大規模修繕で施工不良が残っても「工事完成」?|約143万円の支払いを命じた東京地裁判決

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大規模修繕工事が終わった後も、共用廊下などには水たまりが残り、外壁塗装には膨れが発生しました。

管理組合は、「工事はまだ完成していない」「コンサルタントの工事監理にも不備があった」と考え、設計・工事監理を担当したコンサルタントへの最終報酬を支払いませんでした。

ところが、東京地方裁判所は、コンサルタントの債務不履行を一部認めながらも、管理組合に対し、未払い報酬約143万円を支払うよう命じました。

不具合が残っているのに、なぜ工事は完成したと判断されたのでしょうか。

コンサルタントの義務違反が認められたのに、なぜ管理組合の損害賠償請求は認められなかったのでしょうか。

本記事では、マンション管理新聞2026年7月15日号に掲載された一連の記事をもとに、裁判の争点を整理します。

そのうえで、大規模修繕工事において管理組合が確認すべき、工事監理、仕様変更、理事会承認、議事録、施工記録の重要性を考えます。

なお、本記事はマンション管理新聞の報道内容を基にした解説です。判決文全文を確認した法律解説ではなく、個別案件について法的な結論を示すものではありません。

この裁判は「管理組合の全面敗訴」ではない

今回の判決を、「管理組合が負けて、コンサルタントが勝った事件」とだけ捉えると、本質を見誤ります。

裁判所の判断は、次のように分かれています。

主な争点裁判所の判断
工事監理業務は終了していたか終了していたと判断
コンサルタントに債務不履行があったか一部について認定
債務不履行によって損害が発生したか因果関係を認めず
未払い報酬を支払う必要があるか約143万円の支払いを命令

つまり、裁判所はコンサルタントの業務に問題がなかったと判断したわけではありません。

管理組合への説明や了承の手続き、外壁塗装工事の確認方法には不十分な点があったとして、一部の債務不履行を認めています。

一方で、その債務不履行によって水たまりや塗装の膨れが発生したとは認められませんでした。

「業務上の不備があったこと」と「その不備によって具体的な損害が生じたこと」は、別に判断されたわけです。

築約45年、約50戸のマンションで起きたトラブル

事件の舞台となったのは、東京都内にある築約45年、約50戸の小規模マンションです。

管理組合は2017年1月、建物の調査・診断、修繕設計、工事監理、施工業者の選定補助などを内容とする業務委託契約を、コンサルタントとの間で締結しました。

契約金額は約260万円です。

報酬は3回に分けて支払うことになっており、最後の報酬は「工事監理完了時」に支払う契約でした。

大規模修繕工事は2017年9月20日に始まりました。

同年12月28日には、施工業者、コンサルタント、管理組合の3者による現場確認が行われ、管理組合から一部の是正が求められています。

翌2018年の夏には、外壁等の塗装に膨れが発生しました。

施工業者は同年12月、工事後1年目の点検として、塗装の膨れを含む指摘箇所の是正を行いました。

しかし、その後も管理組合と施工業者との間では、不具合や再補修に関する協議が続きました。

大規模修繕工事の検討から施工会社選定、総会決議、工事完成、引き渡しまでの基本的な流れについては、別記事の大規模修繕工事検討から完了までを分かりやすく解説で詳しく紹介しています。

今回の裁判は、その一般的な流れの中で、工事完成と不具合是正、コンサルタントの工事監理責任が問題になった事例です。

管理組合はなぜ報酬の支払いを拒否したのか

管理組合は、大規模修繕工事が完成していないと考え、コンサルタントへの最終報酬を支払いませんでした。

その理由として、施工不良が残っていること、竣工検査が行われていないこと、完了届や引渡書が提出されていないことなどを挙げました。

さらに、施工業者との間では再補修に関する協議が続いていました。

管理組合としては、工事が完成していないのであれば、コンサルタントの工事監理業務も完了していないという考え方です。

契約では最終報酬の支払時期が「工事監理完了時」とされていたため、報酬の支払時期も到来していないと主張しました。

これに対し、コンサルタントは2023年2月、未払い報酬を支払わなければ訴訟を提起する旨を管理組合に通知します。

同年4月には、残報酬約158万円の支払いを求めて提訴しました。

管理組合も、コンサルタントの工事監理業務には債務不履行があったとして、損害賠償を求める反訴を行いました。

東京地裁が約143万円の支払いを命令

東京地方裁判所は2026年3月25日、コンサルタント側の請求をおおむね認め、管理組合に対して約143万円を支払うよう命じました。

コンサルタントの請求額約158万円からは、約15万円が差し引かれています。

この減額は、当初予定されていた施工業者選定補助業務の一部が、管理組合側の事情によって実施されなかったことによるものです。

水たまりや外壁塗装の膨れ、工事監理の不備を理由に減額されたものではありません。

管理組合とコンサルタントの双方が控訴しなかったため、判決は確定しました。

施工不良が残っていても「工事監理は終了」と判断

最初の争点は、コンサルタントの工事監理業務が終了していたかどうかです。

管理組合は、工事に不具合が残っており、施工業者との補修協議も続いている以上、工事は完成していないと主張しました。

しかし裁判所は、施工業者が契約上予定された工事を一応終了し、管理組合に引き渡した時点で、工事監理業務も終了したものと評価しました。

工事の施工状況や、2017年12月28日の現場確認で管理組合が求めた是正内容などから、同年12月30日までには最後の工程が一応終了し、引き渡しも行われたと認定しています。

管理組合が指摘した施工不良、竣工検査、完了届、引渡書の問題についても、契約上予定された工程が一応終了したという判断を左右するものではないとされました。

本件で重要なのは、次の二つが分けて判断されたことです。

  • 契約上予定された工事工程が終了したか
  • 完成した工事に不具合が残っているか

管理組合としては、「水たまりや塗装の膨れが残っているのだから、工事は完成していない」と考えたくなります。

しかし本件では、不具合の存在や補修協議の継続だけを理由に、工事監理業務が終了していないとは判断されませんでした。

工事に不具合がある場合でも、報酬の支払いを全面的に止めることが妥当かどうかは、契約内容、工事工程、引き渡しの状況を含めて慎重に整理する必要があります。

特記仕様書どおりに行われなかった防水改修工事

管理組合がコンサルタントの工事監理の不備として特に問題視したのが、共用廊下とルーフバルコニーの防水改修工事です。

このマンションでは、廊下などの一部に水たまりが生じる問題がありました。

特記仕様書には、水たまりを改善するため、次の作業が記載されていました。

  • 防水処理面の散水調査
  • 勾配不良箇所の確認とマーキング
  • ポリマーセメントなどによる付け送り勾配の調整

しかし、実際の工事では、これらの作業は特記仕様書どおりには行われませんでした。

工事後も、共用廊下などには水たまりが残っています。

特記仕様書に基づく施工が行われなかったことについては、管理組合だけでなく、コンサルタントと施工業者も認めていました。

仕様書どおりに施工しなかったことには合理的な理由があった

コンサルタント側は、水たまりの原因が大規模修繕工事にあるのではなく、建物新築時からの躯体の勾配不足や不陸にあると考えていました。

表面的な防水改修や、部分的な勾配調整だけでは、水たまりを抜本的に解消することは困難だったという説明です。

水たまりを完全に解消するには、躯体自体で適切な勾配を確保する必要があります。

そのためには、躯体を大きく造り直したり、新たな排水設備を追加したりするなど、相当大掛かりな補修工事が必要でした。

コンサルタント側は、特記仕様書に記載された作業について、必ず実施するという趣旨ではなかったと主張しています。

現場を確認したうえで、勾配調整が可能な場合に、可能な範囲で施工するという意味で記載したという説明でした。

また、設計見積りには、この作業に関する費用を計上していなかったとしています。

裁判所も、部分的な補修では水たまりを抜本的に解消できないと考え、特記仕様書どおりの施工を施工業者に指示しなかったこと自体には、合理的な理由があったと判断しました。

合理的な仕様変更でも説明と了承は必要

仕様書どおりの施工を指示しなかったことに合理的な理由があったとしても、それだけでコンサルタントの対応が適切だったことにはなりません。

裁判所は、設計者として設計内容を変更し、工事監理者として設計図書と異なる施工を認めるのであれば、管理組合に説明し、了承を得る必要があったと判断しました。

ところが、コンサルタントは管理組合に対する十分な説明と、正式な了承の手続きを行っていませんでした。

水たまりの原因が躯体にあり、特記仕様書に記載された方法では十分な改善が見込めないのであれば、その事実を管理組合に伝える必要があります。

さらに、次の内容を整理して説明すべきでした。

  • 特記仕様書に記載された工事を実施しない理由
  • 工事を実施しない場合に残る可能性がある不具合
  • 水たまりを抜本的に改善するために必要な工事
  • 追加工事を行う場合の費用や工期への影響
  • 現在の工事範囲内で改善できる限界

そのうえで、当初の仕様を変更するのか、追加費用を負担して別の工法を採用するのか、不具合が一定程度残ることを受け入れるのかを、管理組合が判断する必要があります。

裁判所は、この説明と了承の手続きを経なかった点について、コンサルタントの債務不履行を認めました。

つまり、仕様を変更したこと自体ではなく、管理組合の意思決定を経ないまま進めた手続きが問題になったのです。

外壁塗装の乾燥時間にも問題

裁判所が債務不履行を認めたもう一つの問題が、外壁等塗装工事の乾燥時間です。

特記仕様書では、本来8時間と記載すべき乾燥時間が、4時間と誤って記載されていました。

コンサルタント側も、この記載が誤りだったことを認めています。

ただし、実際の施工では、塗料メーカーが指定する正しい乾燥時間に基づいて施工されたと主張しました。

コンサルタントは施工後の状態を目視で確認し、問題はなかったと説明しています。

しかし裁判所は、外壁塗装工事において、適切な乾燥時間を確保することは極めて重要な事項だと指摘しました。

工事監理者は、現場の環境を踏まえ、適切な乾燥時間が確保されているかを合理的な方法で確認する必要があります。

目視だけで状態を確認したコンサルタントの対応について、裁判所は合理的な方法による工事監理ではなかったと判断し、債務不履行を認めました。

債務不履行があっても損害賠償は認められなかった

東京地裁は、防水工事に関する説明・了承手続きの不足と、外壁塗装工事に関する確認方法の不足について、コンサルタントの債務不履行を認めました。

それでも、管理組合が求めた損害賠償は認められませんでした。

その理由は、コンサルタントの債務不履行と、管理組合が主張した具体的な損害との因果関係が認められなかったためです。

防水工事では別の工法を選んだとは認められなかった

防水工事について、裁判所は、コンサルタントが事前に説明していたとしても、管理組合が特記仕様書どおりの施工を求めたとは考えにくいと判断しました。

水たまりを抜本的に解消するには、躯体を大きく造り直したり、排水設備を追加したりするなど、相当規模の補修工事が必要だったためです。

コンサルタントから適切な説明を受けていれば、管理組合が追加費用を負担して別の工法を選択したとも認められませんでした。

そのため、説明と了承の手続きを行わなかったことと、水たまりが残ったこととの因果関係は認定されませんでした。

外壁塗装の膨れには複数の原因が考えられた

外壁塗装についても、乾燥時間や施工条件を合理的な方法で確認しなかったことは、債務不履行と判断されました。

しかし、外壁塗装の膨れが発生したのは、工事から半年以上たった後でした。

膨れが生じた場所も一様ではありません。

塗膜の膨れには、乾燥時間だけでなく、施工環境や下地の状態など、複数の原因が考えられます。

そのため裁判所は、コンサルタントが乾燥時間や施工条件の確認を怠ったことによって、塗装の膨れが発生したとまでは認めませんでした。

工事監理に不十分な点はあったものの、その不十分な工事監理が具体的な損害を発生させたことまでは証明されなかったという判断です。

工事監理は施工品質を全面保証するものではない

今回採用されていたのは、施工会社とは別に設計・工事監理を担当する専門家を置く設計監理方式です。

大規模修繕工事には、設計監理方式のほか、施工会社が設計から施工までを担う責任施工方式や、複数の提案を比較するプロポーザル方式などがあります。

それぞれの違いについては、大規模修繕工事の3方式と各メリット・デメリットで詳しく整理しています。

設計監理方式では、コンサルタントが設計図書と実際の施工内容を確認し、必要な指摘や報告を管理組合に行います。

しかし、工事監理者が施工業者のすべての作業を常時監視し、すべての施工不良を防止するわけではありません。

今回の契約でも、工事監理の具体的方法については、定例会議への出席以外に詳しい定めがありませんでした。

裁判所は、すべての工事を逐一確認することは困難であり、工事内容、工期、現場の条件などに応じ、合理的な方法で確認すれば足りるとしています。

確認する箇所を抽出し、現場立ち会い、施工写真、施工記録、報告書などで確認することも考えられます。

施工の精度や施工不良について、第一次的な責任を負うのは実際に工事を行った施工業者です。

一方、コンサルタントには、契約で定められた工事監理業務を、専門家として適切に行う責任があります。

施工業者の施工責任と、コンサルタントの工事監理責任は、分けて考えなければなりません。

「理事長も理解していた」は管理組合の承認なのか

コンサルタント側は、水たまりを完全に解消することが難しい点について、当時の理事長も理解していたはずだと主張しました。

しかし、理事長が事情を理解していたことと、管理組合が正式に仕様変更を了承したことは同じではありません。

特に大規模修繕工事の仕様変更は、工事内容、費用、工期、仕上がり、保証、将来残る不具合などに影響する可能性があります。

重要な変更であれば、理事会で審議し、決議内容を記録する必要があります。

変更内容や金額によっては、総会で承認された工事内容や予算との関係も確認しなければなりません。

理事会で決められる事項と、総会決議が必要な事項については、各マンションの管理規約や総会決議の内容によって異なります。

理事会の議決事項については、マンション標準管理規約第54条「理事会の議決事項」で詳しく解説しています。

小規模マンションでは、理事長が管理組合運営の多くを担い、コンサルタントや施工業者との窓口も理事長に集中しやすくなります。

その結果、「理事長には説明した」「理事長も分かっていた」という口頭のやり取りだけで工事が進むことがあります。

しかし、理事長個人への説明だけでは、理事会として何を判断し、どの条件で変更を了承したのかが分かりません。

後から役員が交代したり、区分所有者から説明を求められたりした場合に、正式な意思決定の記録が残っていなければ、認識の違いが紛争につながります。

管理組合が確認すべき5つのポイント

今回の裁判から管理組合が学ぶべきことは、単に「報酬の支払いを止めてはいけない」ということではありません。

重要なのは、工事内容、契約、仕様変更、意思決定、記録を一体として管理することです。

特記仕様書と見積書を一致させる

今回の防水工事では、水たまりを改善する作業が特記仕様書に記載されていました。

一方、コンサルタント側は、その作業に必要な費用を設計見積りに計上していなかったと主張しています。

仕様書に工事内容が書かれていれば、管理組合は通常、その工事が契約金額の範囲内で行われると考えます。

しかし、見積書や工事内訳書に費用や数量が含まれていなければ、施工業者やコンサルタントとの認識にずれが生じます。

設計段階で、少なくとも次の書類に矛盾がないかを確認する必要があります。

  • 特記仕様書
  • 設計図
  • 数量表
  • 見積書
  • 工事内訳書
  • 工程表

「現場確認後に実施の可否を判断する」「可能な範囲で行う」といった条件付きの工事であれば、その条件を仕様書と見積書の双方に明記することが重要です。

仕様変更の理由と影響を書面化する

大規模修繕工事では、足場を設置した後や、既存部分を撤去した後に、想定していなかった劣化や不具合が見つかることがあります。

そのため、工事途中で工法や仕様を変更すること自体はあり得ます。

重要なのは、変更したという結果だけでなく、なぜ変更し、どのような影響があるのかを記録することです。

変更時には、次の内容を書面で整理します。

  • 当初の仕様では施工が難しい理由
  • 変更する工事内容
  • 変更によって改善できる範囲
  • 変更後も残る可能性がある不具合
  • 工事費の増減
  • 工期への影響
  • 保証や将来の補修への影響

技術的に合理的な変更であっても、説明と記録がなければ、管理組合には変更の必要性が伝わりません。

理事会などで正式に承認する

理事長、修繕委員長、コンサルタント、施工業者の間で口頭の了解があっても、それだけで管理組合の意思決定が明確になるとは限りません。

変更内容について理事会で説明を受け、審議し、承認した結果を議事録に残す必要があります。

総会で承認された工事内容や予算の範囲を超える場合は、総会決議の要否も確認します。

重要なのは、誰が何を説明し、管理組合がどのような条件で変更を承認したのかを、後から確認できる状態にすることです。

工事監理業務の範囲を契約で明確にする

「工事監理を依頼した」というだけでは、コンサルタントが具体的に何を行うのかは分かりません。

契約締結前に、次の内容を確認しておく必要があります。

  • 現場を確認する頻度
  • 立ち会う重要工程
  • 隠蔽される部分の確認方法
  • 施工写真を撮影する者と確認する者
  • 材料や施工条件の確認方法
  • 施工業者が提出する書類
  • 不具合を発見した場合の報告方法
  • 設計変更が必要になった場合の手続き
  • 竣工検査の方法
  • 工事完了報告書の内容

管理組合が期待する工事監理と、コンサルタントが契約上予定している業務に差があれば、工事後のトラブルにつながります。

報酬額だけでなく、具体的な業務範囲を契約書や業務仕様書で明確にすることが重要です。

議事録と不具合の証拠を残す

不具合が見つかった場合は、発生場所、発生時期、施工時の状況、使用材料、施工写真、施工記録、補修履歴などを保存します。

原因調査を行う前に補修を進めると、後から不具合の原因を確認しにくくなることも考えられます。

また、理事会で説明を受けて仕様変更を承認した場合は、変更内容だけでなく、説明されたリスクや残る不具合も議事録に記載します。

管理組合の議事録に何を記載すべきかについては、議事録の書き方|後で揉めないための必須記載と工夫5選も参考になります。

議事録は、単に「承認した」と記載するだけでは十分とは限りません。

変更理由、費用、工期、工事後に残る可能性がある問題まで記録しておくことで、後から意思決定の経緯を確認できます。

「業者側に立って工事」は裁判所の認定ではない

マンション管理新聞の紙面には、「特記仕様書通りに施工させず」「業者側に立って工事」「コンサルの工事監理に瑕疵」といった強い見出しが掲載されています。

ただし、「業者側に立って工事を進めた」という点は、管理組合側の主張や、コンサルタントに対して抱いた不信感を表したものです。

裁判所が、コンサルタントと施工業者の癒着や、不正な利益相反を認定したわけではありません。

裁判所が問題としたのは、主に次の二点です。

  • 設計図書と異なる施工を認めながら、管理組合に説明し了承を得なかったこと
  • 外壁塗装の乾燥時間について、合理的な方法で工事監理を行わなかったこと

一方、特記仕様書どおりの防水工事を指示しなかったこと自体には、技術的な合理性があると判断されています。

見出しだけを見て、「悪質なコンサルタントが施工業者を不当に優遇した事件」と理解するのは適切ではありません。

まとめ|専門家の技術判断と管理組合の意思決定は別

今回の裁判では、共用廊下などの水たまりや、外壁塗装の膨れが残っていました。

それでも、契約上予定された工程が一応終了し、工事が引き渡されていたことから、コンサルタントの工事監理業務は終了したと判断されました。

一方で、コンサルタントには、仕様変更について管理組合に説明し了承を得なかったことや、外壁塗装の乾燥時間を合理的な方法で確認しなかったことについて、債務不履行が認められています。

しかし、その債務不履行によって水たまりや塗装の膨れが発生したという因果関係は認められませんでした。

その結果、管理組合の損害賠償請求は認められず、未払い報酬約143万円を支払うことになりました。

大規模修繕工事は、すでに存在する建物を直す工事です。

新築時からの躯体の勾配不足や不陸など、一般的な大規模修繕工事の範囲では、完全に解消できない問題もあります。

専門家が技術的な限界を把握し、合理的な工法を判断することは必要です。

しかし、専門家に技術判断を任せることと、管理組合として仕様変更を決定することは同じではありません。

何を直せるのか。

何を直せないのか。

どのような不具合が残るのか。

別の工法を選ぶ場合、どの程度の費用と工期が必要なのか。

管理組合はこれらについて説明を受け、正式に判断し、その経緯を記録する必要があります。

仕様書、見積書、契約書、理事会議事録、施工写真、工事監理報告書を一体として管理することが、工事の品質だけでなく、将来の紛争から管理組合を守ることにつながります。

参考資料

マンション管理新聞2026年7月15日号
「特記仕様書通りに施工させず 業者側に立って工事『コンサルの工事監理に瑕疵』」

※本記事は、上記報道内容を基に、裁判の争点と管理組合実務上の注意点を整理したものです。判決文全文を確認した法律解説ではありません。

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