空き家税はマンションにも広がるのか|管理組合が備えるべき「住まない所有者」問題

マンション管理

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はじめに|空き家税は戸建てだけの話ではなくなってきた

空き家税や空室税という言葉を聞くと、多くの方は老朽化した戸建てや、地方の空き家問題を思い浮かべるかもしれません。

しかし近年、この議論は都市部の分譲マンションにも近づいています。京都市では2030年度からの空き家課税が予定され、大阪府寝屋川市も2029年度を目標に「空き家流通促進税」の導入を進めています。さらに神戸市では、都心部のマンション空室に課税する「空室税」の議論も進んでいます。

これは、単に新しい税金が増えるという話ではありません。管理組合にとって重要なのは、税額そのものよりも、その背景にある「住んでいない所有者」の増加です。

この動きは、単なる税制の話ではありません。その背景にあるのは、分譲マンションにおいて「所有しているが住んでいない」区分所有者が静かに増えているという現実です。相続を機に空き住戸になるケース、海外赴任や移住で長期不在になるケース、投資目的で一度も居住しないケース——。そうした「非居住所有者」が増えるとき、管理組合の実務にどのような問題が生じるのか。今回はその点を中心に整理します。

空き家税とは何か|京都市・寝屋川市で進む新たな課税の動き

空き家税は、各自治体が条例で定める法定外税です。国税ではなく、地方自治体が独自に設ける税で、居住実態のない住宅に対して、固定資産税とは別に課税する仕組みです。

京都市の場合、対象は市街化区域内にある住宅で、税額は固定資産税額の半額程度になる場合が多いとされています。大阪府寝屋川市では、市内全域を対象に、固定資産税額の3〜4割程度を想定しています。

ここでマンション管理組合が注目すべきなのは、課税額そのものではありません。空き家税の議論が、戸建てだけでなく、分譲マンションの空き住戸や非居住所有者にも及び始めている点です。

一般的な分譲マンションの空き住戸(床面積60㎡、固定資産税5万円程度)の場合、京都市のモデルでは年間2万5,000円前後の負担増になるとされています。この数字だけを見ると「それほど大きくない」と感じるかもしれません。しかし、空き家の所有者はすでに固定資産税に加えて光熱費・火災保険料・マンションなら管理費と修繕積立金まで負担しています。

空き家税はその上に重なる出費ですから、所有者の行動に影響を与える可能性はあります。

なぜ自治体は空き家に課税しようとしているのか

自治体が空き家課税に動く背景には、空き家数の増加という現実があります。2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家数は約900万戸。このうち賃貸・売却用や別荘用などを除いた「その他空き家」は386万戸と、1993年の2.6倍以上に増えています。日本総合研究所の推計では、「その他空き家」は2043年に597万戸まで増えるとされています。

空き家が増える理由のひとつは、空き家の約6割が相続で取得されたものであることです。相続で取得しても、複数の相続人が共有している場合は売却に全員の同意が必要で、手続きが進まないまま放置されるケースが多くあります。また、空き家を訪れる交通費や管理の手間など、実際のコストが意外と重いことも放置の原因になっています。

自治体側が課税によって期待しているのは、こうした「動かない空き家」の流通を促すことです。ただし、専門家のあいだでは、住宅需要のある都市部では一定の効果が見込める一方、需要の乏しい地域では引き取り手がいないため効果は限られるという見方もあります。空き家税が全国一律に広まるとは考えにくく、導入のメリットが大きい自治体を中心に、選択的に広がっていく可能性があります。

戸建てだけではない|マンションの空き住戸が管理組合に与える影響

空き家問題というと、老朽化した戸建てのイメージが先行しがちです。たとえば神戸市の空室税議論では、都心部のタワーマンションで高層階になるほど住民登録のない部屋の割合が高いことが指摘されています。40階以上では、その割合が約35%にのぼるとされ、都心部のマンションにおける非居住化が行政課題として扱われ始めています。同市の検討会では「タワーマンションだけが特別ではない」という意見が大勢を占め、都心部の分譲マンション全般に課税対象を広げる方向で議論が進んでいます。

住んでいない所有者の増加は、戸建て空き家とは異なるかたちでマンション管理を複雑にします。戸建ての場合、問題は主に「その建物の管理」に集約されます。しかし分譲マンションでは、専有部分と共用部分が一体として管理されており、一住戸の所有者が「住まない・連絡が取れない」状態になると、管理組合の運営全体に影響が及びます。この点が、マンションにおける非居住所有者問題の本質です。

マンションの空き住戸で起きる5つの管理リスク

管理費・修繕積立金の滞納

区分所有者は、住んでいる・いないにかかわらず、管理費と修繕積立金の支払い義務を負います。しかし、長期不在や相続未了の状態では、引落口座が解約されたまま放置されたり、督促状が届かなかったりするケースが起こりがちです。

マンションが相続された場合、被相続人の未払い管理費は相続人に引き継がれる可能性があります。ただし、相続人が複数いる場合や、相続放棄の有無が確認できない場合には、誰に、どのように請求すべきかを整理するだけでも時間がかかります。

相続されたマンションでは、相続税や相続登記だけでなく、管理費・修繕積立金、空き住戸化、売却や賃貸に出せない状態が問題になることがあります。マンション相続で起きる実務上の注意点については、「マンション相続で何が起きる?相続税・管理費・相続登記・空き家リスクを総合解説」でも詳しく解説しています。

管理組合としては、滞納が発生してから相続関係を調べ始めるのではなく、区分所有者の死亡や長期不在を把握した段階で、連絡窓口を確認しておくことが重要です。

管理組合としては、滞納が発生してから相続関係を調べ始めるのではなく、区分所有者の死亡や長期不在を把握した段階で、連絡窓口を確認しておくことが重要です。

総会・議決権行使の停滞

連絡先が不明な区分所有者が増えると、総会の通知が届かない、議決権行使書が返ってこないという事態が続きます。大規模修繕工事の決議や管理規約の改正は特別多数の賛成が必要なため、こうした「不在票」が積み重なると、必要な決議が成立しにくくなります。

住民登録がない所有者、議決権行使書を返送しない所有者、連絡先が古いままの所有者が増えると、合意形成そのものが難しくなります。特に、管理規約の改正や大規模修繕に関する重要な決議では、出席者だけでなく、組合員全体を意識した合意形成が必要になります。

令和8年4月施行の改正区分所有法では、所在不明区分所有者を一定の手続きにより決議母数から除外する仕組みも整備されます。しかし、これはあくまで最終的な手段であり、日常的な名簿整備や連絡先確認の代わりになるものではありません。

漏水・火災・設備不具合への対応遅れ

専有部分で漏水や火災が発生したとき、区分所有者と連絡が取れないと、入室確認も応急修理の判断も遅れます。被害が拡大すれば、周辺住戸への損害と、復旧費用・賠償責任をめぐる調整が長期化する可能性があります。緊急連絡先が更新されていない住戸は、こうした場面でもっとも対応が難しくなります。

相続未了・共有化による意思決定不能

相続登記が行われないまま時間が経過すると、次の相続が重なって権利関係がより複雑になります。区分所有者が共有状態になると、管理費の請求先、総会通知の送付先、緊急連絡先のすべてが不明確になりがちです。

2024年4月からは相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内の登記が必要になっています。ただし、管理組合側では義務化の事実を把握していても、各住戸の登記状況を直接確認できるわけではありません。「相続が発生したら速やかに届出する」という運用を管理規約や細則で明確にしておくことが、実務上は重要です。

連絡不能所有者の増加

海外赴任、海外移住、投資目的での取得——こうした背景を持つ区分所有者は、管理組合から届く郵便物に対して反応が遅れがちです。「あとで確認しよう」と置かれたまま開封されない、メールアドレスが変わっているが更新されていない、というケースは決して珍しくありません。

連絡不能状態が放置されると、督促状の送達ができず、訴訟に必要な手続きが止まり、緊急時の対応も遅れます。管理会社は、通常、届出のある住所や連絡先に通知を送ることはできます。しかし、行方不明者の調査、相続人の特定、法的手続きの判断まで当然に担うわけではありません。連絡不能の問題は、管理会社任せにするのではなく、管理組合として対応方針を決めておく必要があります。

特に、海外居住者や長期不在者がいるマンションでは、国内で連絡を受けられる人をどう確保するかが重要になります。連絡不能所有者への対応や国内管理人制度の実務については、「『所有者と連絡が取れない』マンションが増えている|国内管理人制度の実務ポイント」で詳しく整理しています。

神戸市の空室税議論が示す「普通の分譲マンション」の課題

神戸市の空室税議論で重要なのは、対象がタワーマンションだけにとどまらない可能性が示されたことです。当初はタワーマンションの空室対策として注目されましたが、検討が進む中で、都心部の分譲マンション全般に広げる方向も議論されています。

神戸市の空室税議論の詳しい経緯については、「神戸市『空室税』、タワマン限定は撤回へ」で整理しています。本記事では、その議論を前提に、空室税そのものよりも、管理組合にとっての非居住所有者問題に焦点を当てます。

この点は、管理組合にとって非常に重要です。なぜなら、非居住所有者の増加は、一部の高級タワーマンションだけの問題ではなく、一般的な分譲マンションでも起こり得る問題だからです。

空室税の制度設計そのものは自治体の判断ですが、管理組合が見るべきなのは、税率や課税対象よりも、その背景にある非居住化の進行です。住んでいない所有者が増えれば、総会通知、議決権行使、管理費滞納、緊急時の連絡対応など、管理組合の運営に少しずつ影響が出てきます。

空き家税で本当に所有者は動くのか

空き家税が導入されたとして、所有者の行動は変わるでしょうか。これは単純に「変わる」とも「変わらない」とも言えない部分があります。

住宅需要のある都市部では、賃貸に出す、売却するという選択肢が現実的であるため、課税をきっかけに動き出す所有者も一定数は出てくるかもしれません。一方で、相続未了の状態や共有者間の合意が取れていない状態では、そもそも動こうとしても手続きが複雑で進まないというケースも多くあります。

また、空き家の管理コスト全体(固定資産税・光熱費・管理費・修繕積立金・空き家税)と、売却や賃貸に伴う手間やコストを天秤にかけたとき、「それでも放置したほうが楽」と判断する所有者がいることも現実です。

課税によって流通が促進される効果は、住宅需要のある地域では期待できる部分もあります。一方で、相続人同士の合意が整っていない住戸や、売却・賃貸に出す意思決定ができない住戸では、税負担だけで直ちに状況が動くとは限りません。

管理組合として重要なのは、空き家税や空室税が導入されるかどうかを待つことではありません。非居住所有者が一定数いる前提で、名簿、連絡先、相続時の届出、滞納時の初期対応を整えておくことです。税制は所有者を動かすきっかけにはなっても、管理組合の実務を代わりに整えてくれるわけではありません。

管理組合が今から確認すべき実務対応

区分所有者名簿・居住者名簿の整備

まず確認したいのは、区分所有者名簿と居住者名簿です。

組合員名簿と居住者名簿は同じものではありません。区分所有者本人が住んでいる住戸もあれば、賃貸に出されている住戸、相続後に空き住戸になっている住戸、投資用として所有されている住戸もあります。

そのため、「現在の所有者は誰か」「実際に住んでいる人は誰か」「緊急時に連絡できる人は誰か」を分けて把握することが重要です。名簿は作って終わりではなく、少なくとも年に一度は更新状況を確認する運用が望ましいでしょう。

組合員名簿の整備は、非居住所有者や所在等不明区分所有者への対応の出発点になります。標準管理規約31条の2に基づく組合員名簿の考え方や実務上の確認ポイントについては、「標準管理規約31条の2『組合員名簿』の実務ポイント」で詳しく解説しています。

緊急連絡先の更新

緊急連絡先は「設定した時点の情報」に過ぎません。転職・転居・海外赴任・相続などで状況が変わっても、届出がなければ管理組合側には情報が届きません。理事会や管理会社が定期的に確認を促す仕組みを作っておくことが、実務上の大きな差につながります。

相続発生時の届出ルール

区分所有者が亡くなった場合、相続人が速やかに管理組合に連絡し、相続登記の見通しや連絡窓口を届け出るルールを、管理規約や使用細則に明記しておくことが有効です。届出義務があることと、実際に届出がされることは別の話ですが、ルールが明文化されていることで、相続人への働きかけの根拠になります。

長期不在住戸への対応

海外赴任や長期不在が見込まれる区分所有者に対しては、不在中の緊急連絡先として国内の家族・知人を登録してもらうことが基本です。令和8年4月施行の改正区分所有法では、国内に住所や居所を持たない区分所有者に関する「国内管理人」制度が設けられます。もっとも、制度ができたからといって、管理組合の実務上の不安が自動的に解消されるわけではありません。

管理組合としては、国内管理人の届出が必要になるケースを確認するとともに、長期不在時の連絡先が実際に機能するかを定期的に確認する運用も必要です。

管理費滞納の初期対応

管理費・修繕積立金の滞納は、早い段階での対応が回収率に直結します。引落停止に気づいた時点で、まず管理会社を通じて口座変更や振込依頼を行い、反応がなければ督促通知と内容証明郵便を段階的に送る流れを、管理組合として決めておくことが重要です。

管理費・修繕積立金の滞納は、初動が遅れるほど回収が難しくなります。具体的な督促の流れや法的手続きについては、「管理費・修繕積立金の滞納対策!法的手続きと回収方法」で詳しく解説しています。

相続発生後に滞納が生じている場合は、相続人の確認と並行して専門家(弁護士等)への相談も視野に入れておきましょう。

所在不明区分所有者制度との関係

令和8年4月施行の改正区分所有法では、所在等不明区分所有者について、一定の手続きを経たうえで、決議に必要な母数から除外できる仕組みが整備されます。

ただし、これは管理組合が自由に判断して除外できる制度ではありません。裁判所への申立てなど、法定の手続きを経る必要があります。ただし、手続きには裁判所への申立てが必要で、簡単ではありません。この制度は最終手段として理解しておきつつ、まずは日頃の名簿整備と連絡ルートの維持によって、こうした手続きを不要にする状態を目指すことが現実的です。

管理規約や使用細則の確認

最後に確認したいのが、管理規約や使用細則です。

非居住所有者が増える時代には、緊急連絡先の届出、組合員名簿の更新、相続発生時の通知、長期不在時の国内連絡先、専有部分への立入り対応などを、規約や細則の中でどこまで明確にしているかが重要になります。

特に、管理規約に条文があっても、実際の届出書式や更新ルールがなければ、実務では機能しません。規約本文だけでなく、使用細則、届出書式、管理会社との運用分担まで含めて確認しておくことが大切です。

まとめ|空き家税は「住まない所有者」問題への警告です

空き家税・空室税の議論は、「住んでいない所有者をどう扱うか」という、これからのマンション管理における本質的な問いを浮かび上がらせています。課税それ自体は区分所有者個人の問題ですが、非居住所有者が増えることによる管理費滞納・連絡不能・総会運営の停滞は、管理組合全体の問題になります。

管理組合として今できることは、大げさな制度対応ではなく、地道な名簿整備と連絡ルートの維持です。区分所有者名簿・居住者名簿を定期的に更新し、緊急連絡先が実際に機能しているかを確認し、相続や長期不在の届出ルールを明確にしておく。こうした基本的な実務の積み重ねが、連絡不能住戸を増やさないための最も確実な備えになります。

空き家税は、管理組合にとって、この問題に気づくきっかけにすぎません。

これからのマンション管理は、「住んでいる所有者だけ」を前提にした運営では成り立ちにくくなります。住んでいない所有者、相続されたまま動かない住戸、連絡が取りにくい区分所有者を、例外ではなく管理上の前提として考える必要があります。

その備えは、特別な制度対応だけではありません。名簿を整える、連絡先を更新する、相続時の届出を明確にする、滞納の初期対応を遅らせない。こうした基本的な実務を積み重ねられるかどうかが、これからの管理組合の差になっていくと思います。

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