「次の契約更新から、管理委託費を引き上げたい」
管理会社からこのような要請を受け、「それなら別の管理会社を探そう」と考える管理組合もあるでしょう。
年度末や春の通常総会を控え、次年度の予算と管理委託契約の見直しを進める時期には、値上げへの対応も重要な議題になります。
ただし、管理会社変更は、他社の見積もりを取得すればすぐに実現するものではありません。候補会社の選定、契約条件の確認、管理組合内の合意形成、重要事項説明、総会決議、業務の引継ぎなど、準備が必要です。
大切なのは、「値上げを受け入れるか、会社を変えるか」を急いで決めることではなく、契約と総会の日程を確認し、管理業務を継続できる選択肢を確保することです。
今回は、値上げをきっかけに管理会社変更を検討する理事会に向けて、総会・契約更新から逆算した進め方と、準備が間に合わない場合の考え方を解説します。
※本記事は、理事会方式の管理組合が管理業務の委託先を変更する場面を想定しています。
▼今回のコラムの全体像です(画像クリックで拡大します)

値上げ要請を受けても、次の総会で変更できるとは限らない
「まだ総会まで数か月あるから、今から探せば間に合うだろう」
そう考えていても、希望する時期に管理会社を変更できるとは限りません。
候補会社には、資料の確認や現地調査、管理員・清掃員などの配置の検討、見積もりの作成が必要になります。理事会側も、提案を比較し、分からない点を質問し、組合員への説明を準備しなければなりません。
さらに、新管理会社との契約を総会で承認したとしても、その翌日から全ての業務が切り替わるわけではありません。会計・収納の切替え、設備や鍵の確認、書類の引渡し、居住者への案内など、引継ぎにも時間がかかります。
そのため、「総会で決める日」と「新管理会社が業務を開始する日」は分けて考える必要があります。
変更の検討から業務開始まで、半年程度を見込んで早めに動くことが一つの目安になります。ただし、これは一律の必要期間ではなく、マンションの規模、候補会社の体制、合意形成や契約の状況によって変わります。
管理会社変更の全体像や、変更するかどうかの判断については、マンション管理会社変更は本当に必要?値上げ・人手不足時代の判断ポイントで詳しく紹介しています。
最初に確認するのは「総会日・契約満了日・通知期限」
決算日だけで変更の予定を組まない
最初に、次の事項を一覧にして確認しましょう。
| 確認する事項 | 確認する理由 |
|---|---|
| 管理組合の決算日 | どの期間の会計を、どの会社が締めるのかを整理するため |
| 通常総会の開催予定日 | 新契約や予算を決議する時期を把握するため |
| 現管理会社との契約満了日 | 現契約がいつまで続くのかを確認するため |
| 更新・終了・中途解約に関する通知期限 | 必要な手続きと期限を把握するため |
| 値上げの適用希望日・回答希望日 | 管理会社の提案と組合側の検討日程を調整するため |
| 新管理会社の業務開始可能日 | 引継ぎを含め、切替えが実現できるか確認するため |
例えば、3月決算であっても、通常総会が5月、管理委託契約の満了が6月という場合があります。一方、3月総会で契約が3月末に満了する場合には、総会後の準備期間が短くなります。
決算日、総会日、契約満了日が一致しているとは限りません。 自分たちの管理組合の日程に置き換えることが出発点です。
契約満了による終了と、中途解約を分ける
国土交通省のマンション標準管理委託契約書では、契約期間中の解約と、契約の更新について、それぞれ規定が設けられています。
「3か月前に通知すればよい」といった知識だけで処理せず、実際の契約書で、更新の申出、更新しない場合の扱い、契約期間中の解約予告などを確認する必要があります。
管理会社から示された回答期限についても、契約上の期限なのか、次年度の人員配置や予算編成のための希望日なのかを確認しましょう。
契約書の確認事項は、管理委託契約書はどこを見る?標準管理委託契約書・別表の確認ポイントも参考にしてください。
見積もり依頼の前に、理事会で目的と条件をそろえる
「値上げが不満」から、比較できる条件へ
値上げへの反発だけで候補会社を探し始めると、「安ければよいのか」「業務の改善も必要なのか」が曖昧なまま、見積もりだけが集まってしまいます。
まず理事会で、次の事項を整理しましょう。
- 変更の検討目的は、値上げ幅の抑制か、管理品質の改善か、その両方か。
- 管理員の勤務時間、清掃の頻度など、維持したい業務は何か。
- 業務内容や実施回数を見直せる部分はあるか。
- いつからの変更を希望し、いつまでに比較結果を判断するか。
- 候補会社との連絡や質問を、誰が取りまとめるか。
理事会として見直しを検討する方針を確認し、検討範囲と窓口を整理しておけば、候補会社にも説明しやすくなります。
この段階で確認するのは、比較検討を進める方針です。見積もりを依頼したからといって、変更が確定するわけではありません。
現在の業務が分かる資料を準備する
比較の基礎になるのは、現在の管理委託契約書と、その別紙・別表、値上げ提案の内容です。必要に応じて、予算・決算資料、設備一覧なども整理します。
候補会社によって確認したい資料は異なるため、提出先や利用目的を確認し、必要な範囲で提供しましょう。
また、契約書に書かれていなくても、現管理会社に継続的に対応してもらっている業務があれば、その扱いも確認が必要です。会社を変更した後に「これも当然対応してもらえると思っていた」という食い違いを防ぐためです。
他社比較では「値上げ後の現契約」も選択肢に残す
比較するのは、過去の金額だけではない
例えば、現在の管理委託費が月30万円で、現管理会社から月36万円への値上げを提案されたとします。他社の見積もりが月34万円であれば、現状より4万円高い一方、現管理会社の改定提案より2万円低いことになります。
| 比較する条件 | 月額管理委託費 | 年額 |
|---|---|---|
| 現在の契約 | 30万円 | 360万円 |
| 現管理会社の改定提案 | 36万円 | 432万円 |
| 他社の提案 | 34万円 | 408万円 |
※金額は説明用の仮定です。実際には、業務内容・税の扱い・別途費用などの条件もそろえて確認します。
この場合、「他社に替えても今より高い」とだけ捉えると、これから選べる契約条件を十分に比較できません。一方、月2万円の差だけで変更を決めるのも早計です。
現契約の内容、現管理会社の改定提案、他社の提案を並べ、今後の費用と管理体制を比較することが大切です。
値上げ理由の確認や、現管理会社との協議の考え方は、管理会社の値上げ要請はここに出る|重要事項説明書で見抜く「金額変更」と理事会の判断ポイントで解説しています。
業務内容と、受託開始の条件まで確認する
他社の金額が低くても、管理員の勤務時間が短い、清掃頻度が少ない、別途費用が多いといった違いがあれば、単純には比較できません。
また、金額や業務内容に納得できても、希望日から受託できるとは限りません。管理員等の確保、社内承認、収納手続きなどについて、業務開始までの条件を確認する必要があります。
候補会社の評価基準については、信頼できるマンション管理会社の選び方も参考にしてください。
次の会社が決まる前に、終了通知を先行させない
「値上げするなら、契約を打ち切ります」
交渉の中でそう伝えたくなることもあるでしょう。しかし、次の管理体制の見通しが立たないまま、正式な終了・解約の通知を先行させることは避けたいところです。
候補会社から見積もりが届いたことと、受託が確定したことは別です。現地確認や社内審査の結果、条件が変わったり、受託を見送られたりする可能性もあります。
一方で、通知期限を過ぎてしまえば、希望する日程で終了できないことも考えられます。候補会社の受託条件と開始可能日、総会等の決議日、現契約の通知期限を一つの予定表にして調整する必要があります。
正式な通知は、管理規約に基づく組合内の意思決定と、契約上の手続きを確認して行いましょう。
また、「次が決まらなければ、今の会社が延長してくれるだろう」と見込むことも危険です。延長の可否や条件は、早めに協議しておく必要があります。
総会までに準備が整わない場合の選択肢
短期の暫定契約を協議する
条件の比較や引継ぎ準備に時間が必要な場合、現管理会社と短期の暫定契約を協議する方法があります。
標準管理委託契約書にも、更新の協議が整う見込みがない場合に、双方の合意によって暫定契約を締結できる規定があります。ただし、管理組合が希望すれば当然に延長できる制度ではありません。
期間、委託費、業務内容、終了時の扱いなどを確認し、必要な組合内の承認手続きも整理しましょう。
いったん更新し、変更の検討を継続する
十分な比較ができていない場合には、現管理会社との契約を更新し、その後も見直しを継続する判断もあります。
ただし、更新時には契約期間と中途解約の条件を確認することが重要です。また、改定後の委託費で更新する場合は、その支出を予算にどう反映するかも検討しなければなりません。
組合員に対しては、更新する理由と、今後の比較検討の進め方を説明しておくとよいでしょう。
通常総会にこだわらず、臨時総会も検討する
通常総会までに選定が終わらなくても、その後の臨時総会で新管理会社との契約を決議する方法が考えられます。
その際には、臨時総会までの管理体制、新会社の開始日、予算への影響を合わせて整理します。
「次の通常総会で全てを終わらせること」を優先して、比較や引継ぎを省かないことが大切です。
会社の交代だけでなく、決算・総会支援の担当まで決める
どの会社が、どの期間の会計を締めるのか
管理会社の変更では、鍵・通帳・図面などの引渡しに目が向きがちです。しかし、決算や総会に近い時期の変更では、会計と運営支援の担当範囲も重要になります。
例えば、決算日から通常総会までの間に管理会社が交代する場合には、次の事項を具体的に確認しましょう。
| 引継ぎ事項 | 決めておきたいこと |
|---|---|
| 決算資料の作成 | どの会社が作成し、いつ提出するか |
| 未収金・未払金の整理 | 交代時点の残高と、その後の回収・支払の担当 |
| 監査への対応 | 資料提出や質問への回答を誰が行うか |
| 総会の準備支援 | 議案書案、印刷・配布、当日の支援を誰が担うか |
| 管理費等の収納 | 口座振替の切替日、居住者への案内、切替中の入金確認 |
| 継続案件 | 滞納、修繕、不具合などの経緯と、引継ぎ後の担当 |
旧管理会社の担当期間に関する内容でも、交代後に請求書が届いたり、決算資料の修正が必要になったりすることがあります。
「旧会社の分だから旧会社が対応する」「新会社に替わったから新会社が対応する」という認識のままでは、対応が止まるおそれがあります。
誰が資料を作り、誰が確認し、いつまでに完了させるのかを、契約内容と合わせて明確にしておきましょう。
役員交代が重なる場合は、判断の経緯も残す
通常総会では、管理会社の変更と同時に、理事長や理事が交代する場合もあります。
その場合、候補会社との約束や未解決の事項が、次の理事会に十分伝わらない可能性があります。
比較表、選定理由、契約条件、引継ぎ予定、未完了事項を記録し、新旧の役員と管理会社で共有することが必要です。
管理会社変更は、総会で可決して終わりではありません。新しい体制で会計・収納・点検・住民対応が継続して初めて、切替えが完了します。
値上げへの対応は、選択肢を確保できる時期から始める
値上げ要請を受けたとき、管理会社変更を検討することには意味があります。他社の提案を確認することで、現在の条件や管理体制を見直す材料が得られるからです。
ただし、希望する時期に、希望する条件で変更できるとは限りません。
まず総会日・契約満了日・通知期限を確認し、理事会で比較の目的と条件を整理する。そのうえで、現管理会社との協議と候補会社の検討を進め、必要な決議や引継ぎに間に合うかを判断することが大切です。
準備が整わなければ、双方が合意できる継続方法を確保し、検討を続けることも一つの判断です。
値上げへの回答を急ぐ前に、管理組合として選べる契約条件と、実行できる日程を確認しておきましょう。





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