団地型マンションの理事会において、最も議論が紛糾する場面の一つが「支出の根拠」です。例えば、団地内を通るメイン通りの舗装が傷んだ際、あるいは老朽化した集会所の屋根を直す際、さらには地下の埋設主管から漏水が発生した際、理事会は必ずと言っていいほど「どの財布から出すべきか」という判断で足止めを食らいます。
単棟型は「修繕積立金」という単一の財布で整理できますが、団地型は複数棟で土地や附属施設を共有するため、団地全体の資産を守る財布(第28条)と各棟の建物を守る財布(第29条)が並列します。ここを取り違えると、支出のたびに議論が止まります。
ここで鍵となるのが、団地型マンションにおける修繕積立金の使い道の違いです。本稿では、便宜上これを「団地型における三層会計™」(※標準管理規約上の公式用語ではありません)と呼び、その理論構造をマンション管理士が解き明かします。
第28条を正しく運用することは、単なる事務手続きではありません。それは、将来的な棟間対立を未然に防ぎ、団地全体の資産価値を最大化させるための、高度な「財政統制」そのものなのです。
▼単棟型の解説はこちらから
※横浜マンション管理・FP研究室では、団地型マンションに特有の「管理費会計」「団地修繕積立金会計」「各棟修繕積立金会計」の三層構造を『三層会計™』と呼んでいます。当コラムや、今後の新たなコラム内でもこのような位置づけで展開いたします。
第28条の規約解説(条文全文掲載)
団地の財政運営における法的拠り所となる、第28条の全文を確認します。この条文は、区分所有法やマンション建替え円滑化法との整合性を保つため、極めて精密に設計されています。
※赤字は令和8年4月1日施行の区分所有法改正に伴う標準管理規約の改正箇所です
(団地修繕積立金)
第28条 管理組合は、各団地建物所有者が納入する団地修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた団地修繕積立金は、土地、附属施設及び団地共用部分の、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 土地、附属施設及び団地共用部分の改良又は変更
四 建物の一括建替え、団地内建物敷地売却又は敷地分割に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 団地修繕積立金の管理及び運用
六 その他土地、附属施設及び団地共用部分の管理に関し、団地建物所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
2 前項にかかわらず、区分所有法第70条第1項の一括建替え決議(以下「一括建替え決議」という。)又は区分所有法第71条第1項の団地内建物敷地売却決議(以下「団地内建物敷地売却決議」という。)を経て、マンションの再生等の円滑化に関する法律(平成14年法律第78号。以下「円滑化法」という。)第9条第1項のマンション再生組合(以下「再生組合」という。)の設立の認可、円滑化法第45条第1項に基づく事業の施行認可又は円滑化法第113条第1項のマンション等売却組合の設立の認可を得るまでの間においては、一括建替え又は団地内建物敷地売却に係る決議の後であっても、その事業に係る計画又は設計等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、団地修繕積立金から管理組合の消滅時にその事業に参加しない団地建物所有者に帰属する団地修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、団地修繕積立金を取り崩すことができる。同様に、一括建替え又は団地内建物敷地売却に係る区分所有者の全員の合意の後であっても、その事業に係る計画又は設計等に必要がある場合には、管理組合は、その経費に充当するため、団地修繕積立金を取り崩すことができる。
3 第1項にかかわらず、円滑化法第163条の63第1項の敷地分割決議(以下「敷地分割決議」という。)の後であっても、円滑化法第168条の敷地分割組合(以下「敷地分割組合」という。)の設立の認可までの間において、敷地分割に係る計画等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、団地修繕積立金を取り崩すことができる。
4 管理組合は、第1項各号の経費に充てるため借入れをしたときは、団地修繕積立金をもってその償還に充てることができる。
以降は、第28条が規定する「団地の財布」が、三層会計™(管理費・団地修繕・各棟修繕)の中でどの範囲を担うのかを意識しながら読み解きます。
第1項:団地修繕積立金の使い道の厳格化
団地修繕積立金は、その対象が「土地、附属施設、団地共用部分」に限定されており、各棟の建物(専有部分や各棟共用部分)には充当できません。実務において最も重要な団地修繕積立金の使い道の6分類は以下の通りです。
- 第1号(計画修繕): 団地内道路の舗装、擁壁の補修、共用広場の遊具更新、集会所の外壁塗装、全棟に関わる受水槽の更新などが含まれます。
- 第2号(突発修繕): 地震による法面(のりめん)の崩落や、団地敷地内を通る埋設主管の突発的な破裂事故などが想定されます。
- 第3号(改良・変更): 団地内へのEV充電設備の設置、防犯カメラシステムの全面刷新、段差解消などのバリアフリー化が典型的な例です。
- 第4号(再生調査): 建物の一括建替えや敷地分割に向けた意向調査、コンサルタントによる概算事業費の試算、再生マンションにおける区分所有権の帰属に関する検討などが該当します。
- 第5号(管理・運用): 積立金を保管する銀行の残高証明発行、融資の際の保証料、印紙税、工事代金支払時の振込手数料などが含まれます。
- 第6号(包括条項): 上記に当てはまらない場合でも、団地全体の利益のために「特別に必要」であれば支出余地があります。ただし「便利箱」ではなく、議案書で①対象(土地・附属施設・団地共用部分)②特別性(なぜ今必要か)③代替案(管理費・各棟では不可の理由)まで短く示せることが前提です。
第2項:一括建替え・売却決議後の実務対応
建替え決議から再生組合設立までの間も、計画や設計に必要な費用は団地修繕積立金から支出できます。ただし、「事業に参加しない者に帰属する相当額」は控除しなければなりません。
これは、不参加者が最終的に受け取る清算金の原資を、事業費として先に使ってしまうことを防ぐための規定です。
つまり、事業推進のための資金柔軟性を認めつつ、同時に不参加者の財産権を守る仕組みになっています。
実務上は、
✅現在の残高
✅参加・不参加の見込み
✅持分に基づく控除額の計算方法
この3点を整理したうえで議案設計を行う必要があります。ここが曖昧なまま資金を動かすと、「控除額の算定根拠」そのものが争点になり、後日の精算で揉めます。
第3項:団地における敷地分割と資金
敷地分割は、団地全体での建替え合意が難しい場合に、一部エリアが独立して再生を目指すための制度です。分割決議後も、測量や土地利用計画、事業収支の整理など一定の検討作業が必要になります。
第28条第3項は、この決議後から敷地分割組合設立認可までの間に必要な計画費用を、団地修繕積立金から支出できることを明確にした規定です。
「団地」「敷地分割」「資金」という観点では、移行期の資金的裏付けを与える条文といえます。ただし、敷地分割は合意形成や権利整理が難しく、資金が使えることと実現可能性は別問題である点に注意が必要です。
第4項:借入れと長期修繕計画への影響
修繕原資が不足する場合、金融機関からの借入れを行い、その返済を団地修繕積立金から行うことが認められています。
しかしこれは単なる「一時的な資金調達」ではありません。借入金の元利返済は、将来本来行うべき修繕や改良のために積み立てていた資金を、一定期間にわたり返済へ振り向けることを意味します。
その結果、長期修繕計画で想定していた工事項目の時期変更、仕様の見直し、あるいは積立額の増額が必要になる可能性があります。借入れは現在の資金不足を補う一方で、その返済は将来の団地修繕積立金から行われます。つまり、本来将来の修繕や改良に充てられるはずだった資金が返済に固定されることとなります。
この意味で、借入れは一時的な資金不足には有効ですが、将来世代の資金配分の自由度を下げる可能性があることを、理事会は十分に理解しなければなりません。
▼長期修繕計画の重要性についてはこちら
深掘り:団地型マンションの法理と「三層会計™」の正体
団地型マンションで区分経理が必須となるのは、法律上、管理主体が分かれているためです。
区分所有法第3条により各棟ごとに団体が成立し、同法第65条により団地全体の土地・附属施設を管理する団体が構成されます。これらは法的に別の主体です。
この法的構造を受けて、団地型標準管理規約第30条は「区分経理」を定め、団地全体の修繕積立金と各棟の修繕積立金を明確に分けることを求めています。
団地型は、①管理費(ランニング)、②団地修繕(土地・附属施設)、③各棟修繕(建物)という、用途と主体が違う財布を並行運用します。これを団地型規約第30条(区分経理)に沿って分けることが、目的外使用と棟間紛争を防ぐ実務上の前提です。
▼単棟型の管理費の解説はこちら
土地共有構造の本質:なぜ「建物」以外の条文が必要か
団地型の本質は「土地の共有構造」にあります。その共有持分は、原則として各専有部分の床面積割合等に応じて定められており、団地修繕積立金の負担割合も、この持分構造を前提に設計されます。第28条が対象とするのは、この土地持分に直結する共有資産の維持です。
仮に特定の棟の工事にこの資金を流用すれば、不公平感が一気に顕在化し、総会決議の正当性や説明責任が厳しく問われます。結果として支出の妥当性を巡り、弁護士相談や訴訟に発展するリスクを孕んでいます。
第28条の補足コメント解説
国土交通省による第28条関連の補足コメントは、単なる条文の解説ではありません。そこには、団地型マンションの財政運営をどのように設計し、どこまでを積立金の守備範囲と考えるべきかという「実務上の判断基準」が示されています。
※以下は国交省コメントの原文です。読み飛ばしても理解できるよう、この直後に「運用の要点」を整理します(必要な方は原文で確認してください)。
第28条及び第29条関係
① 対象物件の経済的価値を適正に維持するためには、一定期間ごとに行う計画的な維持修繕工事が重要であるので、団地修繕積立金及び各棟修繕積立金を必ず積み立てることとしたものである。
② 分譲会社が分譲時において将来の計画修繕に要する経費に充当していくため、一括して購入者より修繕積立基金として徴収している場合や、修繕時に、既存の団地修繕積立金又は各棟修繕積立金の額が修繕費用に不足すること等から、一時負担金が団地建物所有者又は区分所有者から徴収され
る場合があるが、これらについても団地修繕積立金又は各棟修繕積立金として積み立てられ、区分経理されるべきものである。
③ 団地修繕積立金を取り崩すことができる事由として第28条第1項第一号から第三号に掲げる「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」、「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」及び「土地、附属施設及び団地共用部分の改良又は変更」並びに各棟修繕積立金を取り崩すことができる事由として第29条第1項第一号から第三号に掲げる「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」、「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」及び「棟の共用部分の改良又は変更」には、実際の工事費用のほか、工事に係る計画立案、工事履歴等の調査、設計等の準備段階の費用も含まれる。
④ 第28条及び第29条の各第1項第五号に掲げる「修繕積立金の管理及び運用」に要する費用とは、修繕積立金を保管する銀行口座の残高証明書等の帳票発行手数料や、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」等の金融商品を活用する際に必要となる保証料、修繕積立金を取り崩して実施した工事に関する諸費用(印紙税、工事代金を支払った際の振込手数料等)等を想定している。
なお、修繕積立金の管理及び運用に要する費用については、修繕積立金の取崩しの対象として規定せず、管理費から支出することもできる。
⑤ 本規約の対象とする団地(コメント全般関係③参照)の建替えは、団地全体の一括建替え決議による場合、棟ごとの合意及び団地の建替え承認決議による場合の2つの方法がある。一括建替え決議を選択できるのは、区分所有法第70条第1項の要件を満たす団地型マンションのみであり、管理組合においては、各マンションの実態に応じて、規約を定めることが重要である。
⑥ 円滑化法に基づく再生組合によるマンション建替事業までのプロセスのうち、管理組合として、修繕・改修との比較等による建替えの必要性、建替えの構想について検討する検討段階及び各団地建物所有者又は各区分所有者の合意形成を図りながら、建替えの計画を本格的に検討する計画段階においては、管理組合が建替えの検討のため、調査を実施する。調査の主な内容は、再生マンションの設計概要、マンションの取壊し及び再生マンションの建築に要する費用の概算額やその費用分担、再生マンションの区分所有権の帰属に関する事項等である。
⑦ マンション建替事業におけるプロセスのうち、再生組合の設立段階においても、団地修繕積立金又は各棟修繕積立金を取り崩すことのできる場合があることを定めたのが第28条及び第29条の各第2項である。
⑧ マンション建替事業におけるプロセスによらず、円滑化法第45条のマンション再生事業の認可に基づく建替え、又は団地建物所有者の全員合意に基づく任意の建替えを推進する場合であっても、必要に応じて、第28条若しくは第29条の各第1項及び第2項、又は第28条若しくは第29条の各第2項と同様の方法により、団地修繕積立金又は各棟修繕積立金を取り崩すことは可能である。ただし、任意の組織に関し、その設立時期について管理組合内で共通認識を得ておくことが必要である。
⑨ 円滑化法に基づくマンション建替事業を除くマンション再生事業、マンション除却事業の場合にも、建替えの場合と同様に、第1項及び第2項に基づき、必要に応じて、団地修繕積立金又は各棟修繕積立金を取り崩すことは可能である。
⑩ マンション再生等に係る合意形成に必要となる事項の調査に要する経費の支出は、各マンションの実態に応じて、管理費から支出する旨管理規約に規定することもできる。
⑪ 第29条第1項第四号中の「建物の更新」とは、建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復(通常有すべき効用の確保を含む。)のために共用部分の形状を変更し、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすること(いわゆる「一棟リノベーション」)を指すものである。
以下では、条文運用の要点をコメントに沿って整理します。各項目の白丸の番号は、上記の補足コメントと対応しています。
① 計画修繕と積立の義務的性格
コメントは、計画修繕の実施だけでなく、そのための積立を「必ず行うこと」と明確に示しています。これは、財政的に苦しいからといって修繕積立金の徴収を停止・減額する規約変更を安易に認めないという強いメッセージでもあります。積立は任意の政策ではなく、資産価値維持の前提条件です。
理事会は短期的な負担軽減よりも、中長期の維持可能性を優先する姿勢を求められます。
② 修繕積立基金・一時金の整理
分譲時に徴収される修繕積立基金や、不足時に徴収する一時負担金も、その性質は将来の特別な管理に備えるための資金です。したがって管理費とは明確に区分し、第28条の枠組みの中で経理・管理する必要があります。これを混在させると、資金の用途が曖昧になり、総会での説明責任を果たせなくなります。
財源の性格を整理することが、団地型の財政ガバナンスの第一歩です。
③ 準備段階費用の包含範囲
第28条は、工事費用そのものに限らず、「調査・診断・設計」といった準備段階の費用も対象に含めています。これは実務上極めて重要で、劣化診断や長期修繕計画の見直し、コンサルタントへの委託費用などを正当に支出できる根拠となります。準備段階への投資は無駄ではなく、将来の誤判断を防ぐためのリスク管理費用であるという位置付けが明確になります。
④ 管理運用費の具体的範囲と柔軟性
通帳発行手数料や融資保証料、印紙税など、積立金の管理・運用に直接関連する費用も第1項第5号に基づき支出対象となります。ただしコメントは、これらを管理費から支出する運用も許容しています。つまり資金の出所は一義的ではなく、団地ごとの財政方針に委ねられています。
重要なのは、どの財布から出すのかを明確にし、継続性ある会計処理を行うことです。
⑤ 建替えは2ルートある
団地の建替えには、大きく二つのルートがあります。一つは団地全体を一括して決議する方法、もう一つは棟ごとの合意を前提に団地全体で承認する方法です。前者は全体最適を図りやすい一方、合意形成の難易度が高く、後者は段階的な再生が可能ですが、棟間の利害調整が不可欠となります。
第28条は、いずれのルートにおいても必要となる調査・設計費を支える財政的基盤を与えている点に意義があります。
⑥ 検討段階・計画段階での「調査」内容
コメントが示す「調査」には、単なる意向確認にとどまらず、再生後の建物規模、概算事業費、費用分担の考え方、権利変換の枠組みなど、合意形成の前提となる具体的情報の整理が含まれます。これらを数値と資料で示すことで、議論は感情論から経営判断へと移行します。
第28条は、こうした専門的検討を正当な支出として位置付ける役割を担っています。
⑦ 再生組合設立段階での例外
再生組合設立前は、法的主体が移行途上にある不安定な期間です。この段階でも計画・設計に必要な費用を取り崩せるとする第2項の規定は、事業を停滞させないための実務的配慮といえます。
ただし、不参加者の持分相当額を控除するという歯止めが設けられており、財産権保護との均衡が図られている点が重要です。
⑧ 円滑化法ルート以外(任意建替え等)への準用
円滑化法に基づく建替事業によらず、区分所有者全員の合意に基づく民法上の任意建替え等であっても、計画・設計に必要な費用を積立金から支出する整理は可能と解されています。これは条文の趣旨が「団地全体の利益のための特別な管理」にあるためです。
ただし、法的手続の裏付けが弱い分、総会議事録や説明資料の整備など、より慎重なガバナンスが求められます。
⑨ 除却・再生事業への対応
建替えだけでなく、老朽建物の除却や用途変更を伴う再生事業も、団地の将来像を左右する重要な経営判断です。第28条は、こうした再生関連の検討費用を積立金から支出できる柔軟性を持たせています。
単なる維持管理にとどまらず、「出口戦略」まで視野に入れた財政設計を可能にする点が、団地型規約の特徴です。
⑩ 財政設計の選択肢としての管理費支出
調査費用等を積立金ではなく管理費から支出する旨を規約で定めることも可能です。これは積立金を将来工事の原資として温存したい場合の政策的選択です。
一方で、管理費負担の公平性や短期的な収支への影響も考慮しなければなりません。団地ごとの財政状況に応じて、資金の出所をどう設計するかが理事会の力量を問うポイントとなります。
※補足⑪は団地型規約第29条のコメントのため、解説を省略しています。
FP視点による「数値思考」:資金毀損リスクを読み解く
FP1級の視点から、運用に伴うキャッシュフローの試算例(※あくまで試算値であり、実際は条件により変動します)を提示します。以下、筆者が独自に試算した一例です。
(※試算例1:再生調査費用のサンクコスト)
積立金残高が5億円の団地で、建替え検討に5,000万円を投じた後、決議が否決された場合、その5,000万円は「埋没費用」となります。これは、建替えが否決され団地が存続する場合、本来将来の大規模修繕に充てられるはずだった資金が減少することを意味します。団地全体の総戸数が450戸なら1戸あたり約11.1万円、500戸なら約10万円の負担感となります。
※単純按分の目安であり、実際の負担は、団地の規約(負担割合)や持分・面積割合等により変動します
(※試算例2:借入金による長期圧迫)
借入れ1億円(期間20年、金利1.5%)の場合、返済は年間約576万円、20年間の利息総額は約1,500万円に達します。これは、長期修繕計画上で予定されていた改良項目のいずれかを「先送り」または「縮小」せざるを得ない可能性を意味し、計画の前提を書き換える重い判断となります。
管理組合として注意すべき事項
第28条は「団地の財布」を守る条文です。実務では、この財布が便利に見える分、境界が曖昧になった瞬間に紛争の火種になります。
以下では、条文(第1項〜第4項)と補足コメント①〜⑩の射程を踏まえ、団地管理組合として「支出の根拠が崩れない順序」で、“揉めないための設計”を整理します。
実務で起こりやすい典型例:区分経理の崩壊は「不公平」ではなく「根拠喪失」
団地で最も多い事故は、工事そのものではなく「どの財布から払うか」の判断ミスです。第28条は土地・附属施設・団地共用部分に限定され、各棟の工事は本来、第29条(各棟修繕積立金)側に整理されます。ここが崩れると、「A棟のためにB棟の財産を使った」という不公平論に発展するだけでなく、総会議案の説明可能性(=支出根拠)が壊れます。
結果として、以後の修繕・改良の議論が止まり、合意形成が長期凍結するのが典型パターンです。
境界点を先に確定する(団地共用部分/各棟共用部分の線引きが最優先)
埋設配管・受水槽・ポンプ・電気幹線・舗装・擁壁などは、団地共用部分と各棟共用部分の境界が曖昧になりやすい設備です。ここを曖昧にしたまま「とりあえず団地の財布で払う」と整理すれば、後に必ず棟間対立が生じます。
対策は明確です。設備系統図や配管図等に、団地共用部分と各棟共用部分の境界(分岐点)を明示することです。そして、その区分を団地全体の長期修繕計画および各棟の長期修繕計画に反映させたうえで、総会で承認を得ておく。ここまで行って初めて、管理区分は「合意されたルール」になります。
支出のたびに解釈論を繰り返すのではなく、計画段階で財布の切り替わり地点を固定しておくこと。これが、第28条を安定的に運用するための土台です。
支出を「第28条第1項◯号」に紐付けて議案化する(説明責任を型にする)
第28条第1項は、使い道を「限定列挙」しています。つまり、支出は必ず「第1号〜第6号」のどれかに乗せて説明できなければいけません。ここで重要なのは会計処理より先に、議案書の書き方を統一することです。
例として、議案書に最低限、
✅対象(土地/附属施設/団地共用部分のどれか)
✅該当号(第1項◯号)
✅支出理由(なぜ管理費ではなく積立金か)
を固定項目として入れる。これだけで、後日の蒸し返しや「聞いてない」を大幅に潰せます。
特に第6号(包括条項)は便利箱に見えるため、“特別に必要”の理由を短く強く言語化するのが肝です。
「準備段階費用」を軽く見ない(調査・設計を積立金で出す代わりに、出口を先に決める)
補足コメント③が重要なのは、工事費だけでなく、計画立案・調査・設計等の準備段階費用も第28条(および第29条)に含まれると明確にしている点です。これは実務上の大きな武器ですが、同時に「調査だけが増え続ける」というリスクも内包しています。
調査費は“工事より軽い支出”に見えますが、数千万円規模になれば積立金に与える影響は小さくありません。にもかかわらず、ゴールが曖昧なまま進めると、調査→追加調査→再検討という循環に陥ります。
対策は明確です。調査に入る前に、必ず次の3点をセットで決めておくことです。
✅調査のゴール(何を決定するための調査か)
✅支出上限額(いくらまで使うのか)
✅調査後の意思決定(修繕か、改良か、借入か、見送りか)
これは、企業経営でいう「投資判断」と同じ構造です。会社であれば、新規事業の市場調査をする際、必ず“撤退基準”や“投資上限”を決めます。工事に巨額な支出を伴う団地も同様です。
調査は目的ではなく、意思決定のための手段です。出口を決めずに積立金を投じることは、経営判断として最も避けるべき状態なのです。
団地再生条項の本質(第2項・第3項は“非常時の安全装置”)
第2項・第3項は、日常的に使う条文ではありません。建替えや敷地分割という団地再生局面において、初めて機能する“例外規定”です。
しかし、その重要性は「使う頻度」ではなく、「財産秩序を守る構造」にあります。
第2項は、決議後であっても計画・設計費用を支出できる一方で、「事業に参加しない者に帰属する相当額」を控除することを義務付けています。これは、再生事業に参加しない所有者の清算原資を守るための歯止めです。多数派が将来の精算資金を先に使い切ってしまうことを防ぐ、極めて重要な財産保護規定です。
第3項も同様に、敷地分割という特殊局面において計画費用の支出を認めつつ、資金秩序を崩さない設計になっています。
実務上重要なのは、「いつか再生をやる」ことよりも、常に会計を混ぜず、残高を透明に保ち、按分可能な状態を維持しておくことです。
それ自体が、団地再生リスクへの最大の備えになります。
まとめ:団地型は「管理」ではなく「経営」である
団地型標準管理規約第28条は、単なる修繕費の積立規定ではありません。それは、団地という共同体における共有資産の財政統制条項です。
団地型では、管理費・団地修繕積立金・各棟修繕積立金という三層の資金が並行して動きます。この構造を理解せずに支出を行えば、棟間不公平や紛争の火種を生みかねません。
第28条の核心は、「何に使えるか」以上に、団地の責任範囲を明確に区切ることにあります。さらに、第2項・第3項は再生局面の安全装置であり、借入規定は将来の資金配分に影響を与える重い判断です。
団地型の本質は、建物を直すことではなく、土地と共有資産をどう財政的に守るかにあり、その判断は、まさに「経営」です。
今後、団地規約特有の第29条(各棟修繕積立金)および第30条(区分経理)を取り上げ、団地の財布と棟の財布の境界線をさらに整理します。




コメント