできます。訓練の場で確認を促すこともできます。総会や理事会の資料に、防災に関する情報を入れることもできます。

管理組合ができる範囲を見極めながら、住民の行動につながる機会をつくることが求められます。

共用部と専有部を分けて、防災を設計する

マンション防災を考えるうえで重要なのは、管理組合ができることと、各家庭で対応すべきことを分けて整理することです。

共用部は管理組合が主体的に確認できる

共用部については、管理組合が主体的に確認できます。

たとえば、防災倉庫や備蓄スペースの有無、共用部分の避難経路、防災掲示の内容、消防設備点検の結果、非常時の連絡方法などは、管理組合として確認しやすい領域です。

こうした項目は、理事会や防災訓練の中で定期的に確認しやすい内容でもあります。

専有部は各家庭の判断に委ねられる

一方で、専有部については、管理組合が直接管理することはできません。

家具の固定、食料品の備蓄、簡易トイレや携帯トイレの準備、感震ブレーカーの設置などは、各家庭の判断に委ねられます。

この線引きを曖昧にしたままでは、防災対策は進みにくくなります。

管理組合としては、共用部の対策を着実に進める。そのうえで、専有部の備えについては、総会資料、掲示板、広報紙、防災訓練などを通じて、必要性を繰り返し伝える。

この二段構えが必要です。

防災倉庫や備蓄スペースも検討課題になる

特にマンションでは、各家庭の収納スペースに限りがあります。

備蓄品をどこまで各家庭で持つのか、共用部に防災備品をどこまで置けるのか、防災倉庫や備蓄スペースをどう確保するのかは、管理組合として議論すべきテーマになります。

ただし、共用部の使い方には、管理規約や使用ルールとの関係もあります。単に空いている場所に物を置けばよいという話ではありません。

防災のために共用部をどう使うのか。誰が管理するのか。点検や入替えをどう行うのか。こうした点まで含めて、管理組合として整理しておく必要があります。

管理組合として実施すべき防災対策の全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。

管理会社任せではなく、年間運営に組み込む

防災訓練を実施しているマンションでも、それが管理会社任せになっているケースがあります。

管理会社の役割は重要だが、主体は管理組合である

もちろん、管理会社は防災訓練の準備や消防設備点検、関係先との調整などで重要な役割を果たします。

しかし、防災は本来、管理組合自身の問題です。

管理会社が案内を作成し、訓練日を設定し、当日の段取りを整えたとしても、管理組合がその意味を理解していなければ、訓練は単なる年中行事で終わってしまいます。

年間スケジュールに入れることで継続しやすくなる

防災訓練を定着させるには、管理組合の年間運営に組み込む必要があります。

たとえば、年度初めの理事会で防災訓練の実施時期を確認する。総会や理事会で防災備品の状況を報告する。掲示や広報で専有部の備えを定期的に周知する。防災訓練後には、参加者の意見や課題を理事会で共有する。

このように、単発のイベントではなく、年間スケジュールの中に位置づけることで、防災は継続的な管理組合運営の一部になります。

国の目標を、自分たちの運営を見直す機会にする

防災訓練100%という目標を、単なる国の数値目標として見るのではなく、自分たちのマンションの管理運営を見直す機会として受け止めることが重要です。

まだ防災訓練を実施していない管理組合であれば、まずは年1回の実施を年間予定に入れることが第一歩になります。

すでに防災訓練を実施している管理組合であれば、その内容が在宅避難体制の確認につながっているかを見直すことが次の課題になります。

防災訓練100%時代に、管理組合が確認すべきこと

今回の基本計画改定で示された「マンション防災訓練100%」という目標は、管理組合にとって大きなメッセージです。

ただし、大切なのは、目標を形式的に達成することではありません。

防災訓練を形式で終わらせない

年1回の防災訓練を実施したとしても、その内容が住民の生活継続に結びついていなければ、十分とはいえません。

管理組合として確認すべきなのは、防災訓練を単なる避難イベントで終わらせていないかという点です。

在宅避難を前提に、トイレ、排水、備蓄、安否確認、エレベーター停止時の対応などを確認できているか。共用部の備えと専有部の備えを分けて整理できているか。管理会社任せにせず、管理組合の年間運営に組み込めているか。

こうした視点が必要です。

防災は一部の人だけが担うものではない

防災は、災害が起きてから考えるものではありません。

また、一部の防災意識の高い住民だけが担うものでもありません。

マンション全体で居住を継続するためには、管理組合として、毎年確認し、共有し、改善していく仕組みが必要です。

その仕組みをつくる入口になるのが、防災訓練です。

次回の理事会で確認したい視点

防災訓練はイベントではなく、在宅避難体制を確認する点検日です。

その視点で、次回の理事会や総会、年間スケジュールを見直すことが、管理組合としての第一歩になるのではないでしょうか。

国が掲げた100%という目標を、単なる行政上の数字として見るのではなく、自分たちのマンションの管理運営を見直すきっかけにする。

その姿勢が、これからのマンション防災には求められているのだと思います。

FAQ

Q. マンションの防災訓練は、年1回実施すれば十分ですか?

年1回以上の防災訓練を実施することは、今回の目標でも重要な前提になっています。ただし、回数だけで十分とはいえません。防災訓練の内容が、在宅避難、安否確認、備蓄、トイレ、排水制限など、実際の生活継続に結びついているかを確認することが重要です。

Q. 防災訓練に参加者が集まらない場合、どう考えればよいですか?

防災訓練を単なる行事として案内しても、参加者は集まりにくい場合があります。訓練の目的を、消火器体験や避難経路確認だけでなく、在宅避難体制の点検日として伝えることが大切です。住民自身の生活に直結する内容にすることで、参加の意味が伝わりやすくなります。

Q. 管理組合は、感震ブレーカーや家具固定を各家庭に義務づけられますか?

感震ブレーカーや家具固定、備蓄、簡易トイレなどは、各家庭の専有部に関わる備えです。管理組合が直接強制することは現実的に難しいため、掲示、広報、防災訓練、総会資料、理事会資料などを通じて、必要性を繰り返し周知することが現実的です。

Q. 防災倉庫や備蓄スペースは、管理組合で検討すべきですか?

マンションでは各家庭の収納スペースに限りがあるため、共用部に防災備品をどこまで置けるのか、防災倉庫や備蓄スペースをどう確保するのかは、管理組合として検討すべきテーマです。ただし、共用部分の使い方に関わるため、管理規約や使用ルールとの整合性を確認しながら進める必要があります。

Q. タワーマンションでは、特に何を確認すべきですか?

タワーマンションでは、エレベーター停止や高層階の孤立リスクが大きな課題になります。防災訓練では、在宅避難を前提に、備蓄、安否確認、階段利用、排水制限、情報共有の方法を確認することが重要です。タワーマンション特有のリスクについては、別記事でも詳しく解説しています。

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