東京都が2026年6月、マンションに義務付ける駐車場の設置台数基準を緩和する方針を「東京都駐車場条例の見直しの考え方(案)」として公表しました。都内の駐車場台数は増え続けている一方で、自動車保有台数は停滞傾向にあり、区部ではやや減少傾向が続いています。こうした実態を踏まえ、新築マンションを中心に、義務付ける駐車台数の基準が引き下げられる方向です。
ただし、今回の見直しは「駐車場を減らせばよい」という単純な話ではありません。一般駐車施設の基準が緩和される一方で、宅配需要の増加を踏まえた共同住宅への荷さばき駐車施設の附置義務が新たに加わります。駐車場は管理組合の収入源でもあり、機械式駐車場には長期的な維持費・更新費がかかり、空き区画の活用次第では防災・EV・介護対応の拠点にもなります。
この記事では、東京都の制度変更を入口にして、既存マンションの管理組合が今まさに向き合うべき「駐車場の課題」を整理します。
東京都がマンション駐車場の設置基準を見直す背景
駐車場台数は増える一方で自動車保有は伸びにくくなっている
東京都の駐車場条例は、駐車場法に基づき、交通の発生源である建築物に対して、駐車需要に見合った駐車施設の設置を義務付けるものです。昭和33年の条例制定以来、長らく「車があれば駐車場が必要」という前提のもと、一定規模以上の建築物に対して台数基準が設けられてきました。
しかし、東京都資料によると、都内の駐車場台数は増加傾向にある一方、自動車保有台数はやや停滞傾向にあり、区部ではやや減少傾向が続いています。かつては右肩上がりに伸び続けた自動車保有が、カーシェアリング市場の拡大や、都心部を中心とした「車を持たない暮らし」の広がりを受けて、頭打ちになってきたのです。
都は令和5年度から7年度にかけて、一般駐車施設と荷さばき駐車施設の利用実態調査を実施しました。その結果、共同住宅を含む複数の用途で台数に余剰がある傾向が確認されました。需要の変化が、制度の見直しを促す実証的な根拠になったといえます。
宅配需要の増加で必要な駐車スペースの性質が変わっている
自動車保有が伸び悩む一方で、別の車両需要が急増しています。電子商取引(EC)の普及による宅配需要です。宅配トラックがマンション前で荷さばきをするスペースが足りず、路上駐車や二重駐車が生じているケースは、都市部のマンション周辺では珍しくありません。
今回の見直しでは、居住者が自家用車を置く「一般駐車施設」の台数基準を緩和しながら、同時に宅配トラックなどが荷さばきのために停車できる「荷さばき駐車施設」を共同住宅に対して新たに義務付ける方向が示されています。つまり、駐車場の「量」を減らしながら、「質」や「用途の多様性」を高めようとする方向転換が進んでいます。
この対比は重要です。「駐車場が余っているから減らす」という話と、「荷さばきのスペースが足りないから確保する」という話が、同時並行で進んでいるのです。
東京都の見直し案では何が変わるのか
共同住宅の一般駐車施設は区部・市部ともに緩和される
東京都が令和5年度から令和7年度にかけて実施した利用実態調査では、共同住宅(区部・市部)においても駐車台数に余剰がある傾向が確認されました。この結果を踏まえ、一般駐車施設の附置義務基準が以下のように緩和される方向です。
| 対象 | 地域 | 現行基準 | 新基準 |
|---|---|---|---|
| 共同住宅 | 区部 | 350㎡ごとに1台 | 450㎡ごとに1台 |
| 共同住宅 | 市部 | 300㎡ごとに1台 | 350㎡ごとに1台 |
この基準変更は、主に新築・一定規模以上のマンションに対する附置義務の話です。既存のマンションが、この見直しをもって直ちに自由に駐車場を減らせるという意味ではありません。既存マンションの管理組合が駐車場を減らす場合には、別途、条例上の手続きが必要になります。この点は後述します。
共同住宅への荷さばき駐車施設は新たに重視される
一般駐車施設の基準が緩和される一方で、共同住宅への荷さばき駐車施設の附置義務が新たに加わります。
対象となるのは、駐車場整備地区等では延べ面積2,000㎡超かつ50戸以上、周辺地区または自動車ふくそう地区では延べ面積3,000㎡超かつ50戸以上の共同住宅です。基準は100戸ごとに1台とされており、そのうち2tトラックサイズの車室については、300戸以下では1台、301戸以上では2台が求められます。
「車を置くための駐車場」は減らしてよい、しかし「荷さばきや一時停車のための駐車スペース」はむしろ確保すべき、という制度の方向性が明確に示されています。宅配トラックが安全に停車・荷さばきできるスペースを確保することは、マンションの生活利便性と周辺交通環境の両方に関わる問題です。
なお、荷さばき駐車施設のはり下高さについても、現行の3.0m以上から3.2m以上へと引き上げられる方向です。近年の荷さばき車両の車高が高くなっている実態への対応です。
既存の駐車施設を減らす場合の手続も見直される
今回の見直しでは、既存マンションにとって直接関わる手続き面の変更も含まれています。
現行制度では、既存の附置義務駐車施設を減らす場合、附置義務基準以上の台数を確保する場合であっても、知事による認定が必要とされています。今回の見直し案では、附置義務基準以上の台数を確保したうえで台数を減らす場合については、認定は不要とし、届出だけで足りることとする規定が追加される方向です。これにより、空き区画が多く附置義務台数を超えて駐車場を保有しているマンションにとっては、一部の区画を廃止・転用する際の行政手続きの負担が軽くなることが見込まれます。
また、附置義務駐車施設を完全に廃止する場合には、知事への届出を求める規定も追加される方向です。行政が都内の附置義務駐車場のストックを把握するためのものですが、管理組合にとっては、廃止の際には届出が必要になるという実務上の変化として押さえておく必要があります。
減らした駐車場スペースは都市環境に資する用途への転用が期待される
今回の見直し案には、制度の方向性を示す重要な規定の新設も含まれています。既存の駐車施設の台数を減らすことにより生じるスペースについて、「良好な都市環境の形成に資する用途への転用に努める」規定を追加するという内容です。
具体的な転用先として想定されるのは、EV充電器の設置、防災備蓄倉庫、緑化スペース、荷さばきスペース、カーシェア用スペース、介護・福祉車両用スペースなどです。空き駐車場を「ただ空いている場所」と見るのではなく、マンションや地域社会の課題解決に役立てる「余白空間」として活用する方向が、制度上も後押しされることになります。
マンション駐車場は「足りない時代」から「余る時代」へ
都心部では車を持たない世帯が増えている
しかし、時代は変わりました。都心部や駅近マンションでは、車を持たない世帯、月額数千円のカーシェアで十分という世帯、公共交通を中心に生活する世帯が着実に増えています。若年単身世帯では免許を持たない人も増えており、高齢になって運転をやめた世帯も駐車場を手放します。子育て世帯であっても、保育所の送迎はカーシェアで足りると判断する家庭が増えています。
こうした変化は、都心部・駅近のマンションでは現実の問題として、駐車場に空き区画が生じるという形で現れています。かつて満車だった駐車場が、気づけば空き区画だらけになっているマンションは少なくありません。
必要なのは自家用車置き場だけではなく生活インフラとしての車両スペース
ただし、ここで注意が必要です。「駐車場が余るなら不要」という結論には飛びつかないでください。居住者の自家用車を置く需要は減っても、マンションに出入りする車両の需要は別の形で高まっているからです。
宅配トラックは毎日エントランス前に停まります。引っ越しの際には大型トラックが長時間停車します。高齢の居住者が通院するときには介護タクシーや福祉車両が来ます。救急車や消防車が敷地内に進入することもあります。これらの車両が安全に停まれるスペースがなければ、マンションの日常生活に支障が生じます。
これからのマンション駐車場は、「居住者の車を置く場所」という単一の機能を超えて、「マンション生活を支える余白空間」として捉え直す必要があります。
空き駐車場は管理組合の収入減につながる
駐車場使用料は管理組合の重要な収入源である
管理組合にとって、駐車場使用料は欠かせない収入源のひとつです。多くのマンションでは、月額数千円から数万円の使用料を居住者から徴収し、その収入を管理費会計や修繕積立金会計に組み込んでいます。特に、管理費の補填や修繕積立金の一部として駐車場収入を充てている管理組合では、その収入が予算の前提に組み込まれている場合があります。
駐車場使用料がどの会計に、どのような形で計上されているかは、マンションごとに異なります。管理組合の理事であれば、自分たちのマンションの収支構造の中で駐車場収入がどの程度の比重を占めているかを確認しておくことが重要です。特に、駐車場使用料を日常管理費の不足補填として使っているマンションでは、空き区画の増加がそのまま管理費会計の弱点として表面化します。
駐車場使用料と管理費・修繕積立金の関係については、標準管理規約第29条の解説でも整理しています。
空き区画が増えると予算の前提が崩れる
空き区画が増えると、当然ながら収入は減ります。問題は、「空いているだけだから当面は問題ない」と放置することで、気づいたときには収支が大きく悪化しているケースです。
管理費会計の収入を駐車場使用料で補っている場合、空き区画が増えると管理費が不足し、日常の維持管理に影響が出ることがあります。修繕積立金会計への繰入が計画通りに行われなければ、将来の大規模修繕のための資金が不足するリスクも生じます。収入減を「今は問題ない」と見過ごしていると、予算の前提そのものが崩れていきます。
機械式駐車場は「使わなくても費用がかかる」設備になる
利用率が下がっても点検費や保守費は残る
機械式駐車場には、利用状況にかかわらず継続的な費用がかかります。定期点検費、保守管理費、故障時の修繕費がそれです。空き区画が増えて収入が減っても、これらの支出は変わりません。むしろ、機械の経年劣化が進むにつれて修繕費は増加する傾向があります。
つまり、機械式駐車場を抱えるマンションでは、収入が減るのに支出が残るという構造が生まれます。利用率が低ければ低いほど、1台あたりの維持コストは重くなります。管理組合がこの問題に正面から向き合わないと、財務状況が静かに悪化していきます。
撤去・平面化・外部貸しには決議と実務確認が必要
空き区画が多い場合や更新費が膨らむ場合には、機械式駐車場の一部撤去、平面化、台数削減、外部への貸し出し、カーシェア導入といった対応策を検討する余地があります。ただし、こうした対応はいずれも管理規約や使用細則の確認、必要に応じた総会決議、税務上の扱い、近隣の駐車場需要の調査、安全性の確認、行政条例(附置義務との関係)の確認が必要です。
管理会社からの提案を受け入れるだけでなく、管理組合自身が自らの収支と将来リスクを理解した上で判断することが求められます。機械式駐車場の撤去や平面化を具体的に検討する場合は、維持費・更新費・撤去後の活用方法を整理した関連記事も参考になります。
空き区画の転用先はEV、防災、宅配スペースへ
EV充電器は将来価値になるが費用負担の設計が重要
空き駐車場の転用先として近年注目されているのが、EV(電気自動車)充電器の設置です。EVの普及が進む中、充電設備の有無はマンションの資産価値や居住者の利便性に影響する要素になりつつあります。
ただし、EV充電器の設置には、電気容量の確認、幹線設備の増強が必要かどうか、設備の設置費・維持費、充電した電気代を誰がどのように負担するのか、設置場所を固定区画にするのか共用区画にするのかなど、多くの論点があります。一部の居住者が利用する設備なのか、将来のマンション価値を高める共用インフラなのかによって、合意形成の進め方も変わります。単に「空いている区画に充電器を置く」という発想ではなく、管理組合全体の設備計画として検討する必要があります。
荷さばきスペースは宅配・介護・緊急車両対策になる
前述の通り、宅配トラックの路上駐車はマンション周辺の道路環境に影響します。空き駐車場を荷さばきスペースとして整備することで、宅配トラックが安全に停車・荷下ろしできる環境を整えることができます。これは宅配業者だけでなく、引っ越し業者、介護タクシー、福祉車両、緊急車両にとっても重要なスペースです。
荷さばき駐車施設のはり下高さについては、東京都の見直し案において現行の3.0m以上から3.2m以上へと変更される方向です。これは近年の荷さばき車両の車高が高くなっていることへの対応ですが、既存マンションで荷さばきスペースを整備する際にも、車高への配慮が必要になります。
宅配ボックスや置き配を含めたマンションの宅配環境については、別記事でも整理しています。
ただし郊外マンションでは駐車場を減らせばよいとは限らない
横浜や川崎でも駅近と郊外では事情が違う
ここまでの話は、主として東京都の都心部・駅近マンションを前提とした議論が多くなっています。しかし、横浜市や川崎市のマンション、あるいは郊外や駅遠のマンションでは、状況がかなり異なります。
東京23区の都心部で生じている駐車場過剰の問題が、横浜・川崎の郊外マンションに当てはまるとは限りません。東京都の制度変更は首都圏全体の話ですが、各地域・各マンションの実態は異なります。都心部の論理をそのまま郊外マンションに適用することには慎重さが必要です。
坂の多い地域では車が生活インフラになる
横浜は全国的に見ても坂が多い都市です。丘の上に立地するマンションや、最寄り駅から坂道を10分以上歩くマンションでは、車は単なる便利な移動手段ではなく、生活インフラそのものです。
高齢の居住者にとって、通院や買い物、冠婚葬祭への参加に車は不可欠な場合があります。子育て世帯にとっても、保育所の送迎や休日のアウトドアに車を使う機会は多いでしょう。こうした地域では、駐車場の需要は都心部ほど落ちておらず、空き区画の問題が深刻でないマンションも多くあります。
必要なのは一律削減ではなくマンションごとの実態調査
「駐車場は余っているから減らすべき」という一律の結論は、どのマンションにも当てはまるものではありません。必要なのは、自分たちのマンションの実態を正確に把握することです。
具体的には、現在の駐車場利用率、空き区画の推移、空き待ちの有無、周辺の駐車場需要の状況、住民の年齢構成・ライフスタイル、今後の高齢化の進行などを総合的に踏まえて判断する必要があります。需要が今後も一定程度残ると予想されるマンションでは、駐車場を安易に削減することで住民サービスが低下するリスクもあります。
管理組合が今から確認すべきこと
まず駐車場利用率と収入推移を確認する
管理組合がまず取り組むべきは、自分たちのマンションの現状把握です。現在の駐車場利用率はどのくらいか、区画ごとに空きはあるか、過去3〜5年間で駐車場使用料収入はどう推移しているか、これらを数字で確認することが出発点です。
一時点の状況だけを見ると実態を見誤ります。傾向として利用率が下がり続けているのか、安定しているのかによって、今後の対応の方向性は大きく変わります。
機械式駐車場の将来費用を長期修繕計画で確認する
機械式駐車場を設置しているマンションでは、長期修繕計画に駐車場設備の更新費・修繕費が適切に計上されているかを確認してください。建物本体の大規模修繕と同様に、機械式駐車場も計画的な資金確保が必要な設備です。
計画に組み込まれていない場合や、利用台数の変化が計画に反映されていない場合は、管理会社や専門家に相談して計画を見直すことを検討してください。
転用する場合は規約・細則・総会決議を確認する
空き駐車場を外部貸しやカーシェア、EV充電器、防災倉庫、荷さばきスペースに転用することを検討する場合は、管理規約・使用細則との整合性を確認し、必要な場合は総会決議を経る必要があります。駐車場の使用ルールや専用使用権の考え方については、標準管理規約第15条の解説もあわせて確認しておくとよいでしょう。
管理会社任せにするのではなく、管理組合自身が収支と将来負担を把握した上で、何をどのように転用するのかを議論する姿勢が大切です。必要に応じてマンション管理士や設備会社、税理士などの専門家に確認することも有効ですが、最終的に判断するのは管理組合です。駐車場の転用は、収入、費用、利便性、防災、将来価値が絡むため、単なる空き区画対策ではなく、マンション全体の運営方針として考える必要があります。
まとめ|駐車場は「置く場所」から「マンションの余白資産」へ変わる
東京都の見直しは既存マンションにも示唆がある
今回の東京都の駐車場条例見直しは、一見すると新築マンションの設計に関わる制度変更の話に見えます。しかし、その背景にある「自動車保有の停滞」「カーシェアの普及」「宅配需要の増加」「車両スペースの用途多様化」という変化は、すでに既存マンションの管理組合にとってもリアルな問題です。
特に重要なのは、一般駐車施設の附置義務が緩和される一方で、共同住宅への荷さばき駐車施設が新たに重視されるという対比です。これは「量から質へ」「自家用車置き場からマルチ用途スペースへ」という方向転換を、制度として示しているものです。
管理組合は駐車場を「余白資産」として見直す時代へ
これからの管理組合に求められるのは、駐車場を「余っている場所」と嘆くのでも、「駐車場は必要ない」と断定するのでもなく、「どう活用するかを考える余白資産」として捉え直す視点です。
空き区画は、EV充電、防災備蓄、荷さばき、介護車両、来客対応、カーシェアなど、様々な形でマンションの価値を高める可能性を持っています。東京都の見直し案でも、既存の駐車施設の台数を減らして生じるスペースについて、良好な都市環境の形成に資する用途への転用に努める方向が示されています。これは、単に駐車場を削減するのではなく、限られたマンション敷地を時代に合わせて使い直すという考え方です。
まず管理組合がすべきことは、自分たちのマンションの駐車場利用率、収支、将来費用、住民ニーズを正確に把握することです。数字と実態を踏まえた上で、駐車場の現在と未来を管理組合全体で議論することが、100年続くマンションへの第一歩になります。





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