築年数が50年を超えたマンションと聞くと、「建物が古い」「耐震性や設備が心配」「売却しにくい」といった印象を持つ方も多いでしょう。
ところが、築50年前後でも購入希望者が絶えず、売りに出るのを待つ人が20組以上いるマンションもあります。2026年7月11日付の日本経済新聞「ビンテージマンション、築50年でも20組待ち 無二の立地・外観に魅力」では、大阪府箕面市の「箕面リリーヴィレッジ」をはじめ、東京、名古屋などで再評価されるビンテージマンションが紹介されました。
箕面リリーヴィレッジは1976年竣工です。斜面地を生かした独特の外観と眺望、100平方メートルを超える広さを持ち、購入した30代夫婦は115平方メートルの住戸を5LDKから2LDKへ改修しました。購入費とリノベーション費の総額は約4,000万円です。
ただし、古いマンションなら、時間がたてば自然にビンテージマンションになるわけではありません。築年数を重ねながら価値を残すマンションと、単に老朽化して買い手から避けられるマンションの間には、大きな差があります。
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築50年でも選ばれるマンションが現れた背景
ビンテージマンションが注目される背景には、新築マンションの価格高騰があります。建築費、人件費、地価が上昇し、価格を抑えるために専有面積を縮小する傾向もあるため、都市部で広い住戸を新築で購入することは難しくなりました。
その結果、買い手の一部は、好立地にあり、面積が広く、自分好みに改修できる中古マンションへ目を向けています。特に1960~70年代に建てられたマンションには、現在では同じ条件で開発しにくい高台や駅近の土地、ゆとりある敷地、広い住戸を持つものがあります。
日経記事によれば、築30年以上の中古マンションは、調査対象となった中古物件の53%を占め、10年前の33%から大きく増えました。築30年以上の平均販売価格も、70平方メートル換算で10年前から32.7%上昇しています。
もっとも、この数字は「築古マンションなら何でも値上がりする」ことを意味しません。高経年マンションが増えるほど、将来も選ばれる物件と、維持が難しくなる物件の差が鮮明になると考えるべきでしょう。
築40年・50年マンションの資産価値と耐震性、管理状態の関係については、こちらでも詳しく解説しています。
ビンテージマンションに明確な定義はない
ビンテージマンションには、法律上の定義や、築何年以上なら該当するという統一基準はありません。
一般的には、単に古いだけではなく、次のような特徴を持つマンションがビンテージと呼ばれます。
・現在では得にくい希少な立地や土地の歴史がある
・建築当時の個性的なデザインや共用部分が残っている
・専有面積や敷地、駐車場などにゆとりがある
・修繕と管理が継続され、建物として使用できる状態が保たれている
この中で、立地や当初の設計は、完成後に変えることができません。一方、修繕や管理は、管理組合の判断と行動によって変えられます。
横浜に残るビンテージ建築はこちらでも紹介しています。
普通の築古マンションとビンテージを分ける「管理の差」
マンションの築年数は、すべての物件で同じように増えていきます。それでも、30年、40年、50年後の状態は同じにはなりません。
その差を生むのが、建物をどのように維持し、どのような意思決定を積み重ねてきたかという管理の履歴です。
専有部分は個人で変えられても、共用部分は一人では変えられない
中古マンションの魅力として、室内を自分好みにリノベーションできることが挙げられます。間取り、内装、キッチン、浴室などは、管理規約の範囲内で所有者が更新できます。
しかし、外壁、屋上防水、廊下、階段、エレベーター、共用の給排水管などは共用部分です。どれほど専有部分をきれいにしても、共用部分の劣化や漏水リスク、設備更新の遅れを一人の所有者だけで解決することはできません。
専有部分のリノベーションは個人の判断で進められますが、建物全体の再生には管理組合の合意形成と資金が必要です。ここに、戸建てとは異なるマンション特有の難しさがあります。
修繕履歴と長期修繕計画が将来の安心をつくる
高経年マンションでは、外壁や防水だけでなく、給排水管、エレベーター、受変電設備、機械式駐車場など、高額な設備更新が必要になります。
過去にどのような工事を行ったのか、今後どの時期に何を更新するのか、それに必要な修繕積立金を確保できるのか。この三つが整理されていなければ、買い手は購入後の負担を予測できません。
反対に、築年数が古くても、修繕履歴が明確で、長期修繕計画が定期的に見直され、将来の資金計画まで示されていれば、不確実性は小さくなります。
長期修繕計画を見直す際の実務的なポイントは、こちらで詳しく解説しています。
管理費や修繕積立金が安ければよいわけではない
中古マンションを比較するとき、毎月の管理費や修繕積立金が安い物件を魅力的に感じることがあります。
しかし、高経年マンションでは、費用が安い理由を確認する必要があります。必要な工事を先送りしている、修繕積立金の値上げを避けている、管理員や清掃などの管理水準を落としているのであれば、その安さは将来負担を後送りしているだけかもしれません。
ビンテージマンションを維持するには、建物の特徴に応じた費用が必要です。特殊な外壁、手すり、建具、暖房設備などを残す場合、一般的な既製品へ交換するよりも工事費が高くなることもあります。
「古いのに管理費が高い」のではなく、「古い建物の価値を残すために必要な費用を負担している」と評価すべき場合もあるでしょう。
「古き良き」を残す大規模修繕は簡単ではない
日経記事で紹介された東京都文京区の川口アパートメントは、1964年竣工です。2022~24年に初めて行った大規模修繕では、外壁のデザインを変えないよう、全面的に塗装するのではなく、補修と撥水剤で仕上げました。
一般的な大規模修繕では性能、耐久性、施工性、費用を比べますが、ビンテージマンションでは「何を残すか」という判断も必要です。
当初の色、形、素材を失えば、建物の安全性は確保できても、魅力や希少性が薄れる可能性があります。一方で、意匠を優先しすぎて必要な性能改善を行わなければ、安心して住み続けることはできません。
つまり、ビンテージマンションの修繕では、保存と更新の両立が求められます。そのためには、建築や設備に詳しい専門家の助言だけでなく、管理組合として残したい価値を共有しておくことが欠かせません。
自主管理だから価値を守れるとは限らない
川口アパートメントや、千葉県我孫子市の我孫子ビレジでは、管理組合が主体となって建物を長期維持しています。住民が建物に強い愛着を持ち、修繕や管理に継続して関わってきたことは、価値を守る大きな力になっています。
ただし、これを「管理会社に委託しない方がよい」と単純化することはできません。
自主管理では、会計、滞納対応、設備点検、工事発注、総会運営などを管理組合が担います。一部の詳しい住民に業務が集中すれば、その人の退任後に管理が回らなくなる危険もあります。
重要なのは、自主管理か管理会社への委託かではなく、管理組合が主体性を持って判断しているかです。管理会社を利用していても、理事会が修繕内容や資金計画を理解し、必要な専門家を使い分けていれば、主体的な管理は可能です。
管理会社への全面委託と完全な自主管理の間にある管理方法については、こちらで整理しています。
ビンテージマンションを購入する前に確認したいこと
外観や室内写真に魅力を感じても、購入前には建物全体の状態を確認しなければなりません。
特に確認したいのは、旧耐震か新耐震か、旧耐震の場合は耐震診断や耐震補強が行われているかという点です。築年数や耐震基準によって住宅ローンの条件が厳しくなる場合もあります。さらに、大規模修繕の履歴、給排水管の更新状況、修繕積立金の残高、値上げ予定、一時金や借入れの可能性も確認が必要です。
セントラルヒーティング、機械式駐車場、大型エレベーターなど、そのマンション特有の設備がある場合には、更新方法と将来費用も重要です。また、希望するリノベーションが管理規約や使用細則で認められているか、床材、窓、玄関扉、配管などの工事範囲も確認しておきたいところです。
中古マンション購入時に確認すべき管理面のポイントは、次の記事でも詳しく紹介しています。
給排水管の更新と更生工事の違いについては、こちらも参考になります。
加えて、総会議事録や理事会議事録から、修繕工事や値上げの議論が前向きに進んでいるか、長年先送りされていないかを読み取ることも重要です。建物の見た目だけでは分からない管理組合の意思決定力が、購入後の安心を左右します。
自分たちのマンションを「選ばれる築古」にするために
すべてのマンションが、有名な建築家の設計や特別な歴史を持つビンテージマンションになれるわけではありません。しかし、どのマンションでも、将来「選ばれる築古」を目指すことはできます。
まず、外観、植栽、エントランス、共用施設など、自分たちのマンションで残したい価値を整理することです。次に、長期修繕計画と資金計画を現実に合わせて更新し、必要な修繕積立金を早めに確保します。
さらに、工事や設備更新の記録を残し、新しい役員や購入者へ引き継げる状態にすることも大切です。管理組合の運営が特定の人の経験だけに依存していると、世代交代の際に方針が途切れてしまいます。
建物の価値は、一度の大規模修繕だけで決まりません。小修繕、清掃、植栽管理、会計、議事録、住民への説明といった日常管理の積み重ねによってつくられます。
新築希望が低下し、中古マンションの選択が広がる時代に、管理状態が将来の売却や資産価値へ与える影響については、こちらでも解説しています。
まとめ|ビンテージは築年数ではなく管理の結果である
築50年でも20組以上が購入を待つマンションがある一方で、同じ築年数でも、修繕の遅れや管理組合の機能低下によって、売却が難しくなるマンションがあります。
両者を分けるのは、立地や当初のデザインだけではありません。修繕履歴、長期修繕計画、修繕積立金、設備更新、そして管理組合の意思決定が積み重なった結果です。
ビンテージマンションとは、古くなったマンションに後から付けられる便利な呼び名ではありません。長い年月をかけて建物の魅力と安全性を守り、次の所有者へ引き継いできた実績に対する評価です。
これから築30年、40年、50年を迎えるマンションが増えるほど、普通の築古マンションと、将来も選ばれるマンションの差は広がります。
マンションの価値は、完成時点で決まるものではありません。住民が共有資産として建物に関わり、必要な費用と手間を引き受けて管理を続けることで、次世代へつながっていきます。
参考:日本経済新聞「ビンテージマンション、築50年でも20組待ち 無二の立地・外観に魅力」(2026年7月11日)








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