2026年4月(令和8年4月)から、改正区分所有法が施行されました。今回の改正は、建替えや再生を進めやすくするだけでなく、管理組合の総会運営や管理規約の読み方そのものに影響する内容を含んでいます。
特に注意したいのが、「強行規定」です。これは、管理規約に別の定めがあっても、法律が優先して適用されるルールを指します。
そのため、旧規約の文言が残っていても、実務ではすでに新法で判断しなければならない場面があります。総会の定足数、特別決議の成立要件、招集通知の期間などを旧来の感覚で運用すると、議案作成や総会運営の現場で混乱が生じかねません。
本記事では、改正区分所有法によって何が強行規定として上書きされるのか、旧規約が残っているマンションでどこに注意すべきか、そして2026年度の理事会・総会で何を確認すべきかを、マンション管理士の視点から整理して解説します。
なお、本記事は「2025年度中に確認しておきたいポイント」として公開した内容を、2026年度の施行後実務に合わせて再整理したものです。
強行規定とは何か|管理規約より法律が優先される場面
まず、「強行規定」とは何かを整理します。
✅「強行規定(強行法規ともいう)」とは、当事者が別の合意をしても、その合意より法律が優先して適用される規定のことです。マンション管理でいえば、管理規約に旧来の文言が残っていても、強行規定に当たる部分は新しい区分所有法のルールで判断されます。
✅これに対して、当事者の合意や規約で調整できるものが「任意規定」です。
つまり今回の改正で重要なのは、「規約に書いてあるからそのままでよい」のではなく、どの条項が強行規定で、どの条項が任意規定なのかを切り分けることです。
具体的に、区分所有法における管理組合や区分所有者が合意で変更できる「任意規定」と、法律で強制的に適用される「強行規定」を見てみましょう。
| 区分 | 意味 | 管理組合で変更可否 | 例 |
|---|---|---|---|
| 強行規定 | 法で強制的に適用され、規約や決議で変更できない | ❌ できない | 区分所有法第31条(総会決議要件) |
| 任意規定 | 当事者の合意で変更可能 | ⭕ 可能 | 区分所有法第30条2項(一部共用部分に関する定め) |
強行規定に反する規約条項は、その部分について法律が優先され、規約どおりには適用されません。今回の改正では、この「強行規定」に該当する条項が複数新設・修正されており、該当する部分については、施行日以降は改正後の区分所有法に基づいて判断されることになります。
2026年4月施行で何が変わったか|総会・特別決議・招集通知の変更点
改正区分所有法で特に実務影響が大きいのは、総会の定足数、特別決議の成立要件、再生・建替え関連の決議要件、招集通知期間です。この部分は、理事会が総会議案書を作る際にも、管理会社が招集通知を作成する際にも直接影響します。
以下で、旧規約に残りやすい表現と、2026年4月以降に実際に適用される基準を整理します。
| 項目 | 改正後(令和8年4月以降) | 現行(旧規約例) | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 総会の定足数 | 議決権総数の過半数の出席 | 「半数以上」など(偶数時に差) | 区分所有法第39条第1項 |
| 特別決議の成立要件 | 出席組合員および出席議決権の各4分の3以上 | 組合員総数および議決権総数の各4分の3以上 | 区分所有法第31条第1項 ※規約の設定、変更及び廃止の場合 |
| 再生・建替え等の決議 | 組合員・議決権の各3/4以上ほか※ | 各4/5以上 | 区分所有法第62条第2項 |
| 招集通知の期間 | 原則1週間前までに発送 | 「5日以上」など | 区分所有法第35条第1項 |
※区分所有法第62条第2項各号(耐震性不足、外壁剥落・火災の恐れ、給排水管の腐食等、緊急で再生することが望まれるもの)は3/4要件に変更となり、それ以外は4/5要件のままです。
これらの改正点はいずれも強行規定に基づく変更のため、令和8年4月1日時点で自動的に効力が切り替わります。
つまり、管理規約に「総数の4分の3」など旧記載が残っていても、新法の基準で総会を開けば法的に有効になります。
旧規約のままでもよいのか|改定しない場合に起こる実務上の問題
一見すると、「法律が自動で上書きしてくれるなら、規約を改定しなくてもいい」と思いがちです。確かに、強行規定に該当する部分については法律が優先適用されますが、旧規約の文言どおりに運用してよいという意味ではありません。強行規定に反する内容のまま総会運営や手続を行った場合、結果として決議の有効性や手続の適法性に影響するおそれがあります。
実務では、議案書、招集通知、議事録、管理規約集、重要事項調査報告書など、現場で参照される文書の多くに旧表現が残り続けるため、むしろ2026年度は「法的には新法、書類上は旧規約」というズレが最も起きやすい時期です。
しかし、改定を怠った場合、管理組合の実務現場では次のようなトラブルが起こりやすくなります。それは単なる“文言の違い”ではなく、意思決定の混乱・信用の低下・手続上の不整合という、目に見える形で現れます。
現場での混乱
総会議案書や管理規約集に旧条文が残っていると、
「出席4分の3なのか、総数4分の3なのか」「半数と過半数の違いはあるのか」
など、ちょっとした数字の違いが総会の成立そのものを左右する事態に発展します。
このような議論は、総会の場で突発的に起こることが多く、議長や理事長が即答できずに混乱を招くケースが目立ちます。特に理事会メンバーの交代が頻繁なマンションでは、
「前任の理事長が決めたルール」「昔の総会ではこうだった」
という慣習ベースの運営が温存され、改正後の区分所有法に基づく正確な判断ができない恐れがあります。
さらに、組合員全員が区分所有法の構造(強行規定か任意規定か)を理解しているわけではありません。議事の途中で「うちの規約では4分の3と書いてある」「でも法改正で変わったのでは?」という意見が出ると、法的根拠をその場で説明できる人がいないため、議決自体が先送りになることもあります。
こうした「現場の迷い」は、管理組合のガバナンス低下にも直結します。正しいルールに基づく判断をするためにも、規約を改定して明文化しておくことが、結局は最も確実で効率的な方法と言えるでしょう。
対外的信用の低下
管理規約は、管理組合の内部資料ではありません。中古マンションの売買では、買主、仲介会社、金融機関が管理状態を判断する材料のひとつになります。
そのとき、総会運営の基本ルールに関わる条項が旧法前提のまま放置されていると、「このマンションは法改正対応が遅れているのではないか」「管理のアップデートが止まっているのではないか」という印象を与えかねません。
近年は、「管理計画認定制度」や「マンション管理適正評価制度」の広がりによって、建物そのものだけでなく、管理の中身が見られる時代に入っています。規約整備は、単なる法対応ではなく、管理組合の説明力そのものに関わる問題です。
外部の調査では、管理体制の良し悪しが中古マンションの価格維持や取引価値の観点でプラス要因とされているというデータが出ています。
手続・登記の煩雑化
改正後の法制度では、裁判所・法務局・自治体が扱う手続でも「改正区分所有法の条文番号・用語」での提出が求められます。旧規約を添付資料として提出すると、「現行法との整合性を補足説明してください」「該当条文の根拠を示してください」などの追加対応が求められる場合があります。
例えば、管理組合法人の登記変更申請や、裁判所への建替え決議認可申立てを行う場合、旧条文のままだと、申請書類の整合確認に時間がかかり、結果として手続全体の遅延や修正コスト増につながります。
さらに、将来にわたって理事長や管理会社が代わると、「どの条文に基づいて決議したのか」を第三者が追跡できなくなり、法的なトレーサビリティ(証拠性)が失われてしまいます。
このようなリスクを回避するためにも、現行法対応の条文に統一しておくことが、最終的にはコスト削減につながるといえます。
2026年度にまず確認したい「旧規約の残り方」
2026年4月以降に注意したいのは、「法律は新法に切り替わっているのに、現場で使う書類は旧法前提のまま残っている」という状態です。管理規約そのものだけでなく、総会議案書のひな型、招集通知の定型文、議事録の記載例、管理規約集の抜粋資料なども含めて見直す必要があります。
特に、管理会社のテンプレートを長年そのまま使っているマンションでは、文言が更新されていない可能性があります。
2026年度の総会で注意したいポイント|招集時期と効力発生日の整理
2026年度の実務では、すでに法施行後の運用に入っています。
もっとも、施行日前後に招集・開催された総会については、どの時点のルールで手続を進めたのかを整理しておく必要があります。特に、2026年3月末に招集し、4月以降に開催した総会があるマンションでは、議案書や議事録の確認が重要です。
そのため、この章では、施行日前後の総会をどう整理するか、そして2026年度以降の総会では何を前提に考えるべきかを確認します。
| 区分 | 開催日 | 適用される要件 | 効力発生日の扱い |
|---|---|---|---|
| パターン1 | 令和8年3月31日まで | 現行規約に基づく定足数・決議要件(例:総数4分の3以上) | 「施行日(令和8年4月1日)」から効力発生 |
| パターン2 | 令和8年4月1日以降 | 改正法に基づく要件(出席4分の3以上) | 決議成立時に即時効力発生 |
なお、ややこしいのですが、3月中に総会を招集しても、開催日が4月以降の場合は原則として旧法手続になります。例えば、2026年3月31日(火)に召集手続きを行い、4月18日(土)に総会を開催する場合は、旧法になる可能性があります。
新法ベースで管理規約を改定するならば、管理組合内での混乱を避けるためにも、4月1日以降に招集通知を発送することが望まれます。
管理組合が今すぐ確認したい実務対応|規約チェックと改定方針
具体的に管理組合としてどのような対応が必要なのか、簡単に紹介します。
自分のマンションの管理規約を確認
まず確認すべきは、総会運営に直結する条項です。具体的には、
✅招集通知の期間
✅総会の定足数
✅普通決議・特別決議の成立要件
✅規約の設定・変更・廃止に関する条項
などが中心になります。
標準管理規約ベースでいえば、第43条や第47条周辺は特に要確認です。「5日前通知」「総数4分の3」「半数以上」など、旧法前提の表現が残っていないかを、理事会と管理会社で優先的に洗い出す必要があります。
2026年度は、各マンションで規約改定の要否が実際に問われる年です。まだ旧規約のままの管理組合も少なくない一方で、総会運営や実務書類はすでに新法前提での整理が必要になっています。
理事会で改定方針を検討
理事会では、次の2点を早期に決めることが重要です。
✅いつ改定するか:施行前に「予備的改定」を行うか、施行後に新法要件で改定するか。
✅誰が改定案を作るか:理事会で案をまとめるのか、マンション管理士などの外部専門家に委託するのか。
実際には、法的整合性の確認や条文表現の調整など、専門的な知識が求められます。
費用面で外部委託をためらう管理組合もありますが、誤った手続で決議が無効になった場合の損失を考えれば、1回限りの法改正対応は専門家を入れて確実に進める方が安全です。
総会では、施行日と効力発生日を明記
改定総会を令和8年3月末など、施行前に行う場合は特に注意が必要です。改定議案文中に
「この改正は令和8年4月1日から効力を発する」
と明記しておくことで、法施行後の混乱を防ぐことができます。
逆に、施行日以降に開催する場合は、決議成立と同時に効力が発生するため、改定後規約をそのまま使用可能です。また、招集通知には「改正区分所有法に基づく要件で決議する旨」を明記し、総会議事録にも新旧条文の対応表を添付しておくと、後日の確認が容易になります。
まとめ:強行規定対応は「後で」ではなく2026年度の優先課題
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【2026年4月更新版】古い規約で総会が止まる理由を具体的に解説
【基礎編】改正区分所有法と強行規定の全体像
強行規定とは何か、なぜ管理規約より法律が優先されるのかを整理しています。
【実務編】知らないと総会が止まる「強行規定」の落とし穴
強行規定を理解しないまま総会を進めた場合の実務上のリスクを解説しています。
改正区分所有法により、2026年4月からは強行規定が直接適用され、強行規定に反する旧規約の部分については、そのままでは適用されなくなります。そのため、2026年度の管理組合に必要なのは、「そのうち改定する」ではなく、いま使っている規約・議案書・招集通知・議事録の前提が新法とずれていないかを確認することです。
特に、総会定足数、特別決議の成立要件、招集通知期間は、総会運営の根幹に関わります。ここが曖昧なままだと、現場の混乱だけでなく、管理組合としての説明力や対外的な信頼にも影響します。
強行規定対応は、単なる条文修正ではありません。2026年度の理事会運営と総会実務を安定させるための基礎整備です。まずは、自分のマンションの規約に旧法前提の表現が残っていないか、そこから確認してみてください。






コメント
せっかく広告無効のリンクに飛んでも,依然としてサイト内別記事の紹介やイメージ画像が混在する.こういうのも記事だけを印刷したい人にとっては不要だと思う.
横浜マンション管理FP研究室です。コメントありがとうございます。
今後の運用の参考とさせて頂きます。