古い団地はなぜ建て替えられるのか|千里ニュータウン・左近山団地・汐見台団地から考える

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高度成長期に開発された大規模団地やニュータウンは、いま全国で高経年化しています。

建物は古くなり、住民も年齢を重ね、駅前商業施設や公共施設も老朽化していく。そう聞くと、古い団地はそのまま衰退していくように見えるかもしれません。

しかし、実際にはそう単純ではありません。

大阪の千里(せんり)ニュータウンでは、人口が一度減少した後に回復し、団地の建替えや駅前再開発によって、子育て世帯や現役世代が再び流入しています。横浜の左近山(さこんやま)団地では、UR賃貸と分譲住宅が混在し、同じ団地の中に異なる更新の仕組みが残されています。汐見台(しおみだい)団地では、公社住宅、企業社宅、公務員宿舎、民間マンションが重なりながら、時代ごとに街の姿を変えてきました。

では、古い団地の中でも、なぜ建替えや再開発が進む場所と、なかなか進まない場所があるのでしょうか。

その違いは、単に「築年数が古いかどうか」ではありません。むしろ重要なのは、誰が住宅や土地を動かせるのか、そして街の中に次の世代を受け入れる余白が残っているのかという点です。

▼今回のコラムの全体像です(画像クリックで拡大します)

建替えのしやすさは「所有の構造」で変わる

分譲マンションの場合、建替えには区分所有者の合意形成が必要になります。

各住戸に所有者がいて、それぞれ年齢、資金力、居住状況、相続状況、将来の考え方が異なります。実際に住んでいる人もいれば、賃貸に出している人もいます。相続が発生している住戸や、所有者と連絡が取りにくい住戸がある場合もあります。

そのため、分譲マンションの建替えは、建物が古くなったからといって自動的に進むものではありません。

この点は、以前の記事「マンション建替えできるマンション、できないマンションの違い|費用・合意形成・立地で決まる現実的な成立条件」でも整理したとおりです。建替えは、老朽化だけで決まるのではなく、立地、余剰容積、費用負担、合意形成によって成立条件が大きく変わります。

一方で、UR賃貸、公営住宅、公社賃貸、企業社宅、公務員宿舎などは、個々の区分所有者が細かく分かれているわけではありません。事業主体や大口所有者が土地・建物をまとめて保有しているため、団地単位、街区単位で再編しやすい面があります。

もちろん、賃貸住宅であっても、入居者の移転、生活再建、地域合意、事業採算の問題はあります。簡単に進むわけではありません。
それでも、分譲マンションだけで構成された街に比べると、更新の起点を作りやすいのです。

千里ニュータウンは「公的賃貸の更新」が街を動かしている

千里ニュータウンは、日本を代表する大規模ニュータウンの一つです。

特徴的なのは、分譲マンションだけの街ではないことです。公社賃貸、UR賃貸、府営住宅、市営住宅、公的分譲住宅、民間集合住宅、戸建住宅などが組み合わさっています。

2017年時点の資料では、千里ニュータウン全体47,378戸のうち、公社賃貸2,580戸、UR賃貸9,116戸、府営住宅10,384戸、市営住宅504戸、民間集合住宅15,891戸、戸建住宅6,444戸などと整理されています。なお、ここでいう民間集合住宅は、民間の分譲マンションと賃貸マンションを合算した区分です。

割合で見ると、2017年時点でも公的賃貸住宅は47.6%を占めています。一方で、2005年から2017年にかけて、公的賃貸住宅の割合は低下し、民間集合住宅の割合は大きく増加しています。

この変化は重要です。

千里ニュータウンでは、公的賃貸住宅の建替えや活用地の創出を通じて、新しい分譲マンションや住宅が供給されてきました。つまり、公的賃貸が多かったことは、単に「賃貸が多い街だった」という意味ではありません。街を更新するための土地と事業の起点が残っていた、という意味でもあります。

さらに、北千里(きたせんり)駅前では、商業・公益棟と約500戸規模の住宅・商業棟を含む再開発が検討されています。容積率の緩和も、広場、子育て支援、交流機能などの条件とセットで進める方向です。

ここで起きているのは、単なる建物の建替えではありません。

住宅、駅前、商業、子育て支援、交流機能を含めて、街の機能そのものを入れ替えているのです。千里ニュータウンが一気に高齢化し切らない背景には、古い住宅を新しい住宅へ置き換えるだけでなく、街として若い世代を受け入れる仕組みを作り直していることがあります。

左近山団地は「分譲約6割・UR賃貸約4割」の混在型

横浜市旭区の左近山団地は、千里ニュータウンほど広域のニュータウンではありませんが、分譲住宅とUR賃貸が混在する大規模団地として分かりやすい事例です。

左近山ポータルによると、2022年時点で、UR都市機構による賃貸住宅が2,179戸、分譲住宅が3,039戸、合計218棟5,218戸の集合住宅等で構成されています。

単純に比率を出すと、UR賃貸が約42%、分譲住宅が約58%です。

この構成は、団地再生を考えるうえで非常に興味深いものです。

UR賃貸部分は、事業主体がまとまっているため、将来的な再編や活用を検討しやすい余地があります。一方で、分譲住宅部分は、それぞれの管理組合や区分所有者の合意形成が必要になります。

同じ団地の中にあっても、賃貸住宅と分譲住宅では、老朽化した後の動き方が違うのです。

この点を理解するには、「分譲マンションと賃貸マンション、何がどう違うのか」で整理したように、住まい方の違いだけでなく、意思決定の仕組みの違いを見る必要があります。賃貸住宅では所有者が建物全体を動かせますが、分譲マンションでは区分所有者全体の合意が必要になります。

左近山団地を見ると、「団地」と一括りにしても、その中には更新しやすい部分と、合意形成に時間がかかる部分が併存していることが分かります。

汐見台団地は「住宅供給主体が重なった街」

汐見台団地は、千里ニュータウンや左近山団地とは少し違う見方が必要です。

単純に「分譲が何割、賃貸が何割」と整理するよりも、住宅供給主体が重なってきた街として見る方が分かりやすい団地です。

汐見台は、根岸湾の工場群で働く人々のために開発された職住近接型の住宅地として知られています。県公社の分譲住宅や賃貸住宅に加えて、企業社宅や公務員宿舎も整備されました。その後、社宅や宿舎が売却され、民間マンションに建て替わる動きも進みました。

つまり汐見台は、単なる分譲団地でも、単なる賃貸団地でもありません。

公社住宅、社宅、宿舎、民間マンションが時代ごとに重なり、所有者や利用者が変わりながら更新されてきた街です。

千里ニュータウンが「公的賃貸の建替えと駅前再開発」、左近山団地が「UR賃貸と分譲住宅の混在」だとすれば、汐見台団地は「社宅・宿舎跡地の転換」を通じて街が変わってきた事例といえます。

これは、団地やニュータウンを考えるうえで大切な視点です。街は、最初に作られた住宅の形だけで決まるわけではありません。企業の社宅が減り、公的住宅の役割が変わり、民間マンションが増えることで、街の構成も住民層も少しずつ変わっていきます。

横浜市内の大規模団地については、「野庭団地は“再生”できるのか|6000戸超の巨大団地が直面する高齢化と管理問題」でも取り上げましたが、団地再生を考える際には、建物だけでなく、住宅供給の歴史や土地利用の変化まで見る必要があります。

3つの団地から見える違い

千里ニュータウン、左近山団地、汐見台団地を並べると、同じ「古い団地」でも、更新の起点が違うことが分かります。

地域住宅構成の特徴更新の起点
千里ニュータウン公的賃貸、民間集合住宅、戸建住宅などが大きく混在公的賃貸の建替え、活用地、駅前再開発
左近山団地分譲約6割、UR賃貸約4割UR部分の再編余地と、分譲部分の合意形成
汐見台団地公社住宅、社宅、宿舎、民間マンションが重層化社宅・宿舎跡地の売却、民間マンション化

ここから分かるのは、古い団地の将来は、建物の古さだけで決まらないということです。

むしろ、次のような条件が重要になります。

まず、まとまった土地があること。
次に、公的主体や大口所有者がいること。
さらに、新しい住民が入ってくる需要があること。
そして、住宅だけでなく、商業、交通、子育て、交流機能まで含めて更新できることです。

この条件がそろうと、古い団地であっても、街として世代交代する余地が生まれます。

逆に、建物が古くても、土地が細かく分かれ、所有者も分散し、地域に新しい需要が乏しい場合、建替えや再開発は簡単には進みません。築年数よりも、所有の構造と街の需要が問われるのです。

団地型マンションでは「街区全体の意思決定」も重要になる

ここで、少しだけ分譲マンションの話に戻します。

団地型の分譲マンションでは、単棟マンションとは違い、棟ごとの事情と団地全体の事情が重なります。ある棟は修繕で延命したい、別の棟は建替えを検討したい、団地全体の共用施設はどうするのか。こうした問題が一体で出てきます。

この構造については、「団地型と単棟型の違いとは?令和8年改正・マンション標準管理規約を構造比較」でも整理しています。

団地再生では、建物単体の管理だけでなく、街区全体として何を残し、何を変えるのかが問われます。千里ニュータウン、左近山団地、汐見台団地の違いは、その判断が誰によって、どの単位で行われるのかを考える材料になります。

古い団地の再生は「建物の問題」だけではない

古い団地が再生できるかどうかは、築年数だけでは決まりません。

千里ニュータウンは、公的賃貸住宅や駅前再開発を通じて、街を更新する余地を持っています。左近山団地は、UR賃貸と分譲住宅が混在することで、動かしやすい部分と合意形成が必要な部分が併存しています。汐見台団地は、公社住宅、社宅、宿舎、民間マンションが重なり、時代ごとに役割を変えてきた街です。

大事なのは、街の中に更新できる余白があるかどうかです。

そして分譲マンションに住む側から見れば、自分のマンションだけでなく、そのマンションが属する街全体に、次の世代を受け入れる力があるかを見る必要があります。

団地やニュータウンの再生は、過去の住宅政策を振り返るだけの話ではありません。これからのマンションと街の老い方を考えるうえで、非常に現実的なテーマなのです。

参考にした主な資料

千里ニュータウン再生指針2018・資料編(平成30年3 月 大阪府・豊中市・吹田市・独立 行政法人都市再生機構・大阪府住宅供給公社・一般財団法人大阪府タウン管理財団)

千里ニュータウンの人口動向、住宅構成、公的賃貸住宅の建替えによる新規住宅供給を確認するために参照しました。公的賃貸の建替えが、街の世代交代にどう関係しているかを見るうえで重要な資料です。

千里ニュータウンの資料集(吹田市・豊中市千里ニュータウン連絡会議)

千里ニュータウン内の公社賃貸、UR賃貸、府営住宅、市営住宅、民間集合住宅、戸建住宅などの戸数を確認しました。なお、資料上の「民間集合住宅」は、分譲住宅と賃貸住宅を合算した区分です。

大阪・千里ニュータウン、再開発へ前進 条件付きで容積率緩和(日本経済新聞2026年7月2日)

北千里駅前で検討されている再開発の内容を確認しました。商業・公益棟、約500戸規模の住宅・商業棟、子育て支援や交流機能を条件とした容積率緩和など、街の機能更新を示す事例として参照しています。

左近山の住まい|左近山ポータル

左近山団地の住宅構成を確認しました。UR賃貸住宅2,179戸、分譲住宅3,039戸という数字をもとに、記事では「分譲約6割・UR賃貸約4割」の混在型団地として整理しています。

大規模開発団地「汐見台」|神奈川県住宅供給公社

汐見台団地の開発背景を確認しました。根岸湾の工場勤務者向けに整備された職住近接型の住宅地として、汐見台を理解するための資料です。

県公社のたより 第18号 2016年春号

汐見台団地に、公社住宅、企業社宅、公務員宿舎などが重なって整備され、その後、社宅・宿舎跡地が民間マンション化していった流れを確認するために参照しました。

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