首都圏マンションの修繕積立金が5.6%上昇|レインズ調査から見えた「静かな値上げ」の現実

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2025年度、首都圏の中古マンション市場で静かに、しかし確実に、ある数字が動いていました。公益財団法人東日本不動産流通機構が公表した「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2025年度)」によれば、2025年度に成約した首都圏中古マンションの修繕積立金は、1戸当たり月額平均13,910円となり、前年度比5.6%上昇しました。一見すると「少し上がったな」で終わりそうな話ですが、実はこの数字には、マンションの管理と資産価値を左右する本質的な問題が詰まっています。

管理費はほぼ横ばいなのに、修繕積立金だけが際立って上昇している。この「非対称な値上がり」は何を意味しているのか。管理組合はどう受け止め、どう動くべきなのか。本記事では、レインズのデータを出発点に、数字の背後にある現実を丁寧に読み解いていきます。

レインズ調査で分かった首都圏マンションの最新相場

東日本レインズが公表するこの調査は、実際に成約した中古マンションのデータをもとにしており、売出価格ではなく「成約後の実態」を把握できる点に特徴があります。

2025年度のデータは、2025年1月以降に築年月・管理費・修繕積立金の登録が必須化されたことで、より網羅性の高いデータセットとなっています。まずは基本的な数字を確認しましょう。

管理費は13,895円

2025年度における首都圏中古マンションの月額管理費は、1戸当たり平均13,895円でした。前年度(13,847円)との比較では0.3%の上昇にとどまっており、ここ数年の推移を見ても比較的安定しています。1㎡当たりに換算すると217円で、こちらも前年度比0.6%の上昇です。

管理費は日常的な建物管理(清掃・設備保守・管理員人件費など)に充てられるコストです。人件費の上昇やエネルギーコストの高騰が続く中でも、今回のデータ上では管理費の上昇率は限定的でした。ただし、これは管理コストの上昇圧力がないという意味ではありません。管理委託費の値上げ要請や契約内容の見直しは、今後も多くの管理組合で課題になると考えられます。

修繕積立金は13,910円

一方、修繕積立金の月額平均は13,910円で、前年度(13,177円)比5.6%の上昇となりました。1㎡当たりでは217円、前年度比5.8%の上昇です。金額としては管理費とほぼ同水準ですが、上昇率は管理費の約19倍にのぼります。

修繕積立金は、外壁補修・屋上防水・給排水管更新・エレベーター改修など、建物の長期的な維持保全を目的とした資金です。住む人が日々の生活の中で意識しにくいからこそ、気づいたときには「足りない」という事態に陥りやすい項目でもあります。

修繕積立金の基本的な仕組みや値上がりする理由については、別記事「修繕積立金って何?なぜ値上がりするのかをわかりやすく解説」でも詳しく整理しています。

合計負担額は月27,805円

管理費と修繕積立金を合計した月額負担の平均は27,805円(前年度比2.9%上昇)でした。年間に換算すると333,660円になります。住宅ローンの返済額に加えてこの負担が毎月続くことを考えると、購入時の判断において決して軽視できない金額です。

なお、1㎡当たりの年間管理費は成約㎡単価の0.30%、年間修繕積立金も同じく0.30%で、合計で0.60%にのぼります。この比率を単純に当てはめれば、5,000万円の物件では年間30万円程度の管理費・修繕積立金負担に相当します。

もちろん実際の金額は専有面積や管理規約、積立方式によって異なりますが、固定資産税や保険料とは別に、毎年一定の維持費が発生する点は見落とせません。

本当に注目すべきは「修繕積立金だけが上がっている」こと

数字を並べると、何となく「全体的に値上がりしているんだな」という印象を受けるかもしれません。しかし、本当に注目すべきは管理費と修繕積立金の「上昇率の差」です。この差は、マンション管理の現場で今まさに起きている構造的な変化を映しています。

管理費上昇率は0.3%

管理費の前年度比0.3%という上昇率は、近年の物価上昇や人件費上昇の実感と比べても、かなり限定的な動きに見えます。これは、管理委託契約の多年度契約や価格据え置き交渉の効果もあるでしょうが、一方で「本来上げるべきところを上げられていない」という側面もあります。

管理会社のコストは確実に上昇しており、いずれ管理費に転嫁されるタイミングが来るとも考えられます。

修繕積立金は5.6%上昇

修繕積立金の5.6%という上昇率は、もはや一過性の変動とは言えません。直近6年間の推移を見ると、2020年の11,737円から2025年の13,910円へと、5年間で18.5%も増加しています。

毎年コンスタントに3〜6%の上昇が続いており、「修繕積立金は上がり続けるもの」という認識が、もはや標準的な前提になりつつあります。

この差は偶然ではない

管理費はほぼ横ばいなのに修繕積立金だけが大きく上がるこの構図は、偶然ではありません。修繕積立金の値上げは、各マンションの管理組合が長期修繕計画の見直しを行い、資金不足に気づいて積立額を引き上げた結果です。言い換えると、「現実に追いつくために値上げしている」状況が、市場全体の統計に表れているのです。

もし修繕積立金が上がっていないマンションがあるとしたら、それは「適切に管理されている」のではなく、「問題の先送りが続いている」可能性の方が高いと考えるべきでしょう。

なぜ修繕積立金は上がり続けるのか

修繕積立金が上昇し続ける背景には、複数の構造的要因が重なっています。「建設コストが上がったから」という一言で片付けられがちですが、実際にはもっと複合的です。管理組合として正確に把握しておくことで、将来の資金計画をより現実的に立てることができます。

建設コスト上昇

大規模修繕工事の主要な費用である足場組み・外壁補修・防水工事などは、資材費の上昇によって大幅にコストが増加しています。鉄鋼・セメント・塗料などの資材価格は、円安や世界的な供給網の混乱の影響を受けて高止まりしており、5年前の見積もりはほぼ使い物にならない状況です。さらに近年は、中東情勢の緊迫化による原油価格や物流コストへの影響も懸念されており、建設コストの先行きは依然として不透明です。

長期修繕計画を作成した当時の単価がそのまま使われている場合、計画上の積立金と実際に必要な金額の間に大きな乖離が生じている可能性があります。管理組合としては、過去の計画が存在すること自体に安心するのではなく、その前提となっている工事単価や市場環境が現在も有効なのかを定期的に確認することが重要です。

長期修繕計画の見直し時に確認すべき具体的なポイントは、別記事「長期修繕計画とは?見直し時に確認すべきポイント」でも解説しています。

人手不足

建設業界における深刻な人手不足も、修繕工事コストを押し上げる大きな要因です。2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用され(いわゆる「2024年問題」)、労務費の上昇が一段と加速しています。

職人の高齢化と若手不足が続く中、修繕工事の入札で「応札なし」や「予定価格超過」となるケースも増えており、これが修繕費全体の押し上げ要因になっています。

設備更新費用の高騰

エレベーター・給排水管・電気設備・消防設備などの設備更新費用も、著しく上昇しています。特にエレベーターは、築年数の経過に伴い、主要部品の供給終了や制御盤・巻上機などの更新時期を迎えるマンションが増えています。リニューアル費用が1基当たり数百万円から1,000万円超に達するケースもあり、複数基を抱えるマンションでは長期修繕計画への影響が大きくなります。

こうした大型設備の更新が長期修繕計画に十分に組み込まれていないと、積立金が突然不足するリスクがあります。

国交省ガイドラインの影響

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しており、適正な積立額の目安を示しています。近年の改訂では、従来の目安を上回る水準が推奨されるようになり、これを受けて各マンションの長期修繕計画が見直され、積立額を引き上げる動きが広がっています。

この動きは「適正化」であり、値上げそのものが問題ではなく、むしろ「上げていなかった時期の方が問題だった」という評価が適切です。さらに近年は、自治体による管理計画認定制度の広がりによって、長期修繕計画や修繕積立金の水準が外部からも見られる時代になっています。

修繕積立金の適正化は、単なる会計上の話ではなく、マンションの管理状態や市場評価にも関わるテーマになりつつあります。

管理計画認定制度の基本や、認定取得によってマンションにどのような影響があるのかについては、別記事「管理計画認定制度でマンションはどう変わる?」でも解説しています。

新築時の積立金設定が低すぎる問題

修繕積立金が上昇し続ける根本的な原因のひとつに、新築時の積立金設定が構造的に低く抑えられてきたという問題があります。これはマンション業界全体に共通する課題であり、多くの管理組合が「なぜ上げなければいけないのか」という疑問を抱える原因でもあります。

販売しやすくするための低額設定

新築マンションの分譲時、デベロッパーは購入者に対して「月々の維持費」をできる限り低く見せようとする傾向があります。管理費・修繕積立金が高いと購入検討者の印象が悪くなり、販売競争で不利になるためです。

その結果、修繕積立金は本来必要な額よりも大幅に低く設定され、段階増額方式(年数が経つにつれて少しずつ上げていく仕組み)が採用されるケースが多くなっています。購入時の説明では「将来上がる可能性がある」と一言触れられるだけで、具体的な影響が十分に伝わらないまま契約に至るケースも少なくありません。

築10年を超えると現実が見える

新築後10年が経過すると、第一回大規模修繕工事のタイミングが近づきます。このとき初めて、積立金残高と工事費見積もりの「ギャップ」が明確になります。レインズのデータを見ると、築10年以内の修繕積立金の平均は1㎡当たり167円ですが、築11〜20年では231円、築21〜30年では239円と段階的に上昇しています。

これは「現実の修繕費用に合わせて積立額を引き上げていった結果」であり、多くのマンションが同じ道を辿っていることを示しています。

値上げ合意が難しい理由

修繕積立金の値上げは、区分所有者の集会(総会)で決議する必要があります。しかし、「なぜ上げるのか」「いくら必要なのか」「どう使われるのか」が十分に説明されていないと、反対意見が出やすく、合意形成に時間がかかります。特に投資目的で所有している区分所有者や、高齢で固定収入の方にとっては、月額の値上げは切実な問題です。

だからこそ、長期修繕計画の数字を丁寧に共有し、「値上げは問題の表れではなく、健全な管理の証拠である」という認識を管理組合全体で共有することが重要です。

修繕積立金の値上げを区分所有者に理解してもらうための具体策は、別記事「修繕積立金の値上げを理解してもらうための具体策5選」でも詳しく紹介しています。

レインズデータから見える築年数ごとの特徴

レインズのデータには、建築年別の詳細な数字も掲載されています。これを読み解くことで、「自分のマンションは今どの段階にいるのか」を客観的に把握する手がかりになります。自分のマンションの築年数と照らし合わせながら読んでみてください。

築10年以内は修繕積立金が低い

築10年以内のマンションにおける修繕積立金の平均は、月額10,474円(1㎡当たり167円)と他の築年帯より明らかに低くなっています。これは前述の通り、新築時の低額設定がそのまま継続されているためです。

この段階のマンションに住んでいる・購入を検討している方は、「今の積立金は将来的に確実に上がる」という前提で資金計画を立てる必要があります。

築20〜30年で負担増

築11〜20年の修繕積立金平均は15,716円(1㎡当たり231円)、築21〜30年は16,588円(1㎡当たり239円)と、大幅に増加しています。この時期は第一回・第二回の大規模修繕工事を経験し、給排水管更新やエレベーターリニューアルなど大型工事の計画が本格化するタイミングです。

管理組合としては最も資金計画が重要になる時期であり、長期修繕計画の精度を高め、積立額の過不足を確認することが急務となります。

築30年超では維持費が重くなる

築30年超では修繕積立金の平均が12,835円(1㎡当たり218円)と、一見すると築21〜30年より低く見えます。しかしこれは、築古物件は成約単価が低く、㎡単価との比率で見ると割高であることに注意が必要です。実際、築30年超の管理費+修繕積立金の対成約単価比率は年間1.03%と、首都圏平均の0.60%を大きく上回っています。

これは、購入価格そのものは抑えられても、管理費・修繕積立金という毎月の固定費は相対的に重くなりやすいことを意味します。

中古マンションを検討する際には、「物件価格が安いか」だけでなく、「その価格に対して維持費がどれだけ重いか」を見る必要があります。また、この築年帯では大規模な設備更新が集中して発生するため、積立金の残高が実際に不足するケースも起きやすくなります。

マンション価格よりも「維持費」を見る時代へ

ここまでデータをもとにした分析を見てきましたが、これは単に統計上の話ではありません。実際の住宅購入や資産管理の判断に直結するテーマです。近年、マンション市場では購入価格の高騰が続く一方で、「購入後に毎月かかるコスト」への関心が改めて高まっています。

修繕積立金や長期修繕計画の基本については別記事でも詳しく解説していますが、今回のレインズ調査は、こうした維持費が中古マンション選びにおいてますます重要な判断材料になっていることを示しています。

マンションの管理費・修繕積立金が家計や老後資金に与える影響については、別記事「老後2000万円問題は“固定額”ではなかった」でも取り上げています。

購入価格だけでは判断できない

同じ5,000万円のマンションでも、管理費・修繕積立金の合計が月2万円と月4万円では、20年間で480万円の差が生まれます。さらに、将来の値上げリスクや特別修繕費の負担可能性を考えると、「今の維持費が安い物件」が必ずしも得かどうかは慎重に見極める必要があります。

むしろ、修繕積立金が適正水準で積まれているマンションの方が、将来の一時徴収リスクが低く、資産価値の維持にもつながる可能性があります。

毎月数万円の差が将来を左右する

修繕積立金が不足しているマンションでは、大規模修繕工事の際に「一時金」として数十万円の追加負担が区分所有者に求められることがあります。事前の説明なく急に請求が来た場合、支払えない区分所有者が出たり、工事を先延ばしにするしかなかったりという事態も起こりえます。

毎月の積立額が「高い」と感じることがあったとしても、それは将来の一時金リスクを分散しているという視点で捉えることが大切です。

管理状態が資産価値を分ける

中古マンションの流通市場では、管理の質が購入判断に影響しやすくなっています。修繕積立金の残高が十分にあり、長期修繕計画が適切に更新されているマンションは、買い手から信頼されやすく、売却時に価格交渉で有利に働くことがあります。

逆に、管理が形骸化していたり、積立金が枯渇していたりするマンションは、情報が公開された段階で買い手が敬遠するケースが増えています。「管理状態の良し悪し」は、今後の中古流通市場においてますます重要な判断基準になっていくでしょう。

管理組合が今から確認したい3つのポイント

ここまで読んで、「では、自分の管理組合は何をすればいいのか」と感じた方もいるでしょう。管理会社に任せきりにせず、管理組合が主体的に確認・判断できることは確かにあります。

重要なのは、修繕積立金が高いか安いかだけを見るのではなく、その金額が長期修繕計画と整合しているか、将来の工事費を賄える水準になっているか、区分所有者にきちんと説明されているかを確認することです。難しい専門知識がなくても、以下の3つを確認するだけで、マンションの管理状態を大まかに把握できます。

長期修繕計画は更新されているか

国土交通省のガイドラインでは、長期修繕計画は「おおむね5年ごとに見直す」ことが推奨されています。しかし、見直しが行われていなかったり、見直し自体を管理会社に丸投げしたまま内容を理事会が把握していないケースも少なくありません。

まず確認すべきは「最後に長期修繕計画が更新されたのはいつか」「その際に使用した工事単価は現在の相場と照らして妥当か」という点です。資材費・労務費の高騰が続く今、5年以上前の計画をそのまま使っているとすれば、資金計画が大幅にずれている可能性があります。

修繕積立金は将来不足しないか

長期修繕計画に基づいて、各年度の積立残高と工事支出の収支を確認しましょう。「残高がいつの時点でどこまで下がるか」を把握することが重要です。もし将来のある時点で積立金残高がゼロを下回るような計画になっているならば、今すぐ積立額の見直しを検討する必要があります。

管理会社から提出される収支予算書だけでなく、長期修繕計画の「資金収支表」を毎年確認する習慣をつけることをお勧めします。

値上げを先送りしていないか

「値上げしたいが、総会で通らないかもしれない」「理事の任期中は揉めたくない」という理由で、必要な積立額の引き上げが先送りされているケースがあります。しかし、先送りにすれば先送りにするほど、将来の値上げ幅は大きくなり、一時金リスクも高まります。

理事会として「値上げは管理組合の失敗ではなく、建物の実態に合わせた正しい判断だ」という認識を共有し、区分所有者への丁寧な説明を通じて合意形成を進めることが、管理組合が果たすべき最も重要な役割のひとつです。

修繕積立金の値上げは「危機」ではなく「現実との対話」である

今回のレインズ調査が示した「修繕積立金5.6%上昇」というデータは、単なる市場の動向数値ではありません。建設コストの上昇、人手不足、設備更新費用の高騰、そして長年にわたる低額設定の是正という、複数の構造的要因が重なった結果として現れた数字です。

修繕積立金が上がることを「負担増」と捉えるだけでは不十分です。適切に積み立てられた修繕資金こそが、建物の寿命を延ばし、住民の暮らしの質を守り、資産価値を維持する根拠になります。逆に言えば、修繕積立金が上がっていないマンションの方が、将来のリスクをより深刻に抱えている可能性があるということです。

かつてマンションを選ぶ基準の中心は「立地」と「価格」でした。しかし今、私たちは「管理の質」をその中心に据えて考えなければならない時代に入っています。建物は築年数とともに必ず劣化します。しかし、適切な管理と計画的な修繕によって、その劣化は確実に遅らせることができます。

マンションは、建物そのものだけを買う時代から、管理の質まで見て選ぶ時代に入っています。その視点を管理組合と区分所有者が共有し、将来の修繕費を先送りせず、数字を見ながら判断できるようになったとき、「100年続くマンション」への道が少しずつ開けていくのではないでしょうか。

※東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2025年度)」の公表データをもとに作成

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