2026年4月、改正区分所有法の施行により「国内管理人」制度が始まりました。国外に住む区分所有者などに代わり、国内で連絡や一定の管理行為を担う仕組みで、総会における議決権の行使も重要な権限に含まれます。
海外居住の所有者が増えるなか、連絡不能や議決権の不行使を防ぐ意味では有効な制度です。一方、誰を国内管理人に選べるのかという具体的な制限は十分ではなく、修繕や管理に利害関係を持つ個人・法人が選ばれれば、マンションの意思決定がゆがむおそれがあります。
2026年7月16日付の日本経済新聞では、修繕工事に利害関係のある法人が国内管理人として選ばれていたとされる例も紹介されました。本記事では制度の一般的な説明を繰り返すのではなく、管理組合が確認すべき「選任基準」と「利益相反」に絞って解説します。
国内管理人は単なる国内の連絡先ではない
2026年4月に始まった新しい制度
国内管理人は、区分所有者が国外に居住する場合などに選任できる制度です。国土交通省のマンション標準管理規約では、国内管理人を選任した場合、氏名または名称、住所または居所などを理事長へ届け出る規定が設けられています。
また、標準管理規約のコメントでは、国内に住所や居所がない組合員に対し、管理規約によって国内管理人の選任を義務付ける規定例も示されています。ただし、標準管理規約は法律そのものではなく、各マンションが規約を作成・改正する際のひな形です。
国内管理人制度の条文、届出事項、法定権限については、関連記事「第31条の3『国内管理人』制度を徹底解説」で詳しく整理しています。
制度が必要になった背景
国内管理人制度が設けられた背景には、国外に住むマンション所有者の増加があります。日経記事によると、2025年1月から6月に販売された新築マンションでは、一部の地域で国外に住所を持つ者による取得が10%前後となる例もありました。
所有者と連絡が取れず、総会でも議決権が行使されなければ、重要な決議を進めにくくなります。国内管理人は、このような状態を防ぐための仕組みとして一定の意味を持っています。
総会で議決権を行使できる
国内管理人の重要な点は、郵便物を受け取るだけの連絡窓口ではないことです。国土交通省が示す届出書のひな形では、総会招集通知の受領、総会における議決権の行使、管理費や修繕積立金などの債務の弁済といった権限が記載されています。
しかも、法律で定められた5つの権限は、区分所有者と国内管理人の委任契約によって全部または一部を削ることはできないとされています。国内管理人を選ぶことは、単に国内の連絡先を届け出ることではなく、マンションの意思決定に関わる者を選ぶことでもあります。
なぜ国内管理人の「選任基準」が問題になるのか
個人だけでなく法人も選任できる
国内管理人は、親族や知人などの個人に限られません。標準管理規約第31条の3が、国内管理人の「氏名又は名称」を届け出る形としていることからも、法人を選任する場合が想定されています。
法人を選任できること自体が問題なのではありません。海外に住む所有者にとって、国内で継続的に連絡を受け、必要な対応を行える法人は、個人より安定した選択肢になる場合もあります。
問題は、その個人・法人がマンションの管理や修繕から利益を得る立場にあるかどうかです。国内管理人の属性だけで安全性を判断するのではなく、総会議案との間に利害関係がないかを見る必要があります。
標準管理規約には詳しい除外基準がない
標準管理規約は、国内管理人を選任した場合の届出や、選任を義務化する場合の規定例を示しています。一方、修繕工事の受注者、工事の紹介者、設計・監理に関係する者などを選任対象から除外する具体的な基準までは示していません。
この空白を埋めないまま「国外に住む場合は国内管理人を選任すること」だけを管理規約に追加すると、所有者は形式上の義務を果たすため、依頼しやすい相手を安易に選ぶ可能性があります。選任義務と選任基準は、切り離さずに検討すべきです。
修繕工事の利害関係者が議決権を持つリスク
自らに有利な方向へ議決権を行使する可能性
大規模修繕工事では、工事の実施時期、施工範囲、予算、施工会社の選定など、管理組合の支出に直結する議案が総会へ上程されます。国内管理人が修繕工事で利益を得る立場にあれば、自らに有利な方向へ議決権を行使する可能性を否定できません。
もちろん、利害関係のある国内管理人が選ばれたからといって、直ちに不正が行われるとは限りません。しかし、所有者本人の利益、国内管理人の利益、管理組合全体の利益が一致しない構造を放置することは、総会の公正さに疑念を生じさせます。
日経記事では、修繕工事に利害関係のある法人が国内管理人として選ばれていたとされる例が、すでに出ていると紹介されています。制度が始まったばかりの段階でこのような指摘がある以上、管理組合は「届出があれば受け付けるだけ」でよいのかを考える必要があります。
所有者への「なりすまし」とは性質が異なる
所有者でない者が所有者を名乗って議決権を行使した場合、所有者ではないと判明すれば、排除する根拠は比較的明確です。これに対して国内管理人は、区分所有者から正式に選任され、法律上認められた権限を行使します。
そのため、後から修繕工事との利害関係が分かっても、それだけで直ちに選任を終了させたり、議決権行使を否定したりできるとは限りません。正規の制度を通じた権限行使だからこそ、問題の発見と排除が難しくなる可能性があります。
総会における議決権の基本的な考え方は、関連記事「議決権とは?『持分割合』で揉める前に」もあわせてご覧ください。
任意制度を管理規約で義務化する場合の注意点
法律上の任意と規約上の義務は分けて考える
国内管理人制度は、法律上、国外に住むすべての所有者へ一律に選任を義務付ける仕組みではありません。一方、国土交通省は標準管理規約のコメントで、国内に住所や居所を持たない組合員に対して選任を義務付ける規定例を示しています。
日経記事では、管理会社から示された規約改正案に国内管理人の義務化が盛り込まれていたものの、誰を選べるのかという具体的なルールがなく、総会決議が延期されたマンションの例が紹介されました。制度導入を急ぐより、選任の入口を先に整える必要があります。
海外転勤の直前に候補者を探すこともある
海外転勤や移住の直前は、住居、仕事、家族、行政手続きなどへの対応が重なります。その段階で国内管理人の選任を求められれば、所有者が十分に比較せず、近くにいる関係者へ依頼する可能性があります。
義務化には、管理組合が国内の連絡先を確保しやすくなる利点があります。しかし、期限までに誰かを選ばせるだけの制度にすると、かえって利害関係者の安易な選任を増やすおそれがあります。
管理規約で検討したい国内管理人の選任基準
管理や修繕に利害関係を持つ者の除外
最低限検討したいのは、当該マンションの管理や修繕に利害関係を持つ者を、国内管理人の選任対象から除外することです。日経記事でも、マンションの管理や修繕に利害関係を持つ者を選任することを禁止する具体的なルールが必要だとの指摘が紹介されています。
ただし、「利害関係者」の範囲を曖昧なまま規約に書けば、誰が該当するのかを巡って新たな争いが生じます。工事を直接受注する者だけでなく、紹介料や業務委託料を受ける者をどう扱うかなど、実際の規約文言は弁護士やマンション管理士などの専門家に確認することが重要です。
選任後に利害関係が生じた場合への対応
選任時には修繕工事との関係がなくても、その後に国内管理人が工事関係者となる場合があります。選任時点だけを確認して終わりにせず、届出内容や関係性に変更があった場合の報告方法も検討しなければなりません。
標準管理規約第31条の3では、国内管理人の選任を終了した場合や、届け出た内容に変更があった場合に、直ちに届け出ることとしています。これに加え、管理・修繕との利害関係に変化が生じた場合を、管理組合がどのように把握するかという運用も必要です。
義務化条項だけを一括承認しない
2026年4月施行の改正区分所有法に対応する規約改正は、総会の招集手続き、決議要件、名簿、国内管理人、管理不全住戸など多くの項目に及びます。改正項目が多いほど、国内管理人の義務化が他の条文に埋もれ、十分な説明がないまま承認される可能性があります。
管理会社や専門家が作成した一括改正案であっても、国内管理人については、対象者、義務化の必要性、選任基準、届出方法、利害関係者の扱いを分けて確認すべきです。規約改正は、標準管理規約と同じ文言にする作業ではなく、自分たちのマンションに必要なルールを決める手続きです。
管理組合が確認すべき7つのポイント
国内管理人制度をすでに導入しているマンションも、これから規約を改正するマンションも、次の点を確認してください。
- 管理規約に国内管理人に関する条文があるか
- 選任は任意か、それとも国外居住者に義務付けているか
- 誰を国内管理人に選べるのかという基準があるか
- 管理や修繕の利害関係者を除外する規定があるか
- 氏名または名称、住所、連絡先、選任日、委任権限を把握しているか
- 選任終了や届出内容の変更を反映する運用があるか
- 管理会社に名簿管理を委託したまま、理事会が確認していない状態になっていないか
国内管理人の情報は、組合員名簿と切り離して管理するものではありません。国土交通省も、国内管理人が選任された場合には、届出内容を組合員名簿に付記し、円滑に連絡を取れるようにすることが望ましいとしています。
組合員名簿の作成、更新、確認については、関連記事「標準管理規約第31条の2『組合員名簿』の実務ポイント」で詳しく解説しています。
また、国内管理人を総会、滞納、漏水事故などの場面でどのように活用するのかは、「『所有者と連絡が取れない』マンションが増えている|国内管理人制度の実務ポイント」をご確認ください。
まとめ|国内管理人は「誰を選ぶか」まで考えて初めて機能する
国内管理人制度は、海外に住む所有者との連絡や、総会における議決権行使を確保するための重要な仕組みです。制度そのものを危険視するのではなく、適切な相手が選ばれるように設計する必要があります。
特に管理規約で選任を義務付ける場合は、義務化の条文だけを置いて終わりにしてはいけません。管理や修繕に利害関係を持つ者をどう扱うのか、選任後に関係が変わった場合にどう把握するのかまで、事前に検討しておくことが重要です。
国内管理人を置いているかどうかだけでなく、誰にマンションの意思決定を委ねているのか。そこまで確認して初めて、国内管理人制度は管理組合を支える仕組みになります。
参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理規約」
- 日本経済新聞「マンション新制度『国内管理人』 悪用で修繕に危機?」2026年7月16日付

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