マンションの安全な環境を守るため、管理規約に「暴力団排除条項」を盛り込むことが不可欠です。近年、国土交通省の標準管理規約にも第19条の2として「暴力団員の排除」が明記され、区分所有者や管理組合に対し、適切な対応を求めています。
しかし、「具体的にどのような内容なのか?」「管理組合として何をすればいいのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
本記事では、標準管理規約第19条の2の条文解説に加え、実際の運用で注意すべきポイントや管理組合が取るべき対策について、マンション管理士である筆者が詳しく解説します。
【規約解説】マンションの暴力団排除規定とは?標準管理規約第19条の2を徹底解説
今回紹介する内容は、以下の通りです。
✅国土交通省の見解|マンション標準管理規約第19条の2補足説明
✅「暴力団員の排除」に関する管理組合・区分所有者の注意点
まず、最初の章では標準管理規約第19条の2の条文から「暴力団員の排除」についてそのままの文面を紹介します。
続いて、この条文についての補足事項や、注意しておくべき事項について国土交通省より提示されています。
さらに、その文面の解説を、イメージしやすい具体的な例を踏まえながら紹介します。
そして、最後の章では第19条の2「暴力団員の排除」の条文や補足事項を踏まえて、管理組合や区分所有者における注意点を、マンション管理士である筆者独自の視点から具体的に紹介します。
それでは、次章より当該条文について紹介します。
マンション標準管理規約第19条の2「暴力団員の排除」を分かりやすく解説
マンション管理組合が安全で健全な住環境を維持するためには、暴力団員などの反社会的勢力の排除が重要です。標準管理規約第19条の2は、区分所有者が専有部分を第三者に貸し出す際に、契約内容として暴力団員の排除条項を盛り込むことを義務付けています。ここでは、条文を分かりやすく解説します。
なお、マンション標準管理規約では、
〔※専有部分の貸与に関し、暴力団員への貸与を禁止する旨の規約の規定を定める場合〕
として、追加で条項を定める場合を想定して提示されています。
電磁的方法が利用可能でない場合の条文は?
まず、電磁的方法が可能でない場合の条文を紹介します。
第19条の2 区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、前条に定めるもののほか、次に掲げる内容を含む条項をその貸与に係る契約に定めなければならない。
一 契約の相手方が暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第六号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)ではないこと及び契約後において暴力団員にならないことを確約すること。
二 契約の相手方が暴力団員であることが判明した場合には、何らの催告を要せずして、区分所有者は当該契約を解約することができること。
三 区分所有者が前号の解約権を行使しないときは、管理組合は、区分所有者に代理して解約権を行使することができること。
2 前項の場合において、区分所有者は、前項第三号による解約権の代理行使を管理組合に認める旨の書面の提出をするとともに、契約の相手方に暴力団員ではないこと及び契約後において暴力団員にならないことを確約する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。
電磁的方法が利用可能な場合の条文は?
次に、電磁的方法が利用可能な場合です。太字の部分が利用可能でない場合との変更点となります。
カッコ内の箇所が追加されている形となっています。
第1項の解説|賃貸契約に「暴力団排除条項」を含める義務とは?
区分所有者(マンションの所有者)が自分の部屋を第三者に貸す場合、契約の中に以下の3つの条項を必ず盛り込む必要があります。
第一号|賃借人は暴力団員ではないと確約する義務がある
契約を結ぶ際に、借主(賃借人)が暴力団員ではないこと、そして契約後も暴力団員にならないことを約束しなければなりません。これは、契約を結ぶ前の確認と、将来的に暴力団員になるリスクを防ぐためのものです。
第二号|賃借人が暴力団員と判明した場合、即時契約解除が可能
もし契約後に借主が暴力団員であることが発覚した場合、貸主(区分所有者)は事前の通知(催告)なしに契約を解除できる権利を持ちます。これにより、暴力団員がマンションに居座ることを防ぐことができます。
第三号|区分所有者が解約しない場合、管理組合が代理で解約可能
もし区分所有者が第二号の解約権を行使しない場合は、管理組合が代理で契約を解除できるようにする条項も含める必要があります。これは、区分所有者が何らかの理由で対応をためらった場合でも、管理組合が主体的に対応できるようにするための仕組みです。
第2項の解説|管理組合への「解約権代理行使の書面」提出義務とは?
第1項で定めた暴力団排除条項を実効性のあるものにするため、区分所有者は次の2つの書面を管理組合に提出しなければなりません。
管理組合に解約権の代理行使を認める書面
管理組合が代理で契約を解除できるようにするため、区分所有者はその同意を記した書面を管理組合に提出する必要があります。これにより、区分所有者が対応しない場合でも、管理組合が迅速に解約手続きを進めることが可能になります。
賃借人が提出すべき「暴力団関係者でない」誓約書の内容
借主自身にも「自分は暴力団員ではなく、今後も暴力団員にならない」ことを確約する誓約書を作成し、管理組合に提出させる必要があります。これにより、借主が虚偽の申告をした場合の責任を明確にし、後から問題が発覚した際の対処がしやすくなります。
標準管理規約第19条の2は、マンションに暴力団員が住みつくのを防ぐために、区分所有者に対して厳格な対応を求める条文です。特に、
✅暴力団員だと判明した場合に即時解約できる仕組みを設けること
✅管理組合が解約権を代理行使できるようにすること
がポイントになります。
この規約を守ることで、マンションの安全性を確保し、他の住民が安心して暮らせる環境を維持することができます。
国土交通省の見解|マンション標準管理規約第19条の2の補足と適用範囲
次に、第19条の2については国土交通省が次に紹介する3項目について補足しています。
それぞれ補足事項とともに、筆者が分かりやすく解説します。
標準管理規約第19条の2の適用範囲と管理組合の解約権代理行使の仕組み
まずは、1つ目の補足内容を紹介します。
第19条の2第1項第二号又は同項第三号の前提となる区分所有者の解約権は、区分所有者と第三者との間の契約における解除原因に係る特約を根拠とするものであり、管理組合は、区分所有者から当該解約権行使の代理権の授与を受けて(具体的には同条第2項に規定する解約権の代理行使を認める書面の提出(当該書面に記載すべき事項の電磁的方法による提供を含む。)を受ける。)、区分所有者に代理して解約権を行使する。管理組合の解約権の代理行使は、理事会決議事項とすることも考えられるが、理事会で決定することを躊躇するケースもあり得ることから、総会決議によることが望ましい。
暴力団関係者の範囲を拡大できる?各都道府県の条例を参考に
標準管理規約第19条の2は、基本的に「暴力団員」の排除を目的としています。しかし、実際には暴力団員だけでなく、暴力団関係者や準構成員(暴力団に所属はしていないが関係が深い者)などの存在も問題になります。そのため、必要に応じて、各都道府県が定める暴力団排除条例を参考にしながら、規約で排除対象を広げることができます。
💡 ポイント
✅都道府県ごとの暴力団排除条例を確認し、適切な対象範囲を設定することが重要。
✅「暴力団関係者」や「準構成員」などを規約に追加することで、より強固な対策が可能。
管理組合による解約権の代理行使の仕組み
第19条の2では、暴力団員が借主だった場合、区分所有者(貸主)が契約を解除できる仕組みになっています。しかし、貸主が何らかの理由で対応しない場合、管理組合が代理で解約権を行使できるようにしています。
ただし、管理組合が解約権を代理行使するには、
✅ 区分所有者から「解約権の代理行使を認める書面」を取得することが必要。
✅ 理事会だけでなく、総会決議で決定することが望ましい。(理事会単独での決定に躊躇するケースもあるため)
💡 ポイント
✅解約権の代理行使をスムーズにするため、事前に書面で同意を得ることが重要。
✅理事会だけで決めるのではなく、総会決議を経ることでトラブルを防ぐことができる。
売買契約でも暴力団排除は必要?管理組合ができる対策
また、暴力団事務所としての使用等の禁止については、第12条関係コメントを参照。敷地内における暴力行為や威嚇行為等の禁止については、第67条第1項の「共同生活の秩序を乱す行為」や区分所有法第6条第1項の「共同の利益に反する行為」等に該当するものとして、法的措置をはじめとする必要な措置を講ずることが可能であると考えられる。
マンション標準管理規約第19条の2は、「賃貸契約」における暴力団員の排除を目的としたものですが、マンションの安全性を維持するためには売買契約(譲渡)にも同様のルールを適用することが望ましいとされています。
売買契約時も暴力団排除を徹底!管理組合ができる対策
マンションの一室が暴力団員に売却されてしまうと、賃貸契約よりも対処が難しくなるため、賃貸時と同様に、売買時にも区分所有者同士で暴力団員の排除を規定することが考えられます。
💡 ポイント
賃貸契約だけでなく、売買契約でも「暴力団員に譲渡しない」旨を規約で定めることが重要。
事前に買主が暴力団員でないことを確認する手続きを取り入れると、より安全。
マンション内に暴力団事務所を作らせない!暴力行為の禁止策
万が一、マンション内に暴力団が関与する拠点(事務所)が作られた場合、管理組合としては速やかに排除する必要があります。これに関しては、以下の規定が活用できます。
✅ 第12条(専有部分の用途制限) → マンションを暴力団事務所として使用することを禁止。
✅ 第67条(共同生活の秩序維持) → 敷地内での暴力行為や威嚇行為を禁止。
✅ 区分所有法第6条(共同の利益に反する行為) → マンション全体の利益を害する行為として、法的措置を取ることが可能。
💡 ポイント
✅暴力団事務所としての使用を禁止するルールを規約に明記。
✅暴力行為や威嚇行為が発生した場合、管理組合は法的手段を講じることができる。
尚、コメント文中にある第12条関係コメントについては、以下の記事
もご参照ください。
暴力団排除を実行する際の注意点|警察・専門機関との連携が重要
暴力団関係者かどうかを判断したり、排除措置を実行したりする際には、管理組合や理事長が単独で対応するのは非常に危険です。そのため、警察や専門機関と連携しながら慎重に進めることが重要です。
暴力団排除には警察・暴力追放運動推進センターとの連携が必須
✅暴力団員かどうかを判断する際に、警察に相談する。
✅暴力団排除の取り組みを支援する「暴力追放運動推進センター」などの専門機関と連携する。
✅管理組合役員(特に理事長)の安全を確保しながら対応する。
訴訟や法的措置を進める際の注意点と対策
暴力団関係者が居住してしまった場合、最終的に訴訟などの法的措置が必要になることもあります。その際には、弁護士や専門家と協力しながら進めることが大切です。
💡 ポイント
✅暴力団排除の際は、管理組合単独で対応せず、警察や専門機関と連携する。
✅理事長や役員の身の安全を第一に考え、慎重に対応する。
✅訴訟が必要な場合は、弁護士などの専門家と相談しながら進める。
管理組合・区分所有者が知っておくべき「暴力団員の排除」の注意点
最後の章では、これまでのマンション標準管理規約第19条の2の条文ならびに、国土交通省の補足事項を踏まえて、筆者独自の観点から、管理組合や区分所有者が注意しておいた方が良い事項を紹介します。
マンション管理規約を最新版に!第19条の2を確実に反映
マンションの管理規約は、国土交通省の標準管理規約を参考に作成されますが、古いバージョンの規約をそのまま使用している管理組合も少なくありません。
最新の標準管理規約をチェックし、第19条の2を必ず反映することが重要です。
✅理事会や総会で管理規約の見直しを定期的に行い、必要に応じて改正を進める。
✅区分所有者にも規約改正の重要性を説明し、適切な理解を促す。
暴力団の居住事例が発覚したら?警察・専門機関と連携する手順
既に国土交通省の補足事項でも出てきていますが、万が一、マンション内で暴力団関係者の居住が発覚した場合、管理組合や理事会だけで解決しようとするのは危険です。
そして、速やかに警察や暴力団排除の専門機関と連携し、安全確保を最優先に対応することが大切です。
✅暴力団追放運動推進センターなどの専門機関と連携し、適切な手続きを進める。
✅管理組合や区分所有者の安全対策も講じる。
賃貸借契約時に「暴力団排除条項」を確実に盛り込むポイント
区分所有者が新たに賃貸借契約を結ぶ際に、契約書の中に「暴力団排除条項」を明記することが必須です。標準管理規約では、区分所有者がこの条項を契約に含めることを義務付けているためです。
賃貸借契約書には「暴力団ではないことを誓約する条項」を明記し、誓約書の提出を義務付けることが重要です。不動産会社とともに借主を募集することになる場合も、改めて確認することが求められます。
✅入居者に「暴力団員ではないことの誓約書」を提出させる。
✅仲介業者や管理会社にも協力を依頼し、徹底させる。
暴力団排除を徹底するために必要な管理規約と運用体制の整備が重要
今回は、マンション標準管理規約第19条の2の条文ならびに、国土交通省が補足する事項に加えて、筆者の視点からも注意点等を解説しました。
マンションの安全を守るためには、管理規約に「暴力団排除条項」を明記するだけでなく、実際に運用できる体制を整えることが重要です。
改めて、以下について
✅万が一、暴力団関係者の居住が発覚した場合は、速やかに警察や専門機関と連携する
✅賃貸借契約・売買契約において、暴力団排除条項や誓約書の提出を義務付ける
✅管理組合の理事会・総会の運営を強化し、迅速な意思決定ができるようにする
徹底することが求められます。
管理組合が主体的に取り組むことで、トラブルを未然に防ぎ、安心して暮らせるマンション環境を維持することができます。
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